2011年10月8(土)-10(月・祝)日の3日間、「コレクティブハウジング全国大会」が開催される。日本のコレクティブハウスの草分け的存在であるNPOコレクティブハウジング社(CHC)の10年におよぶ活動の集大成だ。コレクティブハウジングとは、「自立した個人の自由やプライバシーを守りながら、生活の一部を共同化したり、空調や設備を共有化することにより、経済的で合理的な生活と、物理的・精神的に豊かで安らぎと楽しみのある住環境を、居住者自身の主体的取り組みによってつくり育てていく暮らし方」(CHCのサイトより)。CHCのこれまでの10年と、ポスト3.11の新しいコミュニティのあり方について、CHC代表理事の影山知明さんに話をうかがった。
■孤立を生み出す社会の根底にあるもの
10月8-10日に開催されるコレクティブハウジング全国大会では、NPOコレクティブハウジング社(CHC)の10年におよぶ実践を総括し、開かれたコミュニティづくりをいかに社会化していくか、未来への展望を語り合います。初日は都内4カ所のコレクティブハウスの見学ツアーを行い、2・3日目は講演会やパネルディスカッション、グループワークなど盛りだくさんな内容です。それらの一部にでも参加していただければ、切り口こそ違えど「コレクティブハウジング」の息吹をきっと感じていただけると思います。
例えば、セッションの一つに「コレクティブハウスはメディアにどう採り上げられてきたか」というものがあります。これまでに掲載された記事のタイトルを振り返ってみると、「高齢者の共同住宅」「子育て世代」「シングルマザー」などの表現が出てはきますが、その傾向もずい分変わってきているように思います。コレクティブハウスが、誰か特定の人にとって意味があるということだけでなく、誰にとっても考えるべきテーマのひとつになってきているのではないでしょうか。
子育て世代のストレスや、孤立死・無縁社会といった現象ばかりがメディアでは象徴的に語られがちですが、問題を解決するためにコレクティブハウジングがあるわけでもなく、他者と関わり合うことによって生まれる豊かさや自由、安心感のようなポジティブな様相を、きちんと伝えていきたいと思っています。
■コミュニティをつくりながら暮らす
私自身がCHCに関わるようになったのは2005年のことです。私のバックグラウンドに、住宅や建築への直接的な興味があったわけではないのですが、自分として想像すらしていなかったようなコレクティブな暮らしづくりの現場に触れるうち、「この団体は何かとても大事なことに取り組んでいるのではないか」という感覚が募るようになりました。
コレクティブハウスでは、バス・トイレ・キッチンなどの完備した各住居に加えて、共用のリビングダイニングルーム、キッチン、ランドリーなどを含むコモンスペースがあり、居住者全員が自主的に運営ルールを決め、運営・管理を行います。CHCでは10年間に5つのコレクティブハウジングを事業化し¬(注:うち「松陰コモンズ」は2010年3月に契約満了につき終了)、近年では集合住宅づくりにとどまらず、古い団地や中山間地域のコミュニティ再生支援など、様々なプロジェクトに関わるようになってきました。
そこに共通してあるテーマは、関わる人の当事者性を引き出していくことと、まわりとの間で「いかし、いかされる」関係性をつくり出していくことです。こうした個人としての自由やプライバシーを尊重しながらの新しいコミュニティづくりが実現できるということは、人が「社会」をつくり出す力を取り戻すということでもあると思うのです。
一方、コミュニティをつくりながら暮らすということはとても合理的なことでもあり、その代表例がコモンミールです。居住者が交代で希望者分の食事をつくり合う仕組みですがが、例えば15人居住者がいたとすると、自分は月に1回食事をつくれば、残り14回は誰か別の人がつくった食事を食べられるということになります。もちろんそれを食べる食べないは個人の自由ですし、食べる場合もいつ食べてもいいし、コモンスペースで食べず、自分の部屋に持ち帰って食べてもいいのです。定刻になるとみなが食堂に集まって一斉に「いただきます」とやっているわけではありません(笑)。他にも、木工器具や高機能の調理用品など、「一家に一台」持とうとすると大変なものでも、共有することで手軽に利用できるということがあります。こうした暮らしの合理性も、コレクティブな暮らしを支えるひとつの大きなエンジンになっていると思います。
「コミュニティ」と聞くと「煩わしい」「面倒くさい」といった単語がすぐに連想されがちで、そういう側面があることは否定もしませんが、それをはるかに上回る可能性があるということだと思います。また実際にハウスを見学された方には、「思いのほかサバサバした関係なんですね」という感想をいただくこともしばしばあります。コミュニティやコモンミールへの参加は強制されるものではなく、お互いを尊重しながら、みなが自発的意思で参加していくからなのだと思います。
■経営者でカフェ店主でNPO代表という生き方
私自身は大学卒業後、外資系のコンサルティング会社を経て、ベンチャーキャピタリストとして独立しました。金融やファンドに関わる仕事をしてくる中で、そのダイナミズムや合理性、時代をつくる力に魅力を感じる一方、特に会社が大きくなり、利害関係者が増えてきたりなどしてきたときに「人が手段になってしまう」状況が気になるようになってきました。
「今期○億円の売上を達成しよう」という話題が経営の主語になってくるとき、あるいは会社が大きくなり「仕組み・システム」がより強固なものになってくるとき、人はその売上目標であり、仕組みをまわすための手段になっていく傾向があるように思います。もちろんそれはそれ、「大きな使命の実現に貢献している」達成感を味わえることも多いでしょうし、仕事は仕事と割り切るのもひとつの選択肢。すべてが悪いとは思いませんが、逆に言うと「人を目的」とした、人をいかせる会社のつくり方、働き方がないものだろうかとずっと考えていました。
実はそのヒントがコレクティブハウジングにあるのではないかと考えています。
