大きな空の下の、ちいさな なかまたち。 ~風や鳥に、背中をおされて~
青葉区のゆたかな自然の中で、季節の移り変わりを心とからだいっぱいに感じて育ち合う「NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ」。安心できる場で一人ひとりの意思と個性を輝かせて遊びこむことで、だれでも子どもは自ら育ちゆく「力」を発揮します。コロナの状況下でも、子どもはいまを生きている。6月のできごとから、そんな素敵な力をお伝えできたら嬉しいです。

文=NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ保育士・土井三恵子 / 写真=NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ
※このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー形式でお送りしていきます。
 

山のてっぺんの神社に、つんざくような泣き声が響きました。ここのところ、大人に少しでも行動を止められると、火がついたように泣き叫ぶことの多い、コウくん。年少さんで4歳になったばかりの、「遊びたい気持ち」が体じゅういっぱいのコウくんは、コロナ感染拡大による自粛中、ママと向き合う時間が増えて、ママはほとほと困り顔でした。「大人がやめてということを、わざとするんです……つい怒鳴ってばかり……」と。

山のてっぺんの神社で

 

たしかに。

ここのところのコウくんは、ふっときつい表情を見せることが増えていました。

その日も、神社で虫網に葉っぱと小枝をいっぱい入れて、嬉しそうに走ろうとしていたところを止められて、号泣の末、「やだ!入れる!もうぺんぺん来ない!大人に刺す!痛くする!もうぺんぺん来ない!もう遊ばない!」と、大人の腕をガブリ。大人をゆさぶる言葉のつかい方も、妙に巧みなこと……でもね、100均の虫網は、いろんなものを入れるとすぐ破けて、しょっちゅう買い替えないといけなくなるの、ごめんねコウくん……

 

きっと自粛中、体じゅうにいっぱいの「遊びたい気持ち」が、あふれすぎてしまったのでしょう。普段のコウくんは、朝から帰りまでしじゅうニコニコ、溶けてしまいそうなくらいの嬉しそうな顔で遊ぶ男の子。おもしろいもの・めずらしいものをキャッチする力がずば抜けて、どろどろビショビショで、最後のさいごまでいつも居残って遊ぶ、コウくんなのでした。

体じゅうにいっぱいの「遊びたい気持ち」

 

エネルギーがいっぱいで発散できないと、出口の細くなったホースの水圧が高くなるように、力の加減がうまくいかなくなるんですね。だから、遊ぶこと、発散することは、とても大切。「しつけ」が先ではなく、「遊び込める」ようになってはじめて情緒も落ち着き、だからこそ自己表現も、友だちとのかかわりも上手になって、本来もっているその子の宝物が光っていくのだと感じています。

コウくんも、コウくんなりに環境の変化を感じているんだろうね。でもだいじょうぶ、いまぺんぺんで感情を出せていることがいいんだよ。まず出しちゃおうね。私はこころの中でエールを送っていました。

 

ただ、その日は号泣の前に、朝から石を集めてタコに見立てて「タコ焼きつくる!」と、そのコウくんの素敵なアイデアに、友だちがたくさん集まって盛り上がった日でした。

 

「これ、タコ!」

 

遊びの中心だったコウくんが、放りっぱなしのタコ焼きを片付ける時間となり、ふたたび激しく「やだ」「やらない」の一点張り。

みんなから少し離れたところで落ち着こうと、コウくんを連れていくと、1学年上のタツルがついてきました。コウくんとは、どろどろビショビショおふざけ仲間の、年中さん。大きな目をさらに見開いて、心配そうに口を開きました。

 

……片付けないの~~?」「ぺんぺん、来ないっ」

「え~~?ぺんぺん、来ないの~?」「ぺんぺん、来ないっ」

「え~~?だれと遊ぶの?お母さん?」「だれとも遊ばない」

「え~~?ひとりで遊ぶの?ぺんぺん、来ないの?」「おうちで遊ぶ」

「え~~?おうちなの?ぺんぺん楽しくないの?」

 

