佐藤初女さんの、おむすびを体験し味わう|「おむすびの会」主宰tetotetoさん
「食べる」という営みを通じて、助けを求める人々を癒し続けた佐藤初女さんをご存じでしょうか。初女さんの「おむすび」のエッセンスを伝える活動を行うtetotetoのおふたり、いのうえゆみこさん、みぞぐちゆうこさん。お米を洗い、炊き、おむすびを結び、食事をともにする「おむすびの会」に参加してきました。(森ノオトライター:村上章子)

まっくろツヤツヤ、ふんわりほろり。はじめて味わう、おむすび

 

町田市のマンションの一室で定期的に行われている「おむすびの会」。出迎えてくれたのは、メガネとおそろいのエプロンがトレードマークのいのうえさんとみぞぐちさん。室内には明るい光が差し込み、中央には縦長の大きな木のローテーブルが置かれています。

今日の参加者は私を含めて4組。リピーターという、2歳のお子さん連れの方もいらっしゃいました。私も「おむすびの会」は2度目になります。一昨年の夏、娘が通う保育園のお母さん達とtetotetoのおふたりをお招きして、初女さんのおむすびのエッセンスに触れる機会を得ました。その時の穏やかな時間がとても心地よく、初女さんのお米の洗い方に倣って自宅で炊いたごはんの味、おむすびの美味しさに驚き、より深くtetotetoさんのお話を伺ってみたい!と思ったのです。

いのうえゆみこさん(左)とみぞぐちゆうこさん(右)。横浜市都筑区にある幼稚園「りんごの木 子どもクラブ」に子どもが通うお母さん同士として出会った、20年来の友人です

 

テーブルにはステンレスのボウルが置かれています。ひとつにはお米、もうひとつには水が入っています。みぞぐちさんが、お米の入ったボウルの端をつたうようにゆっくりと水を注ぎはじめました。静かにお米を手に取り、両手で包むようにして洗います。その場の空気が、ふっと変わるのが伝わってきます。時間が止まったような不思議な感覚に包まれました。

お米は3回洗います。水分量は少なめで浸水は30分。この水加減と時間がお米のもつ力を引き出し、しっかりしたごはんに炊き上げるコツ

 

「初女さんは、人と対話するようにお米をじっと見つめていました。お米をよく見て、その日の水加減を調整します」とみぞぐちさん。
お米が炊き上がったら、天地返しはしないのが初女さん流。寿司桶にうつして粗熱をとったごはんをお茶碗によそい、まな板のうえにかえして、ほぐした梅干しを中央にのせます。

炊きあがったお米は、ふんわり空気が入るように薄く削ぐようにすくって寿司桶へ

 

ごはんの中央にくぼみをつくり、ていねいに箸でほぐした梅干しをのせます

 

「おむすびを結ぶときはたなごころを使うのよ」と初女さんは言われたそうです。

「たなごころを合わす」という言葉には、手を合わせて祈るという意味があります。おむすびを結ぶことは、祈り。そんな初女さんの思いが、おむすびには込められているのですね。

 

お米の粒をつぶさないよう、ふんわりと。でも、崩れてしまわないように“たなごころ”を使ってしっかり握ります。思わず見入ってしまう、おむすびを結ぶみぞぐちさんの手。やさしく穏やか

 

海苔にくるまれた、まっくろでツヤツヤのおむすびの出来上がり!お米が呼吸できるようにタオルやふきんで包むと、時間がたっても美味しくいただけます。ぜひお試しを!

