絵本やお話を通して、自分の世界をどんどん広げていく山田麻子さん。6月の編集会議では、河童のお話を聞かせてくれてました。絵本から想像を膨らませて、甘納豆を川底の小石に見立てた手づくりの寒天ゼリー「川遊び」も振る舞われ、梅雨時に涼やかな風を届けてくれました。
麻子さんに紹介してもらった一冊はこちら。
西アフリカの大西洋に面したセネガルという国を舞台にした絵本です。西アフリカの女性たちはおしゃれな人が多く、ヘアスタイルにもこだわりがあります。大人の女性たちは硬い三つ編みをしたり、コインを飾りつけたり。主人公の女の子、ビントゥも大人のように素敵なヘアスタイルにしたくてたまりません。でも、おばあさんには「小さい子はまだ早い」と止められて……。
「本に出てくる洋服の柄が大胆で、色鮮やかできれいなんです。肌の色にも似合っていてかっこいいなぁって。セネガルの人たちは日本人とは全然違う髪質で、髪型でおしゃれを楽しむんだな、ってことをこの絵本で知りました。文化を知るのにもおすすめの絵本です」と麻子さん。
わたしはこの絵本を読みながら、息子と同じ保育園に通うおしゃれが大好きな女の子のことを思い出しました。日本から遠く離れた国の女の子も、同じようにおしゃれへのあこがれを持っているんだなと思うと、なんだか身近に感じました。
麻子さんのおしゃれトークでは「年とともに洋服も変わらないといけないのに、この年齢だと何を着たらいいかわからないっていう時期が続いているんです」と等身大な悩みが。本を通して、麻子さんが「これだ!」と感じるなにかに出会う日も遠くないかもしれません。
続いては、シンプルで潔い装いが印象的な牧志保さん。美的感覚が鋭い志保さんらしい3冊を紹介してもらいました。
まずはこちらの2冊。画集と画家のエッセイ集です。
「出てくる女性たちの装いを見るのが好き。真似をするわけではないけど、あこがれる。香水のいい香りのしそうな大人の女性のイメージ」と志保さん。画集を眺めながらリラックスする知的な志保さんの横顔を思い浮かべました。こういった画集やエッセイからも、志保さんらしさがつくられているんだな、と思うと、ますます志保さんにひかれていくわたしです。
もうひとつはこちら。森ノオト読者の方も、この雑誌の愛読者が多いのではないでしょうか。
この連載の第1回は、2011年早春号。「自分のスタイルをもつこと」というタイトルでした。「この回のエッセイがずっと心に残っている」と志保さん。
自分らしさを相手に印象づけるために、自分に合った洋服を着続けるのがいい、ということが書かれています。原さんは社会に出るときに、一つのスタイルを貫いたそうです。日本では若い時期に制服を着続けることが多いですが、制服を着こなすことが、自分らしいスタイルをつくる訓練になると綴っています。
女性のファッションは、枚挙にいとまがないほどのテイストがあり、トレンドがあります。そんな中で、自分らしさを表現するスタイルを一つ持っていることが、毎日の洋服選び、洋服を買うときの軸になることと思います。
編集会議ではこんな話も。志保さん、昨冬に一着のセーターとの出会いがあったそうです。森ノオトの記事でも紹介したことのある、小宮山ゆみこさん作の手編みのニットです。それまでセーターが苦手だったけれども、肌ざわりがよく、暖かく、冬はこの一枚があれば……と思ったそう。大切に扱うことで、どんどん愛着が湧くのを感じたそうです。一着の洋服が、自分と洋服との付き合い方を変えていく、ということがあるのですね。
さて、独自のスタイルのある人といえば、森ノオト事務局長の梅原昭子さんが思い浮かびます。冬は地下足袋、夏場は草履と足元も決まっています。「制服的に同じものを着たくて。20代後半に、流行に流される服選びはしません、と自分に宣言しました。そうやってここまできたので、楽!」と昭子さん。2冊の本を紹介してもらいました。
「おしゃれ、という枠に入れていいのか、どちらかというと異文化理解。何をおしゃれというのかの基準を揺さぶられる本です」と紹介してくれました。『働く女の靴下』の章では、ストッキングが登場します。わたし自身、はき心地は悪いし、よく破れるし、見た目にもなかなか好きになれないな、と思っていた服飾アイテム。心の中であいまいにとらえていたストッキングへの著者の考察が面白いです。「そもそも薄い靴下で素足を演出する行為の裏にある気持ちのどこかが馴染めない」と著者。世界中今昔とりまぜて服飾文化を旅している気持ちになります。
もう一冊はこちら。
「洋服文化で消えてしまった風景、音とか手ざわり、配色へのこだわりとか、なんかいいな~が下町に生きる女の目線から書かれていて、やはりいいです」と昭子さん。
この100年で和服文化が遠ざけられ、急ぎ足で洋服文化にとって代わられるなかで失われていったものが、時代背景とともに描かれています。何度も手にとり読み返したい一冊。
この本の主人公、明治の終わりに生まれたるつ子は、着心地に強いこだわりを持っています。好きな着物の一つが、手ぬぐいの浴衣の洗いざらし。
「軽く、しなやかで、るつ子の思うままになる。どんな運動にもさわりにならないし、夏の着物の中ではいちばん涼しかった。しなやかな布地なのに洗濯したあとは、肌に心地いい適当な固さがつく」。さまざまな着物地について細やかな描写が心地よく、素材や歴史の学びにもなります。
本の中では、繕う、ということが日常の風景として描かれ、森ノオトが使わない布の寄付を募って洋服や小物に仕立てている「AppliQué」のことも頭に浮かびました。この記事で紹介してる本の写真の背景には、AppliQuéのパッチワークのクロスをお借りしています。クロスで使われた布もまた、それぞれの物語を持ってAppliQuéの工房にやってきています。
原稿もまとめに入ろうとしたさなか、昭子さんから「最重要な本を忘れていた!と」連絡が。『わたしは驢馬(ろば)に乗って下着を売りにいきたい』(著=鴨居洋子、ちくま文庫)。この原稿では時間切れですが、昭子さんのおすすめなら、きっといい本ですよ。
とりとめのない「おしゃれBOOKs2019」でしたが、心に引っかかる本があれば、書店や図書館で手に取ってみてくださいね。装うことは日々のこと。紹介してもらった本を手にしながら、日々の小さな営みも、社会や世界、歴史とつながっていることを、あらためて感じました。本を通して、自分らしさを見つめるヒントになる出会いがありますように。
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