原野のおもかげに、細やかな人の手のあたたかさが宿る|藤が丘公園愛護会
花壇に揺れるたくさんの草花に迎えられ、こんもりとした樹木に包まれる……。訪れた人の心をほっと和ませる、藤が丘公園。自然が大好きな写真家で森ノオトライターのおおかわらあさこさんの写真を織り込みながら、愛護会活動を続けてきた方々の想いをお伝えします。

サルスベリにキョウチクトウ、フヨウ、ハギにススキ、ヒガンバナ、タマスダレにヤマジノホトトギス、ミゾソバ、スイレン、シュウカイドウとシュウメイギク……この中に知っている花はいくつあるでしょうか?

 

これらは、藤が丘公園の中にある花の、ごく一部。夏の終わりから秋にかけて咲く花です。

こうした花の開花情報などをまとめて、毎月発行されている「藤が丘公園だより」には、花や緑を慈しむ気持ちがあふれています。愛護会の男性メンバー4人が、制作と印刷、配布するまでの仕事を分担してチームワークで作り続けているもので、季節の移り変わりとともに公園の景色が変化していく様子がよくわかります。

 

発行当初はモノクロだったが、2年前くらいからカラーになって写真も多くなった公園だより。公園内の掲示板にあり、誰もが手に取ることができる(写真:おおかわらあさこ)

 

藤が丘公園は、東急田園都市線の藤が丘駅をおりて、線路沿いを歩いて5分ほどのところに位置しながら、豊かな自然環境が残されています。宅地開発前のおもかげが残る雑木林に囲まれて、運動場や池、遊具のある広場があり、近隣の人々のオアシスとなっています。

 

愛護会の活動は毎週日曜の午前中に行われています。愛護会会長の浦木康雄さんらが活動を始めたのは12年前のことで、きっかけは、他の公園愛護会の発足と同じく、公園の手入れが行き届かずに荒れていたからでした。

 

「特にエントランスの部分は、石を積んだ枠組みだけがあって雑草がぼうぼうで。花壇じゃなかったんですよ。鬱蒼としてお化けが出るかのようでした」と聞いて、太陽ローズガーデンや、美しが丘公園荏田猿田公園の愛護会のはじまりのエピソードが思い起こされました。

 

今では、小さな子どもを連れてのんびり遊べる公園に(写真:おおかわらあさこ)

池があるのも公園の特徴の一つ。池には、のんびり釣りをしている人や、ザリガニ釣りをする子ども、魚や亀、鳥や昆虫も集まってくる(写真:おおかわらあさこ)
※釣りや池遊びは、決められたルールを守って行いましょう

 

「愛護会の活動メンバーも最近は年をとって、メンバーのうち毎回5、6名がくるだけなので手が回らなくて」と嘆く浦木さんですが、ご自身が活動を続けられるのは、花や緑が本当に好きだから。「まあ遊んでいるようなものです」と静かに笑っておっしゃいます。

 

およそ4,000坪もあるという広い藤が丘公園の、遊歩道やエントランス、池の周辺から公園の外周の部分まで、時に土木事務所の手を借りながら、愛護会メンバーは地道に手入れを続けてきました。取材に伺った日は活動日ではありませんでしたが、公園内を案内してくれている間もずっと、花や樹木の成長を気にしたり、落ちている小さなゴミを黙って丁寧に拾い続けたりする浦木さんの姿に、ここを大切に想う気持ちがそのまま現れていると感じました。

 

公園だよりでは文章を担当する愛護会会長の浦木さん(右)と、写真と編集を担当している大塚直哉さん(左)

 

大塚さんは地域活動を通じて環境問題に関心を持つようになり、かつては、環境系のNPOに所属して、地球温暖化に関する大きな講演会を企画していたこともあるそうです。この辺り一帯の、谷本連合自治会の活動をしていたときには、地区のゴミ拾いをするクリーンデーの提案をして実行したりと、まちに関わるアイデアをまだまだたくさんお持ちの様子です。

 

「公園の草を刈ってしまったら鳥が減ったという人がいてね。きれいにしすぎるのもまた良いばかりではないんだね。それから、刈った草を集めて、ビニール袋に入れて捨てているでしょ。資源循環局が回収をしてくれてるんだけど、ほんとうはゴミにしないで全部堆肥化しなきゃだめだよね」と話されていました。公園内では既に堆肥化はおこなわれているのですが、枯れ枝や草木の量の多さから公園内だけでは処理しきれず、もったいないと感じているそうです。

 

起伏に富む園内の丘を登って雑木林から運動場を望む

晴れた日には木漏れ日の美しさがまぶしい(写真:おおかわらあさこ)

 

 

活動日だけだと作業が到底終わらないから、と平日もほぼ毎日公園にやってきて、まるで自分の庭のように公園に愛情を注いでいるのは井上鈴代さんと井上和子さん。お二人とも、ご自分の庭やベランダでもガーデニングに勤しむ大の花好きで、「花に呼ばれて公園に毎日きちゃうビョーキなの!」と笑顔で明るく言い放ちます。

