
「みなさんにとって、なつかしいおやつを教えてください」。こんな質問を森ノオトライターに投げかけてみました。すると、ライターたちの回答からは、王道のおやつから、個性強めのものまで、いろいろ飛び出してきました。
今回登場するおやつたち、写真をつけてくれた人もいますが、ほとんどが写真なし。時間も流れ、環境も変わり、再現するのが難しいということです。ですから、この「なつかしおやつ」の記事は、みなさんの想像力をフル稼働させ、おやつの味、そしてその風景を思い浮かべて読んでくださいね。
トロトロ完熟柿
まずはこの記事の初めの写真、これは私の実家の完熟柿になります。実家の柿の木は私が子どもの頃からほぼ毎年、おいしい柿の実をつけてくれます。一つの木から甘いものも渋いものもできるので、甘柿はすぐに食べ、渋柿は渋抜きをしてから食べます。実家では、渋抜きのためヘタに焼酎をつけ、ビニール袋に入れておきました。2週間ほどすると渋が抜け、それはそれは甘い柿になります。
収穫後、最初に甘柿か渋柿かを判定するのですが、それは母の仕事でした。母は、皮から透けて見える色で甘いか渋いかを判断するのですが、父や兄、私にはなかなか見分けがつきませんでした。「これは甘い、これは渋い」とぱっぱぱっぱと仕分ける母は家族の中では「柿判定士」として、一目置かれる存在でした。
そして、写真のような甘くなった柿が大好きだったのは父。トロトロの柿をうれしそうに食べていた父の顔を今も思い出します。実家の柿は、今も実家にいる兄が送ってくれます。そして、山田家にも、このトロトロ柿が大好きな人が二人。夫と息子が「最高にうまい!」と言って食べています。
火鉢の上のあったかみかん
次は、暖かなお部屋の中の様子を想像できるお話です。
塚原敬子さんのおやつは「温かいみかん」です。敬子さんの家には、火鉢があったそうで、おばあさまが、そこにやかんをのせてお湯を沸かしたり、網を乗せてその上にみかんを置き、温めてくれたそうです。おばあさまが亡くなった後、火鉢からストーブに代わり、そこでもみかんを温めて食べるのが冬の定番だったと言います。今の横浜の家にはストーブがないので、温かいみかんはしばらく食べていないと敬子さん。久しぶりに食べたくなったと話してくれました。
地域色のあるおやつ
木津明子さんは長野のご出身。長野といえばおやき。お店で買うおやきが思い出の味だそうです。
また、石川県に住むおばあさまは茄子そうめん(茄子とそうめんをめんつゆで煮たもの)を作ってくれたのだと言います。
明子さんは苦手なおやつも教えてくれましたよ。みすず飴、らくがん、くるみゆべし……。あら、どれも長野名物ですよね。もしかして、明子さんは甘いものより、しょっぱいもの派なのかもしれませんね。
おやつの定番、ドーナツ
石崎絵美さんは、お母さまが作ってくれたドーナツをレシピ付きで紹介してくれました。昔はお店もなく、高価だったので、家でお母さんが作ってくれたそう。「揚げたてはサクサクで、お店のものよりかるく感じて何個でもいけちゃいます」とも教えてくれました。
<作り方はこちら>(4個分)
ホットケーキミックス 150g
卵(Mサイズ)1個
牛乳 100ml
揚げる用の油
仕上げ用のお好きな砂糖
1.ホットケーキミックス、卵、牛乳をよく混ぜて、ドーナツメーカーにうつして押し出し形を作る。
2.温めた油の中でキツネ色になるまで揚げる。
3.袋の中に揚げたドーナツを入れ、砂糖(グラニュー糖がおすすめ)を入れて、袋を振って混ぜて出来上がり♪
ホットケーキミックス200gと卵、牛乳の代わりに絹ごし豆腐150gでも作れるそうです。こちらはスプーンですくって油で揚げてください、とのこと。

揚げたあとにグラニュー糖をたっぷりまぶして「口の周りを粉だらけにしてほおばるのが大好き」と絵美さん

ドーナツメーカー。生地を詰めて押し出してドーナツ型を作るそう
おばあちゃんのポテトチップス
松園智美さんはおばあさま手作りのポテトチップスを紹介してくれました。
「私が小さかった頃、今は亡き祖母が、農作業を終えた後にたまに作ってくれました。今思えば、市販品のポテトチップスを小中学生の孫(私と弟)がボリボリ食べているのをみて、『孫たち世代はこういうものが好きなのか』と、見よう見まねで作ってくれたのだと思います」
自家栽培のじゃがいもをスライスして揚げるシンプルなおやつ。たまに厚めでほくほくしたじゃがいも感を感じられるものもあって、そこがまたよかったそうですよ。

