(写真=梅原昭子)
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<空き家率30%時代にこそ可能性はある>
北原まどか(以下、略):
これからの郊外暮らしを考えるということで、先ほど太田さんが中古住宅のストック市場を活性化させていくというお話をされていたのですが、まさにそれは今後の社会的命題になるだろうなと思うんです。森ノオトの拠点がある横浜市青葉区でも、ご高齢になられた方が郊外から駅前に引っ越す動きが出てきています。今年夏ごろ総務省統計局から発表される5年ごとの「住宅・土地統計調査」の空き家率速報値にも高い注目が集まっていますよね。2030年には全国の空き家率が30%以上になるというデータもあり、近未来の街の姿は、まだ見ぬ世界の到来なのでは、と思い、身震いがします。リビタさんのリノベーション事業は、こうした根本的な課題への挑戦なのかなと感じるのですが、いかがでしょうか。
太田:
今後空き家率が高まっていくなかで、リノベーション業界がしなければならないことは、多岐にわたっています。リビタではホームページの「ビジョン」のなかで、ストック市場を活性化させていくこと、「古いものにこそ価値がある」という新しい文化を創出すること、社会(ストック)をよみがえらせていくことで、未来志向で地球と人との関係を捉え直していくことをうたっています。
一方で、私はもう少しシンプルに考えていて、土地や空間全体を含めて、家の環境や気持ちよさを私たちが引き出して、暮らしのなかでいろんな可能性を広げられるという実例をつくって、それを発信していく中で、家で仕事をしたり都市のなかでも自然を感じたりと、新しいライフスタイルを創出したいと思っています。それが暮らし方のイノベーションにつながって、都心偏重じゃない、ゆったりした暮らしの良さを根付かせるというか……、結果的に郊外のリノベーション中古住宅が選択肢になり、空き家問題に対してのひとつの解答が出てくるのかもしれないですよね。
北原:
まさにそれが、「横浜荏田北の家I」での「おうちマルシェ」の提案のように、住まい手があえてまちと溶け込む仕掛けをつくっていらっしゃいますよね。
太田:
「あ、家でこんなことをやっていいんだ」という意識喚起にはどんどんチャレンジしていきたいと思っています。私の理想として、基本的には家なのですが、半分カフェのような、地域の人たちが集まってくるような機能がそこにあったらいいなと。単一的な住宅地のなかに、人と人とがつながる拠点、例えばマルシェのようなものがあれば、そこにお野菜を運んでもらってみんなで購入しようとか、そうした人の動きができますよね。郊外の住宅地の課題に、買い物が不便なことが挙げられるのですが、住民同士で互いにサービスをつくって提供し合うような関係ができたら、その住宅地の居心地はもっと良くなっていくと思うんです。こうあるべきという形や都市像を語るよりも、家でできることをもっと楽しんでいって、それをご近所さんとシェアできるような、そんな情報発信ができるといいなと思います。
<都市と田舎が共存した横浜の魅力>
北原:
横浜市は人口370万人を抱える大都市ですが、実は田舎のような良さもあって、都市機能と里山や農的環境が共存しているのが、最大の魅力だと思います。以前ある農家の取材で聞いた話ですが、保土ケ谷区の古くからの住宅街に農家のお兄ちゃんが野菜を引き売りしに来ると、近所のお母さんたちがワイワイと集まってきて井戸端会議が始まって、いつの間にか野菜もよく売れている、と言っていました。
それに、この青葉区は特に農業が盛んで、野菜の直売所が30軒以上あるんです。横浜市全域で見ると、1000カ所以上あるんですよ。
太田:
青葉区に住んでいる方のお話を聞いていると、データでは表せない地域への誇りや愛着をものすごく感じますよね。この地域は昭和40年代くらいから都市開発が始まって、山を切り拓いて宅地造成されて、時間の経過とともに木々が成長し、住民たちが庭を手入れしたり主体的に景観をよくしていくことに関わって、長く住む人もいれば新しく住む人も流入してきて、地域として成熟しているんだなと感じます。私は開発当初を知りませんが、今は20年、30年前よりもずっと魅力的なまちの景観になっているのではないかと思います。
北原:
この地域で実際にまちづくり活動が盛んであるということは、間違いなく言えます。公園愛護会の数、建築協定の数なども、青葉区は横浜市内でも多いです。ただ、それも高齢化によって今後どのように維持できるかという課題に直面している中で、すでにあるまちなみの中に新規住民が入ってくることは、まちにとって嬉しいことだと思うんです。
太田:
