<一戸ごとに個性があふれるリノベーション住宅>
北原まどか :
先日、青葉区内にある「HOWS Renovation」の戸建て住宅を5軒見学するというプライベートツアーを太田さんに企画していただいて、リノベーション住宅の個性にとても驚きました。当然ですが、一つとして、同じ家はない。住宅の構造や柱の傷など、「前の家」の表情がどこかに残ったまま、まったく新しいコンセプトの住まいに生まれ変わっています。今日、対談の場所に使わせていただいている「横浜荏田北の家II」は、階段を登った高台にあり、目の前の公園の自然が借景となってとても気持ちのいい空間になっていますね。
横浜荏田北の家II
http://hows-renovation.com/forsale/edakita2/
太田聖さん(以下、敬称略):
HOWS Renovationが大切にしているのが、唯一無二である立地環境、敷地、そして既存建物のいいところを設計者さんとどうひも解いていくかということです。都心に近い地域の戸建て住宅は、敷地めいっぱいに建物が建てられズラッと並んでいることが多く、1階はどうしても開放感を得にくいので、2階をリビングにすることが多いんです。しかし、ここはすでに高台にあって視界が開けているのでリビングを1階におき、公園との地続きの感覚を楽しんでもらえるように、デッキの手すりも視線が抜けるようにして、公園との一体感を演出しています。
素材に関しては、いつの時代でも使われる、普遍的な建材を使うことが重要だと思っています。壁をクロス張りにするとどうしても廃盤になる可能性があります。合板に水性塗料でペイントする内装ならば、一部が傷んでも部分的に塗り直すことができるので、簡単に繕うことができます。壁に有孔ボードを使ったり、構造用合板をむきだしにして、「手を加えることが気軽にできる」ようにしているのもポイント。構造用合板でしたら、穴があいてもあまり気にならないからクギを打ってもいいですし、棚を増やすことも柔軟にできます。天井を張らないで空間を縦に大きく使い、梁をあえて見せています。キッチンに関しても、合板とステンレスで大工さんが造作しています。システムキッチンは廃盤になったら部品が手に入らないこともありますし。
ピカピカの新築住宅でしたら、汚れ一つつけたくないという気持ちになるかもしれませんが、このような素材使いをすることで、そのハードルを下げて、「自分で暮らしをつくる」といった効果もあると思っています。
<中古住宅が価値を持つ、そんな市場をつくりたい>
北原:
HOWS Renovationの中古戸建てのリノベーションに対する考え方では、空間をあまりつくり込まない、住まい手が暮らしをつくるということが特徴的ですよね。これらのコンセプトについて、太田さんがどのように考えていらっしゃるのか、詳しく教えていただけますでしょうか。
太田:
リビタの設立は2005年です。「古いもの=価値があるもの」への転換を目指し、住宅のリノベーション事業者として、集合住宅の再生に携わっていました。社宅の一棟リノベーションなどを展開するなか、戸建てのリノベーションを手がけるようになったのが2013年です。
住宅のストック数(すでに建築されている住宅の数)について、持ち家に限ってみたときに、東京都内でさえ集合住宅(マンション)よりも戸建て住宅のほうが、ストック数が多いんですよ。でも、中古住宅流通市場になると、話はガラッと変わります。中古戸建ての流通は中古マンションの五分の一に留まっているというデータがあり、その理由をひも解くと、「この住宅の安全性は十分だろうか(買っても大丈夫だろうか)」という「不安」や、「この住宅を買ってリノベーションするのに、どれくらいお金がかかるのかイメージできない」という、「わからなさ」があるのではないかと。そこで、リビタが中古住宅をまず買い取って、耐震や断熱などの性能面においても現行の基準をクリアできるよう補強しながら、内装も含めて「きちんとした状態」にする。つまり中古住宅の改修のノウハウを獲得して実績をつくるのが大切なのではないかと考えました。最終的には中古住宅の売買において押さえるべきポイントをクリアにして、適正な中古住宅の市場をつくり、流通をうながしていくことを目指しています。
北原:
リビタといえば、リノベーションの先駆者として、中古住宅市場を牽引していますよね。
太田:
なぜ中古住宅の流通量が少ないのか。それは日本の建物の「資産価値」は平均20年くらいでゼロになってしまうからです。日本の場合、建ててから取り壊されるまで平均27年と、家の寿命がとても短いのです。欧米諸国に比べて圧倒的に短い。まだ住める状態のものが価値を見いだされていないんですね。
