横浜市民ギャラリーあざみ野では、年間を通じて様々な企画展をおこなっています。その内容は様々で、足を運んだことのある方は多いとおもいます。リポーター小池も「次はどんな企画展があるのかな」と興味を持ってチェックしているひとりです。
その企画展にあわせて年に3回ほど「アートなピクニック」がおこなわれていることはご存知でしょうか。このプログラムは、視覚への障がいのあるなしに関わらず、共にアートを楽しむ鑑賞会です。
小池は以前から興味があったものの、スケジュールが合わなかったり、申し込んだものの悪天候で中止になってしまったりして、なかなか参加できずにいました。そしてこのたび、森ノオトの取材者として参加してきました。
今回ピクニック(観賞)したのは、世界中を旅する写真家・石川直樹氏の個展『石川直樹 NEW MAP 世界を見に行く』。石川氏が15年撮り続けてきた作品の足跡をたどる展覧会です(2月22日で会期終了しています)。
ピクニックにでかける前に、視覚障がい者2名を含む参加者13名が集まって自己紹介をしたり、歓談をしてコミュニケーションをとりました。
たしかに、視覚に障がいがある方にとって、どんな人たちが参加しているのか、グループの空気感を知ることは、とても大切な要素です。視覚障がい者の方は「見えない人は、写真の中にある“光”を感じ取りたいから、写真がどのように光をキャッチしているのか知りたい」と話してくれました。
晴眼者(視覚障がい者側からみた、視覚に障がいのない人のこと)にとっても、どのように伝えると視覚障がい者が作品をイメージしやすいのか聞くことで、伝える側のイメージを膨らますことができました。
そしていよいよ、2つのグループにわかれてピクニックに出発!
実際に、石川氏の独特な感性で切り取られた写真を目の前にすると、どのように説明をすればよいのか、晴眼者のみなさん頭の中が真っ白の様子……。
すると視覚障がい者の方から
「一度目を閉じて、開いた時の印象を伝えてほしい」
「見たものの表現は感情だから、言葉のテクニックは必要ないよ」
などとアドバイスをもらいながら、晴眼者は写真について説明をしていきました。
晴眼者は、写真について説明をしながら、新たな視点を見出したり、他の人の説明を聞くことで、主観に加えて客観視もしながら、さまざまな角度で作品を観賞するようになっていました。
はじめはみんな緊張気味だったけれど、徐々に笑顔が生まれ、自由な表現でアートをピクニックすること90分。あっという間に時間は過ぎていきました。
視覚に障がいがある人もない人も、作品に抱く印象は千差万別。表現やイメージに正解はありません。いわば、アートはバリアフリーなコンテンツだと思いました。
ピクニックを終えて、参加者全員で感想を述べ合いました。
初参加の視覚障がい者の女性は「有意義な時間だった。勇気を出して外へ出てきてよかった」と、とても充実した表情で感想を述べていました。
視覚障がい者が一歩外へ踏み出す勇気……言葉で言うほど簡単ではありません。実際、横浜市民ギャラリーあざみ野の河上さんは「視覚障がい者の参加が増えないのがこの企画の課題」と話していました。
一方、晴眼者からも様々な意見が。
「見えない人に説明をするのは難しい」
「こんなに写真を懸命にみたのは初めて!」
「自分がアートの中に何を見ているのか、検証できた」
皆さんの感想を聞きながら、この「アートなピクニック」は、視覚障がい者と晴眼者が共にアートに接することによってうまれた、素敵な“アートシェア”だ、と感じました。
「伝えたいことを伝えられないもどかしさもあったと思いますが、何回も参加することで上達しますよ」(横浜市民ギャラリーあざみ野 佐藤さん)
……どうやらこのプログラムは、プレゼンテーション力も身につけられそうです。
とても深くて素敵な世界が開ける「アートなピクニック」。今後も永く続けてもらいたいプログラムです。ちなみに次回は10月に開催予定だそうです。
hitomi’s point
「アートなピクニック」に取材者として参加して思ったことは、贅沢なアート観賞だったなぁ……ということです。どの点かといえば、声を出して、いろんな意見を交わしながら観賞できたこと。通常なら、「お静かに」と学芸員の方に注意させてしまうでしょう。そして、普段なら、アートを鑑賞したあとに意見を述べ合うのが常。そうすると、どうしても記憶が抜け落ちる部分が生まれてしまいます。このプログラムなら、感じたことをリアルタイムで言葉にして、皆でシェアできる! と思いました。今度は取材者ではなく、一参加者として「アートシェア」したいと思います。
■横浜市民ギャラリーあざみ野のHP
■現在ワタリウム美術館にて開催中の石川直樹氏の展覧会
http://www.watarium.co.jp/exhibition/1501ishikawa_nara/index.html
生活マガジン
「森ノオト」
月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる
森のなかま募集中!