片足に体重をのせたような、斜めから上目づかいのような恰好でコウくんに向き合い、ゆっくりゆっくり言葉をかけるタツルの姿に、私は驚きました。だってタツルはちょうど1年前、前々回のコラムにも書いたように、歩くのイヤ、リュックもイヤ、草履もイヤ、手をつなぐのもイヤ、片付けイヤ、畑に足あとつけたい、雨の音風の音が怖い、やだやだ泣き叫んで、年中長のみんなをさんざん手こずらせた張本人です。いつのまに、こんなに「兄ちゃん」のような目をするようになったのかしら。しかもタツルこそ、家族の事情のため早くから自粛して、友だちに直接会えず、この日は丸2カ月ぶりの再登園初日。おうちではママを叩いてばかりと聞いて、私たちは気を引きしめてタツルを迎え入れた日だったのでした。

 

じつは、向き合う二人は学年こそちがうけれど、遅生まれと早生まれで、生まれたのはたった2カ月ちがい。でも、いま私の目の前に並ぶ二人は、しっかりと年中さんと年少さんの間柄に見えました。そのタツルの落ち着きぶりが、私にはとても不思議でした。

 

そして、ふと私は、2月のできごとを思い出したのでした。

 

***

 

ひっそりとした谷あいで

それは冬にだけ分け入ることのできる、山の奥。人けのない、人工物も見られない、騒音も時折空高く横切る飛行機の音だけの、ひっそりとした谷あいで、木のぼりを楽しんでいたときのことでした。

 

都会の近くとは思えないような、しずかな環境のなかで

 

春を思わせるあたたかな日だまりのなかで、青や黒の実をさがしたり、ぬかるみの上をこわごわ歩いたり、1~2mを越える長い枯れ枝をせっせと運んであつめたり、年中長がそろって木登りしてめずらしく集合写真を撮ったりして、そろそろ引き揚げようか、というときでした。当時年長の女の子コッちゃんを、同じく年長の男の子ヒロが乗り越えるようにして、木を降りようとしたら、コッちゃんが怖くて泣いてしまいました。たったそれだけで、とたんに顔つきが変わり、舌打ちしながら激しい言葉を吐き出した、ヒロ。私は「木登りは、怒った気持ちが直ってからにしてほしい」とヒロに厳しく伝え、一度降りてもらうことにしました。

 

不本意に降りたヒロは、ずいぶん抵抗や反発をしていましたが、私はそばにいながらも、あえて声をかけませんでした。そして、5分、10分が過ぎていきました。

 

ケンカしても、タイプがちがっても、遊ばないと楽しくない、という経験

 

この年は、いざこざが多かった。

年中年長になると、くりひろげられるドラマも多様です。この年齢になると「泣いたカラスがもう笑った」ではすまされず、ことばで思いを伝え合い、誤解をといたり、互いを理解しあったり、子ども同士で仲介に入ったり、何カ月もかかって仲間関係を深めることになります。

しかもぺんぺんぐさの年中年長は、ほんの数人。だからこそ、ケンカしても明日は遊ばないと楽しくないし、タイプのちがう子だって歩み寄らないと遊べない。濃厚な、逃れられない人間関係が、昔の原っぱでガキ大将を先頭に遊ぶ子ども集団のように、子どもたちをやさしくたくましく育ててくれるような気がしています。

 

どうしたの?

 

この日泣いてしまったコッちゃんは、当時年長さんで一番生まれの早い女の子。ずっとリーダー的存在でしたが、お盆明けから、小学校進学を意識しはじめたからなのか、急に元気がなくなってしまいました。

 

それと同時に、夏を越えてまわりの子も成長したことで、コッちゃんが仕切らなくても、いろいろな遊びが展開されるようになってきました。コッちゃんの不調と重なって、コッちゃんがつまはじきに遭ったり、遊びに置いていかれたりすることもでてきたのでした。

 

何日もかかって、解決していく

コッちゃんがしゅんとするため、かえってつまはじきがエスカレートしたり、一方でコッちゃんの口から、最年長ゆえの雄弁な反撃が連射されることもありました。2歳3歳のころのケンカよりも複雑で、何日たってもすっきり解決できないから、ママたちは時に涙しながら話し合い、見守ってきました。

 

子どもたちも、40分から1時間近い話し合いを、昨年は何度くりかえしたことでしょう。もちろん楽しいこともいっぱいあったし、四季折々のよろこびもたくさんありました。トラブルのときは、大人はなるべく正解を用意せず、子どものその時の思いを出し合えるように、時にはぐいっと押したり引いたり、ハッパかけながらともに歩んできました。そしていざ話し合いが終わると、かえってはじける笑顔でおたがい意気投合したり、コッちゃんも逆につまはじくこともあったし、いつもかばっている子がちがう場面でつまはじきに便乗したり、この少人数の年中長集団のいざこざは、やっぱり「スポーツ」のようでした。