 

そろそろ花壇も冬支度をするため、終わりかけのブルーサルビアを抜くお二人。顔は恥ずかしいから〜というので、作業姿を撮らせてもらいました。左が鈴代さん、右が和子さん。ちなみに苗字は同じ井上さんでも、お二人は、親戚や姉妹ではありません

愛護会結成当初から参加している井上和子さんは、公園の目の前のマンションに住んでいるので、まさに公園を、我がこと、わたしの庭として過ごされています。青葉台に住んでいた時代も含めて、この地で暮らして40年以上、「子どもたちが小さな頃から、ここにはよく来ていたんです」と朗らかにおっしゃいます。

 

藤が丘公園愛護会は藤が丘2丁目A自治会のもとにつくられています。ここに、つつじが丘から越境して参加しているのが、井上鈴代さんです。鈴代さんは、前から藤が丘公園はよく手入れがされていることを知っていました。ご自宅の庭で増えて困っていた芙蓉の花を思い切って寄付したことをきっかけに、愛護会に入らない? と浦木さんからスカウトされたのだそうです。今では、歩いて10分ほどの、つつじが丘にあるご自宅から、ほぼ毎日花壇の手入れをしにきています。

 

「苗をあげるだけで、あと知らん顔じゃねえと思って、参加するようになったら、どんどんのめりこんじゃって」「お花もね、やっぱり見にくると来てくれたって喜ぶのよ。その顔を見るとやめられないわね」という鈴代さん。

 

和子さんも、「家の鉢植えで元気がなくなったのを、ここに持って来て植えてあげると生き返って、やっぱり土に植えると元気になったー!って、それもまた嬉しい」と、草花との対話を何よりも楽しんでいます。

 

加えて、公園を利用する人からの声がけも、ここへ来る大きな力になっているそうです。「いつも見てますとか、お花がキレイですねとか言われると、もう嬉しくて」。単純なのよと謙遜されるお二人ですが、義務感からではなく、この場所が好きで、心の底から楽しんでやっていることが、人のため、まちのためにもなっていることは素敵なことです。公園という公に開かれた場所が、私的な心の中にいつもある暮らしって、とても幸せな生き方だとわたしは感じました。まちの自然とこんな風に自由につきあっていいんだ! ということを、多くの人に知ってもらいたいです。

 

色づく前のどんぐり。つやつやとした輝きを帯びている(写真:おおかわらあさこ)

 

以前、作業中に見知らぬ道路警備の方から「なんでそんなに一生懸命キレイにしているの?えっ?ボランティアなの?」と驚かれたこともあったそうです。「確かに、生活に追われていたらできないことかもしれないけど、お金をもらったら逆にやらないわね」というお二人の気持ちが清々しいです。そしてその気持ちはよくわかります。以前は、愛護会の活動を仕事にしたら、人が増えるのではないかという考えを持っていたわたしですが、趣味でつながるからこその良さ、健全さについて、深く感じるようにもなってきている今日この頃です。

 

初めて藤が丘公園を訪ねた時から、その環境の豊かさに魅力を感じていましたが、取材を重ねることで、浦木さんを中心に、力仕事や愛護会だよりで広報をこなす男性たちの骨太な仕事と、日常的に草花の世話をする女性たちの細やかな仕事がうまく調和して、心地よい空間が作られてきたことが、よく見えてきました。関わる人も、もともとの自然環境も良いので、わたしも自宅からもう少し近ければ、ついつい越境して活動に参加したくなるほど。鈴代さんの関わり方のように、単一の自治会に縛られない、気持ちでつながるメンバーがいるというのは、これからの愛護会のあり方を指し示しているようにも思います。

 

最近は、小学生が2、3人、ふらっと自主的に手伝いにきてくれたりと、ささやかではあるけれど何かが変化しつつあるという藤が丘公園愛護会の活動。人手不足は常なる課題ではありますが、実は近くにあったホームセンターがなくなって、ちょっとした道具や苗を手に入れられないことに今一番の不便さを感じているのだとか。歩ける距離で資材が揃うかどうかも、まちの花や緑を維持する要素の大切な部分なのですね。まちの変化もまた、自然の移り変わりとともにめまぐるしいことに気がついた今回の取材でした。

 

光があれば陰もある。自然が織りなす文様を眺めながら、散策路を一人でゆっくり歩いてみるのもおすすめです(写真:おおかわらあさこ)

 

※この記事は横浜市との協働事業「フラワーダイアログあおば〜花と緑の風土づくり〜」の一環としてお届けしています。

Information

藤が丘公園愛護会ホームページ

http://aoba-portal.net/group/kouenaigokai/

 

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この記事を書いた人
梅原昭子ライター
引き算の編集が好きです。できないこと、やりたくないことが多過ぎて消去法で生きています。徒歩半径2キロ圏内くらいでほぼ満ち足りる暮らしへの憧れと、地球上の面白い所どこでもぶらりと行ける軽さとに憧れます。人間よりも植物や動物など異種から好かれる方が格上と思っている節があります。
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