その時、大切な人を守れますか? 体験型施設・横浜市民防災センター
東日本大震災から今日で6年。「あの日」はいつか、今日になるかもしれない。その時、私は大切な存在を守れるだろうか? 災害を「体験しておく」施設、横浜市市民防災センターを訪れた時のレポートをお伝えします!
 

「ここにきて 生き抜く力を きたえよう」

そんなキャッチコピーを掲げた横浜市民防災センター(横浜市神奈川区沢渡)を訪れたのは2016年6月のこと。ここは横浜市内唯一の防災体験施設で、「災害を体験しておくことで、体の中にも備えが生まれる」ことを目指し、地震や火災のシミュレーター、今横浜市を大地震がおそったらどんな風になるのかリアルに描かれた災害シアターなど、8つのブースで災害を「体験」できる施設です。

横浜駅西口から徒歩10分の高台にある横浜市民防災センター

横浜駅西口から徒歩10分の高台にある横浜市民防災センター

この日は、次女が通う中静家庭保育室(横浜市青葉区たちばな台)の先生方、保護者と子どもたちで訪れました。
1日5回の体験ツアーは予約制で、施設の職員が案内してくれます。同年4月1日にリニューアルオープンした直後に熊本地震が起こり、災害への関心が高まった来場者であふれ返り、なかなか予約がとれないほどの人気ぶりです。

玄関には消防士や警察官に変身できる衣装が置いてあり、記念撮影の人が絶えなかった

玄関には消防士や警察官に変身できる衣装が置いてあり、記念撮影の人が絶えなかった

最初に向かった先は「災害シアター」です。もし、横浜市で大震災が起こったら? その時の様子がリアルに描かれた映像を見ながら、自分の身に起こることを想像してみます。

関東地方は200〜300年周期でマグニチュード8.2クラスの地震に繰り返し襲われてきており、「横浜市でも今後30年の間に81%の確率で震度6弱以上の地震に見舞われると予想されている」(案内スタッフ)とのことです。災害シアターでは、マグニチュード8.1、震度6の地震が横浜で起こった時に、町や、住まいがどうなるかを鮮明に描いた映像が流れました。見慣れた横浜の風景が一変し、電車で、駅で、家庭で、揺れや津波、火災がどのように襲ってくるのか、背筋が凍るほどのリアルさで迫ってきました。

シアターを観た率直な感想としては、「すぐに家具の転倒防止対策をしよう!」ということ。家具によって家族の命を危険にさらしてはいけない、と感じるほどの脅威となって襲ってくる映像が、今でも脳裏に焼きついています。

災害シアターで臨場感あふれる地震を体験したあと、地震シミュレーターで建物の揺れや被害を体感する。体験時間は3分間だが、特に実際の地震の波形を再現した揺れには心臓がバクバクした

災害シアターで臨場感あふれる地震を体験したあと、地震シミュレーターで建物の揺れや被害を体感する。体験時間は3分間だが、特に実際の地震の波形を再現した揺れには心臓がバクバクした

震度3……今でも時折体験する揺れですが、だんだん震度が大きくなるに連れ、手すりを握る力が強くなってきます。2歳の娘を抱きかかえながらだと、バランスを保つのにも一苦労です。震度5、震度6になるに連れて、自宅想定だと家具が倒れてきて、屋外想定だとビルの看板が落ち、ガラスが破れて襲ってきます。

段階的に震度があがるシミュレーションは、揺れも単一なので、「こんな感じなのか」という単調な感想でしたが、続いて体験した「既往・想定地震体験」で東日本大震災と同じ波形の揺れにのった時には、当時にフラッシュバックしたようでした。映像に映し出される東北の惨状、まだ記憶に残るあの日の思いが襲ってきて、心底「怖い」と感じ、娘を抱える力もギュッと強くなりました。

火災シミュレーターでは実際に消火活動を体験できる。小学生の長女も参加。案内スタッフの方によると「火災時は、小学生が消火することは難しいです。まずは火事だ! と叫んで119番通報し、子どもを逃げさせて大人が初期消火するように」

火災シミュレーターでは実際に消火活動を体験できる。小学生の長女も参加。案内スタッフの方によると「火災時は、小学生が消火することは難しいです。まずは火事だ! と叫んで119番通報し、子どもを逃げさせて大人が初期消火するように」

次は、実際に火災が起きた時に、火がどのように燃え広がり、それに対してどのように対応すればよいのか、火災シミュレーターで消火器を使ったり、煙の中を避難する体験をします。