 

まわりも成長してきたからこそ

 

そんななか、コッちゃんの行動に、特につっかかる子が二人いることが、わかってきました。

そのうちのひとり、さきほどの静かな谷あいで、木登りの途中イライラし始めたヒロは、コッちゃんのことが大好きだからこそ、コッちゃんのちょっとした言動にカーっとなりがちなようでした。じつは勘違いのことが多く、怒りはじめると、どんどんイライラが大きくなってしまう。

 

別の自主保育生活から引っ越してきたばかりの、ヒロ。きょうだいのような自主保育仲間との別れ、一緒だったお兄ちゃんの小学校進学による別れ、生活環境の変化、弟の誕生、とまるで四重苦でした。それでも持ち前の遊びっぷりのよさで、ぺんぺんぐさでの絶対的な存在感を確立していきましたが、彼のイライラがときに一気にみんなを巻き込むこともあり、大人たちは彼の心情をまずは受け止めることを優先していました。

 

空を舞うジャンプ

 

ざわざわと、高い木々が揺れていた

そろそろ自分の力で切り替えられる時ではないかと思い、木登りの一件では、私は静かな谷あいでヒロのそばに黙って立ち続けていました。ヒロも私のそばでむっつりと黙ったまま、10分近く沈黙を続けたあと、ひとりで森の奥の大木のそびえる谷あいに向かって歩きはじめました。暗い谷の奥の、大きな大きな切り株までゆっくりゆっくり目指して、高さ1.5メートルほどの上によじ登りました。そして、5分、10分。ひとりで何をしに行ったのだろう。帰り支度を始めていた私たちからは、身長3センチにしか見えないほど遠いところで、ひとりでポツンと切り株の上に座り続けて、そして、ヒロはしばらくしてふと顔を上げたのでした。

 

「みえこぉ~~~~!!トントンって聞こえる~!」

 

一瞬、私にはヒロが何を言っているか、わかりませんでした。それほど、唐突な言葉でした。ヒロに近づいて行くと、私に聞こえてきたのは、キツツキのノックの音でした。上を見上げると、ざわざわと高い木々が揺れていました。ヒロは、このとき卒会を目の前にして、ぺんぺんぐさでおそらくはじめて、大人に全くなだめられることなく考えつづけた。私がそばにたどり着いたときには、すでにヒロの気持ちは完全に切り替わっていて、明るくおしゃべりを楽しんでいました。みんなの元に戻ったあとは、木から降りられないコッちゃんを抱き降ろしに行っていました。

 

あのとき、巣づくりのキツツキがヒロのそばにいて、もしかしたらその春支度の音に、ヒロは背中を押されたのかもしれない。ふいにそんな気がしました。すると私はなんだかこみ上げてくるものを感じました。そういえば、ぺんぺんぐさを始めて9年、いままでケンカがおきたときに、色づきはじめた木の葉や、朝に夢中であつめた草の葉がきっかけで、ふっと空気が変わるような、不思議な解決を何回も見たことがありました。もしかしたら、これが自然に抱かれた「育ち」の醍醐味のひとつなのかもしれないな、とあらためて感じたのでした。

 

森を見上げたら

 

***

 

冒頭の、神社でコウくんをなだめていた年中のタツル。年少から年長までの異年齢「大きい子ぐみ」の、こんな一年間を彼も過ごしてきました。一番おみそだったタツルも、風や鳥だけでなく、草木や虫や、暑さ寒さや雨や日の光に、いろんな「ちから」をもらってきたのだろう。「わからんちん」だったタツルも、昨年年上の子たちが何度も繰り広げていた話し合いに、少しずつ関心をもつようになり、わからないなりに心配そうに見つめることも多くなっていました。きっと友だちからも、育ちをいっぱいもらった一年だったのでしょう。

 

年少のコウくんも、これから囲われていない自然に出かけて行きながら、大きい子ぐみをすごします。

そして、このコラムを読んでくださっているみなさんも、自粛中、森や自然の中に出向かれた方も多かったことと思います。遠くに行けなくても、便利で楽しい習いごとに行けなくても、春の訪れを告げる草花たちと出会い、「自然のちから」をあらためて感じた方も少なくなかったのではないでしょうか。そのちからと、目の前の子どもを信じて、見守ってみる。その先に、はっとするような感動が待っていることもあります。

 

