音楽文化のリユース&リサイクル!「中古レコードのタチバナ」
【森ノオトインターンシップ修了レポート:山本美雪子】青葉区鴨志田町の中谷都のバス停を降りてすぐ、昔のレコードであふれる「中古レコードのタチバナ」に、 ダウンロードで音楽を聴く大学生の私が取材に行きました。今と昔が入り混じる店内で、「楽しい大人」な店長・横山功さんの話を聞いてみると、音楽を通じて共鳴する思いに出会いました。

あなたは音楽を聴くとき、どんなツールを使っていますか?

私は、好きなバンドの曲はCDをiTunesに入れてiPhoneに同期、「あ、この曲聴きたいな」というときはApple Musicでダウンロード、気になるバンドはYouTubeで検索……などなど、音楽をデータとして聴くことがほとんどです。

 

私にとって、「音楽」は小さい頃からずっと共にしてきたものでした。

幼稚園の頃からピアノを習い、小中学校では吹奏楽部に入り、高校から今もずっとバンド活動をしています。音楽で気持ちが元気になったり、いろんな仲間に出会えたりと、音楽から多くの楽しさをもらってきました。

 

今夏、森ノオトのインターンシップ生として取材をするにあたり、事務局から取材候補リストをもらうとそこには「中古レコードのタチバナ」という文字が。

大好きな音楽に関わるお店を取材したい!と思い、すぐに取材に行くことを決めました。

中谷都のバス停下車後すぐ。オレンジの看板が目を引きます

中古レコードのタチバナは1961年創業。2012年に横浜市神奈川区の六角橋商店街から青葉区鴨志田町に移転し、今はオールジャンルの中古レコードの買い取りと販売をしています。

 

簡単で便利に音楽を聴けるようになったこの時代ですが、「中古レコードのタチバナ」では創業からずっとレコードを売り続け、お店では中古レコードの販売(=リユース)だけでなく、「音楽文化の”リサイクル”」というテーマを掲げています。

 

音楽文化のリサイクルってどういうことだろう?

「レコード世代ではない私」と「レコードを売り続けるお店」が話すことは、もしかして「音楽文化のリサイクル」に通ずるものがあるのでは? そんな期待を持って、人生初取材へ臨みました。

お店の扉を開けるとすぐに階段があり、レコードが飾られ、なんだか秘密基地のような雰囲気が広がっています。

こちらがその階段です

階段を上ると、店内には一面レコードが並び、レコードプレイヤーからはゆったりとしたピアノの音楽が流れ、一枚一枚レコードをめくって選ぶお客さんの姿もありました。

 

そして、レジカウンターの向こうにいたのが、店長の横山功さん。

横山さんは、父親の代からのレコード屋を継いで2代目です。父親は7人兄弟でみんな「タチバナ」という名前で商売をやっていたそう。その中の一つが「中古レコードのタチバナ」なのです。

お客さんが選んだレコードを真剣に見る横山さん

頭にタオルを巻いて長い髭に赤いメガネ、不思議で個性的な雰囲気の横山さんに、まずはご自身と音楽の関わりについて聞いてみました。

 

今やオールジャンルのレコードを取り扱っていますが、横山さんは小さい頃どんな音楽を聴いてきたのか尋ねると、

「ストーンズ(The Rolling Stones)とかビートルズ(The Beatles)だね、小学校1、2年生の頃から音楽を聴いてきたかな」と横山さん。

 

元々お店があった六角橋商店街は、近くに神奈川大学があり、お店でアルバイトをしたり常連だった大学生に音楽を教えてもらっていたため、横山少年にとっては、その学生たちから受けた影響が大きかったそうです。もちろん聴くツールはレコードでした。
店内にはロックから、ジャズ、アニメやクラシックまで、本当に多くのジャンルのレコードを取り扱っているため、横山さんはかなり幅広い音楽に詳しいのでは?と思いましたが、「全然!お客さんの方が詳しいよ!どの年代が多い少ないとか、なにが人気だとか、番号とか、そういうのはわかるんだけどねぇ」と笑って答えていました。

 

2012年に青葉区鴨志田町への移転を考えていた際、縁あって内見に来た今のお店に入ってドアを開けると、すぐに2階に続く階段があるのを見て、「これはサイコーだ!」と思い、この場所に店舗を構えることにしたのだそうです。

