全国からトンボ好きが集まり、さまざまな視点からトンボの魅力や自然環境などを考える「全国トンボ・市民サミット」が2019年9月、横浜を会場に開かれました。横浜大会の1日目に行われた見学会は、新横浜駅に集合し、バスで横浜市内のトンボスポットを巡ります。
北と南の2コースが用意されており、私たちは市内の南を回るツアーに参加した。第30回の記念大会を盛り上げようと、横浜市内でトンボや環境をテーマに活動する市民団体だけでなく京浜臨海部の企業、大学や高校などの教育機関や専門家、市や区などの行政関係など、40を超える関係者や協力団体がこのために実行委員会を組織し、1年以上をかけて準備を重ねてきました。トンボにまつわる多様な取り組みの現場を見て回れるのが1日目の見学会の醍醐味です。イベントは、この1日目の見学会から始まり、夜のウエルカムパーティー、2日目の講演会と分科会、分科会発表、次回開催地の決定と続きます。
私たちが参加した南コースには最終目的地の瀬上市民の森での「黄昏のヤンマ取り大会」が予定されています。ギンヤンマを捕まえることが目標の7歳の息子と、とにかくトンボを捕まえてみたいという5歳の娘とともにバスに乗り込みました。南コースに参加したのは鹿児島や滋賀など全国からの参加者を含む53人です。
本牧市民公園は1969年に開園した約10ヘクタールの総合公園です。かつて海岸段丘と砂浜だった地区が埋め立てられて誕生しました。園内北側にあるトンボ池は、埋め立てにより失われた本牧の自然を子どもたちに伝えるため市民が主体となって作り上げたもので、1995年には国土交通省の「手づくり郷土賞」を受賞しています。トンボ池の管理は「横浜にとんぼを育てる会」がおこなっていて、ヤゴの放流、田植えや稲刈りなど環境教育のイベントも開催されています。トンボ池整備前には5種だったトンボが1994年までに延べ26種類が確認されるなど成果はあるものの、水位の問題や水草の管理に苦心しており、定期的に整備やリニューアル工事を繰り返しているそうです。
次に向かったのは横浜市金沢区にある長浜公園です。この公園は高速横浜横須賀道路を挟んで北側と南側の二つに分かれ、北側には野球場をはじめとした運動エリア、南側には人工干潟のある汽水池を中心とした野鳥観察園があります。(公財)横浜市緑の協会とサカタのタネグリーンサービスグループが指定管理者となっています。
園長の黒瀬温さんにご案内いただいたのはバックヤードにあるトンボ池。施設内に入った途端、「捕まえた!」7歳の息子がやりました。シオカラトンボを2匹連続でゲット。多くのトンボが飛び交っています。オオシオカラトンボやショウジョウトンボ、ウスバキトンボ、秋にはアキアカネなどが飛ぶそうです。ギンヤンマが飛ぶこともあるそうです。「先日は2時間で50匹が捕まえられました」と黒瀬さん。ただし、こちらのトンボ池では生物を採取してもよいが持ち帰りは禁止されています。
長浜公園では、近隣小学校のプールの水抜き時にヤゴを救出する「ヤゴの救出作戦」をおこなったり、トンボ池で育てた稲の「稲作体験」など、トンボに関連するイベントを定期的に行なっています。
また、野鳥観察園の汽水池は水路で海とつながっていて、潮の満ち引きにより水位が変化します。そばには湧水を利用した淡水池もあり、多くの生き物が暮らしています。園内には4つの野鳥観察小屋があり、来園者は体を隠し小屋の穴から野鳥などを観測します。
次の目的地、金沢自然公園からは、山越えルートで瀬上市民の森へいくという健脚コースが用意されていました。たくさんの自然の生き物をみたいと考えた7歳の息子はどうしても山を行きたい、お昼寝モードの5歳娘はバスで行きたいと言い、意見が分かれました。結局7歳の息子を同行するみなさんにお願いし、5歳の娘とバス移動をすることに。
小学一年生の息子を1時間の山越えルートに一人で行かせ、本人が大丈夫か、周囲の方の負担になっていないか、心配しながらもバスで瀬上市民の森の近くまでバスで移動しました。山から降りてくる徒歩組と合流する広場に向かうためゆっくり沢のそばをハイキング。周囲の方がたくさんの生き物を発見し、見せてくださいました。蛇やカマキリの姿もありました。
そうこうしているうちに集合場所の瀬上市民の森、池の下広場に到着し、徒歩組とも合流。「サワガニがいた!」と元気に7歳息子も山から降りてきて一安心。ここからは「黄昏のヤンマとり大会」です。このヤンマ取り大会は開催12年。瀬上市民の森を会場にして「ふるさと侍従川に親しむ会」が中心となり開催しています。
「子どもに捕らせてやりたいと思うのは間違いです。大人が本気出して捕りましょう」との呼びかけでヤンマ取り大会が始まりました。子どもも大人も網を構えてトンボを待ちます。「トンボは前から捕まえたら避けられる。後ろからすくうのがコツ」とのこと。注目はコバルトブルーのマルタンヤンマが現れるかどうか。日が落ちる前のほんのわずかな時間に飛び始めるのだそうです。ヤブヤンマやコシボソヤンマ、ハグロトンボなどが捕獲されました。
瀬上市民の森は市内最大規模の豊かな森。木々やため池、小川、湿地など多様な自然環境が集まった里山です。谷戸には田んぼがなくなっていた時期もありましたが、瀬上さとやまもりのみなさんの手で水田を復活。減少していた生き物がまた戻ってきたと言います。
日が落ちてきたのでヤンマ取り大会は終了。マルタンヤンマは、姿は見られたものの捕獲ならず。7歳息子は、バッタなどは捕まえたものの上空のトンボは捕まえられず。しかし多くのお兄さんお姉さん世代や年の離れた大人たちと一緒になって、虫取り網をかまえて空を見上げた経験は、彼にトンボとりの奥深さを教えてくれました。暗くなる前に森を出て、見学会は終了しました。
今年の本大会は、トンボスポット見学会の次の日に、あーすぷらざ(神奈川県立地球市民かながわプラザ)で基調講演と分科会が開かれました。
基調講演では「かいぼり」活動を行うNPO birthの久保田潤一さんと山梨県の印傳博物館の出澤忠則さんが話しました。分科会は「子ども」「連携」「横浜のトンボ今昔」をテーマに部屋を分かれて議論が深められました。
本大会では、公園管理者たちの情報交換、次世代を生きる子どもたちが興味を持つ地域活動や学校での活動、生物学的な研究、意匠としての文化や歴史などが紹介され、議論されました。トンボに関連するさまざまな生き物の連鎖から感じられる生物多様性、そこに関連する私たちヒトや企業の活動など、そのどれもが深い世界を見せてくれました。
また横浜で生まれたこのトンボサミットが全国に広がり、30年もの間続いて、連携団体が拡大していることにも驚きました。
子どもと一緒にトンボを追いかけられる空と自然が残っていること。トンボというテーマは、子どもを含め誰もが親しみをおぼえ近づきやすく、生物多様性や自然の大切さに気がつく入り口になります。私も子どもとともにトンボを追いかけ、考えてみよう。トンボに果てしない興味と可能性を感じたトンボサミットでした。
トンボという一つの生物から多くの可能性が広がっています。
全国トンボサミット
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