文=まんまるプレイパーク・一時預かり「さんぽ」西田清美 /写真=まんまるプレイパーク・一時預かり「さんぽ」
*このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー方式でお送りしていきます
私は、幸せなことに、自分の子どもたちが大きくなってからも、まんまる広場や「さんぽ」でたくさんの子どもたちと出会う機会をいただいています。
今回は、「さんぽ」の日常からから感じたことをお届けしたいと思います。
『いつのまにか』
先週も行ったまんまる広場へお散歩。
「きのう見つけたミミズをさがそう」(1週間前も3日前も子どもにとっては、きのう)と、階段下の柔らかい土を掘り始めたKくん。
「いたいた……」1週間分の太ったミミズが、出てくる出てくる。「いたっ」「こっちも」「私のバケツにいれて」「ぼくも……」「えっ、おれいらない。気持ち悪い……」
いつのまにか子どもたちが集まってきて、いつのまにかずっと泣きながら抱っこされてたGくんが、その輪に入ってミミズの観察をしていました。
そして、いつのまにか、素手で捕まえてみんなのバケツに入れてあげる役になっていたSちゃん。同じようにお世話をしたいHちゃんは、やりたくてもどうにもミミズを触ることができなくて、そのうちシャベルの上に乗っけることに成功。しかし、いつのまにか最後は、手で捕まえていました。
この「いつのまにか」の「ま」には、小さな心の葛藤がたくさんあるのだと思います。
子どもたちって収集遊びが好きなんですね。石ころやビービー弾やダンゴムシ、そしてミミズも……。大人は、卒倒しそうになります。そして8月。虫かごの中は、セミだらけの季節になりました。
『黄色いちょうちょ』
やっと夏らしい暑さの夏休みの1日。普段は、幼稚園に通っているRちゃんといつものメンバーSちゃんと私の3人で、虫とり網をもって出かけました。もう少しのところでセミを逃がしてしまった私を観察していたRちゃんとSちゃん。先に行ったあの青い帽子をかぶった人の方が、虫捕りがうまいのではないだろうか……。さっさと私に見切りをつけて、前にいる青い帽子のスタッフのところに行ってしまいました。
しばらくして、戻ってきた二人の虫かごには、セミと蝶が1匹ずつ入っていて、「西田さん、セミを捕まえるときはね、そーっとしないといけないんだよ」と、教えてくれました。私もそちらについていきました。青い帽子の人は、なりちゃんといいます。なりちゃんは、さすがでした。きれいなしっぽのカナヘビも捕まえちゃうし、セミもすぐに見つけちゃう。でも、子どもたちは誰も自分の虫かごに入れたがりません。
じーじー鳴くセミがこわくって。だからなりちゃんは、せっかく捕まえたセミをにがして、かわりにみんなの欲しがるセミの抜け殻を一緒に探していました。子どもたちの虫かごは、抜け殻でいっぱい。
そのとき、黄色い蝶がRちゃんとSちゃん二人の頭上をひらひらととんできました。
なりちゃんが、すばやく網で取ると「わたしのところにいれて」「わたしのところにいれて」と、さっき、虫かごの中の虫を逃がしたばかりのRちゃんとSちゃんが、必死になって、自分の虫かごを差し出していました。
「わたし」「わたしっ」Rちゃんの虫かごが、Sちゃんの虫かごよりなりちゃんの近くにありました。手前にあった虫かごに蝶を入れた後、なりちゃんは、「Sちゃんのもすぐ、見つけるよ」と言ったその時、私の目の前に黄色い蝶が。とっさに捕まえてSちゃんの虫かごに入れました。しかしSちゃんは、大泣き。しゃくりあげながら「これがいいの」と、Rちゃんの虫かごに入っている黄色い蝶を指さします。
Rちゃんは、「これは、わたしの」と言って、歩き出し、Sちゃんは、Rちゃんの虫かごに入っている蝶がいいと泣きながらついていきます。
そしてさきほど、勝手に入れられた自分の虫かごに入っている黄色い蝶にもなんだか腹が立ってきて、泣きながらSちゃんは自分の虫かごのふたを開けてその蝶を逃がしました。
おんなじ黄色い蝶……と思ったのは、大人でした。
Sちゃんは、最初になりちゃんが見つけたあの黄色い蝶を自分の虫かごに入れたかったのです。見た目は、おんなじ黄色い蝶は、ふたりにとって全然違うものでした。
黄色い蝶をRちゃんとふたりで見つけたときの感動、なりちゃんが虫網で採る時のどきどき。その蝶が、自分の虫かごに入れられたRちゃんの喜び。入れられなかったSちゃんの悔しさ……全部ひっくるめてRちゃんの虫かごの中の黄色い蝶は、二人にとってものすごく特別なものになっています。
「Rちゃん、この蝶々と交換してみる?」なんていう馬鹿な質問をしたのも私でした。
「しない。これはRちゃんの。だれにもあげない」。叫びに近い声でしっかり主張したRちゃん。それを聞いて涙があふれるSちゃん。