私たちがこの沿線で手がける戸建て住宅のリノベーションは年間5、6棟くらいですので、数のインパクトとしてはまだ多くのことをできていないのですが、「こういう場所もありだね」という暮らしに対する想像力豊かな方がこの地域に入ってきたり、「住民がまちをつくり、暮らしをつくる」という考え方に共感してもらうことの一助にはなるのかな、と。今後、地域側にいる森ノオトさんと一緒に取り組みをすることで、これから住む方とまちとの接点をつくれたらいいなと思います。
<働き方と暮らし方のイノベーション>
北原:
太田さんが対談の前編ですごく重要なことを言ってくださったなと思ったのが、今後働き方が大きく変わっていくだろうということ。青葉区には都心で働かれる方が多いですけれども、満員電車が毎日恐ろしいっていう声もよく聞かれます。以前、リビタの戸建て住宅を選ばれる方は家で仕事をされる方が結構多いというお話も聞いたので、家を半分開くという形で、家で仕事をしながら、人の流れをつくっていくという働き方のイノベーションがこれからの時代のまちづくりにおいて、ひとつのキーワードになってくるのかなと思います。そこと私たち森ノオトが接点を持てると、ここでの暮らしはとてもクリエイティブで最先端なんだよということが発信できますよね。それがまちのブランド化につながり、住んでいる人の誇りや愛着につながっていくような気がしますね。
北原:
住宅を選ぶ時って、住宅の価格とか内装とか設備機器のスペックなどで選びがちですが、本当は購入後の生活のほうが長く続くので、自分が選んだ地域の中でいかに仲間をつくっていくのかということも大事だと思います。リビタさんにご一緒したいと言っていただいた時に、私たちはお隣の人との仲介役をやれるかは分からないけれども、少なくとも青葉台や市が尾のエリアで仲間ができるとか、そういうお手伝いはできるかなと感じました。これから森ノオトなど地元のNPOや地域団体とつながっていくことの期待感みたいなものはどのようにお考えですか?
太田:
リビタには「住まいづくり5箇条」という指針があります。その中に、「コミュニティをデザインする」という言葉があって、単純に住まいというハードだけではなく、その後のライフスタイルを支えていくところに非常に重要なポイントがあると考えています。
お客様がリビタの家に住んでから地域で関係を継続できる人やネットワークとの協力関係というのが今後とても重要だと思っています。人もハード(住まい)も入ったときが最高で、徐々に落ちていくものにはしたくない。これから地域に根ざした森ノオトさんと新たな取り組みを継続していけることが、とても楽しみですね。
<新しい“価値”を伝えていく覚悟>
北原:
少し私たち森ノオトの活動をご紹介させていただきたいのですが、一つ目の柱はウェブメディアの運営です。もともとプロのライターもいますが、一般の主婦の方が書き方や取材の仕方を一つひとつ覚えていって、素晴らしい記事を書けるようになっていき、地域との接点をもっていくという活動をしています。そこからエコな暮らしについて本質的なことを考えていくなかで、事務局長の梅原昭子を中心にエネルギーの使い方やつくり方を学んだり、例えば土や水の循環などもう少しディープなエコロジーを学ぶような講座を開催しています。二つ目の柱が地域の交流事業です。一番大きなものが「あおばを食べる収穫祭」で、藤が丘駅前公園で地域の30団体くらいが出店し、2000人くらいが来場して、ウェブメディアで読んだ人たちにここで会える、一日で食べられるといったような、にぎやかなイベントです。そのほかにもこの地で長年農業をやっていた方に、地元の歴史をお聞きしながら料理を学んだり、子育て中のお母さんに地域を案内する子育てツアーをやっています。そして三つ目が、今回リビタさんとコラボさせていただく「森ノファクトリー事業」です。使わなくなった生地、タンスに眠っている布を寄付していただいて、その中から付加価値のあるモノ作りをして、お母さんの仕事場になったらいいなという願いを込めて、AppliQuéというブランドを生み出しました。リビタのお客さんの中でも、暮らしをつくることが好きで、エコロジーの本質に興味がある方がいたら、きっと私たちの活動に興味を持ってもらえるのではないかと思うんです。
太田:
森ノオトさんがすごいなと思うのが、エコロジーという軸がありながらも多様な接点をご用意いただいているので、直接的にエコに関心がなくても、どこかで共感してもらえるようなコンテンツがたくさんあるということ。それから、出産前後の女性特有の時間的制約で働けないというジレンマ対しても、少しずつ場やつながりをつくっているのが、地域でのこれからの暮らし方の大きなヒントになっていくのかなと思います。
北原:
ありがとうございます。以前太田さんにリノベーション住宅のプライベートツアーをしていただいた時に、4時間くらいご一緒するなかで、ずっとノンストップでしゃべりっぱなしでしたよね(笑)。この太田さんの熱量の源泉についてお聞きしたいのですが、学生時代はマラソン選手だったとか……。
