(text&photo:岡本佳代)
私は、一人息子の長男が1歳11カ月の時、夫の転勤で大阪府から横浜市青葉区に引っ越してきました。引っ越した当時は、周りに知り合いはおらず、息子は単語しかお話ができませんでした。夫は朝から晩まで仕事で不在、平日は母子だけで過ごす日々が続いていました。子育てしていく中で次第に、仕事で多忙な夫に頼れない、同じような境遇のママ友と助け合って子育てしてみたいと考えるようになり、インターネットで横浜市の子育て支援ページに紹介されていたラフールを知りました。それまでは、活発でよく動く息子を連れて出かけても他のお母さんたちと話しをすることもできないため、子育て支援施設には積極的に行きませんでした。思い切ってラフールに行ってみると、やわらかな日差しが差し込み、木の香りがする空間と、温かいスタッフの方の眼差しに心がすっと軽くなった気持ちを今でも覚えています。
その後、毎日のようにラフールに通い、ママ友もでき、息子が2歳半になった頃、もう少し自分のコミュニティを広げようとラフールのスタッフの方が紹介してくれた子育てサークルに入会。1年後には代表を務めるようになりました。そこで、子どもだけでなく、私自身が大きく成長しました。
青葉区で子育てするお母さんのなかではとてもよく知られた存在である子育て支援拠点ラフールや、就労していなくても1時間300円から利用できる一時預かり施設「子どもミニデイサービス まーぶる」、一時預かり施設も併設されている「パレット家庭的保育室 なないろ」。それらの施設を運営するNPO法人ワーカーズ・コレクティブ パレットさんはどのような経緯で子育て支援事業を始めたのか、気になって代表の山田範子さんに聞いてきました。
山田さんが子育て支援事業を始めようと思ったきっかけは、ご自身の子育て中に感じた苦悩や周りのお母さんたちとの関わりで感じた「母親が一人で子育てする大変さ」にあるといいます。「私が子育てをしていた30年前は、今当たり前にあるような一時保育や地域の子育サークルもなかった時代です。我が家の子どもはとても活発で、自分で思い描いていたより、ずっと子育ては大変でした。子どもが小学生になる頃、周りのお母さんたちと乳幼児期を振り返る機会があって、もっとお母さんたちが頼れるサービスあったらよかったのにね、という話になったんです」と語ってくれました。
お母さん仲間とそのような話をするうちに、「次の世代のお母さんたちには、お母さん自身が病気になって通院する時や、子育てで疲弊した時、困った時に子どもを預けられない、といった苦労はさせたくない。今、世の中にはないけれど、こんな子育て支援があったらもっと子育てがしやすくなる」という意見が次々と集まったそうです。
その話は、青葉区や都筑区の友達から友達へと伝わり、なんとかしたいと考える10数人ものお母さんたちが集まりました。その集まりの中に、障がいを持った子どもを育てるお母さんもいました。山田さんたちはそのようなお母さんたちの大変さを目の当たりにし、「働いていてもいなくても、障がいがあってもなくても、理由を問わずに預かる施設をつくろう」と、1999年、一時預かり施設の開設に取り組むことになりました。
資金を集めるために、山田さんたちがやったのは、「一軒一軒、近所の家を回って、こんな活動をしたいのですが、出資をお願いできませんか?」と呼びかけること。今ではインターネットを通じて資金を集める「クラウドファンディング」などの手法がありますが、当時はまだそれがない時代。地域の人たちに直接支援を呼びかける熱意に驚きました。すると、その中から「一軒家のお家を貸していいよ」と言ってくださった方がいました。その方の善意と仲間の苦労が身を結び、山田さんたちは2000年に青葉区市ヶ尾町に庭付き一戸建ての施設で「子どもミニデイサービスまーぶる」を開設します。この年の3月にワーカーズ・コレクティブ パレットの設立総会が行われました。
私は、「その当時の苦労はとても楽しかった」と語る山田さんの表情がすごく印象に残りました。普段はぴりっとクールな雰囲気を持つ山田さんの、子育て支援に対するとても熱い思いを感じたのです。当時の様子をとても楽しそうに笑顔で語ってくれる、山田さん。
