
息子が滞在することになったモリウミアスは公益社団法人MORIUMIUSが運営する豊かな森と海と里のある環境で、自然と共存する暮らしを体験する子どものための施設です。2011年の東日本大震災により甚大な被害を受けた石巻市雄勝町で、廃校になっていた築93年の小学校を活用し、2013年から修復・改装。2015年から子どもたちが自らサスティナブルな未来を描くことができるように、1泊2日や7泊8日の体験プログラムを実施しています。

廃校になった元桑浜小学校の校舎をリノベーションした施設。校庭の一部に排水システムバイオジオフィルターが設置されており、この日はスタッフが手入れをしていた
今回息子が参加している漁村留学はモリウミアスが提供する「山村留学」です。日本や海外からの小学4年生から中学3年生までの子どもたちが共同生活をしながら地元の公立校である雄勝小中学校に通います。炊事や洗濯掃除は原則自分たちで行います。
今年2025年度の漁村留学生は4人。小学5年生2人と中学1年生2人です。
自然と調和する暮らしを掲げているモリウミアスでは、できる限り環境に負荷をかけないかたちで生活を送ることになります。

思春期に突入した息子だが自然の中で生き生きと作業している。薪の取り扱いと風呂焚きは得意のよう。刃物や火の取り扱いでは失敗を糧にして頑張っている(写真提供:モリウミアス)
風呂とご飯は裏山から取ってくる薪で炊きます。
もともと校庭だった場所の端っこにはバイオジオフィルターと呼ばれる排水システムが作られていて、台所やお風呂からの排水は、瓦のチップが敷かれた自然のフィルターを通って、微生物や植物の力を借りて浄化され、最後はビオトープに流れ込みます。
鶏と豚を飼っているので、食べ残しや野菜の切れ端などは家畜の餌になります。
家畜が食べないものはコンポストとして肥料に混ぜ込みます。

鶏舎で鶏を飼っている。4月に卵から2羽のひよこが生まれた。しかし、鶏を狙う獣も多く、この原稿を執筆している最中に1羽が襲われてしまった(写真提供:モリウミアス)
漁村留学生にとって4月からの1カ月は暮らしを整える期間。朝は6時ごろに起きて、家畜の餌やりや掃除、朝ごはん作りを行い、朝食を食べて登校時間に学校へ行きます。下校してからは、必要に応じて山で薪を拾い、ごはんの時間までに夕飯作りや風呂焚きなどを行い、夕飯後に次の日の予定の確認を全員で行います。
晩御飯の献立も当番が考えるので、週に一度の買い出しの時に買って欲しいものをリストに書き出しておくのも子どもたちの役割です。
買い出しはスタッフがまとめて車で行ってくれます。
毎日日替わりで宿直スタッフがついていますが、日々のスケジュールや毎日の当番などのルールを作るのはあくまで子どもたち主体で行います。スタッフは暮らしの一員として子どもたちを見守り、フォローしてくれます。

モリウミアススタッフは海が得意、森が得意、ものづくりが得意など色々な特技を持った人が多く、子どもたちの生活を複数の目で見守ってくれる
通っているのは雄勝小中学校。雄勝が津波の被害にあったあと、2017年に校舎を新築し、小中併合校となりました。全校生徒9学年30人が通っています。5月に小中合同運動会が開催され、わたしも保護者として参加しました。綱引き、大玉転がし、二人三脚、玉入れ、徒競走、リレーとオーソドックスながら、児童生徒先生みんなで運営し協力して作りあげる心のこもった運動会でした。特に大漁旗を用いて作ったハッピをまとっての生徒全員でのソーラン節は海を望む校庭に映え、印象に残りました。
地元生徒のご家庭の多くは漁業関係のお仕事をされているそうです。

入学後1カ月で臨んだ運動会。留学生たちも大漁旗のハッピをきてソーラン節を踊った。東北弁でのラジオ体操、東北楽天イーグルスの応援歌を使用した応援合戦などのローカル色があった
漁村留学生は、定期的に漁村留学生通信を作り周辺のご家庭に手配りして回ります。地域の皆さんに活動を知ってもらい、顔を覚えてもらい、会話のきっかけにしています。
4月からの1カ月の間だけでも、川遊び、海釣り、カゴ漁、陶芸、デッキでの菜園づくり、地域のお祭りの準備、神楽の見学、卵からかえったひよこと遊び、ドーナツ作り、漁村通信の作成と配布、カメラワークショップへの参加、魚さばきにぶどうの苗植えなど横浜での日常生活にはないさまざまな体験をさせてもらっています。とても濃い1カ月を過ごしています。これに加えて中学校では、唯一の部活動で全員参加のバドミントン部に入部し、中学生は地元に伝わる和太鼓、小学生は伝統芸能の神楽の稽古もはじまったとのこと。

