(環境ビジュアルウェブマガジン「ジアス・ニュース」での連載より)
美しく文化的な街では、人は道ばたにゴミを投げ捨てない。エネルギーも同じこと。CO2や放射性廃棄物を垂れ流しにするような生活は、決して文化的でも、美しくもない―–。
ドイツで約200万人が観たドキュメンタリー映画『第4の革命 エネルギー・デモクラシー』が、いよいよ12月より一般公開される。
映画では、人口の8割が電気へのアクセスを持たないマリ共和国の青年が、「資源ならある、技術を」と訴えかける。デンマーク北部のノルディック・フォイケセンターでのエネルギー自給への取り組み、アメリカの再生可能エネルギーを利用した電気自動車ベンチャー、350基の風車を建設し世界最高のエネルギー効率の本社社屋を建設中のドイツのエネルギーベンチャー、パッシブ住宅で暖房費ゼロになったドイツの地方都市の住人、スペイン・カラオラの大規模太陽熱発電、中国・上海のソーラーカンパニーの野望、ブラジル・アマゾンの環境保全基金、そしてグラミン銀行の支援により動き出した途上国でのエネルギー革命……映画では再生可能エネルギーに希望とビジネスチャンスを見いだし活動する様々な人々を映し出している。
ドイツを再生可能エネルギー立国に導いたキーパーソンであるヘルマン・シェーア氏(2010年没)を案内人に物語は進む。時折狂言回しのように、IEA(国際エネルギー機関)のチーフエコノミストのファティ・ビロル氏が登場し、「再生可能エネルギーでエネルギーを賄うことなど無理だ」と化石燃料と原発へ依存するエネルギー政策に固執する姿が映し出される。どちらの示す未来に向かいたいのか……判断を観客の心にゆだねつつも、答えは一目瞭然だ。
ドイツの脱原発は、一日にしてならず。30年に及ぶ抵抗運動が草の根的に広がり、福島原発の事故を契機に政府が脱原発の政策決定を下した。世界的機運がわき起こりつつあるエネルギー・デモクラシー。日本は乗り遅れているのだろうか? まだ間に合うのか?
本作のプロデューサーで監督でもある、カール-A.フェヒナー氏に話をうかがった。
■映画はエネルギー革命を起こすためのツールである。
—- フェヒナー監督がこの映画の製作に至るまでの経緯をお聞かせください。
この映画『第4の革命』はドイツでは13万人が劇場で鑑賞し、ドイツで2010年に最も観られたドキュメンタリー映画となりました。さらに福島原発事故以降テレビ放映も行われ、国内では200万人が視聴しました。
映画に登場するヘルマン・シェーア氏は、ドイツの著名な政治家・環境活動家で、ドイツを再生可能エネルギー立国に導いた立役者です。シェーア氏が2006年に出版した『Energy Autonomy(エネルギーの自治)』に着想を得て映画の製作を始めました。映画の製作資金は個人や企業、NGOや市民団体などから映画のワンシーンを買っていただくという形の寄付によって150万ユーロを集めました。映画の公開以降220カ所の自治体で自主上映会が行われ、地方政治で再生可能エネルギーの推進につながる具体的動きが起こるなどの波及効果もありました。私はこの映画を、エネルギー革命を促す一つのツールとして考えています。
—- この映画の最大のテーマは何でしょうか?
世界ではいまだに電力にアクセスができない人々が20億人もいます。これまで先進国が大量に化石燃料を使って発展を遂げてきた一方で、電気がないから発展できず、経済的にも政治的にも自立ができずにいる途上国があり、多くの人々がいまだに貧困や飢餓に苦しんでいます。社会的正義や公平さという観点からも、再生可能エネルギーによって中央集権的なエネルギー供給システムから分散型にシフトしていくこと、つまり社会変革が必要です。
■変化は足下の市民運動から始まる。
—- ドイツではどのようにして脱原発の機運が高まったのでしょうか?
