文=一時預かり保育「さんぽ」燕昇司知里・西田清美 /写真=一時預かり保育「さんぽ」
*このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー方式でお送りしていきます。
「さんぽ」は、横浜市都筑区荏田南のえだきん商店街の中にある小さな保育室です。
ドアを開けると花壇のある遊歩道。地域の方々が毎日手入れをしてくださることで、四季折々の花を楽しむことができます。とりわけ春は、美しい……。
この遊歩道は自然豊かな公園へと続く道。緑道でダンゴムシを見つけ、野イチゴを食べて、野原でバッタの赤ちゃんを発見。雨の日は、レインコートと長靴姿で、水たまりがあそび場。プレイパークのプールで遊びせせらぎでザリガニを見つけたり、商店街の方々のご協力で、郵便局前の大きなプールでも遊びました。気持ちの良い秋は、毎日のように虫取り網とお弁当を持って森に池に公園に。
四季を通して成長していく子どもたちの日々の様子を、保護者の方にも届けたいという想いで発行している「さんぽ通信」の冬号の本文を紹介していきます。
暖かい日が続き、毎日のように外で遊びました。
秋の木々の紅葉を「きれいだね」とつぶやきあって、風が吹くたびに落ちてくる葉っぱに手を伸ばして「わぁー」と心の声がこぼれていました。
風と一緒に落ちてくるどんぐりは、必ずと言っていいほど、泣いている子を泣き止ませてくれる最強アイテムでした。小さい手でどんぐりを拾って、「お母さんにお土産にしよう」とポケットに一生懸命入れていました。さっきまで泣いていた子もどんなに小さい子も、お母さんに喜んで欲しいと想う気持ちになることに、いつもドキっとさせられます。
この秋冬に大流行したのが、崖のぼりでした。最初は、やってもいないのに「出来ない」と言う子どもたち。ところが誰かが登り、「登れるよ!」と誇らしげに上から言われ、手を差し伸べられ、それを見ていたら……心が動いた瞬間でした。次々に挑戦者が現れ、「登れた!」「できた!」。今度は「暑い」と上着を脱いで、何度も何度もチャレンジ、泥だらけになっていました。
崖登りで、こんな子がいました。
登り始めた時、「怖い……」と言って何度も途中で降りてきていました。それでも「やらない」とは言わない。何度も「怖い……」と言って途中で降りるのを繰り返していました。手が汚れるのがあまり好きではないようで、手が反り返る状態で登っていましたし、足も膝をついて登っているで、なかなか登れません。
その日は登れなかったけど、違う日にまた崖のぼりに行きました。すると、黙々と崖に挑み、手が汚れるのも全く気にしないようで、手を全部使って登っていきました。もちろん登りきり、「出来た!」と保育者に報告。その後は何度も何度もチャレンジしていました。
「怖い、出来た」そのことがこの子にはとても大事でした。怖いと思う自分を知ったこと、怖いけどやってみたら大丈夫だったことを経験して、その後何度もその子から聞くことになります。
大人はついつい、「怖い」に対し「怖くない」、「出来ない」に対して「そんなの簡単よ」って、出来てしまえば怖くないのを知っているから、楽しさを早く知って欲しいから、子どもを思うからこそ、前倒しに言葉が出てきてしまいます。
本当は、その子の上がってくる力を信じて、今のその子に寄り添っていたら、めちゃくちゃすごいことをひっさげて上がってくる。
「こわいけど、やってみたら大丈夫だった」。この経験は今後一生使えることになりそうです。
そして1月に入り、大雪、大寒波の襲来!