これは、戦後の急激な都市化によって地方から人が流入し、世帯数の増加と共に住宅が量産されてきた時代に、住宅に対する考え方が根本的に変わってしまったことも大きいと思います。代々家を住み継いだり自分でメンテナンスをしていくのではなくて、家をつくっているメーカーから買う、何かあったら製造者にクレームを言う性質のものになってしまった。つくる側も、大量に安定した住宅を供給し、ノークレームなものをつくるようになって、つくり手も住まい手も、家に適切に手を入れ、直して住み継いでいくという精神的な面が失われてきたのではないかという思いがあります。
そこをいま一度、私たちとしては「住み継いでいく文化」を定義し直したいと思っています。都市社会において家族で代々家を住み継ぐのは難しく、持ち主が変わっても愛着を持って住み継ぐ文化はつくれるのではないか、と思っています。それが結果的に、古い住まいにも価値がある、そうした社会をつくることにつながるのではないでしょうか。
<「そこに等倍の模型がある」というおもしろさ>
北原:
私が住宅雑誌の編集者だった2005年頃、当時はまだ「リノベーション」という言葉がなくて、住まいを住み継ぐことを表現するときの言葉は「リフォーム」でした。リノベーションは当時、古民家再生のような事例が主だった印象です。
太田:
そうですね。2005年にリビタが設立されて13年、当時と比較すると「リノベーション」という言葉が一般に受け入れられるようになってきました。
北原:
今では「リノベ」がカッコいいライフスタイルの象徴のようにもなっていますよね(笑)。
私が思うのは、リノベーション住宅ってすごく個性的だなっていうこと。ゼロから建てるものよりも、むしろクリエイティブな印象があって。以前太田さんとお話したときに、「すでにここに原寸大の模型がある」という話をされていましたよね。既存のものをどう生かし、どう変えていくかという面白さがあると思うのですが、リノベーションの魅力ってどういうところだと思いますか?
太田:
新築の注文住宅の場合、模型をつくりながらイメージをふくらませていく過程があるのですが、リノベーションの場合は建物の既存状態を見るときに、「その場に等倍の模型がある」という事実が、想像力をよりふくらませることにつながるということですね。それは理屈抜きの世界です。例えば「この時間帯にこの場所にいるとなんだか気持ちいいな」、「この目線の抜け方がすごくいいな」といった感覚的なものが、更地からつくる注文住宅ではイメージしきれないところも、その場に立つからこそ想像できて、思い切ったプランが生まれるのかなと思います。斬新であることを目的にしているわけではなく、その家で一番気持ちいい部分をお客さまに感じてもらえるためにはどうしたらいいのかと考え、その結果、ほかではあまり見ないデザインになっているのだと思います。
北原:
今対談している家のすぐ近くにある「横浜荏田北の家I」に関していうと、結構制約が多いですよね。三角の土地で旗竿になっていて、すごく長い階段がありますが、おうちマルシェで屋外空間を活用するような提案など、外の空間を使い込むというユニークな発想力がありますよね。
太田:
リノベーションの醍醐味として、周辺環境や土地の形状、建物も含めた空間全体の「いいところ」を見つけるんです。一般的には正形の敷地が使いやすいと言われている中で、「横浜荏田北の家I」は旗竿地だからこそ、私的な面積と公的な面積の双方を活用できるのではないかと。三角形の土地に四角形の建物がのっかっているので、敷地の中に大小の三角形が点在してきます。広い三角はお庭でピクニックをしたり、狭い方ではプライベートガーデンやかくれんぼスペースなど……この家を選んだお客さまだったらどう使うだろうという引き出しのとっかかりを、アイデアとして見せていくことがとても重要だと思っています。
横浜荏田北の家I
http://hows-renovation.com/forsale/edakita1/
<リノベーションは生活面積を広げる>
北原:
リビタの家の特徴として、空間を細かく仕切らないことも大きなポイントですよね。気持ちがいいくらいに収納がない(笑)。ここはこうやって使うものですよ、という用途を建築主が決めてしまわないというのが面白いなと思います。
太田:
そうですね。実際、購入後に収納をつくる方もいらっしゃれば、自分のお気に入りの、先祖代々引き継いだタンスを持って来る方もいるかもしれないですし、お客様がどのように使うか決める余地を残しています。私たちがすべきなのは、後からつくれない価値をあらかじめ、どこまでつくっておくか考えることです。間仕切りや収納に関しては、お客様に応じて後から付けられますが、ここに窓があるとこの素晴らしい景色が見られるということは、後からつくることは難しいですし、その土地と建物の気持ちよさをあらかじめ最大化しておくというのが、私たちがやっておくべきことかなと思うんです。
北原:
後からつくれないものと言いますと、安心安全の耐震性、健康や快適さを左右する断熱性などのことですか?
