人気の絵本
赤ちゃんや幼児向けの絵本作家であるこがようこさん(以下、こがさん)。絵本作家としてだけでなく、紙芝居脚本家、絵本コーディネーター、語り手、語り手たちの会理事、といういくつもの仕事をこなしています。どれも、子どもたちと絵本やお話の世界をつなぐ仕事と言えるかもしれません。
私が、こがさんの絵本と会ったのは、昨年取材したボランティアグループ「おはなしひなたボッコ」のお話会でした。メンバーの方が『語りかけ絵本 いちご』(ぶん・え=こがようこ/大日本図書)の読み聞かせをしてくれました。聞き手は0歳から2歳ぐらいの子どもたちですが、みんな集中して絵本をじっと見つめています。そのうち、読み手がいちごを食べるまねをすると、子どもたちも次々と前にやってきて、いちごを食べる動作を始めました。なんとも言えぬ、ほほえましい時間が流れ、「シンプルなのに子どもたちを惹きつけるこの絵本すごい!」とびっくりしたのを覚えています。
語り手として
絵本作家、紙芝居脚本家としてお話を作るだけでなく、自ら語り(※)をするこがさん。今回の取材より前に、こがさんが理事を務める語り手の会で勉強中の私は、こがさん自作のお話を聞く機会が2回ほどありました。『あんぱんひとつ』と『やきゅうにいこう!』というお話でしたが、どちらも子どもに向けたものでした。それぞれ、小さな女の子の役、野球少年の役にすっかりなりきって語ってくれたこがさん。こがさんの人柄がにじみ出るような明るくて楽しい語りは、聞いているだけで元気が出てくるのです。もちろん、子どもたちだけでなく大人たちもしっかり楽しませてもらいました。こがさんは方言での語りなども好きだそうで、語り仲間の間では「こが弁」と呼ばれているのだとか。ぜひ聞いてみたいです。
(※)語り、語りかける:ここではこがさんの著書を参考にした意味で用いています。
耳で聞くおはなしを「素話」「ストーリーテリング」、あるいは「語り」と呼びます。素話、ストーリーテリングはストーリー(物語)を伝えることに主軸があり、語りは語りかける行為そのものまでを表す言葉です。
『保育に生かすおはなしテクニック〜3分で語れるオリジナル35話つき〜』(著=こが ようこ/小学館)
絵本作家への道
こがさんは二人の女の子を育てながら、保育園や幼児教室で働き、また学校や地域での読み聞かせやお話会などのボランティアも積極的におこなってきました(お二人ともすでに成人しています)。
そんな経験を生かし、2000年から絵本と昔話を運ぶ手配り新聞『サマーサンタクロース』を隔月で刊行しています。A5サイズの小さな紙面には、わらべうた、簡単なお話など、小さな子どもと遊べるものがいくつも紹介されており、すぐにでも使えそう。絵本コーディネーターとしての、こがさんお勧めの絵本も紹介されています。定期購読を申し込むことができます。
そして、子どもの頃から空想好き、文章を書くのが好きだったというこがさんが、絵本作家への扉をノックしたのは同じく2000年ごろのことでした。『ねぎぼうずのあさたろう』シリーズ(福音館書店)の作者である飯野和好さんの「飯野和好おはなし絵本塾」に通うことを決め、絵本の勉強を始めたこがさん。絵本づくりの勉強を続けるうちに、こがさんの作品を飯野さんが出版社に紹介してくださったそうです。その時の作品は絵本にはならなかったということですが、その出会いをきっかけにして、月刊『おおきなポケット』(福音館書店)などの連載が決まり、現在の仕事につながったのだとか。
その後、2011年にこがさんが文章を手がけた初めての絵本『あたし おねえちゃんなの』(文=こがようこ、絵=スティーナ・ヴィルセン/クレヨンハウス) が発売されました。
わらべうた絵本がもたらす温かな時間
保育や幼児教育にたずさわり、自らも語り手であるこがさんは「語りかける」ことの大切さを伝えていきたいと言います。
“おかあさんからあかちゃん(特に言語を獲得するまで)への働きかけで大切なのは、目と目を合わせること。微笑みかけること。言葉をかけること。指と指、体と体がふれあうことだと思います。わたしはこれらを「語りかける」行為と考えています。”
(サマーサンタクロースより引用)
こがさんの作品の根底に流れているものは、「語りかける」ということ。この度、出版されたわらべうたシリーズはまさにそのものという感じです。
『わらべうたでひろがるあかちゃん絵本』シリーズ
『ねーずみねーずみ どーこいきゃ』
『へっこぷっと たれた』
『おせんべ やけたかな』
(構成・文=こがようこ、絵=降矢なな/童心社)
この絵本は、口に出して読むだけで、優しいリズムが流れます。それは赤ちゃんも大好きなリズムです。
この三冊は、わらべうたの温かさ、素朴さはそのままに、そして、わらべうたを知らない世代のママたちにも受け入れやすいようにと作られたのでしょう。
子どもと一緒に、わらべうたで遊ぶ時間というのは、こんなにも穏やかに、ゆったりと過ごせるのだということを、この絵本たちが大人たちに教えてくれるように思います。
「語りかけられて育った赤ちゃんは無意識のうちに、ここに生まれてよかったと感じ、愛されている喜びを知ることができるようになる」とこがさんは言います。だからこそ、こがさんは繰り返し言います。「いっぱい語りかけて。いっぱいさわってあげてね」と。
こがさんの絵本は、文章は少ないものが多いのですが、ママやパパの声を通して読むその絵本は、文章以上に赤ちゃんに「大好きだよ。あなたが大切だよ」と語りかけてくれることになるでしょう。
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