支援の形としてすっかり定着してきたクラウドファンディング。強い思いで何か実現したいことがあったり、どうしても困った!という状況になったときに、クラウドファンディングで支援を得て資金を調達するという選択ができるようになってきました。とはいえ、実際に支援したことがある人や、ましてやプロジェクトの起案者として挑戦したことがある人はまだまだ多くはないかもしれません。
実際にプロジェクトを立ち上げてクラウドファンディングに挑戦した人は、どのような背景や経緯でプロジェクトを実行していったのでしょうか。身近なエリアのプロジェクトの裏側について、ご紹介します。
藤が丘商店会 ー実施の目的を明確にすることが大切
青葉区にある藤が丘商店会は、緊急事態宣言が発出された直後の2020年4月3日、80ある全加盟店に対して一律で10万円の特別支援金を給付し、苦境をしのぐためのエールを送りました。ここから横浜市の商店会交付金の制度設計につながる流れができたといっても過言ではありません。(https://morinooto.jp/2020/05/03/takeoutaobaku/)
そんな藤が丘商店会が2016年から実施しているイベントが、「汗まつり」(2014年、2015年は「汁まつり」として開催)です。イベント期間中には、商店会加盟店で独自の激辛「汗まつりメニュー」が登場し、汗をかきながら藤が丘の町を食べ歩きできるイベントです。
2020年はコロナ禍のなかで「汗まつり」の年内開催を見送るかどうかの検討もしていましたが、「やるなら早くしないと開催までもたない店舗があるかもしれない!」と加盟店から声があがったことから、急ピッチで実施に向けて調整を始めました。
商店会独自に給付した特別支援金は「有事の際の蓄え」からいち早く出すことを決めたものの、普段は倹約している藤が丘商店会。2020年は特に、新型コロナウイルス感染症の影響で見通しが立ちづらい中でイベント実施は慎重に行いたいと考え、「汗まつり」はクラウドファンディングで開催資金を集めることにしました。
「ところが、これが難しかったんです。汗まつり実施のためのクラウドファンディング、とすれば目的が明確でわかりやすかったのかもしれませんが、”激辛スパイスで元気をお届けしたい”となると、目的がぶれてしまう印象で。結局、内輪で支援しているような感じになってしまいました……」。こう話すのは藤が丘商店会会長の外山高嗣さんです。
確かに、リターン(寄付の返礼品)に激辛スパイスを用意してプロジェクトのタイトルを「辛メニューの聖地!藤が丘(神奈川)が激辛スパイスでみんなを元気に!」としていたため、支援者からすると商品開発をしたいのか、飲食店支援を目指すのか、汗まつり開催の資金にしたいのか、目的がわかりにくいというのもうなずけます。
クラウドファンディングは一度起案書をつくって動き出すとその内容を変えるのは難しく、プロジェクト開始後に「汗まつり色」を濃くするためにFacebookの投稿で汗ウィン(藤が丘商店会オリジナルキャラクター)の登場を重ねるなど工夫したそうです。
「クラファンをやるには、目的を明確にすることと、SNS投稿だけでなくチラシを町中にペタペタ貼るくらいの気概をもつこと。もう少しクラファンについて勉強してから挑戦すべきだった」と外山さん。
クラウドファンディングを成功させるには、目的を明確にした上で、それをいかに伝えるかが鍵になるようです。
そうは言っても、リターン品の藤が丘オリジナル激辛スパイス「炎粉 ヒー・ヒー・フーン」は「悶絶の辛さ」「お尻がやばい……」などと話題を呼び、汗まつりも9月に無事開催でき、コロナ禍が続く中でも商店会の加盟店が減ることもなく、クラファンは一定の成果を挙げたとも言えそうです。外山さんは「支援してくださった方、情報をシェアしてくださったか方には、心から感謝しています」と話しています。
クラファンの難しさと影響力、それを肌で感じた藤が丘商店会は、「寄付の目的を明確にする」という意味を知ってますますパワーアップするに違いありません。
認可外保育所「めーぷるキッズ」(NPO法人もあなキッズ自然楽校) —自分たちがやっていることを伝えるチャンス
NPO法人もあなキッズ自然楽校は、都筑区を拠点に神奈川県内6カ所の保育施設と学童保育施設、小学生の自然体験プログラムの運営などを行っています。
それぞれの保育施設では「森のようちえん」スタイルを取り入れ、子どもたちを自然環境の中でのびのびと育てる保育を行っています。中でも3〜5歳児対象の「めーぷるキッズ」はその自由な保育環境を確保するため、あえて都道府県からの認可を受けないことを選択した「認可外保育施設」です。子どもたちにとって健全な保育環境を真剣に考え、信念を持って実践しているからこその認可外保育施設ですが、それゆえに国や市からの公的補助はなく、保育施設運営にかかる費用は全て自分たちで賄わなければなりません。
そこで、もあなキッズ自然楽校ではこれまで3回のクラウドファンディングで資金を調達してきました。
- 1回目:2015年2月、3〜5歳児の認可外保育施設「めーぷるキッズ」を、より多くの子どもたちを受け入れられる施設にするための、移転先の内装工事費用
- 2回目:2015年3月、神奈川県大磯町で新たに開設する認可小規模保育施設「もあな こびとのこや」施設内に木質ペレットストーブを設置するための費用
- 3回目:2019年3月、「めーぷるキッズ」のコンクリート打ち放し天井に、吸音性の優れた木質パネルを設置するための費用
今ほどクラウドファンディングが身近なものではなかった2015年に、あえて挑戦してきた理由を代表の関山隆一さんに訊ねると「今ある現状を世の中に知ってもらいたかったんです。クラウドファンディングは資金調達だけでなくPRができるので、自分たちがやっていることを伝えるチャンスだと思います」と、クラウドファンディングは資金調達のツールと単純に考えていた私にとって、思いもかけない言葉が返ってきました。
