昨年10月に発生した台風19号は、各地に甚大な被害をもたらしました。マンションの1階に住む私は危機感を覚えて、養生テープや水嚢などの台風対策をし、当日の夜は上階の駐車場へ避難しました。車中で冷えたおにぎりを食べながら、温かいお茶やみそ汁を用意しておけばよかったなぁ、と切実に思いました。幸いわが家周辺に被害はありませんでしたが、ふだん使っている駅周辺や、多摩川に近い地域は深刻な浸水被害に見舞われました。
その経験もあり、災害時の料理方法を学びたい!と思い、ネット検索で見つけたのが「ポリCOOK」でした。実際に講座を受講して、簡単で便利でおいしい、の三拍子に感動を覚え、森ノオト読者の皆さんにもポリCOOKの魅力を伝えたいと思いました。
「ポリCOOK」とは、料理や整理収納など暮らしを豊かにする講座などを主宰している、Start Kitchenの代表を務める森下園子さんが設立した任意団体です。パッククッキングやポリ袋料理と呼ばれる、ポリ袋に食材をいれて湯せんする調理方法のことも、講座ではポリCOOKと呼んでいます。森下さんはポリ袋料理のレシピの研究を重ね、2018年にポリCOOKを立ち上げました。ポリ袋料理の魅力を伝える講座を開催しながら、講師の育成にも力を注いでいます。
ポリCOOKの主な特徴は二つあります。一つ目は、湯せんが可能と表示されているポリ袋の使用を推奨すること。講座では、ポリ袋の種類や選び方を詳しく学びます。二つ目は、味にこだわっていること。管理栄養士の阿部美恵子先生が監修を行い、どのレシピも、誰もが食べやすい味付けで、災害時に不足しがちな水分や栄養が摂取できるように考えられています。
神奈川県内でポリCOOK講師として活動する河原みきさんのポリCOOK基礎講座の様子を取材してきました。講座が開催されたのは、川崎市麻生区にあるCafé Sante。河原夫妻は、普段はからだに優しい素材にこだわったお弁当の販売を中心に、地域のコミュニティカフェや防災イベントで、みきさんはポリCOOK講師、夫の義文さんは防災士として活躍しています。
講座では、初めにポリ袋の種類と選び方を詳しく学びます。
ポリCOOKで推奨しているポリ袋は、耐熱温度が110度まで可能で、0.01mmの厚さがある厚手のものです。使用できないポリ袋や、推奨されていないポリ袋の説明があったので、受講生の皆さんは見て触って納得していました。「ポリ袋は、マチの有無や、冷凍やレンジも可など色々な特徴があります。米はマチがあると取り出しづらいのでマチ無しの袋、作り置きは冷凍可など、使い分けをするとよいです」(河原先生)。そして災害時、調理後の袋は放置しておくと悪臭の元になるので、災害用トイレで使用するような防臭袋に捨てるように、とアドバイスがありました。
次に、鍋に湯を沸かします。
鍋にポリ袋が直接つかないように、鍋よりひと回り小さな耐熱皿を敷き、6~7分目の水を入れて湯を沸かします。「一般にカセットコンロ本体の寿命は10年、ガスボンベ(新品未使用)は7年が使用期限の目安といわれます」と河原先生のちょっとした豆知識にも、参加者は驚いていました。
この日のメニューは豚丼と鮭のボイルです。
まず、食材と調味料をポリ袋に入れていきます。災害時に食べ残しはNGです。ポリ袋1枚に1人分の分量だと、食べきることができて、加熱むら無く上手に作れます。食材と調味料を入れたら空気を抜いて真空状態に。浸透圧により、少ない量の調味料で十分に味付けが可能なので、減糖、減塩にもなります。
全ての料理が同時にできあがりました。ごはんもおかずも、できたての熱々な状態で食べられるのも嬉しい点です。
「災害時には、水が不足しているかもしれません。米はお茶やジュースでも炊けます。お茶は種類を選ばずおいしく炊けます。カルピスは酢飯に近い味になります。防災食でおなじみのアルファ米も、水だけではパサパサですが、ポリCOOKすると、食べやすくなりますよ」(河原先生)。
受講生に講座の感想をお聞きしました。
普段管理栄養士をしているという志賀さんは、
「ポリ袋をゆでて、ケミカルなものが出てきたら嫌だな、と思っていたけれど、安全なポリ袋の選び方や使い方を教えてもらえたので良かったです。お米を炊いたポリ袋をそのままお茶碗に入れて食べれば、お茶碗を汚さないなど、防災の知恵も学べました。栄養を逃さないのも良いですね」と話していました。
主婦の藤枝さんと間瀬さんは、
「豚丼は焼き肉のたれで作ったと思えないほどおいしい。洗い物がなく、鍋に入れたらほったらかしなのが良い。時間差で食べる家族の食事にも対応できそう。早速やってみたい」と話していました。
講座の最後に河原先生からこんなお話がありました。
「災害時に備えて、普段からポリ袋料理を作り慣れておくことは大切です。また、米を炊くときの水の量は手首まで、ツナ缶に満タンで何ccになるのか、など身近なものを計量カップ化しておくと災害時にも困りません」。
また、普段使いのポリCOOKとして、アレルギーの子どもの食事を、袋を分けるだけで作れること、冷めても味が良いので少量多品種のお弁当のおかず作り、仕上がりが柔らかいので離乳食や介護食、ペットの食事作りに使えることなどを教えてもらいました。
今年の4月から河原先生は、ポリCOOKの新設講座であるペット部門を担当するそうです。手作りのフードを食べている犬は、市販のフードを食べなくなりがち。でも災害発生直後はペットの食事まで気が回りません。「ペットのポリCOOKは、完全栄養食品であるドッグフードのトッピングとして、食事の楽しみやちょっとした不調を整える役目です。災害時は、ペットもストレスを受けて、食欲不振になることも。ドライフードにポリCOOKしたウェットなささみや胸肉をトッピングしてあげると、水分や栄養補給になります。ペット防災の観点からは、ドライしか食べていない子もウェットなフードに慣れておくのが良いと思います」(河原先生)
ポリCOOKのホームページには、基本の調理として、お米の炊き方が詳しく掲載されています。また、レシピ紹介ウェブサイトの「クックパッド」では、ポリCOOKの70のレシピが掲載されています。また、農林水産省のホームページからもポリCOOKのレシピを見ることもできます。
ごはんやおかずだけではなく、パスタやスイーツなども簡単に作れて、アレンジも無限大。私は自分一人の昼食を作るのが面倒で、あるもので済ませがちでした。ポリCOOKレシピで一番人気の、ツナトマトスープパスタを作ってみたら、簡単においしくできて、とても満足感を得ることができました。自分1人分のご飯も手軽に炊けるので、ダイエットにも使えるな、と思っています。
災害時には心身ともにあたたまる食べ物が必要です。
皆さんも食の防災訓練として、ポリCOOKしてみませんか?
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