美しが丘西の町を彩って13年。「フラワーショップ空の箱」の中に今、つまっているもの
東急田園都市線・たまプラーザ駅からバスで15分ほどのところにある、美しが丘西の町に佇む一軒のお花屋さん。オーナーは、一人の女性。育児と両立しながら町の人に愛され続け、10年以上このお店を営んできました。美しが丘西のお花屋さん「フラワーショップ空の箱」の、魅力の秘密に迫ります。(ライター養成講座2026修了レポート:鎌田奈津子)

眠くてやる気の出ない朝。疲れて「夕飯作るのめんどくさいな……」なんて夕方。キッチンに飾った一輪の花を、ちらりと見るとそれだけで、私は明るい気持ちにになって、スイッチが入ったりします。そんな花の魔法を教えてくれたのは、近所にある一軒のお花屋さんのオーナー、大谷明子さんです。

 

え?こんなところに、フラワーショップ?青葉区の静かな住宅街の中、郵便局やコンビニがポツポツと並ぶ通りに、淡いブルーの看板があります。誘われるように一歩すすむと、かわいらしく並んだビオラたちが迎えてくれます。さらに進んで階段を上ると……そこはまるで、秘密の花園のよう。チューリップ、ミモザ、ガーベラ、ラナンキュラス、スイートピー、桜に桃。生き生きとした美しい花の色彩が目に飛び込んでくると共に、華やかで甘い香りに包まれます。

この看板が通りに出ていれば、「空の箱」の中へどうぞ!

この町と共に歩み、この町に根ざす

花に囲まれてお客さんを迎えてくださるのはオーナーの大谷明子さんです。これまでも森ノオトで何度か取材している「フラワーショップ空の箱」ですが、以前お店のあった所から少しだけ場所を移しています。もともと、とあるスーパーマーケットの一角にあったお花屋さんで、スタッフとして働いていた大谷さん。その後、場所だけ引き継ぐ形でご自身がオーナーとなり、2013年6月に、「フラワーショップ空の箱」はオープンしました。(オープン当初や、その三年後の様子は、過去の森ノオトの記事をご覧ください)

 

ところが、そのスーパーマーケットが、2024年3月31日をもって閉店となったのです。これに伴い、大谷さんも、同じ場所でそのまま営業を続けることができなくなってしまいました。

 

当時はいくつか別の場所からのお誘いもあり、違う町にお店を移すことも考えたとのこと。でも、お店のイメージや、家族の生活圏など、あれこれ試行錯誤し、以前のお店からあまり離れていない今の場所で続けていくことを決めたのだそうです。

 

新しいお店は、日当たりによるお花への影響、長く店番をするための快適さなどを考慮してカスタマイズし、自分好みの居心地の良い空間になりました。大通りからはお店の入り口が見えないのですが、その隠れ家的な雰囲気が、かえって好きだとおっしゃるお客様も多いとのこと。

風に揺れるビオラたちが「おいでおいで」と誘っているようでしょ

また、お花を買いに来るのではなく、「花の匂いかぎに来たー」「今日は何の花が一番いい匂いなの?」などと、ふらりと立ち寄る子どもたちもいます。通りから見えない、という立地が、地域の子どもたちにとってはリラックスして休憩しやすいようです。少し前の日本にはどの町にもあった、「だがしやさん」的な憩いの場ともなっている様子。

お店の外のスペースにも桜草やパンジーなど、季節の花の鉢植えが並んでいます

お花を買いに訪れるお客さんも、まるでお友達に会いに来るように、大谷さんとのおしゃべりを楽しんでいきます。この町で続けていこうと決めた思いの奥には、そうした町の人々との絆も大きく影響しているようです。それぞれにお花の楽しみ方があり、お客様の数ほど、花と人との物語がありそうですね。

「空の箱」に並ぶのは大谷さんに選び抜かれた花たち。自分の好みに加え「この人の作ったバラなら確か」など、生産者さんへのこだわりもあるそうです

「今」しか楽しめない旬の花。それは子育ても同じ

大谷さんはお花屋さんのお仕事をしながらも、三人のお子さんを育児中のワーキングママでもあります。育児とお仕事、どうやって両立しているのでしょう。心がけていることは大きく二つだとか。

 

一つ目は、お子さんの体調が悪いときには子ども優先にすること。

二つ目は、学校行事や授業参観は、出来るだけ行くようにすること。

 

でもお花屋さんの一日がどうなっているのか、想像がつかない私は、大谷さんの一日の流れを聞いてみました。

 

★大谷さんのとある一日

3:30~4:00 起床

4:30~4:45 市場へ出発

7:00 帰宅

7:15~ お子さん起床。朝食など、登校準備。

8:00~9:00 下のお子さんの登園準備。保育園へ送る

9:00~    開店準備とともに、予約の入っている花束などを作る作業

11:00 ショップが開店

14:30ごろ 小学生のお子さん帰宅

18:00 閉店

18:30 夫が保育園や習い事のお迎えに。大谷さんはお店の片付けと夕食準備

19:30~20:30 夕食とお風呂

21:30 お子さんと一緒に就寝

 

さらに、繁忙期(母の日、クリスマス前のリースづくりの時期、卒業シーズン)はもっと忙しく、2時半起きの日もあるそうです。

 

こうしてみると、三人のお子さんを育てながらお花屋さんのお仕事をするのはとても大変そう。この忙しい毎日をこなすのに、どんなことをモチベーションにしているのでしょうか。

 