 

初女さんのおむすびは、ほろりと口の中でほどけます。ふんわりとしていながらお米の粒は噛み応えがあり、ごはんの甘みが強く感じられました。ひとくちごとに、ゆっくり時間をかけて味わいたくなるおむすびでした。

 

「食」が繋いだ、子育て中の出会い

 

「食」を通して友情をはぐくみ、今も夢に向かってともに活動するtetotetoのおふたり。出会って20年、「おむすびの会」を主宰するまでの、いのうえさんとみぞぐちさんの「歴史」と初女さんへの思いを伺いました。

「おむすびの会」でのおふたり。長年連れ添った夫婦のように!?息もぴったり

 

「りんごの木 子どもクラブ」でおふたりが出会った頃、いのうえさんはひとりめの子育て中でした。食はもちろんのこと、肌に触れる衣類など、あらゆることに徹底的にこだわって生活をしていたそうです。当時は今ほど身近ではなかったオーガニック食材をとり入れ、玄米菜食にも挑戦。

「とにかく良いと思うことは全部試しました。やり尽くした時に、これは良い、悪い、とチェックする生活にすこし疲れてしまったんです」と笑う、いのうえさん。

「ふたりめの育児の頃にはひとまわりして、頭で考えて食べるのではなく、美味しく食べることに価値観が戻りました」

一方のみぞぐちさんは、オーガニックや玄米菜食などにこだわりはなく、毎日の食事作りを楽しんでいました。
「人気の料理本を参考に子どものお弁当を作ったり。お料理以外にも編み物をしたり、とにかく手先を使うことが好きなんです」

子育てをしながら毎日の生活を楽しんでいたという共通点はあるものの、食に対するアプローチは異なるおふたり。親しくなったきっかけは幼稚園の運動会でした。

うずらの玉子やウインナーで作られたチューリップの花など、可愛らしくていねいに作られたみぞぐちさんのお弁当を目にしたいのうえさん。「この人は料理好きだな」と直感したそうです。

 

「それで、ナンパしたんです(笑)」

「天然酵母のパンを焼いたよ」
「コッツウォールド・アップルケーキを作ったよ」

そんな甘い誘惑でみぞぐちさんを自宅に招いたいのうえさん。ほどなくして、パンやお菓子を手作りしてはお互いの自宅を行き来するようになりました。

「ゆみこさんに育てられたと思っています」と、みぞぐちさんは言います。

いのうえさんは、ストイックに実践して得た経験から「どんな人とどんなふうに食べるか」の大切さに気付きました。みぞぐちさんとの時間は、ほっと心が緩むひと時になったそうです。

 

魂が震えた、初女さんとの出会い

 

tetoteto」としてのはじめての活動は、りんごの木のバザー。それから15年ほどの歳月を経た201411月。いのうえさんとみぞぐちさんは、佐藤初女さんに出会います。

川崎市子ども夢パーク内にある「フリースペースえん」で行われた「おむすびの会」でのことでした。当時、初女さんは92歳。部屋に入ってこられた時の息をのむような存在感に、いのうえさんとみぞぐちさんは初女さんの姿から目が離せなくなりました。

ゆっくりと両手で包み込むように洗い、対話するようにお米をじっと見つめて、その日の水加減を決めます。特別なものではなく、その場にあったお米と炊飯器を使って、初女さんはおむすびを結びます。

「全然、違う……

いつもの場所でいつものお米を口にしたとは思えない美味しさに、ふたりとも衝撃を受けました。

「まさに奇跡のような体験で、魂が震えました」と、みぞぐちさんは言います。

初女さんのおむすびのエッセンスを伝えたいという思いから、20152月にtetotetoによる「おむすびの会」がはじまりました。その年の7月に、いのうえさんとみぞぐちさんは青森県岩木山麓に佇む山荘「森のイスキア」へ向かいます。

佐藤初女さんの著書の数々。『限りなく透明に凛として生きる』(著:佐藤初女、ダイヤモンド社、2015年)(左上)は、「森のイスキア」訪問時にいのうえさんが初女さんにいただいた思い出の本

 

この地で初女さんは、助けを求めるすべての人を迎え入れ、話に耳を傾け、生活を共にしていました。「美味しいと感じたときに、人は心の扉を開く」との思いから、おむすびと山菜などの家庭料理をつくってともに食卓を囲み、多くの人を再出発へと導いていたのです。

「ゆっくり食べましょうね」

初女さんが全員分のごはんをよそい、一緒に時を過ごしました。
「おむすびの会の報告をすると、初女さんはうすまらないようにねと。いくつもの意味がある大切な言葉をいただいたと思います」と、いのうえさんは言います。