あんなに暖かかったのに、やはり寒さ厳しい冬です。氷点下の朝、鴨池公園の池がどうなっているのか、子どもたちと確認しに行きました。凍っている池を見て「どうして、どうして?」、氷を手にとって「つめたい、つめたい!」冷たくて泣き出す子どももいました。大人にとっては当たり前だけれども、子どもにとっては、不思議なこと、びっくりすることです。その時を大切にしたいと思っています。
雪も降りましたね。個人的には雪が降っている時が好きで、どうなっちゃうの~のドキドキが楽しいです。積もらなかったら、あーあ積もらなかったと思うし、積もったら、あーあ積もっちゃったと思うし……。
子どもたちにとっては、池の氷とはまた違う、もっと身近に感じる雪。目の前にあって、そんなに抵抗もない。雪だるまをつくったり、おままごとしてみたり、斜面でそり滑りしてみたりできます。
ところがこれまた、冷たい。雪に夢中になって遊んで、笑って、大喜びだったのに、急に雪に裏切られた感じで、泣き出す子ども。そんな時は、氷の時と同じです。どうして雪が降るのか、どうして冷たいのか、どうやったら温まるのか、お話したり、励ましたり、着替えたりしていると、また裏切られた雪に向かっていく子どもたち。そんな姿を見て、こちらが勇気づけられます。
ある雪に裏切られ泣いている女の子に、お話したり一緒に温めたりしていたら、もう一人雪に裏切られた女の子が半泣き状態で、寄ってきました。そしたら、先に泣いていた女の子が、その子に「雪ってね、雨が寒くて氷になって降ってきたんだよ。太陽に手をかざすとあったかいよ。ここにおいで」ってさっき自分に言われていたことを、その子を励ますために伝えていました。あったか~~~い!!それが一番温かいよ!と心の中で一人叫ぶ私。子どもは大人の予測をはるかに超えてくる。たまりませんね。
冬の厳しくも暖かい自然の中で、子どもたちと遊びを通して関っていると、季節と共に成長が見られます。日本の四季が感じづらくなってきたなどと言われたりしますが、そんなことないと私は思います。私たち大人が季節の先取りをしていたり、大きな何かに心奪われているために、鈍感なだけで、季節はたしかにめぐっています。
春はこうであって欲しいと思うのと同じように、子どもにもこうであって欲しいと思うもの。又、早く春がやって来ないか、ずっと春であって欲しいと願うのと同じように、子どもにも常に笑っていて欲しいし、常に芽吹いて欲しいと思うもの。そんな時は、目の前の四季に鈍感になっていて、本当の季節を見落としているのかもしれません。
春が来た!と春を感じるためには、冬を感じ、冬を越さないといけない。でも子どもの冬は大人にとっての心配事であり、困った時期なのかもしれない。だから早く春に、ずっと春でと願う。
しかし冬も冬で、子どもの成長にとって、とっても大事な時期であること。
何かができないとき、出来るようになるための準備、またはできない自分を受け入れる準備、少しの勇気の出し方を学んでいるのかも。急に甘えん坊になって、よく泣く時、今の自分で良いのか考えていたり、気持ちのコントロールの方法を学んでいるのかも。友達と仲良く遊べないとき、自分の好きなことをしっかり学んでいるのかも。友達を叩いちゃう時、叩いた後の気持ちを感じ、自他の痛みを知り、本当の優しさを学んでいるのかも。
他の子はそんなことしなくても、できるようになったり、勇気があったり、なんでも好きだったり、友達と仲良く遊べたりするのに、どうしてうちの子はいつまでも冬なのだろう……親にとっては、そう悩むときだってあります。今の季節(発達課題)を大切に過ごさないと、四季(成長)を感じることができないと思うのです。
他人の子どもと自分の子どもを比べても、答えが出ないのは、子どもによって季節が違うからではないでしょうか。他の子と自分の子どもが同じ季節の中で過ごしているかよりも、自分の子どもと親が同じ四季の中で生活して、一緒に四季の移り変わりを感じていられたら、とても幸せな気がします。季節の先取りではなく、今の季節を感じてみる。季節に敏感になるためには、外に出て、自然の中で子どもを見ると分かりやすいです。
一時預かり保育「さんぽ」スタッフ 燕昇司知里(えんちゃん)
子育て子育ち支援センター 「一時保育さんぽ」(横浜市乳幼児一時預かり事業)
住所:都筑区荏田南5-8-13(えだきん商店街)
利用時間:月~金曜日 9時から17時(要登録・要電話予約)
リフレッシュ・家事・介護・通院・就職活動など、どんな理由でも利用できます。緊急の時にもできる限り対応します。外遊びを大切にしています。
一時預かりのほかに、「さんぽのわ」「まままる」「かあさんぽ」など親子で集まれる場も開催しています。
http://nohara-net.com/riyou-sanpo.html
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