「それはやっぱり、お客さんからの予約や、お客さんが喜んでくださること。それってすごくわくわくすることです。あと、帰ってきた子どもに『おかえり』って言うこと(小学生のお子さんたちはお店に立ち寄ってから帰宅するそうです)。最近、息子は『ただいま』にちょっと工夫を加えて、いろんな方法で私をおどろかせたり、何かしら面白いことをしようとするんです。それも楽しみ。今日はどんな『ただいま』だろうって。とにかく子どもがかわいくて。育児って大変なことも、時にはイライラすることもあるけど、この年齢のこの子は今しかないから、その様子をめいっぱい楽しみながら育てていきたい」

 

こう考えるようになったのは、とあるお客様がきっかけだったそうです。以前は接客中にお子さんがお店に入って来ると、「迷惑にならないか、失礼なことを言わないか」などハラハラしていたそうです。でもあるとき、一人のお客様の接客中に、お店に入ってきたお子さんの様子を、そのお客様は「かわいい」ととても喜んでくださって、そのお客様ご自身が子育てで経験したことや感じていたことを話してくれたのだそうです。大谷さんはSNSでも、よくお花と共にお子さんの成長の様子について発信しています。そこには確かに、「今」しかない輝きを感じます。

ブーケに入れる花を選ぶ大谷さん。3月は卒業祝い・お世話になった先生への感謝のお花も心をこめて

花を贈るということは……

私も、美しが丘西の町に暮らし始めて10年以上。その間に、社会にはさまざまな出来事がありました。お店の閉店や移転、古いお家の取り壊し……と町の様子も変化してきました。大谷さんご自身も、妊娠、出産、育児……とライフステージの変化があったはず。それでも10年以上お店を続ける大谷さんが、大切にして貫いてきたこととは何なのか、お聞きしました。

 

大谷さんが引き継ぐ前のお店は、どちらかというと手ごろな価格の花を売るお店でした。良い花を、花に見合った価格で売りたい大谷さんのお店の方向性とは微妙に違ったため、開店当初はもとのお店についていたお客さんが離れていくのを感じて焦る思いもあったそう。でも、「長持ちする、良い花を売りたい」という信念を変えずに、様々な工夫を重ね、徐々に町の人々にお店の良さが伝わっていったようです。

 

「良い花を届けたい」という思いを一層強くしたのは、新型コロナウイルス流行に伴い、社会が不安に包まれていた頃。当時を振り返り、大谷さんは次のように語りました。

 

「コロナ禍では、通りに面したお店だったのにお店の前を通る人が誰もいなくなってしまいました。社会の雰囲気も変わってきてお店を開けることもちゅうちょする日々でした。でも、そんな中でも、お店は閉まっているのにメールや電話で『お花を贈りたい』という相談が、実はとてもたくさんあったんです。遠く離れている家族に、会いに行けないけれど、お花を贈って元気になってほしいとか。何とかして思いを届けたい、本当は人とつながりたい、という人々の願いの強さを感じて、衝撃的でした。そして、人々が求めているのはこういうことかと思いました。花を贈るということは、気持ちを贈るということです。だから私の店には、誰かに花を贈る人にも、花を贈られた人にも、もちろん一人で花を愛でる人にも、満足してもらえる花を置きたい」

取材時は3月8日のミモザの日が近く、店内にもたくさんのミモザが。「日頃の感謝と敬意を込めて大切な女性にミモザを贈る」というイタリアの風習が、最近では日本でも広がりつつあるそうです

取材中、訪れたお客様との接客の様子も見せていただきました。「お水はこまめに変えてやってくださいね」「この花はだんだん茎が曲がってくるから、途中で切って小さめの花瓶に変えたりするのもおすすめですよ」など、一人ひとりにかける言葉にも、「この花で満足してほしい、できるだけ長く花との時間を楽しんでほしい」という大谷さんの思いがあふれていました。

種類豊富なチューリップやラナンキュラスについて尋ねれば、大谷さんからは花への愛ある言葉があふれます

以前の森ノオトの記事の中で、大谷さんはお店の名前になっている「空の箱」という言葉について次のように語っていました。「物事はすべて、最初は空っぽで、空き箱のような状態。そこから自分の好きな物、大切な物をその箱に詰めていってほしい」

 

今回の取材の終わりに、「今の『空の箱』の中には、すてきな物がたくさん詰まっているのでは」と投げかけると、「そうなんです!」と満面の笑顔でした。町の人々との絆、お子さんたちへの愛、花を作る生産者さんたちへの思い。素敵なものをたくさん詰め込んで、今の「空の箱」は宝の箱のよう。きっとこれからも、この町の誰かの庭を、誰かの部屋を、誰かの心を彩り続け、素敵なものをもっともっと詰め込んでいくのでしょう。一輪の花を眺めて幸せを感じる、大切な人にブーケを贈る、そんなことが当たり前にできるのはとても尊いことだなと、この取材を通して、改めて感じました。

 

花に癒やされたくなったら皆さんもぜひ、「フラワーショップ空の箱」に足を運んでみてくださいね。

Information

フラワーショップ空の箱

住所:神奈川県横浜市青葉区美しが丘西3丁目

TEL:045-902-5530

営業時間:11:00〜18:00

定休日:土日

 

Facebook:https://ja-jp.facebook.com/soranohako

フラワーアレンジメントのワークショップも近くのカフェなどで時々行っています。詳しい情報はインスタグラム(@soranohako)でご確認ください。ブーケのご注文やご相談はお電話か、info.soranohako@gmail.comまでお問い合わせください。

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