東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故を経験して、私は自分の暮らしの根本から揺さぶられたような思いがして、今まで当たり前に恩恵を受けていたエネルギーについて何も知ろうとしなかったことを反省しました。以降、私の中で自然エネルギーへの関心がぐっと高まっています。原発に頼らずに電力が賄える方法があるのならばそれを広げたい。でも、自分には何ができるのか、もどかしく感じていました。
環境ライターでもある森ノオトのキタハラ編集長から「おひさまファンドって知ってる?」と話を聞いたのは、6月に開催されたあざみ野ぶんぶんプロジェクト勉強会だったでしょうか。エネルギーシフトへの具体的な事業を行っているというおひさまファンド、俄然興味がわいてきました。そして11月29日(火)、おひさまエネルギーファンドの永田光美(るみ)さんをゲストにお迎えし、勉強会を開くことができました。
おひさまエネルギーファンド株式会社(通称:おひさまファンド)の前身はおひさま進歩エネルギー株式会社。2004年環境省が開始した「環境と経済の好循環のまちモデル事業(通称:まほろば事業)」の助成を受けて始まった、長野県飯田市の自然エネルギー事業を請け負う民間企業です。
こうした地方の自然エネルギー事業の市民出資のファンドを組成し、募集・広報をしているのがおひさまファンドです。今や飛ぶ鳥を落とす勢いで活動中の自然エネルギーの第一人者・飯田哲也氏と、飯田市に根ざしてエネルギー事業を推進する原亮弘氏が共同代表を務めます。
2005年、長野県飯田市で太陽光発電への出資を呼びかけた第1号ファンド「南信州おひさまファンド」では、全国約450名の市民から2億円近くの出資を受け、環境省の補助金と合わせて38の太陽光発電所を設置し省エネルギー事業を実施しました。その後も次々にファンドを立ち上げ、今では飯田市には保育園や公民館といった公共施設の屋根などを含む160カ所を超える太陽光発電設備があるそうです。
また、2010年には初期投資0円で太陽光発電パネルを設置できる「おひさま0円システム」を募集。これは設置者が月々定額の使用料をおひさまファンド進歩エネルギーに支払い、余剰電力は電力会社に売電して収入を得ることができ、10年目には無償で太陽光パネルが譲渡されるというシステムです。
その後も昨年9月には日本初となる小水力発電事業に対するファンド「立山アルプス小水力発電事業」も立ち上げるなど、おひさまファンドは自然エネルギーの普及に力を注いでいます。
永田さんは外資系金融会社での長年の経験を生かし、おひさまファンドの募集・広報を担当するいわば金融のプロ。お会いする前はバリバリのキャリアウーマンを想像していましたが(もちろんそのとおりですが)、物腰やわらかな素敵な女性でした。
「みなさんが銀行に預けているお金が何に使われているか知っていますか?」
脱原発や戦争反対という考えでも、自分が預金している銀行が原発や武器製造に関わる企業に出資していたら……? 永田さんの問いかけに、自分が何気なく金融機関に預けているお金の使われ方に考えをめぐらせました。
そんな目に見えにくいお金の使われ方に対して、おひさまファンドは100%クリアに投資先が見えている、と永田さんは話してくれました。確かに募集の時には事業の内容がはっきりしているので、おひさまファンドに出資することは「自然エネルギーを普及させたい」という意志を持ったお金の使い方といえます。
「私たちのお客様には“0歳投資家”も多いんですよ」と永田さん。子どもや孫のためにと投資するご両親やおじいちゃんおばあちゃんも多いのだそうです。
おひさまファンドのブレーンとなっているのは、環境エネルギー政策研究所(ISEP)。前出の飯田さんが代表を務めるNPO法人で、持続可能なエネルギー政策を実現するという目的を掲げて活動を続けています。
現在、予定通りの現金分配ができているというおひさまファンドですが、「子どもに健全な未来をプレゼントしたい」「環境問題に対して具体的に行動を起こしたかった」という出資者の声が多いように、ただお金を増やすためではなく、環境やエネルギー問題に対するおひさまファンドのポリシーに共感して自分が望む社会づくりのために自分のお金を使えるシステムだと感じました。
勉強会参加者のおひとりが「信用の対価であるはずの“お金”。おひさまファンドは、本来共感や応援の気持ちの延長上にあるべきはずの金融の原点に戻っている感じがした」と感想を話してくださいましたが、まさにその通りだと思いました。
3.11後、おひさまファンドには地方自治体や企業などからの問い合わせが殺到しているそうです。おひさまファンドのようなシステムを利用して持続可能なエネルギーが全国に広がれば、とワクワクしてきます。
一方で、参加者からの「飯田市のように環境省の助成金が無くても市民出資だけでファンドが成り立つか」という質問に対する永田さんの答えは、残念ながらNOでした。それだけ今の日本の電力の買い取り価格が安いということです。自然エネルギーを広めるには、電力の自由化といった根本からの改革も必要なのでは、と考えてしまいました。
永田さんが最後にデンマークの環境学者、ヨアン・ノルゴーの言葉を紹介してくれました。
「未来は予測するものではない。選び取るものである」
子どもたちに残したい社会を思い描き、その未来を自分たちの手でつかむために今私ができること。その一つとして意思あるお金の使い方について学んだ有意義な時間でした。これからもおひさまエネルギーファンドに注目していきたいと思います。
おひさまエネルギーファンド株式会社
http://www.ohisama-fund.jp/index.html
NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)
キタハラマドカが以前おひさまエネルギーファンドを取材した記事
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