白い煙が充満する廊下を避難する時に、ほのかに甘いバニラの香りがしました。「いい匂いがした」と案内スタッフの方に言うと、「それは、火災で死んでしまうかもしれない、ということですよ」と返されました。
火災時に発生する一酸化炭素は、3分以上吸うと死に至ることもあり、絶対に吸わないようにハンカチなどで鼻と口を覆う必要があります。シミュレーターの煙は白でしたが、実際は真っ黒で、30cm先が見えないとのこと。
「煙は上にのぼるので、床に近い方がまだ見通せます。姿勢を低くして煙を避け、速やかに屋外に避難してください」(案内スタッフ)

煙が充満した廊下を歩いてみる。煙には甘い香りをつけており、「バニラの香りがする」と感じるほど吸い込むと、実際の火災では一酸化炭素中毒になっていることも

煙が充満した廊下を歩いてみる。煙には甘い香りをつけており、「バニラの香りがする」と感じるほど吸い込むと、実際の火災では一酸化炭素中毒になっていることも

ほかにも、マンションの一室で地震や風水害が起こった時にどのように行動すればよいのかをトレーニングしたり、防災についての資料がそろい、パソコンでも閲覧できる防災ライブラリー、防災クイズ、パネル展示など、大人から子どもまで楽しみながら防災を学べる仕掛けが盛りだくさん。長女もパソコンのマウスをクリックしながら防災クイズに挑戦し、地震の時にどのように行動すればいいのかを学んでいました。

防災ライブラリーは、災害に備えるための情報が整理されており、展示もわかりやすい

防災ライブラリーは、災害に備えるための情報が整理されており、展示もわかりやすい

横浜市地震防災戦略(平成28年4月)によると、関東大震災と同じタイプの「元禄型関東地震」が起こった場合の想定被害は、死者3,260人、倒壊家屋は約13万棟、焼失家屋約8万棟と予測されています。巨大地震によって建物の倒壊、路上ではガラスや看板などの落下、土砂災害や停電、火災、津波、浸水や崖の崩壊、そして電気やガスの停止、通信不能状態など、さまざまな被害が想定されます。

地震だけに対策すればいいわけではない、火災や道路の寸断、水害など、さまざまな困難が複合的に襲ってくるのが大災害です。想像力をはたらかせながら、いかに自分の命を守り、家族の元にたどり着くのか、具体的な道筋をたどっていかねば、と痛感しました。

地震、風水害、火災発生から避難までを、実際の部屋にいることを想定して体験できる減災トレーニングルーム。モニター越しに、室内でほかの家族がどのように動いているのかを見て、時には「ダメだし」されることも

地震、風水害、火災発生から避難までを、実際の部屋にいることを想定して体験できる減災トレーニングルーム。モニター越しに、室内でほかの家族がどのように動いているのかを見て、時には「ダメだし」されることも

この日、私は娘2人と夫の家族4人で「災害を体験」しました。家にいる時に地震が起こったら、家具に襲われないように転倒防止をしよう。仕事中だったら、遠方にいる時にはまず帰宅。普段から歩きやすい靴をはくようにしよう。近くにいればまず娘二人を引き取ろう。地震の時に必ずしも子どもの近くにいられるとは限りません。信頼して我が子を託すことのできる保育園の先生や学校、そして近所の人たちがいるこの環境は恵まれていて、同時にさまざまな方と顔見知りになり日頃から挨拶しておくことも大切だなあと思いました。

今回、一緒に参加した「中静家庭保育室」のスタッフは、地域ごとに詳しい被害予想を網羅している横浜ハザードマップに、食い入るように見入っていた。中静直子さん(左)は、「いざという時にお子さんを守るために、地震発生時にどのように動けばいいのかを真剣に考えていきたい」と話した

今回、一緒に参加した「中静家庭保育室」のスタッフは、地域ごとに詳しい被害予想を網羅している横浜ハザードマップに、食い入るように見入っていた。中静直子さん(左)は、「いざという時にお子さんを守るために、地震発生時にどのように動けばいいのかを真剣に考えていきたい」と話した

「その時」は、いつやってくるかわかりません。災害を「体験しておく」ことで、大切な人たちを守るための具体的な行動策が、見つかるかもしれません。家族で、友人と、ご近所の方々と、職場の仲間と、横浜市民防災センターに一度は行ってみることをおすすめします。

Information

横浜市民防災センター

http://bo-sai.city.yokohama.lg.jp

住所:横浜市神奈川区沢渡4-7

予約制

TEL 045-411-0119

FAX 045-312-0386

E-mail sy-kengaku@city.yokohama.jp

開館時間: 9:30-17:00

休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始

体験ツアー:9:30-/11:00-/13:30-/15:00-

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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