あの日の感動、気持ちを忘れないように。変わることなく淡々と。おふたりが、初心を忘れないように思い出している言葉です。

 

「おむすびの会」に流れる時間を、日々の生活に

あわただしい毎日のなかでの食事作り。「おむすびの会」に参加して、いかに時短できるかに意識が向いていた自分に気付かされました。

「ゆっくり動くと、呼吸が整って息が楽になりますよ」と、みぞぐちさん。
「毎日同じことをていねいに繰り返し行うと、その人それぞれのなかに経験が積み重なって、自分だけの感覚が育っていくと思うんです」

おむすびを結ぶという行為をていねいに行うと、いつの間にか集中力が増していくのを感じました。おだやかな気持ちで、今、目の前の物事に意識を向け続けていくことの大切さを、あらためて発見したように思います。

「とはいっても、いつもこれだけ時間をかけて何かを行うのは難しいのが現実ですよね」とtetotetoのおふたり。

だからこそ、お米を炊くとき、おむすびを結ぶときだけでも、ここで過ごした時間を思い出してほしい。そんな思いで「おむすびの会」を続けています。もう一度あの時間を体験したい!という、リピーターも多いそうです。

おむすびと具沢山のおつゆをいただき、いのうえさん、みぞぐちさん、参加者の方々と子育てや食についてお話し、穏やかな満ち足りた気持ちで帰路につきました。

 

2回目の参加という薗田由紀子さん。2歳(取材当時)の娘さんと

 

食を通した癒しの力を信じ、人々の救いに生涯を捧げた初女さん。「美味しいと感じた時に、人は心の扉を開く」という初女さんの言葉を身近に感じることができました。

「おむすびの会」に流れる時間が恋しくなる頃、今年も家族や友人を誘ってtetotetoのおふたりに会いに行きたいと思います。

 

 

Information

「おむすびの会」開催スケジュール
215日(土)
219日(水)
318日(水)
419日(日)

時間:いずれの会も11時から13時半まで
参加費:3,000円(税込)

場所:町田市のマンションの一室で開催

申し込み:tetotetotanoshi@yahoo.co.jp
お申込みいただいた方に、詳細住所をお知らせします



tetotetoプロフィール◆
いのうえゆみこさん、みぞぐちゆうこさんによる食の活動を行うユニット。約20年前、子どもが通う幼稚園のお母さん同士という縁で出会う。「森のイスキア」を主宰されていた佐藤初女さんのおむすびのエッセンスを伝える「おむすびの会」を、2014年より定期的に開催。今後は「おむすびの会」に加えて、気軽に立ち寄れる居心地の良い場所をつくりたいと考えている。

 

いのうえゆみこ

1968年、横浜市生まれ。町田市在住。一女一男の母。

大切にしている初女さんの著書は、『いのちのエール初女お母さんから娘たちへ』、『限りなく透明に凛として生きる』最近の関心事は、白菜の塩漬けの発酵のさせ方と、おむすびの会をどう広めていくかを思案中。


みぞぐちゆうこ

1972
年、盛岡市生まれ。横浜市青葉区在住。二男、一女の母。

大切にしている初女さんの著書は、『佐藤初女さんの心をかける子育て』。最近の関心事は、毛糸の靴下を編むこと。きれいな色の毛糸をみかけると編みたくなってしまうので、あと手が6本くらいほしいなーと思っている。


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佐藤初女さん◆
1921
年青森県生まれ。83年、自宅を開放して「弘前イスキア」を開設。92年には、岩木山麓に「森のイスキア」を開く。助けを求めるすべての人を無条件で受け入れ、食事と生活をともにすることにより、多くの人を再出発させていた。20162月没。
95
年に公開された映画『地球交響曲〈ガイアシンフォニー〉第2番』で活動を紹介され、国内外で講演活動を続けた。『おむすびの祈り。』『いのちの森の台所』など、著書多数。

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