ケアとアートをつなぐ即興的身体表現ワークショップが、こころとからだ、あなたと私の関係性をほぐす
ありのままでいる、ありのままの自分を受け入れてもらう。「その人そのもの」ともう一度出会い直すことで、社会で身につけた役割や固定観念を揺さぶられてみませんか?ケアとアートをつなぐ即興的身体表現ワークショップは、新たなケアの扉をそっと開きます。

ようやく秋めいてきた9月の爽やかな快晴の空の元、横浜市旭区にある生活介護事業所、「ミコミコ」に、色とりどりの紙風船が入った大きなビニール袋や、ギターやスチールパンなどのさまざまな楽器、そして一際目立つ衣装に身を包んだ、みるからに楽しげな集団が次々に入っていきます。今日は、「ケアとアートをつなぐ即興的身体表現ワークショップ」(以下ワークショップ)の開催日です。

 

ミコミコは、利用者26名の生活介護事業所で、コーヒーや焼き菓子を出すカフェを経営しているほか、ギャラリーを併設し、利用者自身が作成したアート作品の展示・販売をしています。事業所内に所狭しと並んだ作品たちは、コーヒーの良い香りと共に、作り手ののびのびとした感性を余すことなく伝えてくれます。

見ているだけで楽しくなる、ミコミコの手作り作品たち

このワークショップの生みの親は、体奏家・新井英夫さん(注)です。綿密に練られた構成に、異質な出来事を取り込み「表現」として昇華させる独自の視点を必要とするもので、神奈川県でもダンス・演劇・音楽等のパフォーミングアーツに関わる人たちに向けた即興的身体表現ワークショップファシリテーター養成講座(令和6年度神奈川県マグカル展開促進事業、センターフィールドカンパニー合同会社主催)が開催されていました。今回、ワークショップを行う「チームどんぶら(以下チムどん)」は、令和6年9月から3月まで開催された同講座の修了生です。実は私も同じ講座を体験受講して素晴らしさに圧倒された一人で、同期のメンバーがチームを組んで、講座に引き続き、ミコミコで定期的にワークショップを続けることになったのです。私は、ワークショップの素晴らしさを伝え、このような活動の継続開催の支援につながればと思い、今回ワークショップを行うチムどんメンバーと、継続開催を決めた事業所の代表にお話を伺うことにしました。

 

注)体奏家 新井英夫さんは、自然に身を任せ「力を抜く」身体メソッド、「野口体操」を創始者野口三千三氏に学び、障がいや高齢などで身体が動かしにくい人たちと向き合う、身体表現&非言語コミュニケーションのワークショップ「ほぐす・つながる・つくる」を、教育・福祉等の社会包摂に関わる現場で行っています。2022年夏にALS(筋萎縮性側索硬化症)の診断を受けた後も、ケアする/される関係を超越した活動を継続しています。

 

 

ワークショップの様子

朝10:00、ミコミコに、ワークショップ参加者が集まりました。参加者は、ミコミコに通う障がいを持った方々と、ケアスタッフ、総勢20名ほどです。迎えるチムどんは、リードファシリテーターとして聡美杏さん(あんずさん)、藤平真梨さん(ふじまりさん)、サポートファシリテーターとして古川友紀さん(ゆきさん)、港岳彦さん(みなとさん)、そして音楽担当小日山拓也さん(コヒー)の5名です。早速、音楽担当コヒーが、ギターに鼻笛をつけて、軽快な音楽で参加者を出迎えます。その他のメンバーもマラカスやカスタネットを片手に参加者を迎えます。久しぶり〜!元気だった〜??などの明るい声が響きます。

 

椅子に座って輪になったところで、今回のリードファシリテーター、あんずさんとふじまりさんが、大きな動きでご挨拶。チムどんメンバーの紹介をしました。そしておもむろに2枚のうちわを取り出しました。何やら手と足のマークが……まずは挨拶がわり。「うちわが来たら、叩いてね🎵」と参加者一人ひとりのもとへうちわを持って回ります。