ドイツではこれまで30年以上の反原発運動、原子力エネルギーに対する抵抗運動が市民レベルで展開されてきました。私自身も20年間持続可能性をテーマに映画やテレビのドキュメンタリー映像をつくる傍ら、反原発運動にも参加しています。核廃棄物の輸送を止めるために、線路や道路に寝転がったりして、警官に殴られたり、拘束されたこともあります。
ドイツが脱原発に向かう大きなきっかけになったのは1999年の総選挙でした。それまでの保守連立政権から、一気に「緑の党」が躍進して「赤緑政権」と呼ばれる革新系の連立政権が誕生しました。赤緑政権で再生可能エネルギー固定価格買取り制度(FIT)など再生可能エネルギーを普及する法案が次々に成立しました。元々ドイツでは国民の大半が原発に反対しており、FITの成立後は政府の援助もあり、多くの市民が太陽光発電パネルを設置するなど、具体的に再生可能エネルギーへの投資活動を行いました。現在ドイツの総電力消費に占める再生可能エネルギーの割合は18%を超えていますが、予想を上回るスピードで投資が進んでいます。ドイツではすでに再生可能エネルギー産業に50万人以上が従事しており、上場企業も多数生まれています。ビジネスとしても巨大なチャンスと可能性がある分野です。
今年、ドイツのメルケル政権が脱原発を政策決定する契機になったのは、言うまでもなく日本で起こった福島第一原発の事故です。技術の国と思われてきた日本でこれほどまでの大事故が起こったことで、原子力エネルギーの利用は未完成の技術であり、放射性廃棄物についても解決策のない問題であるということが改めて浮き彫りになりました。福島の事故以降、ドイツでは地方選挙が行われ、緑の党の躍進にもつながりました。30年以上にわたる市民レベルでの反原発運動が、福島原発の事故で、一気に加速したと言うことができます。
■フクシマの事故はラストチャンス
—- 日本では政府や産業界、電力業界を中心に、エネルギーシフトへの動きが遅く、市民の盛り上がりにもいまいち欠ける状況です。ドイツは日本をどう見ているのでしょうか?
私たちドイツ人は福島原発の事故に対して非常に心を痛めています。正直に申し上げると、チェルノブイリ原発事故の時にはソ連で起きたことだし、技術や情報もなく、なす術なしと諦観する向きがありました。しかしいまは違います。日本は再生可能エネルギーの資源に恵まれており、原子力エネルギーがなくても十分にエネルギー需要を賄うことができます。必要なのは再生可能エネルギーにシフトするという政治的な決断力で、経済的投資と政府の後押しがあれば、十分にそれは可能だと思います。
私が20年間映像をつくりながら調査を続けてきた限り、今後30年間で再生可能エネルギー100%を実現することは可能です。日本に限らず、政府やエネルギー業界などの一部に、従来型の化石燃料や原子力エネルギーを手放したくない勢力は根強く残っていますが、化石燃料の枯渇が目前で原子力エネルギーの不完全さとあまりに大きい核廃棄物のリスクを鑑みれば、脱原発への方向性は明らかです。ドイツの世界的企業であるシーメンスは、9月に原子力事業からの撤退を明らかにしました。福島の事故を契機に、世界のあちこちで変化が起こっています。企業は社会や環境の変化を機微に読み取らなければ生き残れないことは火を見るより明らかです。
私が考えるに、福島の事故は日本にも世界にとっても、脱原発のラストチャンスです。次にこのような大きな事故が起こればもっと多くの方々が土地を追われ犠牲になるでしょう。残された時間はあまりありません。中央集権型のエネルギー政策は、利権がからまり合い、すぐに変化するのは難しいと日本の方々は考えがちですが、市民社会からの動きを過小評価してはならないと思います。北アフリカで起こっている革命も市民からの動きで、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを通じて一気に拡大しました。機が熟せば一人ひとりの動きが大きなものにつながるということは歴史が証明しています。
変化はまず、心で始まります。それが頭に伝わり、足、そして最後に手が動きます。現実的には再生可能エネルギーに何らかの投資をすることも必要です。家にソーラーパネルをのせる、エネルギー使用量の少ないパッシブハウスを建築する、積極的に節電を行うなど……。いまが、その革命のための、一歩を踏み出す時なのです。
■上映情報
『第4の革命 エネルギー・デモクラシー』
2010年/ドイツ他/カラー/83分/ステレオ
監督:カール-A.フェヒナー
出演:ヘルマン・シェーア、ムハマド・ユヌス、イーロン・マスク、ビアンカ・ジャガー他
製作:fechnerMEDIA
配給:ユナイテッドピープル株式会社
特別協力:ゲーテ・インスティトゥート
公式サイト http://www.4rev.org
2011年11月24日に、東京・広尾のJICA地球広場で特別先行上映会と飯田哲也氏講演会を実施。greenz.jp編集長の鈴木菜央氏との対談も行われる予定。
※ 飯田氏が総合資源エネルギー調査会の基本問題委員会メンバーであるため、委員会の開催により直前のキャンセルの場合あり。
詳細は→ http://www.4rev.org/archives/369
(残席わずか、お申し込みは詳細ページより)
■劇場公開
2011年12月17日(土)〜12月30日(金)まで、ヒューマントラスト渋谷にて。
当日料金一般1800円、シニア1500円、学生1000円、毎週水曜日1000円均一。
劇場情報は公式サイト → http://4revo.org/theater/
※2012年1月より全国公開決定。配給元のユナイテッドピープルでは、イベントパートナーを募集している。
詳細は → http://4revo.org/archives/315
■公式webサイト:http://www.4revo.org/
■Twitter:http://twitter.com/#!/4thre
■facebook:http://www.facebook.com/4revo
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