いよいよビールも誕生!農福連携をまちに広げる 「横浜あおば小麦プロジェクト」
2019年秋、青葉区内の30もの飲食店で、青葉区産の小麦を使ったメニューが生まれました。パンや焼き菓子、ピザ、うどん、ぎょうざ、パスタにグラタン、そしてカレー……。今年も10月下旬に“新麦(しんばく)”が届き次第、各店から「あおば小麦」を使ったメニューが続々と登場することでしょう。10月23日には、あおば小麦を使ったビールの販売も始まります。そして、「横浜あおば小麦プロジェクト」という地産地消のこの取り組みの生産者は、障害ある人が農作業を行う“農福連携”の福祉施設であることもお伝えしたいと思います。(トップ写真提供:社会福祉法人グリーン)

横浜あおば小麦プロジェクトの発起人は、青葉台のパン店「ベーカリーカフェ コペ」の奥山誠さんです。奥山さんが2018年に社会福祉法人グリーンと出会い、グリーンが栽培した小麦を使って1本のフランスパンつくったことが、このプロジェクトの生まれたきっかけです。奥山さんと、グリーンで農作業を担当する職員の長谷川雅一さんに、プロジェクトのお話をうかがってきました。

 

青葉台を代表するパン店「ベーカリーカフェコペ」の店主・奥山 誠さん

 

グリーンでは、知的障害のある人たちが職員とともに施設の近くにある田畑で四季折々の野菜や米を栽培、加工販売までを手がけ、農作業を行う障害者福祉施設としては横浜市内でも草分け的な存在です。
青葉区の田奈エリアで栽培された小麦を使った「田奈うどん」にも使われる「さとのそら」という品種の小麦も、グリーンでは十年以上前から栽培してきましたが、「収穫した小麦をどう使っていくかがずっと悩みでした」と、長谷川さんは振り返ります。

 

グリーンの職員の長谷川雅一さん。このプロジェクトの小麦粉は、グリーンで種まきから製粉、納品まで行う

 

グリーンの通所者は、知的障害のある10〜50代の男女54名ほど。会話によるコミュニケーションが難しい人も多い(写真提供:グリーン)

 

グリーンは一般の農家と異なり、効率性よりも通所者ファーストで作業を行う。作業内容も方法もペースも、通所者一人ひとりに合わせる。畑のなかの通路の幅一つ決めるときも、通所者の動きやすさを優先して職員が計画する(写真提供:グリーン)

 

というのも、小麦は製粉すると傷みやすくなってしまい、施設内での管理が難しくなるのだとか。つくり続けたい気持ちもあるけれど、ロスも多い……という葛藤の中、「ならば“小麦消費のプロ”に、使う側の立場からの助言をしてもらおう!」ということになり、講師役としてコペの奥山さんを招くことにしました。

 

その頃、ちょうど奥山さんは青葉区でも小麦を栽培していること知り、店のパンにも使いたいと一定量の青葉区産の小麦粉を卸してくれる生産者を探しているところでした。

 

グリーンを訪れ、製粉や管理のポイント、日頃の仕入れや価格などについて伝えた奥山さん。試しにグリーンの小麦粉でフランスパンを焼いて、グリーンに持って行ったのだそう。すると、「自分たちの小麦粉がパンになった!」と大喜びするグリーンの人たちの姿を見て、「こんなに人を喜ばせることができるんだ。小麦ってすごい!パンだけでなく、いろんな料理に使えるんじゃないか」と、奥山さんは閃きます。

 

もともと地域活性に関わる活動に取り組み地域の飲食店とつながりのあった奥山さんは、グリーンの青葉区産小麦をさまざまなお店で使うネットワーク「横浜あおば小麦プロジェクト」を発起したのです。
2018年はまず試しに自店でパンに使用し、2019年に本格始動。プロジェクトには青葉区内の約30店舗が参加し、グリーンの小麦は様々なメニューに取り入れられたのでした。

 

その秘訣は、「青葉区産の小麦の配合率にこだわらず、他の小麦粉とのブレンドもOK」としたこと。ハードルを下げて、多くの店に取り入れてもらい、青葉区全域で面的にこのプロジェクトを広げることに大成功しました。

 