まずはアイスブレーキング!手形と足形のついたうちわを叩いていくワーク。誰一人として同じ叩き方をしない

全員回ったところで、どうしても椅子に座れず立ち歩いてしまう参加者へ、「みんなで風を送りましょう〜」みんな思い思いに身体を使ってその方へ風を送ります。そのままの流れで次は、体をほぐすタッチ。自分自身や両隣の人の肩を叩く動きをリズムに乗って行います。

 

そこで、突然、あんずさんが、このチームの象徴、「どんぶらさま」を連れてきました。どんぶらさまは、液体の入った袋を緑色の肌触りのいい布で包んだ、猫くらいの大きさの物体です。耳を押し当てると「タプン……トプン……」と水の波打つ音が聞こえ、その重みや温かさが生き物のように感じられます。

黄緑色の猫くらいの大きさのどんぶらさま

参加者は、どんぶらさまを大切に大切に、隣の人へ回していきます。ただ回すだけじゃなく、背中に乗せたり、気が乗らない参加者へは別の参加者がもらって別の人のところへ運んでくれたり。ここでは、ファシリテーターの指示通りではなくどんどん参加者独自の考えで、動きが生まれていきました。

どんぶらさまはどんな感触?大切に次の人へ回していきます。五感全てを使って参加者の表現を引き出す、絶妙なコンテンツでした

いくつかのコンテンツを挟んで最後は、今回のメイン、ミコミコ美術館の彫刻を作ろう!というテーマです。参加者は、緑と青のシアーな布をかぶって、布がとれた瞬間、彫刻をイメージしたポーズを決めます。ここでも、予想しなかったような展開が次々と生まれ、ファシリテーターも参加者も大笑いしたり感心したり……障がいの有無を超えた、フラットな関係性の中で、その人の出してきた「表現」を感じて楽しむ。そんな貴重な時間が流れていました。

ミコミコ美術館開館!布をかぶってポーズを決めているところ

ワークショップは大盛況のうちに1時間半程度で終了。チムどんは軽快な音楽とダンスで参加者を送り出します。参加者は名残惜しそうに、「またきてね!ありがとう!」と言いながら、手を振り満足げに帰っていきました。

突然ファシリテーターの手を取り踊り出す参加者の方。ファシリテーターは即興で出てきた動きを必ず捉え、表現に昇華させます

 

縁の下の力持ちのサウンドスケープ担当コヒー。ギター片手に鼻笛を吹き鳴らし、ワークショップのムードをコントロールしています

なぜ、即興ワークショップなのか

チムどんのリードファシリテーターのあんずさんは演劇関係、ふじまりさん、ゆきさんはダンサー、みなとさんは脚本家、コヒーはフリーランスのアーティストと、みなさん表現に関するお仕事を生業とされています。

 

その中で、なぜ、このワークショップをするのか、話を聞きました。みんな、「う〜〜ん、何でだろう……楽しいから?」「そもそも、私が好きだから?」逡巡しながら、少しずつ言葉を紡いでくれました。

 

ふじまりさんは、「ダンスなんて……即興なんて……って思っている人たちにも、私が媒介になることで、できるんだよ!ってことを知ってもらいたい。だって気持ちがいいから」と。

 

それに呼応するように、「予定調和で起こることよりも、偶然起きたこと、偶然が起きるまでのプロセスを一緒に楽しみたい」とあんずさん。

 

「今まで外への扉が閉じていた人がパッと出てくることがある。そういう瞬間に居合わせられることが幸せ」とゆきさん。

 

みなとさんは、まだ悶々としながらも、「障がいのある人への社会のあり方に、もやもやしているのかも。それを自分なりに咀嚼したくて、この活動をしているのかも」と、語ってくれました。

 