もう2人にかける言葉は、なくなりました。
Rちゃんは、「あげない」を繰り返し、Sちゃんは、「ほしい」を訴えながら 歩きました。
途中お茶を飲んで、さんぽに帰ってプールで遊ぼうということになり、Rちゃんは、蝶々を逃がすと言って虫かごのふたを開け。Sちゃんは、「次は、私のだからね」と、Rちゃんと話して、約束をして二人は、プールにまっしぐら……。
ほしかった黄色い蝶を一緒に逃がして、Sちゃんは、気持ちを次に進めることができました。SちゃんもRちゃんもいろんな感情が混ざって泣いて怒って自分自身でどうにかしました。
今回のエピソードは私自身の反省を込めたものです。大人は、雑です。
子どもの気持ちを軽んじていました。ごめんなさい。
子どもの世界にしかわからないことがあるんだな。
こんな時は、大人はそっと遠くで見守ります。
入りたいのを我慢して……この後の満足した子どもたちの表情が見たくて。
『保育室でよく見かける光景』
線路をつなげてもくもくとあそんでいる友だちのところにやってきて、つなげたばかりの線路を取っていく……。ダンプカーにブロックを積んだりおろしたりを繰り返しあそんでいるところに行ってそのダンプカーを力ずくで取っていく……。友だちがおままごとできれいに並べたご馳走を全部ひっくりかえして、鍋ごと持っていく……。
乳幼児が遊ぶ保育室でよく見かける光景です。
こんなことがありました。
イスに座って、楽しそうに絵をかいていたMくん。「これは、ドクターイエローでね。こっちは、のぞみ……」色鉛筆できれいに色を塗りながら、大好きな電車の絵を夢中になって描いていました。そこにやってきたLちゃん、いきなりMくんの描いた絵をぐちゃぐちゃにして、使っていた色鉛筆を全部持って行ってしまいました。Mくんは、かたまってしまいました。
「Lちゃんも絵が描きたかったの?では、こちらのテーブルでどうぞ」と、離れた場所でテーブルと椅子を用意して、紙と色鉛筆を出しました。この日は、朝からLちゃんは、M君の使っていたものばかりを取ってしまっていたので、少し距離を置いた方がいいかなと思ったのです。
別々のテーブルで絵を描き始めた二人。しばらくしてLちゃんが泣きだしました。最初は、シクシクと。だんだんワンワンと大きな声で泣き出してしまいました。何が起こったのかわからなかった私でしたが、Lちゃんのそばにいて、背中をさすりながら、はっとしました。「M君と一緒にやりたかったの?」「……うん」
絵が描きたかったのではなく、Mくんの楽しそうな様子が、ほしかった。朝からMくんのものばかり取っていたのも楽しそうに遊んでいるそのことに、魅力を感じていたのでしょう。
まだ2歳のLちゃん。Mくんと離れて一人で座ったとき、紙と色鉛筆があっても「ちがう。私の欲しいものは、これじゃない……」。それがうまく表現できずに涙が出てきてしまったのだと思いました。
その後二人は、一緒に絵を描きました。
子どもが、人の使っているおもちゃをとっちゃう場合、本当にそれが使いたいときと、遊んでいるときの嬉しそうな表情や、楽しそうに夢中になっている行為が、ほしいときがあります。後者は、おもちゃを取ってもそれに執着せず、ぽいってどこかにほっぽりなげて、また誰かの何かを取りに行くのです。
なんか深いです。人生に通じるものがあるような気がします。
保育室のすべてのクレヨンを集めて たくさんの紙を目の前にしてもぜんぜん楽しくなかったLちゃんは、Mくんと一緒に隣で絵を描けたことが、うれしかった。
大人だってうまく表現できない複雑な気持ちを小さな子どもが上手に伝えられるはずがありません。相手を困らせたり、自分が泣いたり、怒ったりしながら、そんな体験を繰り返して大きくなっていく。それが子どもだし、私たち大人もそんな子どもたちから学ぶことが、実に多いなーと実感する毎日です。
<まんまるプレイパーク>
毎週月・火曜日 毎月第2・4日曜日 11時から17時
今年度は、第4金曜日14時から17時 ごごまるもやってます。
夏休みは、1日中ウォータースライダーで朝から夕方まで子どもたちの歓声が上がっています。
<都筑区鴨池公園内まんまる広場>
秋はイベント盛りだくさん ブログやフェイスブックを見てね
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<一時預かりぽっぽ・さんぽ>
9月から10月「ちょこっと子育てレスキュー隊」という取り組みの中で、
出張一時預かりを行います。
場所:都筑区大熊町大熊公民館
日時:毎週水曜日 9時から12時 13時から16時
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