 

しかし、ここは東急田園都市線青葉台駅からバスで10分程度と駅から離れた立地。

少しロケーションは不便なのでは、と思いましたが、 横山さんは

「俺はこのへんを”ホットスポット”って呼んでるんだよ」と、どうやらこの場所を気に入っているようでした。

なぜなら、大都会の横浜中心部から離れ、住宅が並び自然にあふれる青葉区は横浜のようで横浜じゃない、そんなまちだからこそかえって目立ち、何かのついでじゃなく、中古レコードを買うことを目的にわざわざ来る人が多いからなのだそうです。

 

「だから、ここに来てから、(売り上げは)ゼロがない」とニヤリ顔。確かに取材日は平日の午後でしたが、お客さんの姿がポツポツと途切れることなく店内にいる様子でした。

お店では購入前に視聴することができます

しっかりとレコードの状態を確認してから買うことができるので、お客さんも安心です

お店に来るお客さんはレコード世代の人が多いのかと思いきや、若い人や外国人もレコードを買いに来るそう。

 

若者と音楽の関わりについて質問すると、横山さんは

「若い子は音楽をよく”知ってる”けど、詳しくはない」と言います。

 

確かに知らないアーティストはインターネットで検索、YouTubeで視聴、と、簡単に情報や音楽を手にすることがでできるため、”知ってる音楽”が広くて浅い。これは、大学生の私にももちろん当てはまることです。

 

もしかして、レコードを愛する横山さんにとって、インターネットを通じてダウンロードしたら簡単に音楽が聴ける環境は敵なのではないか?!と思い、現代の音楽の便利さについて聞くと、迷わずに笑顔で「サイコーだよ!」と即答。

 

そう思う理由は、音楽を聴く人口が増えているから。

便利な時代だからこそ、音楽は簡単に聴けてより身近な存在となっています。再生ボタン一つで聴けるという当たり前な環境は、とても恵まれているのだと感じました。

 

横山さんは、私たちのような20歳前後の人に対して、

「アナログ最後の世代だから、ぜひレコードを聴いてほしい」と言っていました。ちょうど私たちの親の世代がレコード世代で、たしかに、私の実家にも父のレコードがずらりと並んでいます。私と親の間に当たる30代くらいの世代はCDが主流となりレコードに触れずに育っているため、親のレコードを見たことのあるちょうど20代前後の私たちくらいの年齢が、親を通じてレコードを知っている最後の世代だといいます。

 

最近では、レコードが「オシャレ」と若者でも関心が生まれ、CDとは別にレコード盤を販売するアーティストもいます。せっかく実家には聴ける環境があるのだから、レコードも聴いてみようかなと思いました。

お店の一角に見つけた「ビートルズ」ゾーン。私も見たことのあるジャケットがたくさんありました

 

しかし、現代のストリーミングやダウンロードなどのデータ音楽にはない、レコードならではの魅力とは一体何なのか。

横山さん曰く「音楽を正面から聴けること」こそが魅力だといいます。

レコードを聴くためには、レコードをセットして、ボリュームを調整して……と少し手間がかかります。現代の音楽の聴き方とは違い、「レコードは、手間をかけた分、より真剣に聴くんだよね」と横山さん。

 

この話で、私は若者の中の「写ルンですブーム」を思いだしました。

今やデジカメどころか、携帯電話一つで写真が撮れてしまう時代ですが、2015年くらいから若者の間ではチープでレトロでおしゃれな写りが可愛いとブームになっています。

 

私もどっぷりフィルムの魅力にはまってしまい、昨年、中古のフィルムカメラを購入しました。私の思うフィルムカメラの魅力は、わざわざフィルムを入れて、巻き上げて、撮り終えたら現像に出す、という手間をかけて丁寧に撮ることだと思っています。

アナログならではのあたたかさが好きな私にとって、レコードもなんだかどハマリしてしまいそうな気がします。

 

そして話題は「音楽文化のリサイクル」について。

この話が始まると横山さんの表情も真剣になります。

 

まず、音楽文化のリサイクルについて横山さんは

「要らないものを買い取って売るってのは”リユース”だけど”リサイクル”じゃない」

「CDが出て、アナログのものが要らなくなって、捨ててくださいって店の前にレコード置かれたりもしたんだよ。だけど、20年30年経つとだんだん売れてくる。お店に昔のレコードが並ぶと、その棚にはその時代が蘇るんだよね」