チムどんは、前述のファシリテーター養成講座をきっかけに結成した、若干1年半の若いチームです。しかし、新井英夫さんの授けてくれたさまざまなワークショップのエッセンスを彼らなりに解釈しながら、経験を積み重ねています。「本来なら“困ったな”というような行動も、ワークショップの中ではその人の“表現”にできる。いかに違うことや困ったことをオモシロがることができるか」を問い続け、彼らも進化を続けているのです。

 

彼らの話を聞きながら、チムどんは、プロフェッショナルとしての自覚を持って、日々スキルを磨いている集団なのだなと、目を開かされた思いでした。参加者の不測の事態をうまく取り込み「アート」として昇華する。このための独自の視点や感性を磨き、次のワークショップへ向けてチューニングしていく。これは、ワークショップをさらに洗練させ、その時しかできない体験を参加者へ提供することにつながっていきます。

ワークショップ後、1時間に及ぶ振り返りの会を開催(参加者の方も混じってます)。本日のコンテンツや参加者の様子などをきめ細やかに共有し、次回につなぎます

なぜ、障がい者支援の場にアートが必要なのか

ミコミコの管理者である頼住龍平さんにもお話を伺いました。なぜ、このワークショップの継続開催を決めたのでしょうか。

 

頼純さんは、「まだ始めたばかりで、特にどんなことが良い、とかは言えないんですけど……」と前置きした上で、次のことを語ってくれました。

 

2016年に神奈川県相模原市の知的障がい者施設で起きた、津久井やまゆり園事件。「障がい者は生きている価値がない」とした犯人の考えにより、多くの入所者が被害に遭いました。生産性だけで人を判断する犯人の考えは明らかに間違っています。ただ、「このような風潮を、社会が後押ししている可能性も少なからずあるのではないか」と、障がい者支援に携わる多くの方が考えるきっかけになったそうです。頼住さんもその一人でした。事件を受けて、生産性で測れない、「あなたにしかない、あなたの魅力を探し続ける」ことを目標に掲げた旭区は、区全体を上げてアーティストとのコラボレーションを進めていきました。これを機に、新井英夫さんと頼純さんの関わりが始まったと言います。

 

「日々福祉の仕事をしていると、どうしても利用者の『できないこと』に目が止まり、未然に困りごとを『処理しておく』頭の使い方をしがちです。そんな時、このワークショップは、スタッフの目を再び、『あなたにしかない、あなたの魅力』へ向けさせ、『あなたそのもの』と出会い直すことを勧めてくれます」。

ミコミコ管理者の頼純さん。下に見えているのは、ミコミコ利用者が作ったキーホルダーの手作りガチャ

ケアとアートをつなぐ即興的身体表現ワークショップに参加しようと思う時、参加者側は、なんの準備もいりません。しかしファシリテーターたちによって緻密に計算され、洗練させたプログラムに巻き込まれていくうちに、障がいの有無や社会の役割を、いったんわきに置き、「その人そのもの」に出会い直すきっかけを得られるかもしれません。このような活動に賛同し、協働する人が増えてくれることを強く願います。それはきっと、生きづらさを抱えた全ての人への、「ケアの扉」を開く鍵になるはずです。

Information

一般社団法人すまいる ミコミコ

横浜市旭区川島町1577-5

045-373-3545

hp: https://mikomiko200541.wixsite.com/home

 

チームどんぶら

インスタグラム

https://www.instagram.com/team_donbra/?hl=ja

 

チームどんぶらへ即興的身体表現ワークショップを依頼したい方はこちらまでご連絡ください。

team.donbra@gmail.com

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この記事を書いた人
淺野安沙ライター
横浜市緑区出身、青葉区在住。看護師と研究者の二足の草鞋を履く。幼少期から枠にハマるのが苦手な性分で、物事をナナメから見るのが好き。最近は、看護とアートの親密性についてよく考えている。暮らすように過ごす旅が好き。男児の母。
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