じゃがいもをスライスしてさっと揚げればできあがり
三世代で楽しむおやつ時間
田中友貴さんはお母さまがお孫さんたちのために作ってくれるおやつを教えてくれました。
それはパンの耳のおやつ。パンの耳をオリーブオイルでカリカリに焼き、砂糖を振りかけて食べるそう。お母さまは友貴さんが子どもの頃、忙しかったそうですが、今はお仕事も落ち着き、お孫さんたちに作ってくれているのだと言います。友貴さんはそれをありがたく一緒にいただいているのだとか。

「子どもたちの苦手なパンの耳。こうするとサクサクだしお砂糖いっぱいで、ほんとにおいしいですよ」と友貴さん
大人の味ってこんな味?ほろにがおやつ
佐藤美加さんからは、大人っぽいおやつを二つ教えてもらいました。
一つめはおばあさま直伝の食べ方、甘夏、八朔など柑橘類に重曹をかけて食べる方法。口に入れるとシュワシュワのサイダーのようで「これが大人の味!」と思っていたのだとか。
もう一つは、お母さまの作ってくれたつくしの砂糖漬けです。
硬めのつくしをきれいに洗ってさっと茹で、お砂糖でカラメリゼしてさらにグラニュー糖をまぶします。つくしんぼで作るオレンジピールのようなものだそうです。
きれいな土手や原っぱでお母さんと一緒につくしを摘み、家に持って帰り、その後ハカマをとる作業も楽しんだそう。
出来上がったつくしの砂糖漬けはタッパーに入れて冷蔵庫に保存し、美加さんは少しずつ食べるのが好きだったのだとか。少し苦い味なのも、背伸びしている感じがしてよかったそうですよ。
じいちゃんのカルメ焼き
濱田明日美さんは「福島のじいちゃんが田舎に帰った時に作ってくれたかるめ焼き」を紹介してくれました。
その時の温度感が伝わる文章で教えてくれた明日美さん。まるで絵本を読んでいるようで楽しいので、そのままご紹介しますね。
「お玉にザラメをさーっと入れて溶けたら
重曹を入れてくるくる回すとぷくーってふくらんで、
カリカリのあまーくてまるーい、
茶色のおかしができる」
おじいさまが作る様子がまるで手品を見ているようでとても不思議だったと明日美さん。自分でやってみても、なかなかうまくいかなかったそうで、「じいちゃんすげーっ!!!」と思ったそうです。
明日美さん、素敵な思い出をありがとうございます。
農家のまったり手作りおやつ
お料理好きで食いしん坊(だと思う)な富岡仁美さんは、お母さまやおじいさまが作ってくれた素朴なおやつを三つ紹介してくれました。
<パウンドケーキ>
「シフォンケーキのような型で小麦粉、卵、ふくらし粉、砂糖、水、干しぶどうを混ぜたものを七輪の上で焼く、オーブンのない時代のパウンドケーキのようなものです」
<こなかき>
米粉に熱湯を入れて力強くかき混ぜた(かいた)、こなかき。味噌漬けを刻んだものの塩けで食べるそう。「昔はお乳の出が良くなるように、乳飲み子のある人によく食べさせたようです」と富岡さん。米粉が熱湯で餅状になるのが不思議で楽しかったそうです。
<名もなきおやつ>
また、葛に砂糖を入れて熱湯で溶いたもの。名前は特にないそうですが、おじいさまが「葛食べるか〜?」と言いながら冬に作ってくれたそうです。葛湯のようにさらっとしたものではなく、ゼリー状のものだったと言います。
素朴なおやつが郷愁をそそります。富岡さんの原点、ここにあり!と思いました。

こちらは長野の定番「牛乳パン」。最近は横浜でも売っているそうで、見かけるとすぐ買っちゃうのだとか
静岡名物 富士山とさくら棒の思い出
最後は美しい富士山の景色も楽しめるお話です。
南部聡子さんは静岡名物「さくら棒」という麩菓子の紹介をしてくれました。
「富士にある祖父母の家に行くと、ほくほくと一番近くのコンビニへ買いにいったものです。かわいらしい色、お砂糖がかかってカリッとした外側と中のふわっとした食感、優しい甘さ、そしてふがしという言葉の響き。なんて全てが理想的なお菓子なんだ!と思っていました。
そのコンビニの駐車場からは清々と富士山が見え、眼下に広がる街の向こうにはキラキラと光る駿河湾が見えました。その手前には春になると一面に蓮華の咲く田んぼがありました。
やがて、田んぼはなくなりましたが、さくら棒ふがしを思い出すとき、幼い頃に見たあの風景も一緒に思い出します」
お菓子と一緒に素敵な景色の紹介までしてくれた聡子さん。キラキラとした景色が目に浮かぶようですね。「祖父母が亡くなり、今はお正月に行くことはなくなったので写真は手に入りませんが」と聡子さん。写真以上の風景を想像することができました。
みなさん、「なつかしおやつ」のお味はどうでしたか?なんとなく心が温まって、そしてお腹も満たされたのではないでしょうか。それとも逆にお腹が空いたでしょうか?
それぞれの「なつかしおやつ」を家族や周りの人たちと話してみてください。きっとおいしい時間が過ごせると思いますよ。

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