と、中古レコードを売ることは、「時代を売ること」であると語ります。

昔のレコードを店に並べることで、店内で、今と昔、時代と時代が交わり、ボーダーレスの空間が生まれているのです。

 

「古本屋もそんなもんなんだよね、町の中にあるずっと続くような古い古本屋とか、なんで潰れないんだろうって思うじゃん。あれも同じなんだよ。」

昔の文化をお店の中で再現することが、資源の循環だけでなく、時代を循環させていると言います。
これから、レコードは栄えていくのか、このまま中古レコードが続いていくのか、どうなるのでしょうか。

「まずレコードがここまで続くとは思ってなかったからね。 CDは永久と言われていたけど、今はデータ音楽の時代。だから、これからの音楽の聴き方がどうなるかもレコードがどうなるかも分からないなぁ」と話していました。

「どうなるかも分からないなぁ」という言葉の一方、お店の奥は大量のレコードの在庫が。まだまだたくさんの音楽文化が眠っているようです

それでは、お店のこれからについてはどうでしょうか。

 

今も、中古レコードのタチバナでは、「水曜日の夜はレコード屋で遊ぼう」とお酒を飲みながらレコードを聴いたり店内ライブをしたりと、地域のいろんな世代が集まる場となる面白いイベントを行っています。

実は横山さん、以前に居た六角橋商店街で、イベントの運営は経験豊富。個性的なイベントなどで人気のある六角橋商店街での経験から、この辺でも何かちょっとやりたいなと思ったのが店内イベントのきっかけだったそう。

 

そしてこれからも「レコードを介して」「売るだけじゃない」何かをしたいと考えているようです。「例えば、イベントも、食べられて、飲めて、泊まれて……」

泊まれて!?と、びっくりしてしまいましたが、

「そんくらいデカいところでやれたら、サイコーだよ!」

と目をキラキラさせて話す姿は、まるでレコード屋という秘密基地にいる少年のようでした。

 

新しいこと・楽しいこと・面白いことをしたい!と、 みんながワイワイと賑わう楽しい空間を作る大人がいたら、 きっとお店やまちも活気づいていくのだと感じました。

 

「音楽」はどんな人でも共通して楽しめるものであり、消えることもなく、飽きもこない。なくても生きてはいけるけれど、あったら心が豊かになるような、生活に彩りが増えるような、そんな存在だと思っています。

再生ボタンひとつで音楽を聴けるこの時代に、音楽・時代・人をレコードでつないでいる横山さん。レコードから流れる音楽と共に楽しいことを追求している「中古レコードのタチバナ」だからこそ、57年もの間愛され続けているのだと思いました。

 

準備していた質問を聞きながら、最後に、私自身が地元秋田県を音楽やイベントで元気にしたいと考えていると話すと、横山さんは「サイコーだねぇ!」と身を乗り出して、六角橋商店街で行なわれている「ドッキリヤミ市場」の話を教えてくれました。

六角橋商店街は、10年という長い年月をかけてシャッター商店街を活気のある商店街へと活性化したそうです。今では、空き店舗待ちになるほど人気の商店街だと聞き、とても驚きました。

 

 

私は秋田県出身で、実家は商店街に位置しています。

小さい頃からたくさんのお店に囲まれて生活していましたが、この夏帰省すると、隣の醤油屋も、近くの八百屋も文房具屋もシャッターを閉じていて、とても寂しい気持ちになりました。

少子高齢化が急速に進む秋田県ですが、なんとかしてこの町に元気を取り戻したい!と、地域活性を夢見て、大学でまちづくりの勉強をしています。だからこそ、長い時間がかかっても行動を起こしたらまちは確実に変わっていく、それを実証した大人の声を聞けたことは、自分の背中を押してくれました。

横山さんにもらった希望を胸に、私も音楽を使って楽しい空間を作り、いつか地元の人やまちを元気にしていきたいと思います。

Information

中古レコードのタチバナ

http://www.m-tachibana.com/

住所:横浜市青葉区鴨志田町561-1パインドエル2F
電話:045-507-7031

営業時間:10:00〜18:00

定休日:木曜(祝日営業)

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