太田:
もう走るか寝るかの4年間を過ごしていました(笑)。大学時代から都市計画の専攻でしたがマラソン漬けで、大学院時代から真面目に勉強するようになったんですよ。一番衝撃を受けたのは、ドイツの都市計画を学びにデュイスブルクに行った時のこと。日本でいう川崎や四日市のようなイメージの工業都市で、そこで廃業した工場を地域の人の憩いの場にしようという政策があって、天然ガスのタンクでスキューバダイビングをしたり、工場跡地をシアターにしたり、既存を活かしながら用途をガラッと変えて新たな価値をつくり出していたんです。地元の人から敬遠されている場所を憩いの場に変えるという価値の転換に度肝を抜かれて、そんな仕事をやっていけたら面白いだろうなとその時に思ったんですね。
それから、とてもシンプルな動機なのですが、人口が減る時代に建物を建て続けるのは全然クリエイティブじゃないな、というのもありますね。
北原:
このお仕事、特に中古住宅のリノベーションとなると、ラクじゃないことも多いですよね。
太田:
一番大変なのは現場担当だと思います。本来あるべき梁や耐力壁がなかったり、柱がシロアリに食われていたりして、「開けてみてびっくり」ということもありますから。現場で起こる一つひとつの事象に対して、適切に判断して、プランとの整合性や遵法性を確保し、さらに断熱性や意匠性をつくり出していかなければなりません。
一方で、私たちのリノベーション住宅が高く評価されないと、事業として継続できないので、私たちが信じているものがみなさんに伝わるように頑張っていかなきゃいけないなと思っています。
北原:
最後はやっぱり「人」なのかなと思います。どれだけ自分たちがやっている事業の価値について信じているか、私たちも想いを伝えることを大事にしたいといつも感じています。
この辺りの地域は高齢化も進んできているので、ご自身で住めなくなった方や、お連れ合いが先に旅立たれて、大きな家を持て余している高齢の方がいらっしゃって、でも、その方が「この家はすごく大事で、愛着があるんだ」という時に、スクラップ&ビルドではなく活かしてくれる方に受け継ぎたい想いを潜在的にお持ちなのではないかなと思うんです。
これから少子高齢化、核家族化がますます進んでいくなかで、親と一緒に住む人も少なくなってきますし、世代間から世帯間へという価値観の変化は大いに伝えるべきことかなと思っています。空間、また柱や心臓部は残るんだけれども、内装などはガラリと変わっていくのと同じように。
太田:
そうですね。リビタのモノづくりの根本にあるのが、「構造安全性と環境性能が確保された丈夫なハコと、手を入れる余地を残したシンプルで可変性の高い住まい」という、その言葉にすべてが集約されているのかなと。残すべきところは残し、変えられる部分をきちんとつくり込んだうえで継承していくということで、残すべきストックが活かされてほしいなと。
北原:
私自身もリノベーションについて一番共感している部分は、もうすでにあるストックって“命”だという点です。これ以上ゴミ(建築廃材)を増やしてどうするの? 断熱性能だって、耐震性能だって、いまの技術ならばデザイン性とともにスペックを上げられるのですから、命を生かそうよ、と。当たり前のようでなかなか伝わりにくい価値をどんどん広げていって、それが選択肢として、新築の建物を建てるのと同じくらいのスタンダードになるといいですよね。私たちは消費者側の意識を変えるということに挑戦していきたいなと思います。
リノベーションという価値がどんどん見直されて、たくさんのアンテナを持っている人たちのどれか一つに引っかかってくれると、人の考え方も住宅に対する見方も変わってくると思うので、これからのリビタさんの発信と、森ノオトとのコラボレーションを、すごく楽しみにしています。ぜひよろしくお願いします。
桜台の家
http://hows-renovation.com/forsale/sakuradai/
【この記事はNPO法人森ノオトと株式会社リビタのコラボレーション事業により制作しています】
HOWS Renovation
リノベーションによる建物再生と、人の集う場づくりによる豊かな暮らしを提案するリビタが発信する、戸建てリノベーションブランド。テーマとする「自ら丁寧に手を入れる暮らし」を軸に、住まい手が自ら手を入れ育てていけるハコである空間をつくり提供をしています。建物のことを知り手の入れ方を学ぶ見学会や、手を入れる事を体感し楽しめるDIY Lab.、住まいづくりについて考える子ども向けイベントなども開催。
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