災害において発生し得る被害を最小化するための“減災”。一般社団法人減災ラボ代表理事の鈴木光さんは、クリアファイルを使った自分だけの減災マップを、楽しみながら自分でつくる「my減災マップ®」を考案し、小中学生への防災教育や地域・企業の防災・減災ワークショップなどを手がける「減災ファシリテーター」です。「避難所運営ゲーム(HUG)」を体験するにあたり、まずは被災するとはどういうことなのか、避難所運営に必要なことは何かを鈴木さんにレクチャーしていただきました。
冒頭参加者に呼びかけられたのは、「非常時に寝ているところから玄関までスムーズに行けるか、自宅の中を点検してみてください」ということ。ふすまがあかなくなったり、物が倒れてきたりと、意外なものが避難の妨げになるかもしれません。
避難できた後も、避難所での生活が実際どうなるのかは、現場を見てみないとわからないこともあります。写真を見せながら鈴木さんは、「写真で分からないのがにおいです」と教えてくれました。同じ部屋に人が密集する避難所では空気の流れもよくなく、シャンプーや制汗剤、カップラーメンなどのにおいで酔ってしまうことがあるそうです。
避難所運営に必要なことは、運営本部の設置、取材・問い合わせへの対応、食料・物資の受け入れ・配給、炊き出し、ゴミの処理、風呂・トイレの設置、ボランティアの受け入れなど、山ほどあります。避難者のニーズを把握してこれらをこなしていくことがどれだけ大変か、参加者は後にゲームで思い知らされることになります。
このゲームのプレーヤーは地元自治会や自主防災会の役員という設定で、避難者を体育館や教室に振り分けて避難所を適切に運営していく立場となります。今回は、5〜6人ずつ3グループに分かれて同時にゲームを進行しました。
カードゲームのほかに用意したのは、避難所にする学校を想定して描いた図面を大きく印刷したもの、ペン、紙、ホワイトボード。250枚以上のカードには一枚一枚避難者のプロフィールが記載されており、読み上げ係はそれをどんどん読み上げていきます。避難所の準備が整うのを待つことなく次々と押し寄せる避難者に、部屋や体育館内の位置を割り振るように、ほかのメンバーはカードをどこに配置するか話し合って図面の上に置いていきます。
たとえば、“噴火さん”一家は世帯主とその母、妻、長男の4人家族。妻は妊娠6カ月で、ねこ1匹を連れてきました。そのほかにも、風邪を引いている人や認知症の高齢者、知的障害のある子どもがいる家族、両親を亡くし一人で来た子どもなど、さまざまな設定に応じて、1階にしたほうがいいのでは、ほかの人とは別の部屋にしたほうがいいのでは、この人と一緒にすれば助け合えるのではと、適切な配置を考えていきます。
また、避難者カードのほかにも「イベント」カードがあり、物資の提供、避難はしていないが食料を求めてやってきた人、喫煙所はどこかという避難者からの質問などの出来事に随時対応します。
こうして対応を決めていく中で、ルール化されたこと、避難者に共有すべき情報などは、どんどん図面や掲示板代わりのホワイトボードに書き込んでいきます。どのグループもあっという間に情報が増えていき、いかに情報の整理の仕方が重要かということが分かります。
カードをすべてさばくとゲーム終了。参加者の皆さんに感想や意見を聞いていくと、「半壊でちょっと怖いという人と津波で家族が流された人、被害状況があまりに違う人が隣でいいのか迷った」「今は自治会に入っていないマンションもあるが、避難所の運営を担うのは地域の人なので、自治会長など誰かが訓練できていないと怖い」「最初に方針を整理しないと、ごっちゃになってしまって大変だった」「これが本番だったらとても無理」といった声が上がりました。
今までの準備不足に参加者がおののくなか、「情報を整理しきれないことのジレンマを感じてもらうのも体験」という鈴木さん。
「想定外をなくすという意味で、これだけの量のカードを作っています。避難所では実際にあっちの声もこっちの声も聞こえてしまったり、声が大きい人に負けてしまったりする。そういう環境をリアルに体験してもらうことも含めて設計されています」
名簿を作るか否かなど、人数の大小によってもやり方はいろいろあるため、常に「(この判断は)何のために必要なのか」ということを考えながら行動していくことが大事だと教えていただきました。
今回は男性と女性の参加者が混じっていましたが、「地域のリーダーはシニアの男性が多く、女性のことに考えが回らないことが多い」とも。赤ちゃんのいる家庭やLGBTの人も意見・要望を伝えやすいよう、避難所の運営者は世代や性別が多様な構成にしたほうがいいということです。実際に、災害や紛争などの被災者に対する人道支援活動においては「スフィア基準」という国際的基準が存在し、難民キャンプなどで弱い立場になってしまう女性や子ども、障害者らが平等な扱いを受けられるように、衛生面や食糧、居留地などにおける最低基準が挙げられています。例えば、トイレの数は男性1に対し女性3という比率が提案されています。ゲームを通してあれこれ考えた後だと、こうした知識も覚えておくべきものとしてスッと頭に入ってきます。
後半は、HUGでも感想として出てきたような“災害対応のジレンマ”をカードゲーム化した「クロスロード」を体験。こちらは文部科学省の「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」の一環として、阪神・淡路大震災で災害対応にあたった神戸市職員へのインタビューをもとに開発されたものです。
人数分に足りない食糧をどう配るか、メディアの取材を受けるか、お酒臭い人や血圧の高い人にボランティアに参加してもらうかどうかなど、分かりやすいが正解のないお題について“YES”“NO”の札を出して理由や悩んだ点を話し合うと、見事に毎回意見が割れました。
鈴木さんは、「これは答え合わせではなく、その時のベストを考えてもらうイメージトレーニング。いろんな立場で考えることが大事なんです」と語ります。この言葉はメディア運営にも通じるところがあり、ローカルメディアミーテイングのゴールであるローカルメディアの指針づくりにおける大きなヒントとなりそうです。
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