「まーぶるは大家族のようなものでした。子どもたちはそれぞれ個性的で、絵の具のパレットでいう“色”なんです。パレットの上の色んな色が混じり合ってまーぶる色になる。子どもたちの個性を大事にしたいから、まーぶると名付けたのです」(山田さん)
その後、2002年12月、横浜市社会福祉協議会の委託を受け、「親と子どものつどいの広場 ぴよぴよ」をまーぶるの2階で開所します。親子で一緒に広場を訪れ、スタッフに子育ての悩みや相談をするお母さんたちがたくさんいました。2006年には「青葉区地域展開型子育て支援拠点」の運営法人の公募がありました。山田さんたちは、「ぴよぴよ」のような親子向け広場をもっとつくりたいという思いを持って、膨大な量の申請書を作成しました。その思いが通じ、2006年に青葉区地域展開型子育て支援拠点事業の委託を受け、大場地域ケアプラザともえぎ野ケアプラザに「みんなの広場」を開設します。その後、現在のパレットの大きな柱である「ラフール」の運営準備に入ります。横浜市の全18区で区に一つ設置されている「地域子育て支援拠点」の運営者として青葉区の委託を受け、2011年8月に地域子育て支援拠点「ラフール」を区と協働で開設、運営を開始します。
「地域子育て支援拠点を開設したきっかけは、青葉区にはたくさんの子育て支援に関わる人や場があることを、子育て中のお母さんにもっと知ってもらいたいと思ったからです。私たちだけではほんの一握りの家庭しか支援できません。まーぶるだけでは市が尾駅付近の家庭は預けやすいけど、2、3駅離れた家庭では預けにくい。ラフールには子育て支援の情報がたくさんあり、ラフールを通じて、それぞれの家庭にあった支援の形を紹介できますよね。一時保育施設が必要な人、認可保育園の中の一時保育を探している人、子育てサークルを探している人、そして子育て相談をしたい人、それぞれの家庭に合った他団体の紹介や仲介もできるようになります。」ラフール開設の意義を山田さんはこう語ってくれました。
ラフールを来訪する親子の人数は、親子合わせて1日平均150人になるそうです。ラフールは、受付カウンターで利用者登録して、カードを発行して入場する仕組みですが、毎月150人~200人の人達が登録しています。子育て支援がまだ十分でなかった20年前に、声をあげ、実現してきた場が今、多くのお母さんたちに必要とされていることが分かります。パレットさんがまさに「あったらいいな」の子育て支援を形にしていくお話を聞いていて、何もないところから形をつくり上げる人の思いが山田さんの言葉の端々から伝わってきます。
山田さんがラフールを利用する親子に向けて、「ラフールを利用する期間は一時期だけでいいんですよ。例えば、夜泣きのひどい赤ちゃんがいて、お母さんは眠れない。でもその辛い気持ちを聞いてもらう人がいない。そういう時にラフールに来て、スタッフに相談したり、周りのお母さんたちとふれあって気持ちが楽になれば、私たちはとても嬉しい。だから、ずっとここに来なくても、好きな時に来てくれたらいいから、と、訪れる親子には伝えています」と言われたことが、私はとても印象に残りました。
子育ては母親一人が背負って、独りぼっちですることではないよと、以前ラフールのスタッフさんに言われた言葉を思い出し、また背中を押された気がしました。皆さんも、子育てに疲れたら、ほっと一息つきに、ラフールや一時保育を利用してみてはどうですか。自分を取り戻し、また子どもと向き合えることができると思います。
特定非営利活動法人
ワーカーズ・コレクティブ パレット
住所:〒225-0024
横浜市青葉区市ケ尾町1167-3 メゾンラフォレ105号
TEL/FAX 045-975-2309
Mail:palette2000@gaea.ocn.ne.jp
青葉区地域子育て支援拠点「ラフール」
住所:227-0062
横浜市青葉区青葉台1-4-6F
TEL:045-981-3306 FAX:045-981-3307
開所時間:火曜日~土曜日 10:00~17:00
休日:日曜、月曜、祝日、年末年始
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