漁村留学生にこれまでの感想を聞いたところ「料理ができるようになってきた」「洗濯をする暇がない」「学校が楽しい」「カメラを習って楽しかった!また撮影をしてみたい」「家族と離れて過ごすのは少し寂しいけど大丈夫」などと口々に教えてくれた(写真提供:モリウミアス)

やりたいことのアイデア出しのシート。船での釣り、キャンプ、田植え、カヤック、スキーなど挑戦したいことがずらり。徐々に自分の年間目標を定めていく
わが家が留学をしようと思ったのは、子ども自身が希望したというのが大きいですが、親としては中学受験を選ばなかった息子に地元コミュニティだけではない多様な人間関係をこの時期に知っておいてもらいたいと思ったからです。
モリウミアスでは年間を通して、週末の1泊2日で季節ごとに毎回異なるプログラムが展開されています。長期休み中には7泊8日のプログラムもあります。
私の息子も去年2024年の6月に漁師さんの船で銀鮭養殖の現場を見せてもらい、鮭を一匹さばかせてもらうプログラムや、12月にカゴ漁を体験し、調理をする1泊2日のプログラムに参加しました。毎週里や海、森などを舞台に変化に富んだ内容になっていて、自然とともに暮らすモリウミアスマインドを感じることができる良いプログラムです。小学1年生以上の子どもが対象で親と離れて子どもだけで体験します。
付き添いの親が宿泊できる別館もあり、Wi-Fi完備、海の幸を生かした食事が付いているので大人だけでゆっくり過ごせます。夜はそこで初めて出会った保護者同士で食事をしながら交流するのが常で、全国からモリウミアスに惹かれて参加した大人たちは面白いアンテナを持つ方が多く、大人も新しい友達を得て帰ることができます。

4月末。スタッフと留学生の子どもたち全員が大事にしたいことを書きだし、それぞれの言葉に対して思ったことを追記していき一枚のシートを作成した(写真提供:モリウミアス)
暮らしと自然が共存する環境でこどもたちの生きる力を育みたい、教育のあり方を発信したい、震災後の雄勝のまちづくりに一役買いたいと活動を行っているモリウミアス。生き物が好き、自然が好き、ものづくりが好きな息子にとって、雄勝町はうってつけの環境です。漁業が産業の柱である雄勝では、温暖化により海の生き物に変化が現れてきているそうです。山で薪を取り、カゴ漁で海の幸を体験し、漁師さんの暮らしぶりも身近に見ることができるこのまちで、彼なりの観点で地球環境について感じていくのではないかと思うし、その変化や成長が楽しみです。
また、モリウミアスには、プロフェッショナルとして訪れるシェフやアーティスト、企業研修のために滞在する社会人、地域のおじいちゃんおばあちゃん、漁師さんなど多様な人が訪れます。親以外の大人の生き方をたくさん見ることができるでしょう。
スタッフやまわりに用意されたものではなく、自分たちの心、頭、手足をつかって暮らしを成り立たせ、自分たちで決めていく生活。そのために留学生が互いに話し合い、助け合っていくという環境も貴重です。
そんな子どもたちの様子を間近で見ていたいけれど、きっと親が近くにいたらノイズになってしまうので、適度な距離を保ってこの状況を楽しみ観察したい。
今年は私も子どもの様子を遠巻きに見つつ石巻や雄勝に通い、横浜ではないまちの暮らし方や子育て中、教育、防災についても学び、横浜での活動に生かしたいと考えています。
子どもたちの変化や漁村留学から得た学びは森ノオトでも報告しますね!

モリウミアスにはアトリエがあり、工具が揃っている。この日は長靴を入れる棚などをスタッフ指導のもと自作した。こうして必要なものを自作し、4人の暮らしやすいかたちをつくっていく

モリウミアス
モリウミアスでは1泊2日や2泊3日の短期プログラム、夏休みなどの7泊8日の1週間のプログラムが年間を通しておこなわれています。
大人向けには企業研修も受け付けています。
2020年からは東日本大震災で被害のあった場所でぶどう栽培とワインづくりに挑戦するMORIUMIUS Farm&Wineryもスタート。都市部からの参加者を募集しています。
モリウミアス漁村留学
漁村留学とは、主に都市部に住む小中学生が1年間親元を離れ、雄勝町の小中学校に留学生 ( 転校生 ) として通いながら寮での共同生活を送る取り組みです。
10周年クラウドファンディング
https://readyfor.jp/projects/moriumius_10th
モリウミアスでは10周年を記念したクラウドファンディングが開催中。10年経って、傷んできたデッキやボイラーなどの修繕費用としての寄付を呼びかけています。

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