2019年にあおば小麦でつくられた味噌メープルマフィン(写真提供:ドイスバナネイラ)

 

同じく2019年産のあおば小麦でつくられた一口ぎょうざ(写真提供:ひとくちぎょうざ火炭鳥炉)

 

このプロジェクトは、グリーンにとっても嬉しいプラスアルファがありました。小麦は、グリーンの職員が通所者と店舗に直接納品に行きます。そこで、小麦以外の作物も直販することで、収益につなげることもできます。また、直接お店に行くことで、通所者は自分たちがつくった小麦や野菜が役に立っていることを実感し、施設内の活動だけでは得られない、作物を通した新しいかかわりも持つことができるのです。

 

プロジェクトに参加する店舗の人たちは、奥山さんや長谷川さんの計らいで、グリーンの職員や通所者と麦踏み作業に参加しました。
奥山さんは、度々畑を訪れるうちに顔を覚えてくれる通所者の人も出てきたりして、以前よりも、ハンディのある人たちに対して親近感を抱くようになったと語ります。

 

一方で、知的障害のある人にとって新しい出会いや新しい場を訪れることは、いい刺激になることもありますが、人によって逆効果になるケースもあるため、農作業の現場に行くときには職員に調整してもらうことが欠かせません。また、一般の生産者のように安定した量の収穫ができないこともあります。それらを理解し、受け入れることが、福祉施設と連携する上で大切なことだと奥山さんは語ってくれました。

 

プロジェクトの小麦は、10〜11月頃種をまき6月に収穫し脱穀、真夏の天日干しを経て涼しくなった秋に製粉するというサイクル。収穫高が限られるため、通年での提供はまだ難しいですが、今年は収穫量も若干増えました。飲食店での料理や商品への使用は11月に入ってからになる見通しです。さらに、夏のうちに昨年収穫した製粉前の麦芽を緑区十日市場町にあるブルワリー「TDM1874」に渡して、横浜あおば小麦プロジェクトの小麦を使ったビールが開発されました。「青麦(あおばく)」のロゴが掲げられ、「Angel With Blue Wings」と名付けられたビールは、発売前から話題沸騰。小麦のビールらしくすっきりとした味わいが特徴です。10月23日から販売が開始されます。

 

横浜あおば小麦プロジェクトの小麦を使ったオリジナルビール「Angel With Blue Wings~青い羽の天使たち~」は10月23日に区内の飲食店で販売開始。取扱店は下記HPに記載。製造は、緑区十日市場町にある醸造所醸造所「TDM1874ブルワリー」、缶のラベル貼りは青葉台の障害者福祉施設「エキープ」が担当した(写真提供:奥山さん)

 

小麦は用途がとても広いので、これから色々なことができそうです。奥山さんが「もう、ワクワクが止まらない!」と目を輝かせている様子を見て、私もあおば小麦を応援したい気持ちでいっぱいになりました。なるほど、地産地消って、食べて応援するだけでなく、応援している自分も元気になれるものなんですね。これは発見。今はコロナ禍で飲食店は苦しい状況が続いていると思いますが、この秋は、横浜あおば小麦プロジェクトで、地産地消においしく楽しく参加してくれる人が増えることを願っています。

 

Information

横浜あおば小麦プロジェクト
https://aobakomugiproject.wordpress.com/

 

社会福祉法人グリーン
住所 横浜市青葉区鴨志田町335-1
電話045-961-0305
https://www.green1993.or.jp/

 

グリーンの直売所

アンテナショップ とうり
住所 横浜市青葉区鴨志田町561-6
電話 045-482-7277
平日10:00~15:00
https://www.green1993.or.jp/shop.html

 

ベーカリーカフェ コペ
住所 横浜市青葉区青葉台1-29-3
電話 045-983-5176
定休日 水曜日
営業時間 ベーカリー 7:30〜19:30 カフェ 9:00〜18:00
https://www.coppet.net/

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この記事を書いた人
松園智美ライター
まちづくりの専門誌、自然派住宅雑誌の編集部を経てフリーの編集&ライター業に。新潟の米どころ長岡市出身、今は港北ニュータウンの団地に暮らす3児の母。子らの育つこのエリアのことをもっと知って楽しみたいです。レイアウトやイラストのお仕事も好き。
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