いままでぺんぺんぐさは、「大人は肩のちからを抜いて、土と水と草木と生きものたちとともに、子ども同士の育ち合いを見守っていこうよ」、そんなメッセージを送ってきました。コロナの前も、そしてこれからも、ずっとずっと変わらず、送り続けていきたいと思っています。

 

(みなさん、くれぐれも里山里地の自然を荒らさないでくださいね。)

 

 


Information

ぺんぺんぐさは「ひとりで子育てしないで」を合言葉に、1歳半から約20人の子どもたちが育ち合う「預かり保育」の場を、保育者・スタッフを中心に、お母さんたちとともに手づくりしています。そして、ひとりでも多くの人たちに外遊びのきっかけや魅力もお伝えしたくて、定期的に講演会や、だれでも参加できるあそぼう会を開いています。

【オンラインZOOM講演会『外で遊ぼう。コロナ下で、どうやってそだてたらいいの?』】

9/18()月刊クーヨン編集長の戸来祐子さん

10/2()青山学院女子短期大学教授の菅野幸恵さん

◎お出かけもままならず、毎日をやり過ごすことに精一杯で、いまこの子育てが、これいいのか、何を聞いたらいいのか、何を大切にしたらいいのか、迷う日々ではありませんか。でもいつの世も、大切なことは、本当はきっとシンプルで、それを見失わないことかもしれません。あせらなくても、大丈夫。子育ては、ひとりじゃない。

時間:10:0012:10頃(9:50からアクセスできます)

参加費:各500円、2回通し800円(ゆうちょ銀行への振り込みとなります)

申し込み:各3日前までpenpengusaevent@gmail.com 090-5763-3392(川島)

後援:青葉区冒険遊び場づくりの会、ほか申請中

お申込み項目や講演内容など、くわしくはHPをご覧ください。

見逃し配信あります。

可能な方は、終了後交流タイムにご参加ください(30分ほど)。おにぎりなどをご用意いただいて、一緒におしゃべりしましょう。

お子さん同伴の方は、おにぎりやイヤホンのご用意がおすすめです。

ZOOMは、スマホ・タブレット・PCから比較的簡単に参加いただけるオンライン会議システムです。使用方法は、ていねいにお教えします。

【土と水と草と虫とあそぼう会】

◎暑い日も、腕や足を濡らすだけで涼しく、木陰や水辺を通り抜ける風は、エアコンよりも心地よいです。水やどろんこは、子どもをぐぐんと成長させてくれます。三密になりにくい外遊びにさらにコロナ感染対策をとって、少人数で開催予定です。

日時:8/27(木)9/17(木)10/15(木)9:4512:00頃 以降毎月第3木曜

場所:桜台公園または、しらとり台第一公園 青葉台駅より徒歩10分または7

参加費:400円+100円保険代(当日お支払いいただきます)

申し込み:前日朝11時まで

Mailaoba.penpengusa@gmail.com

電話:090-9147-3027(内藤)

のびのび自由に遊ぶ、外遊び体験会。生後8ヵ月ごろから、どなたでもどうぞ。

天候が悪い日は、屋根もある場所でやきいも体験や、畑あそび等に変更予定。10月または11月に、芋ほり予定。

変更の場合がありますので、HPでご確認ください。

NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ 

http://jisyuhoikupenpengusa.blogspot.jp/

 

NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟の安全認証を受けた認証団体になりました

http://www.morinoyouchien.org/


Profile

土井 三恵子(どい みえこ)

NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ保育士/共同代表。10年の田舎暮らしと2人の出産を経て、療育センター・里山保育を行う保育園などを経験、青空保育を立ち上げ9年目。現在保育スタッフ4人。1歳半から就学前の20数人の子どもたちと、都会の近くの緑豊かな野山・里山の残る青葉区で、土と水と虫と草木と地域の人たちと出会いながら、季節をからだと心いっぱいに感じて過ごしている。「ひとりで子育てしないで」を合言葉に、都会のお母さんたちと力を合わせて、育ち合いの醍醐味をともに味わっている。保育士、幼稚園教諭免許、小学校教員免許、中学・高等学校理科教員免許。○コラム『大きな空の下の、ちいさな なかまたち』連載。

この記事を書いた人
寄稿者寄稿者
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森ノオトのつくり方

森ノオトは寄付で運営する
メディアを目指しています。
発信を続けていくために、
応援よろしくお願いします。

もっと詳しく