今から1年半ほど前のこと。森ノオトの拠点である「森ノハナレ」に鴨志田地域ケアプラザの生活支援コーディネーター・鴨志田真理子さんが訪ねてきてくださいました。「一緒に地域の福祉を支える何かができないか?」、そんな提案を受けたことから関わりが始まりました。子育て世代のスタッフが中心となって活動をしている森ノオトが、地域の“福祉”とどうつながっていくとよいだろうか……。そこでまずは実験的にと始まったのが、2019年1月に初開催した「かもしだ小さなマーケット」(2020年1月より名称を「いいかも市」に改称)でした。
初開催の日のことをよく覚えています。
鴨志田町の住宅街でやる小さなマーケットに、果たして人が来てくれるのだろうか……。というスタッフの不安をよそに、オープン前から訪ねてくれたのは、地域の民生委員さんや学校地域コーディネーターさん、森ノオトのお裁縫講座に興味を持ったというご高齢の方……森ノオトがまだ出会ったことのなかった、この地域に長く住まわれている方々が訪ねてくれたのでした。その方々が口々に「鴨志田さんから聞いて来たのよ〜」と話していました。
鴨志田地域ケアプラザ・生活支援コーディネーターの鴨志田さん。鴨志田町出身というわけではありませんが、同ケアプラザで勤務されているのが偶然とは思えないほど、この地域の人たちから絶大な信頼を集めています。かもしだ小さなマーケットの開催を重ねるたびに、鴨志田さんやケアプラザのスタッフさんたちが、「こんな場があるよ」と新しい方を呼び込み、人と人、人と場をつないでくれています。少しずつですが、その場に集うスタッフ、出店者、お客様の顔と顔がつながり、関係性が広がってきているという実感を伴う場になってきました。
地域ケアプラザってどんな場所?
ところで、森ノオト読者の皆さんは、「地域ケアプラザ」がどんな場所かご存知でしょうか? “ケア”という言葉のせいか、子育て世代にとってはまだ縁遠い施設だと思っている方も多いのではないかと思います。私もそう思っている一人でした。マーケットを一緒に開催している地域のパートナーとして、鴨志田地域ケアプラザの取り組みについて詳しく話しを聞いてきました。
地域ケアプラザとは横浜市が独自に取り組んでいる施設で、乳幼児から高齢者まで、障害のあるなしに関わらず場を開いています。地域に住む誰もが安心して暮らせるようにと、福祉・保健活動や交流の場としてさまざまな取り組みを行っています。1991年に制定された横浜市ケアプラザ条例に基づいて、中学校区に一つの割合で設置され、現在市内に139カ所あります(2019年12月現在)。運営は指定管理者に委任され、民間の社会福祉法人などが管理運営を行っています。
青葉区内には12カ所のケアプラザがあり、鴨志田地域ケアプラザは2004年1月に開所し、社会福祉法人ふじ寿か会が運営しています。中里北部地区と呼ばれる青葉区の鴨志田町、寺家町、成合、たちばな台の一部が同ケアプラザの管轄エリアです。
「地域の誰もが主役。私たちは黒子だと思っているんです」。ケアプラザの役割を鴨志田さんはそう語ります。約40名のスタッフで、福祉の総合相談窓口としての「地域包括支援センター」、趣味や交流の場を提供する「地域活動交流」、「生活支援体制整備事業」、通所介護の「デイサービス」、在宅介護のケアプランの作成や相談などを行う「居宅介護支援」の5本柱で運営しています。同館に来られない方に向けて、町内会館やたちばな台まちなかクラブでの出張講座・相談等も行なっています。子育てから介護、生活相談、趣味、健康などなど、平たく言うなら地域の「よろず相談所」のような存在なのです。
「午前中は趣味を楽しむために部屋を借りて活動している方が、午後はボランティアとして別の活動に参加する方もいるんですよ。特技のある方には、それを生かせる場があるよと団体につないだりします」と鴨志田さん。毎月の利用者数は延べ600人、団体利用登録は62団体と、毎日多くの方が訪れています。開所から関わって来た鴨志田さんは、現在のにぎわいに感じる嬉しさも人一倍です。
毎月発行している広報誌「鴨めーる」は、寺家町に住む我が家にも町内会の回覧板でまわってくるので、毎回、どんな企画があるのかとチェックするのも密かな楽しみです。裁縫やお花、歌声喫茶、お茶、体操教室、健康麻雀などの趣味の講座の紹介が毎回ずらり。もちろん年配の方向けだけでなく、親子のひろば「かも☆ん」や多世代が交流できる「かもマチ食堂」など子育て世代が参加しやすい企画も充実しています。「多世代に場を開いているので、親子のひろばにご高齢の方が来てくれたりすることもあるんですよ」(鴨志田さん)
