地域の人々の“やってみたい”が叶う場所。一緒に守っていきたい「みんなの古民家」
小田急線・鶴川駅から徒歩15分ほど。地域で「がんばり坂」と親しまれる長い坂の途中、ひっそりと存在する「みんなの古民家」。レンタルスペースやイベント開催に加え、最近民泊やシェアキッチンを始めたという情報が。ぜひ詳しくお話を聞いてみたい!そんな思いを抱き、代表の石川健さんにお話を伺いに行ってきました。(ライター養成講座2025修了レポート:福田真理)

レンタルスペース「みんなの古民家」の始まり

昭和52年まで実際に石川家が住んでいた茅葺屋根の母屋はなんと築150年。住宅街の中にありながら豊かな自然に囲まれた敷地内は、まるで昔にタイムスリップしたかのよう。

庭から望む茅葺屋根の母屋。この日は天気もよく最高の景色でした

石川家は居住を別棟へ移した後も、約40年の間、土間のかまどで火を焚き続け、茅葺屋根を維持してきました。2015年頃、茅葺屋根の大規模な修繕が必要な時期になり、維持するか手放すかという局面に。「修繕には多額の費用も必要になるため、手放す話も出たのですが、父は手放したがりませんでした」と石川さん。

家族も「いざ手放すとなるとやっぱり寂しい」という思いが増し、話はどうやって維持をするかという方向へ向かいました。

 

とはいえ、最初から具体的な活用のアイデアがあったわけではないそうです。

模索するうちにネットでレンタルスペースの情報を掲載できることを知り、試しに載せてみよう!となったことが「みんなの古民家」の始まりでした。

広間から見える景色も素敵です。この場所をレンタルできるなんて!思わず何か企画をしたくなります

古民家活用をスタートして気づけたこと

レンタルスペースを始めてみると、動画配信場所としての利用やコスプレの撮影会などの申し込みがあったそうです。

「こういう風に使ってもらえるのか」と最初は石川家のみなさんも驚いたのだとか。特にコスプレイヤーの方々にはコンスタントに利用してもらえるほど人気の場所となったそうです。

広間を別角度から。あえてリフォーム等をすることはなく、基本的に何も変えずに場所を提供しています

みんなの古民家では、レンタルスペースを始めてからも、日々の庭の手入れや畑仕事など、石川家の暮らしの一部が続いています。

土間から漂う炭の香り、かまどに使う薪、庭をお手入れしている道具や剪定した枝の束など、作られたものではない生活の様子が目に入ります

石川さんは「面白かったのは、来てくださる方がこんなガラクタを?と思うものに着目してくれたこと。例えば、かまどの煙で燻され変色した冷蔵庫があるのですが、家族にとってはいつ捨ててもいいようなものに対して、これがいい!と価値を感じてくれて。

長い年月を経てできた味わいに反応してもらうたび古きよきものを大切にしないといけないなという思いが増えていきました」と話します。

これが煙で燻されて黒と錆が表面を覆っている冷蔵庫。その周りの事務用品やキャビネットなども味わいがあります。生活感のあるものも不思議と馴染んでしまいますね

茅葺屋根は燻すことで防虫・防腐・殺菌効果があり、耐久性もあがるため、維持にはかまどの煙が必須です。みんなの古民家ではときに煙が立ち上がっている風景や炭の匂いなども一緒に体験することができます。

「利用者さんは煙の匂いを感じながら過ごすなど、ありのままの生きた空気を感じられるのもいいのかなと思います」と石川さん。そんな飾らない生活空間だからこそ、訪れる人が落ち着けるのだなと感じます。

家具や家電、雑貨など生活していた空間ありのまま

少しずつ広がる新しい取り組み

2019年には「ようこそ!鶴川OMOTENASHI⼤作戦」にみんなの古民家も参加しました。鶴川地域に残る複数の古民家がコラボし、まちに対する愛着を感じてもらうことを目的としたイベントでした。

このイベント参加をきっかけに尺八のライブ・竹細工や折り紙のワークショップなどの企画を考えて実施したのだそうです。

 

現在は「古民家噺の会」が主催する落語や講談、紙芝居などの催し物が2カ月に1度ほどのペースで定期的に開催されたり、「古民家マルシェ」や「古民家カフェ」が春と秋の季節限定で開催されたりしています。