太田:
はい、これがすごく重要なポイントで、HOWS Renovationでは現行法レベルの耐震性を確保しておくことと、断熱性に関しては2020年から新築で義務化される予定の省エネ基準と、「エネルギーパス」という自動車でいうところの「燃費」にあたるデータの見える化をしていることが特徴です。遵法性がある建物であるのは最低限として、次世代基準までを見据えて、今後長く住まわれるお客様に、長期にわたって安心していただく材料をはじめから提示する必要があると思っています。
断熱性については、実際に住んでみてはじめて理解できることもあるかもしれません。例えば窓の側にいっても寒くないから、窓の近くにいって外を見てみたくなると思える家というか、そういう違いを感じていただけると思います。
北原:
住宅の燃費性能がいい家というのは、生活面積が広くなることと同義ですよね。この家でいうと玄関が仕切られていないぶん空間が広く感じられ、玄関も含めた住宅空間であると言えます。断熱はリノベーションでは後回しになりがちですが、2020年に向けて新築住宅の次世代の省エネ基準が義務化されることによって、省エネのみならず、住宅の生活面積が広がるという考え方が広まれば、断熱へのモチベーションが変わってくるのではないかと思います。
太田:
首都圏で新築の戸建て住宅を建てる場合、狭小地の敷地をめいっぱいつかって90平米〜100平米くらいの建物、というのが今の建売業者の一般解だと思うのですが、この「横浜荏田北の家II」の場合、築30年くらいの物件で、建物が124平米あることで、今の一般的な建売り住宅よりもゆったりつくられています。単純に、戸建てならば4LDKで……と、部屋の数を積み上げていくと合理的なラインが100平米前後になるのかもしれないのですが、それを超えるゆとりがあった時に、生活の中で何ができるのだろう、その先の可能性を私たちは提案していきたいと思います。
実はこれから、森ノオトさんと一緒に、HOWS Renovationの住まいを使って手仕事などのワークショップをおこなおうと考えているのですが、いわゆる4LDKに仕切られた普通の住宅ならばそういう使い方ができるという発想にはなりません。
住宅自体に用途を定めず、マルシェだったりワークショップだったり、購入したお客様がそういう使い方をするかはわかりませんが、私たちは、その家を使ってできることの可能性を、一歩広げて提案していきたいですね。
【この記事はNPO法人森ノオトと株式会社リビタのコラボレーション事業により制作しています】
HOWS Renovation
リノベーションによる建物再生と、人の集う場づくりによる豊かな暮らしを提案するリビタが発信する、戸建てリノベーション事業。テーマとする「自ら丁寧に手を入れる暮らし」を軸に、住まい手が自ら手を入れ育てていけるハコである空間をつくり提供するとともに、建物のことを知り手の入れ方を学ぶ見学会や、手を入れる事を体感し楽しめるDIY Lab.、住まいづくりについて考える子ども向けイベントなども開催。
生活マガジン
「森ノオト」
月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる
森のなかま募集中!