大きなお腹を抱えて『たまプラーザの100人』の出版プロジェクトに奔走していた昨年の夏、たまプラーザに暮らす料理家・マツーラユタカさんから、彼が編集に関わっている本への寄稿の依頼がありました。アーバンパーマカルチャーという、都市で「人間にとって恒久的に持続可能な環境をつくり出すデザイン体系」(本書10ページ)について、その世界観や実践方法を紹介するガイドブックをつくるという、何ともワクワクする内容! 東京アーバンパーマカルチャー創始者のソーヤー海さんが編者となり、マツーラさんたち編集メンバーは、「ギフト」として本の編集に関わり、本自体もクラウドファンディングで共感を集めてつくっていく、本の制作プロセスからしてパーマカルチャー的です。
私に与えられたテーマは「GIFT」の章、「Potluck(持ち寄り)」のコーナーに「森ノオセチ」の取り組みを書くというもの。確かに、森ノオセチも古くて新しい、シェアする経済の一つだなあと思ったのです。
新年におせちを食べて、新春をことほぐ気持ちを家族みんなで共有したい。それは誰しもが思うことですが、その手段と言えば、「おせちを買う」人がほとんどではないでしょうか。デパ地下や料亭で予約すれば、3万円、5万円と、それなりの値段がしますし、レトルトパウチされたおせちを重箱に詰めるのはなんだか味気ないし……。かといって、田舎の大家族でもない限り、おせちを家で全部手づくりするのは、手間も、時間もかかる。それならば、1人2-3品つくって、持ち寄っちゃおう! というのが森ノオト流。2013年末に9家族で始まったのが「森ノオセチ」で、メンバーに大好評、おそらく今年も来年も続いていくであろう恒例行事になりました。
そもそも「森ノオセチ」は、「あおばECOアカデミー」のワークショップで、エネルギーを自給自足する地域づくりを目指すために普段から出来ることはないかと考え、出てきたアイデアです。「エネルギーの自給自足」と「おせちの持ち寄り」、ちょっと遠いキーワードのように感じますが、
・同じ釜の飯を食う
・料理をつくってくれた人を信頼する
・相手の物語を受け入れる(郷土料理、おふくろの味のエピソードなど)
……こうした関係性の積み重ねが、地域コミュニティづくりの隠し味になって、彩り豊かで多様な地域社会ができていくのではないか、その延長上にエネルギーも自給自足できるようなコミュニティができあがるはず。その、近くて遠いキーワードを結ぶのが、もしかしたらアーバンパーマカルチャーの思想なのかな、と思います。
さて、本書『URBAN PERMA-CULTURE GUIDE 都会からはじまる新しい生き方のデザイン』は、作家・編集者の服部みれいさんによる出版社「エムエム・ブックス」が刊行しています。伝えたいメッセージをシンプルかつ自由な精神で編集する、自立した本! 関わっている一人ひとりが、自信と喜びに満ちあふれていて、素直でたくましいエネルギーを感じました。
本書は、次の5章で構成されています。
Edible 植える、育てる、食べる
DIY 自分の人生は自分でつくろう
Edge みんなの手で、みんなの場所を取り戻す
Gift 与え合いの経済
Stop 「いま、ここ」を味わう
空き地やゴミ屋敷に食べられるものの種を植える、住まいやエネルギーを手づくりする、公共空間のとらえ直し、お金を使わないギフトのみのイベント……新しい暮らしのデザイン論が展開されていて、読み進めるほどに「これ、やってる!」「やってみたい!」「できるかな?」という気になっててきます。
森ノオトでも取材した人、greenz.jpの鈴木菜央さんや、森ノオトのエレキラボの元になった藤野電力さん、たまプラーザの田んぼ「Ozakuyato Satoyama」の風景が登場。また北原の友人・知人も寄稿、インタビューなどで登場し、森ノオト読者ならきっと、親近感がわく1冊です。
184ページの厚くて熱い本ですが、読み進めていくのが楽しくてうれしくて、さて、次はどんなアイデアに出会えるのかな? ……と思っていたら、最後の章は「Stop」。わたし自身、忙しくしているのが好きで、気づいたら呼吸も浅く、いつも何かに追われていて余裕がない。そんな時に、すとーんと心に落ちてしまいました。例えば原発の再稼動に反対してデモをするんじゃなくて、ただ、その場に座る。FacebookなどのSNSを1カ月お休みする「デジタルデトックス」。赤信号や時計の音、ひとすじの風に、歩みを止め、呼吸を意識する。ちょっとしたことを合図に、自分の内側、「いま、ここ」に向く時間を持つことができれば、穏やかに、自由に、そして、いつだって自然とつながることができるのではないか、という呼びかけでした。
編集者の性で、この本は誰がつくったのかと、奥付をじっくり読むくせがあります。最終章の「Stop」は、わたしに本書への寄稿を依頼してくれた、マツーラユタカさんが編集と執筆を担当していました。同じ、地元に住む、マツーラさん。田んぼ仲間で、山伏フレンズでもある、マツーラさん。そうだね、「いま、ここ、自分」をいつでも呼び戻せる、そんな、素敵なところに、わたしたちは住んでいるんだね。
都会に住んでいるからこそ、パーマカルチャーで暮らしをデザインしていくことは、きっと楽しい冒険になる! 新しい人生への1ページを、めくってみませんか。
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