一人ひとりの個性や違いを受け止め、お互いをいかし合える関係をつくる。そしてその関係やコミュニティを育むために必要な仕組みを自分たちで考え、運用する。そこでは人が手段化することはありません。
コレクティブハウスの場合、「家をつくる」ことがその舞台となるわけですが、そのやり方をうまくいかせれば、会社でも、まちづくりでも、違った可能性が見えてくるように思います。実際まちなかのコミュニティカフェが、あるいは「コワーキング」と呼ばれる働く場づくりが、「一人ひとりをいかす」社会づくりの大きなきっかけになっているような事例を目にするようになりました。
私も今、自分の生家を建て替えた集合住宅の1階で「クルミドコーヒー」というカフェの経営もしています。そこにカフェがあることで、集合住宅の住人同士や、住人と地域、地域の人と地域の人など、様々な角度の人間関係が生まれるきっかけとなっています。そして、そういう他者との出会いや関わりの中から個人が勇気づけられ、新しい挑戦につながっていくようなシーンにも遭遇できるようになりました。
ここで大切なのは、コレクティブハウスの中でも、コミュニティの中でも、「開ける」場があるのと同様に、個人のスペースとして、いつでも安心して「閉じられる」場があるということだと思います。「個」に戻れる時間と空間が確保され、そこに安定があるからこそ、少しずつ外に開いていくことができる。そしてハウス内のコミュニティが安定するからこそ、地域に開くこともできるのだろうと思います。
■beとdoとhave
私は「beとdoとhave」という表現でよく頭を整理するのですが、「have」はその人の外見や持ち物で、「do」は仕事や属性、「be」はその人がどういう人なのかということ、と考えると、コレクティブハウスでの関係性は、「be」に基づいていると言えるかもしれません。
居住者同士は、その人がどういう会社でどんな仕事をしているかという肩書きはあまり知らなくても、「あの人はピーマンが苦手」ということはよく知っている(笑)。自分が自分らしくいられて、いつでも帰ってこられる場で、いざとなれば自分のことを受け止めてくれる、そんな場がコレクティブハウスなのだと思います。自分が誰であっても、どんなことがあっても、人と人のつながりの中で日々の「いってらっしゃい」「おかえり」がある安心感。当たり前のようで、実は当たり前でなくなってしまっているそんなやり取りにこそ、こうした暮らしづくりのエッセンスがあるのかもしれません。
■「コレクティブな社会」はありうるか
3.11を経て、私たち日本人はコミュニティを改めて考え直す時期にあると思います。「つながりが大事です」という総論にとどまらず、それを手放してきた現実理解や、つながり直そうとしたときに直面する課題への備えを含めて、ですね。CHCではこれまで通り、一人ひとりの暮らし、一つひとつのコレクティブハウスを丁寧につくっていくことに加え、そうしたコレクティブなコミュニティという「木」が育つための土壌づくりにも取り組んでいきたいと考えています。コレクティブハウスの魅力を伝え、仲間を増やし、社会の仕組みづくりにも取り組んでゆきたい。
ちょうど2年前の今頃、コレクティブハウジングの先進地であるデンマークを旅しました。そこで感じたのは、国全体がコレクティブであるということ。もちろんそれでも様々な問題を抱えていることは言うまでもありませんが「国民一人ひとりが社会をつくるリーダーである」という題目が、題目にとどまらないレベルで機能している状況を見聞きして、驚きました。一人ひとりが自分の意見を持ち、建設的に社会づくりに参加しています。いずれ日本もそのようにならないものかと夢見ていますし、NPOの活動がそこに貢献できたらいいなとも思います。
日本人として暮らしていると、「自分が変わることで社会を変えられる」とはなかなか思えない現実があるように思います。でもコレクティブハウスでは現にそういう「社会」づくりが実践され、そこに存在するわけで、その事実が持つ意味は小さくないはずだと信じています。私たちはシステムに生かされているのではなく、私たちがシステムをつくるのです。
コレクティブハウジングの実践を通じて、人を手段化しない社会づくりの可能性を世に問うていきたいと思っています。
■プロフィール
影山知明(かげやま・ともあき):
1973年、東京都国分寺市に生まれる。
東京大学法学部卒業後、外資系コンサルティング会社に勤務した後、ベンチャーキャピタル事業の創業に参画。2005年よりNPOコレクティブハウジング社の活動に関わり、現在代表理事を務める。2008年には生家の跡地に集合住宅「マージュ西国分寺」を建て、その1階に「クルミドコーヒー」を開店。カフェ店主、NPO代表、経営者という3足の草鞋をはきながら地に足をつけての世の代替案づくりに取り組む。
■information
コレクティブハウジング全国大会
10年の集大成。開かれたコミュニティづくりの実践者が一堂に終結
2011年10月8日(土)
都内4カ所のコレクティブハウスのバスツアー
先着48名、参加費7,500円。4カ所のコレクティブハウス見学料、昼食、移動代含む
集合時間、場所、タイムスケジュール等の詳細は申込者に個別に連絡
*参加申込多数のため、受付を終了させていただきました。
2011年10月9日(日)・10日(月・祝)
カンファレンス(講演会・パネルディスカッション・ワーキンググループ、懇親パーティー等)
場所:国立科学博物館(上野)
各日先着150名、参加費1日券7,000円(NPO会員5,000円)、2日通し券10,000円(NPO会員7,000円)、懇親パーティー参加費別途
日本女子大学教授で日本のコレクティブハウスの第一人者である小谷部育子氏(日本女子大学教授)の基調講演など両日盛りだくさんのプログラム
お申し込み・詳細は
コレクティブハウジング全国大会ホームページ
問い合わせ先:コレクティブハウジング全国大会事務局(03-5281-2310)
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