地域の不動産屋がまちをつくる。妙蓮寺「くらしとすまいの松栄」
横浜市港北区・妙蓮寺の周辺エリアでユニークな物件やまちづくりプロジェクトを手がけ、魅力的な個人商店を誘致してきた「くらしとすまいの松栄」。まちの本屋・石堂書店リノベーションの記事でも登場した、地域密着の不動産会社です。暮らしの豊かさに直結する事業の発想の源やその持久力は、どこから来るのでしょうか。代表の酒井洋輔さんに改めて伺いました。
(この記事は、地域に根ざした先進的なコミュニティ活性化の取り組みを調査・記録する神奈川県県土整備局住宅計画課「多世代居住のまちづくり」事例集連動企画第1弾です)

日常のまち・妙蓮寺

くらしとすまいの松栄(松栄建設株式会社、以下松栄)は、1960(昭和35)年に創業しました。酒井洋輔さんは3代目で、先代と犬との小さな所帯から徐々に社員が増え、現在では12人に。2020年から、妙蓮寺駅からすぐの十字路の一角に本店を構えています。

一階には「洋菓子 sinonoka」も入居する松栄本店

東急東横線の各停停車駅である妙蓮寺は、一日の平均乗車人員が12,476人(2024年度)と近隣の菊名駅(47,563人)や大倉山駅(24,853人)に比べて少なく、比較的静かな印象のまちです。

 

駅名の由来でもある「妙蓮寺」が駅の目の前に位置し、まちのシンボルとなっています。駅周辺の比較的狭いエリアに商店が集中し、便利なチェーン店だけでなく、個人商店も充実しています。

 

そんな妙蓮寺を、松栄ではハレとケの「ケ」のまちと表現。「観光地ではなく、暮らしのまち。スーパーで普段の買い物は済みますが、たとえばケーキが好きな方はケーキ屋さんで買ったり、コーヒーにこだわっている方はコーヒー屋で買ったり。

そういうまちに合った『自分の日常をちょっとアップデートできる個人店』の誘致を大事にしています」と酒井さんは語ります。

 

 

人が集まる多様な場づくり

松栄が一躍注目を集めたのが、菊名駅〜妙蓮寺駅のあいだにつくった「おばあちゃんの家事付シェアハウス」(2013~2022年)です。

シルバー人材センターを通じて採用したおばあちゃんが単身の若者に代わって掃除・洗濯・料理・買物などの家事を週2回行うという、ありそうでなかった斬新な物件でした。

 

「単純におしゃれなシェアハウスではなく、何かを中心にコミュニティができたらいいんじゃないか」との酒井さんの狙い通り、入居者のリクエストで料理教室が開かれるなど、おばあちゃんを中心に交流が生まれる楽しいシェアハウスに。多い時は15人ほどウェイティングが出る人気となりました。

「おばあちゃんの家事付シェアハウス」では、料理教室やスナックが開かれました

2015年にオープンした古民家カフェ「HUG.CAFE」は、酒井さんが自身の収入を注ぎ込んで子会社を立ち上げてつくった「まちの居場所」。駅から竹に囲まれた小道を歩いてすぐの好立地ながら自然豊かな場所で、2年間営業しました。

 

「お客さんはすごくたくさん入って、一番忙しい時は一時間半待ちぐらいになりました。ただ、飲食店って大変すぎて」。地元の女性たちをスタッフに雇用しこだわりの食材を使った定食を提供していましたが、経営はとても難しかったそう。

現在は「古民家HUG」として、撮影への貸し出しやイベント、月一回の「古民家コワーキング」などに使用しています。

「古民家コワーキング」は古民家をまちに開くための取り組み

2019年には「まちの本屋リノベーションプロジェクト」を立上げ、1949年から妙蓮寺駅前で営業してきた本屋「石堂書店」をまちに残すためのさまざまな取り組みを開始しました。

 

もともと3代目の石堂智之さんのお兄さんと友達だったという酒井さんは、最初は雨漏りについて相談を受けたのだとか。

「見に行って、これはもう建て替えしないとだめだよと言ったんです。でも聞いてみたら、全くお金がないどころか本当に赤字なんですね。

だから書店のビジネスモデルから転換しなきゃだめだということで、出版社・三輪舎の中岡祐介さんにお声がけしました」

 

プロジェクトではクラウドファンディングで資金を集め、これまでほとんど倉庫としてしか使われていなかった書店の2階に酒井さんがほぼ手づくりしたコワーキングスペース「本屋の二階」を開業。

「在庫商売は儲からないけれど、本屋さんには良いイメージがありますから、その上に知的スペースがあればお金を生み出す場になるだろうと考えました」。

本の販売自体にも中岡さんのアドバイスでてこ入れし、2020年には向かいの旧石堂書店別館に中岡さんらが姉妹店「本屋・生活綴方」を開店。売上の底上げを図りつつ、イベントなどで話題づくり・コミュニティづくりを行ってきました。

「本屋の二階」ではトークイベントや販売イベントも行われます

まちのいいニュースを発信するローカルメディア

上記のほかにも、キッチンカースペースやシェアキッチン、畑など、松栄がプロデュースしてきたユニークな場所はまだまだあります。

そうした場所や取り組み、誘致した魅力的なお店、地域の人たちに愛される老舗などを「いろんな人に知ってもらう機会をつくりたい」と立ち上げたのが、ウェブメディア「ケの日のこのまち」。

「ケの日のこのまち」トップページ

もともと2019年から「菊名池古民家放送局」として“タモリ倶楽部のような面白おかしいB級路線”でウェブ記事を発信していましたが、「まちのメディアがB級路線だと、まち自体もそうなるよ」とのデザイン会社「tegusu Inc.」藤田雅臣さんのアドバイスから2024年により洗練されたスタイルにリニューアル。