鴨志田さんの生活支援コーディネーターというお仕事は、「地域支えあい支援員」とも呼ばれ、地域のさまざまな団体や施設と協議して、地域の支えあい活動をつなげるための調整をしていくお仕事です。ケアプラザを訪ねてくる方を受け入れるだけでなく、地域を自転車でまわってさまざまな会合に顔を出したりしながら、誰がどんなことに困っているのか、何があったら外に出られるのかなど、人との会話の中からリサーチしていくのも鴨志田さんの役割です。
「青葉区は都会的な印象を持っている方も多いのですが、じっくりと人を見ていると、常に地域のことに関わっている方、子どもから年配の方まで世代を超えてつながりを持っている地域の有名人がいたり。人のあたたかさを感じることができたり、自然も近くて子育てしやすい地域なのだと感じるんです」。地域を丁寧にまわっている鴨志田さんの頭の中には、エリア的な要素だけでなく、「あの人」が「どこに」住んでいるか、といった「人」のマッピングがされているかのようです。
そんな鴨志田さんから、この地域のキーパーソンとして二人の女性を紹介してもらいました。「野土花(のどか)むら」という世代間交流の場で、初代村長を務めた三好みどりさん。そして「ひろがりサロン」というボランティア主催のデイサービスを立ち上げ、初代代表を務めた黒木まち子さん。お二人とも同ケアプラザを拠点にして、地域の人とつながり合う場をそれぞれにつくってきました。
同ケアプラザができる際に、「どんな施設ができるの?」と地域からはさまざまな声があったそう。地域住民への事前説明会や準備会から参加していたという三好さんは、建物を内覧した際に、「こんなに充実した施設なら、地域の人がフルに使わないともったいない!」と感じたと振り返ります。黒木さんも、「行政のニーズと住民の思いがマッチしたんでしょうね。三好さんたちと何度も顔を合わせて、どんなことをしていこうか、活動が始まったらどんな風に運営しようかと話し合っていきましたね」。お二人ともご自身のお子さんが小学生や中学生の頃から地域での福祉活動に興味をもたれてきました。地域ケアプラザという拠点ができてからは、自分たちが必要だと思う居場所づくりに力を注いできたそうです。その当時のことを振り返りながら、懐かしそうに顔を見合わせていました。
黒木さんは、現在も同ケアプラザで毎月1回開催されている「かもマチ食堂」の運営に携わったり、鴨志田緑小学校の学校地域コーディネーターを務めたりと、まだまだ地域をかけまわる日々です。「長く活動していると煩わしさももちろんありましたけど、私のようにこの地域に新しく移り住んだ人たちにとって、地域や人と接点を持つきっかけとして、ケアプラがあったことは大きかったです」(黒木さん)
地域ケアプラザは、参加する・利用するだけでなく、地域活動を主体的につないでいく担い手が生まれる場であることをお二人のお話から感じました。
地域のセーフティーネットを強くするために
地域の福祉・交流拠点の場としてこの鴨志田の地域に確かに根をおろしてきた同ケアプラザ。同時に鴨志田さんは課題も感じているそうです。
「高齢化による地域活動の担い手不足や次世代への継承の方法を地域の方と話すことがあります。また多問題で背景が複雑化していることも事実。本当に困っている人が見えづらいと感じることもあります」
そこで同ケアプラザでは、「まちの人だけでは解決できないことも、地域にある民間企業やNPO、相談機関などと手をとりあって、地域の課題に気づく機能を増やしていけたら」と、「中里北部地区 気づきの和連絡会」という取り組みも始めています。
「困っている人を発見するアンテナがたくさんあることで、セーフティーネットの網目を細かくしていきたい」。思い描く地域福祉の未来像は、だれ一人も取り残さない社会。ゆっくりと確かな言葉で鴨志田さんは話してくれました。
「地域のことが知りたい」
「子育て、介護、暮らし、健康のこと、相談できる人がほしい」
「ふらっと行ける居場所がほしい」
そんなあなたを、地域のよろず相談所・鴨志田地域ケアプラザが待っていますよ。
鴨志田地域ケアプラザ
https://www.fujizuka.com/plaza/
*新型コロナウィルス感染拡大防止のため、4月12日まで休館となっております。開館情報はホームページでの確認やお電話などでお問い合わせください。
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