古民家カフェでは、母屋の縁側や広間に座席が設置され、古民家の雰囲気をたっぷり味わいながら時間を過ごすことができます。私が古民家マルシェを訪れたときは、この縁側にも野菜や古代米などが並んでいました(写真提供:みんなの古民家)

マルシェやカフェについては「ここで野菜の販売や、地元の農産物を使ってレシピを開発しながらカフェや物販をやってみたい」という利用者からの熱い申し出がきっかけだったそうです。

ちょうど敷地内のハナレを改修して民泊を始めようと計画していた頃で、「飲食と民泊の連携ができるし、地元とのつながりが広がるいいきっかけになる」と考えた石川さんは、「古民家ハナレ」にキッチンと民泊スペースを設け、飲食店営業・菓子製造業・そうざい製造業の許可を取得しました。

「古民家ハナレ」外観。民泊とシェアキッチンのスペースはここの中にあります

このようにして体制が整い、イベントを重ねるうちに地域にもみんなの古民家の取り組みが知られていきました。

 

 

お菓子販売の夢をかなえる会員制のシェアキッチン

2024年より会員制のシェアキッチンのサービスもスタートしています。このシェアキッチン、これまでの取り組みの中で一番反響があったそうです。

 

シェアキッチンで作ったお菓子などは個人で販売するほか、「古民家マルシェ」や敷地内の「のきさき販売」のイベント開催時にも販売をすることができます。「古民家カフェ」で販売代行をすることもあるそうです。

「自分もお菓子を作って販売してみたい」。そんな夢をこの会員制シェアキッチンで

興味深かったのは、古民家の庭や地元でとれた食材を利用したレシピ開発もシェアキッチン会員やスタッフが自ら行っているということ。

 

「地産地消の食べ物を地元の人々に古民家の空間で楽しんでもらいたい」

「子どもも安心して食べることができる外食を提供したい」

 

古民家カフェでは、そんな思いのあふれるメニューが並んでいるそうです。

こだわりのメニューの一つ「石川さん家の古代米と熟成キーマカレー」。ルウには小麦粉を使わず、とろみは「古民家特製7種の野菜ピューレ」を使用しているそうです(写真提供:みんなの古民家)

 

のきさき販売の様子。オリジナルレシピ「古民家特製7種の野菜ピューレ」の味見をさせていただきました

シェアキッチン会員は販売に関しては初めての方が多く、みんなの古民家でもまだ取り組みを始めたばかりのため、実際にやってみてわかる課題も色々あるとのこと。

「自分も一緒になって、一つひとつ経験しながら、販売の形や方法を模索していきたいと思っています」と石川さんはおっしゃっていました。

 

 

まさに「みんなの古民家」

「どういう展開になるかわからないけれど、地元の人々のこれをやりたいなという思いと向き合っていきたい」と石川さんは語ります。

集まる人々が、みんなの古民家で自己実現ができたり、楽しみ、癒やされること。それが石川家の大きな目的である古民家の存続にもつながっていく。

まさに「みんなの」古民家という名前がぴったり!な場所だなと思います。

 

ぜひ足を運んで、実際に古民家のありのままの空間を体感していただきたいです。

地域にあるこの素敵な場所をみんなで大切にしていけたらと思います。

Information

「みんなの古民家」

東京都町田市能ヶ谷7-23-11 合同会社アイシーエム

 

公式ウェブサイト:https://www.minna-no-kominka.jp/

営業時間:10:00~18:00※水曜日のみ13:00~18:00

メールアドレス:info@minna-no-kominka.jp

 

現在、古民家カフェは春と秋に季節限定でオープンしています。

古民家カフェ 毎週火曜日11:00~15:00 *2025年春シーズンは3/27(火)~5/27(火)

古民家カフェのお席予約などはこちらから→minna.no.kominka.cafe@gmail.com

 

インスタグラム→@minna_no_kominka2

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この記事を書いた人
福田真理ライター
横浜市戸塚区生まれ。町田市在住。田んぼや畑に囲まれる環境で育ち、幼い頃は実家が薪風呂だったため今も火起こしが得意。モノづくり、花や草木に触れること、おやつが大好き。これから自分の暮らす街をもっと知り、楽しんでいきたい。
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