
無料で享受できる自然。0円の営みにリスペクトを
私が借りている畑の土は粘土質で、もともと、そんなに肥沃な土地ではありません。そこに、なんのお世話もしていないのに、元気に生えてきてくれる野草の存在と、その生命力に、私は毎年感動しています。春先のこの季節、私には大地が「天然のサラダ農場」に見えています。

昨年4月の畑の摘み草。かごの中には、たんぽぽ、菜の花、カラスノエンドウ、ハコベ、カキドオシの花と葉っぱがあります。どれも特別珍しいものではなく、全て食用や薬用に手軽に利用できます

同じ畑でも最初の写真の3週間前、3月のかごには、タンポポの葉と、まだ小さなカラスノエンドウ、ホトケノザ、オオイヌノフグリ。これらも全て食べられます
ちなみに、写真はありませんが、春夏に繁茂して嫌われがちな、スギナやドクダミ、ヨモギが生えている一帯は、天然のお茶畑や薬草園として、キラキラと輝いて見えています。どんどん増えて困る葛や桑の葉なども、「使える素材」という目で見ています。
とはいえ、土地には所有者がいるので、どこでも草を採っていいというわけではありません。野の草花を暮らしに取り入れたいと思ったら、良い庭、良い畑を持っているご近所さんと、丁寧にお付き合いすることが大切です。
今は、畑で大体必要なものが手に入るのでありがたい限りですが、以前は、森ノオトの事務所にも庭があるので、ボランタリーに手入れをする代わりに収穫物をいただいていました。また、普段から関係を築き信頼を得ている方のお庭からいただいたことも。
庭がなくても、いや、庭がないからこそ、外に目を向けて、地域の人とつながることができるのです。
北欧には、「自然享受権」と言って、土地に生えているものを、旅行者も含めて誰もが採取してよいという権利が認められているそうで、一時期羨ましいなと思ったことがありました。しかし、地域や人とつながることをいとわずに楽しめれば、日本の都市部でも十分な野草類を得られます。そのために、何か特別なスキルやお金はいりません。
近づいて見る。まちなかで立ち止まる。これぞ余白のあるくらし

オオイヌノフグリは、見つけやすい野草の筆頭。今年もすでにあちこちで咲き始めています
野草類に親しむには、まず、まちをぶらぶら歩いて、どこでどんなものが採れるのかを発見するところから始めます。薄めの植物図鑑などを持ち歩いて立ち止まると、案外声をかけてくれる人がいたりします。採取してもよい場所を見つけたら、摘んで、かじってみたり、香りを楽しんでみたりして「触れ合う」段階をのんびり楽しんでほしいです。経験を積むと昨年はここにたくさんあったのに今年は少ないとか、成長の早い遅いを肌で感じられたりして、その土地の環境と自分との間に、新たな関係性ができてきます。
観察、観賞するだけでも十分楽しめますが、それでは満足できない方は、ぜひ食卓に迎え入れてあげてください。
特に、3〜4月の春の草花は、洗って軽く水気を切ったら、そのまま生で食せるものが多いです。物価高で野菜類も高騰している今、身近な草花を食してみるよい機会かもしれません。繊細で小さな花を洗って選別する作業は手間がかかりますが、写真のように、シンプルなただの大根の塩もみが「美しい野の花サラダ」に大変身しますよ。

野の花を散らすと食卓も華やぎます。好みでお酢やレモン、砂糖やオイルを加えて和えてもよし。足元の大地とじかにつながり、生命の循環を感じられること間違いなし
野草というと、栄養とか効能を知りたい人も多いでしょう。私は、どうもそういう知識がいつまでも身につかないので、ただ美しいなとか、面白いなという感覚をもとに、あまり難しく考えずに、その時、手に入るものを好きにいただくというスタイルに落ち着きました。
野草類の食べ方に迷った時は、山菜と同じで、とりあえず素揚げか天ぷらにするのが無難です。私は、いろんな野草を適当に刻んで挽肉と混ぜて餃子にするのが好きです。カップラーメンなどジャンクなものを食べるときに、生野草や野草炒めをどさっとトッピングすることもあります。

ネギやニラの代用になるノビルも4月半ばには収穫できます。葉っぱごと素揚げしたり、餃子の具にもどうぞ
ノビルを採っていると、知人の子どもと、誰が一番大きなものをたくさん採れるか競争をしたことを思い出します。ここは当たり!という場所ではゴロゴロ採れるので、気分もホクホクします。

春にブワッと一気に咲きだし、見つけるのも採るのも簡単なアカツメクサは、花をバラしてサラダやスープ、パスタやご飯に散らせば、気分もあがります
アカツメクサは、摘んでからの日持ちもよく、花束や髪飾りにしてもかわいいので、仲のよい子にあげるとか、大人向けの贈り物にも一花添えるなどして、コミュニケーションツールとしても使えます。

無理に食べずとも、コップやお皿に飾っておくだけでも、暮らしに彩りを添えられます
こうして書き出してみると、紹介しきれない野草がまだまだたくさんあり、その遊び方も無限だなと改めて感じています。アレルギーや持病があったりして、食べ物に敏感に反応してしまう方もいるので、気になる方は書籍やインターネットで、栄養や、食べ方などよく調べてからお願いしますね。
一人ひとり違う、私だけの野草との付き合い方を見つけるプロセスを丸ごと楽しんでいきましょう。足元の地域の自然や環境の変化を、自分ごととして繊細に感じられるようになると思います。

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