三島利花さん(以下、りかさん)が開くアート教室「アートで遊ぼう☆ティンクルパレット&ミニパレット」は、横浜市緑図書館2階の十日市場地域ケアプラザで行われていて、子どもの造形教室と絵画教室、親子の体験教室があります。造形教室は幼稚園のお子さんから小中学生を対象に、絵画教室は小学生から大人までを対象に、週に1回1時間ほどグループでアートに親しみます。赤ちゃんからじいじ、ばあばまで一緒に楽しむことのできる親子体験教室は、グループや親子で何度でも参加でき、日程が合う日曜日午後に開かれます。
図工全般、制作、絵画……。アート教室ではいろいろなことに取り組みます。遊びが基本なので、限定するところはなく、アルミ箔を丸めてみたり、サランラップを広げたり、学校ではちょっとできない、習い事らしくない習い事です。造形教室と絵画教室では1カ月間かけての制作だったり、毎週テーマを変えたりと、りかさんが投げ掛けたものをきっかけに個々の子どもたちのインスピレーションでつくりあげていきます。
ちなみに、りかさんと子どもたちが制作した作品は、今まで見たこともないような絵画なんです。横浜市緑図書館のロビーに展示されていた作品展で並んでいた作品は、絵画というカテゴリーには収まらない創造性があります。絵画の中にスプーンや洗濯ばさみなどの日用品が使われてれいます。それと、窓がついていたりと、なんだか不思議です。一言で表すならユニーク!もしくはキュート!見ているとそういう感じが、心の奥から湧き上がって楽しくなってきます。こんなに楽しげな作品はどのようにして生まれてくるのか、知りたくて取材を申し込みました。りかさんにとって、アートとはどのようなものなのでしょうか。
子どものアートで大事にしていること
「習い事らしくない習い事です。だからタイトルに、『アートで遊ぼう☆』と、つけています。“習う”というと、仕上がりを気にしたり、上手にできたかとか、評価に意識が向いてしまいそうです。そうではなくて、時を忘れて遊びに夢中になる感覚を一番大事にしたいです。子どもの『遊び力』は、生まれ持った才能で、ほんとにすごいです!」と、りかさんは言います。「遊びが始まると、ひとつのことから連鎖していろんなことを見つけ出します。例えば、いいこと思いついた!から、どんどん違うことがつながり、また違うことを思いつき、そして、こうしたらよいかも、がずっと続いていく。好きなことをやっていると、『もう、こんな時間になっちゃった!』となる、時間を忘れる感覚を大事にしたいなと思います」
子どもの持つ「遊び力」に魅了されて
りかさんが子どもの「遊び力」に惹かれたきっかけは、幼稚園のプレ教室の先生として、工作やピアノや体操等しながら働いていた時。そこでは、プレ教室の先生たちが、牛乳パックや空き容器など、ちょっとしたものを使っておもちゃを作っていて、そのアイデアに大きな刺激を受けました。それと同時に、子どもたちの創作自体が面白かったと言います。「先生が提示する、丸や四角の線や形だったり、箱や洗濯バサミなどの素材、何かに手足が触れた時の感触からでさえも、創作の“きっかけ”になり、何かが始まっていく。子どもの創造力に感動して、面白くて、ここから何ができるだろうって、ワクワクして。そこがすごく楽しい。子どもたちが、できた時に、『できた!』」って瞳がキラキラするのがうれしくて」。そこで過ごした貴重な10年間の中での印象的な作品は、「全てです!」とも語ってくれました。