「食育」とならび「木育」に力を入れているもあなキッズ自然楽校。めーぷるキッズの園舎の工事やペレットストーブ導入のためにクラウドファンディングを活用した背景には、「自分たちをサンプルとして、同じ思いの保育園が全国にもっと広がってほしい」「持続可能な社会をつくるためのモニター的なアクション」という関山さんの熱い思いがにじみます。
「自分自身が世の中を変えたい!という思いを持ってメッセージを伝えること。刺さるものがなければ失敗してしまうし、伝われば結果として成功する。これからやる人には、遠くにいる人にも応援したいと共感してもらえるようにメッセージを伝えることが大切だと思います」と、自身の工夫やアドバイスを教えてくれました。
支援者の中には、全く面識のない富山県の方や20年近く連絡をとっていなかった知人が含まれていたとのことで、「こんなところにまで届くんだという驚きとともに、単純に嬉しかった」と関山さんはしみじみ語ります。
関山さんは資金だけではないものを得られたと言いますが、支援者としても遠く離れていたり実際に手助けに駆けつけることはできなくても、応援の気持ちを届けることができるのは素敵なことだなと感じました。
コミュニティスペース「3丁目カフェ」 —事前の準備が90%、自身の利益だけでなく利他的な理念が必要
たまプラーザにあるコミュニティスペース「3丁目カフェ」は、2014年の開店以来試行錯誤を重ね、年間350イベント・1万5,000人が集う地域の拠点として根づいてきました。ようやく運営も安定し始め、さあこれから!というところで思いもかけないコロナ禍に見舞われてしまいます。
店名こそ3丁目カフェですが、お客さんの9割以上はイベント客というイベントスペース。新型コロナウイルスの影響を大きく受け、開催予定だったイベントのキャンセルが2020年2月から徐々に始まり、3月にはほとんどのイベントが中止となってしまいました。業態を変えてお店を続ける選択肢もありましたが、現実的には難しく「常連客の多い3丁目カフェでは、状況が落ち着けば必ず早期にお客さんは戻ってくる」と判断。お店はやむなく4月から臨時休業とすることになりました。
とはいえ家賃や人件費など、当面の運転資金を確保するには給付金等の補助金と借り入れだけではいつまで持ち堪えられるか……。そんな時、オーナーの大野承さんにクラウドファンディングを熱心に勧める仲間がいたそう。大野さん自身もクラウドファンディングを通じて何度か友人を支援したこともあり、プロジェクトを企画することにしました。
初めは気が進まなかったという大野さんですが、いざ始まると当初目標の200万円をなんと開始3日目に達成というスピードダッシュ。その後、目標を400人・400万円に変更し、最終的には484人から500万円以上を集めることに成功しました。
とても順調なプロジェクトだったように見えますが、話を伺うと、その裏には大野さんの綿密な事前準備がありました。
最終金額こそ予想を上回ってはいましたが、「これまでこの場所に関わりがあって応援してくれそうな人を事前にリストアップして、200万円は達成できるだろうと考えていた」そうです。さらにFacebookやmessengerといったSNSを使い分け、プロジェクトの概要を届けたい人に確実に届くようにしっかり告知もしました。
リターンの設定にも工夫がありました。最初はシンプルに、1万円程度のコースを数種類のみ想定していたそうですが、検討の末に20万円という大きな額のコースを含む10コースを用意しました。
「事前の準備が90%だったね。成功までのストーリーを描き、伝わりやすいコンテンツの作成やリターンの設定、またお礼の連絡など、プロジェクトの期間中はほとんどすべての時間をクラウドファンディングの企画に費やしていた」と言います。
これからクラウドファンディングに挑戦する人へは、「目的を明確にすること」や「自分の利益だけでなく利他的な理念があること」「チームづくり」が大切とアドバイスをくれました。大野さん自身、クラウドファンディングの事務局や仲間の意見に大いに助けられたと言います。
万全の準備をして臨んだ大野さんでしたが、想定外のこともありました。募集期間終了後に支援者を確認すると、およそ4分の1は直接知らない人からの支援だったのです。テレビなどのメディアに取り上げられたこともあって、3丁目カフェ存続への思いに共感し応援してくれたのでしょう。
「国からの支援と違い、これは個人から預かった資金。リターンのイベントもこれからしないといけないし、逃げられなくなっちゃった」と、冗談めかして話す大野さん。まだまだ大変な状況ですが、支援を力に変えて困難を乗り越えてくれることでしょう。
クラウドファンディングで支援を募った背景は三者三様です。しかし、支援を募るには目的を明確にし、いかに思いを伝え届けるかがとても重要というアドバイスは共通していました。支援する側に立てば、起案者の思いを受け止め、応援したいという気持ちが、いざ支援をするという一歩を踏み出すきっかけになることはよくわかります。
近しい人はもちろん、遠く離れていたり以前に交流のあった人。そんな人の密かに応援している気持ちや、たまたまプロジェクトを目にした人にメッセージが届いて得られた共感。その「思い」まで受け取り、背中を押してもらえるクラウドファンディング。
その思いは、絶対的な価値のある一人ひとりの「お金」という形で届けられます。大野さんが「逃げられなくなっちゃった」と言うように、目標額を達成した起案者は支援してくれた多くの人それぞれの「お金」の重みを感じ、そして見守られながら、プロジェクト実現に向け進んでいくことになります。プロジェクトを立ち上げるには、嘘偽りなく自分自身をさらけ出してまで取り組む覚悟と責任が必要だと感じました。
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