動画版もスタートしました。

 

「大倉山などはメディアに取り上げられるようなお店もたくさんあって“映える”まちだけど、妙蓮寺はそんなに“映えない”まちでした。

でも例えば『肉のキタムラ』の店主さんは、横浜でもけっこう有名な肉の目利きで、すごく努力して”肉ノート”なんかもつけている人なんです。

そういう人がまちにいるって、皆あまり知らないですよね。そんな少ない宝石のようなネタを“せまく・ふかく・ゆるく”ちゃんと取り上げたいなと思っています」

「ケのまちおさんぽマップ」。妙蓮寺に誘致したデザイン会社「tegusu.Inc」、出版社ビーコンの石垣慧さんが制作を担い、本屋・生活綴方でリソグラフ印刷したのもので、掲載店舗などで100円で販売しています

こうした媒体の制作には、地元のカメラマンやデザイナーが携わっています。

クリエイティブな人脈をローカルに築くことができた理由を尋ねると、「それは神頼みです(笑)」と酒井さん。

 

「不動産屋だというと、はじめは『自分の利益優先で動いているのでは』と色眼鏡で見られます。古民家カフェの経営では貯金を使い果たしましたが、試練があっても乗り越えてきたことで(まちづくりに)本気であることが伝わってきたんだと思います。そういうところに人が集まってくれたのかなと」

 

 

参考にしているビジネスモデルは「農業」

松栄の事業は、「不動産」「建築」「まちづくり」の三つ。

賃貸管理、売買仲介、分譲開発、注文住宅、リノベーションなど前者二つの事業で得た利益を地域に還元し、地域活性化プロジェクトを通じて再び事業収益につながる「循環システム」の構築を目指しています。

 

参考にしているのは「農業」だそう。施設の開業や店の誘致といった「種まき」から情報発信等で定着支援する「成育」、まちに活気が出て人口が増加し、利益や新たなビジネスにつながる「収穫」までをきちんと考えることが重要だといいます。

 

妙蓮寺を訪れる人に向けた紙のマップも制作。

2025年には本屋・生活綴方や松栄の社屋、古民家HUGなど妙蓮寺周辺6会場を舞台に開催したイベント「本や街」に合わせて、「ケのまちおさんぽマップ」を発行しました。

自ら自然循環型農法を理解しようと、2024年には古民家の敷地「-EARTH FLOW LABO-古民家FARM」を開始

実際に、さまざまな活動を続けてきた中で最近「妙蓮寺っておしゃれなまちだね」と言われるようになったという酒井さん。

 

「目に見えて住みたいという方が増えました。

一つ残念なのは、地価が上がってしまったことでまちに住んでほしい人たち、例えばアーティストや子育て世代がなかなか住めなくなってきてしまったこと。

そこは、公共住宅を作ってまちのプロジェクトに参加している人やまちのアートを作っている人は家賃を下げるとか、お金ではない形で対価を支払うような支援を公共にやってもらいたいですね」

 

 

まちづくりは「地元を知る不動産屋が主導していくべき」

松栄が地域密着であり続けられる理由はズバリ「地元愛」。「このまちを潰したくない、ダメにしたくない」という気持ちが原動力になっていると酒井さんは語ります。

 

「皆さんのお住まいの駅もそうだと思うんですが、妙蓮寺には妙蓮寺なりの『こういうお店がいいよね』というのがあるんですよね。今なら刺身が買える魚屋とか、町中華がほしいとか、地元の人は絶対分かっている。白楽だったら飲み屋街になりつつあるのでそういうお店が合う。

 

僕は白楽と菊名くらいだったら小学校からの友達がいるので地元ですと言えますが、大倉山や綱島になってしまうと言えないんですよね。地元の人が求めているものを分かるのって、隣駅くらいまでかなと。

うちがまちづくりやりますといって綱島に行くようなことは失礼、やるんだったらやっぱり住民票を移さなきゃいけないぐらいに思っているんです」

旧郵便局跡地に2021年に誘致した「TERA COFFEE and ROASTER」。大倉山や白楽にも店舗を持つこのエリア発の人気店です

まちにどんなビジネスが集まるかには、不動産屋の存在が大きく関わります。目先の利益を考えてチェーン店を入れるか、まちの魅力アップにつながりそうな個人店を入れるか。そういった相談を地主・大家さんとできる信頼関係も、長年松栄が培ってきたものです。

 

「不動産屋がオーナーさんの参謀として動くことができれば、まちの関所にもなれるし、面白いことをやれば面白い人が集まってきて、まちは豊かになれる。地元の不動産屋がまちづくりを主導していくべきなんです」

 

将来的には、他地域から松栄への“修業”受け入れも考えています。

 

「会社として人を受け入れるために、システム化していかなければいけないタイミングだと思っています。それができたら、人を募集したいですね。

うちで5年くらい勉強して不動産のことがわかるようになったら、地元に戻って自分の食い扶持を稼ぎながら、自分のまちを愛を持って変えていくということができると思うんです」

 

Information

くらしとすまいの松栄(松栄建設株式会社)

横浜市港北区菊名1-12-14

[営業時間]10:00 – 18:00

[定休日] 毎週水曜 / 第1・3火曜 / 年末年始

[TEL]045-432-8085

https://syo-ei.com/

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この記事を書いた人
齊藤真菜スタッフ/ライター
アートやデザイン、まちづくり等に関する記事をフリーライターとして執筆する傍ら、西区・藤棚商店街で間借り本屋「Arcade Books」を営業。食や地域、デザイン、映画、植物等に関する本をセレクト・販売する。将来の目標は泊まれる本屋を開きながら自分のウェブメディアを運営すること。
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