そんな子どもの個性によるアートの展開の違いや創作力を引き出したいと、子育てがひと段落し、地元の緑区で何かできることはないかと手探りで、アート教室を開いてきました。教室で日々繰り広げられる様子を、りかさんはとても楽しそうに教えてくれました。「水彩でも、思いがけず筆を水で洗うところに集中する子がいたりと、夢中になれることがそれぞれ違う。同じ事の繰り返しのように見えても、その中でも先へ先へ行こうとする。どんどん違うものを作ろうとする進歩のスピードはすごく、どんどん学習していきます。限られた時間や材料の中でも何か発見し自分で作り出していけるのは、子どもたちに作り出す力がちゃんと備わっていて、それが、ひとりや、あるいは仲間とともに発展するのも子どもの世界なのだと思います」
思いもかけない遊びが始まったりもするそうで、そのため、事前に準備したり、考えたりするより、子ども自身に探ってもらうことが大事と言います。子どもの「遊び力」に任せておけば、見事なものが出来てしまう。「大人がゴールや目的や目当てを決めて指導するというよりは、子どもに私が楽しませてもらってるかもしれない」と幾度となく語ってくれる、りかさんの言葉に大人の在り方を感じたように思いました。
親子体験教室の時も、技術的に教えてくれたのは「筆の毛が染まってしまうから、乾いた筆は水を浸けてから使おう」だけ!りかさんにアートの精神を教えてくれた師匠にも「ちっちゃい絵を描くのが好きな子は、どんどん小さく描けばいいんだよ。自分の好きなように、いっぱい描かせてあげればいいんだよ」と言われ、上手になるのがアートの世界じゃない、という考え方がしっくり来たといいます。「のびのび大きく描くのがよいという大人の思い込みを超えて、その子自身が自分の大好きな世界を表現できるのが、本当の”のびのび”なのではないかな」と語ってくれました。
じっくりゆっくり、感覚を育てたい
評価や目的というところから離れて、その子自身が大好きな世界に行き着くために、りかさんは、じっくりゆっくり感覚を育てたいと言います。例えば、絵の具の色を混ぜる時には、“自分で見つけ出す”、“何か引き出す”、“ひとつづつ掴み取っていく”という過程が見られます。「子どもは、きれいな色を並べても、全部混ぜてしまう。大人から見るともったいない。でも見ていると、そこからスタートしないといけないみたいです。そのうちに、ちょっとずつ混ぜて、色を見つけ出すんですよ」と言います。いきなりきれいな色にはたどり着けない。だけど、だんだん自分自身で楽しみながら見つけていく。「ぐちゃぐちゃのところを一番、ほんとは、時間をかけてやって、じっくり楽しんでいくうちに、その先へ進んでいける」と語ってくれました。でも、自身の子育てについては、「少し厳しくしすぎたかも(笑)。自分の理想を求めてしまうというか、子ども自身をしっかりて見あげないとね」という言葉に、私自身も「なかなかうまくいかないですよね」と頷きました。
そして、どろどろの手の感触も大切にします。ざらざらとかつるつるとか、びちょびちょとか、しっかり体験してほしいそうです。だから手が汚れるのが苦手な子には“汚れても大丈夫なんだ”という安心感と勇気をだしてもらおうと、「私の手も一緒に、汚そうー楽しもー!」と声をかけちゃうそうです。そう語る表情がキラキラしていて、とても素敵でした。「楽しいって思ったり、きれいって思ったり、不思議って思ったり、いろんな感覚にいっぱい気が付いてほしい。気持ち悪いもいっぱい入ります!それもうれしいし、楽しい、おもしろい!人の感覚を、自分の感覚で、『それは違うよ』と言ったり、『えーっ』って思ったりもするけど、アートの中では、みんなの感覚が違っていることが基本にあって、認め合ってるところがあるので多様性があふれています」。評価ではなく、その子が、とっても満足してることを大切にするりかさん。私たちの親子体験教室の時も、娘たちがぐちゃぐちゃに混ぜた色を、「おもしろーい、きれーい!!」と言ってくれました。きれい、きたない、の2極の物差しではなく、多様性の物差しで測られるのって心地いいと感じました。
一方で、子どもの成長は確かにあって、小さい頃は考えるより先に、まず自分の体を動かし、それで出来た線の広がりを見たりして、それに感動する。年齢が上がるごとに、何か考えてやらないといけないという構えが出てきたり、技術も掴みたいと思うようになるそうです。「でも…」とりかさんは続けます。「まずそこに飛ばずに、じっくり、ゆっくり、感覚を育みたい。技術や知識を先行させることとなく、子ども自身から歩み出す方向に寄り添って。上手ばかりじゃないことを、体感で知ってる。魅力的なことをたくさん知っていて、そこから、自分の世界へと入っていきます」。ぐちゃぐちゃをたっぷり経験し、そこからひとつひとつ自分の好きなものを見つけ出してきた子は、“上手ばかりがよいことではない”ということ、“自分にしかない魅力”をたくさん知っていて、自信をもって自分の好きな世界へと突き進んでいける、と温かい眼差しでりかさんは語ってくれました。
アートの世界は身近に
取材を終えて気がついたことは、アートの世界は実は身近なところにあるということ。自宅の駐車場で、チョークで絵を描いたりとか、新聞紙使ったりとか、身近な遊びの中にあったみたいです。何でも「遊び力」によってアートのきっかけになる。
でも、と続けてくれた言葉がまさに、私自身のアートのハードルを高くしていたのかもしれません。「楽しめてない人が多いかもしれないですね。自分の作ったものが、認められなかった経験からアートは苦手と思ったり…。でも、みんな天才なんだよ!生活の中に、普通に遊んでいることが素敵なことだから、それは上手下手とは違う世界のもの。だからもっと楽しくていい。結局大好きなところに行きつきますよね。アートの表現は自由で、自由な表現の向こうには、大好きな自分がいます」とりかさん。それが人に伝わると、よりうれしいので、作ってそのままじゃなくて、飾ってほしいそうです。「素敵!と言ってもらえたら、もっとうれしい。自分が認められたら、ほんとにうれしいですよね」と。ご自身も、お子さんの制作の数々を今も飾っているそうです。
「これからも子どもたちと教室で一緒に描くのが楽しい、子どもたちとたくさん出会いたい、子どもたちから多くのことを学びたい」と語ります。
アートは身近で楽しい。何かに心動かされて描いたら、それは線一本でもアート!!ちょっとした色、感触、動き…。全ての“ちょっとしたもの”が、子どもの心を動かす。そこに面白さを見出せるのは、子ども時代の特別な力。そして、評価や知識の固定観念の外にいる子どもが広げる世界は終わりがない。泥んこの汚さも面白がったり、みそ汁を机にこぼして遊んで楽しんだり、木の棒でいろんなところを叩いてみて何が起こるかワクワクしたり、カーテンを引っ張ってぶら下がったり。何か楽しそう、という好奇心からどんな素敵なものが作り上げられるのでしょうか。そこに、子どもごとまるごと勇気づける周りの反応が加わると、お互いに世界が広がっていくよう。
子どもの「できた!」という言葉に、目を輝かせて「うんうん」と打つ相槌や、「すごいね!」の拍手。りかさんは、絵画制作が終わって、絵の具を水に流す時も「お水が地球のおなかにごぼごぼごぼ~」と言いながら、楽しそうに笑ってくれるのでした。
アートで遊ぼう☆ティンクルパレット&ミニパレット ぷりあ~と
場所:横浜市緑図書館2階のケアプラザ
開催曜日:
・ティンクルパレット子ども造形教室
水曜日16:00~17:00(幼児~児童)、木曜日15:30~16:30(幼児)16:45~17:45(児童)、土曜日15:30~16:30(幼児)16:45~17:45(児童)、18:00~19:00(幼児~児童)
・ティンクルパレット絵画教室
木曜日18:00~19:00
・ミニパレット親子体験教室
日曜・祭日13:00~約1時間半の活動で現在は1家族限定です
問い合わせは、ホームページより
HP https://kirakirahikaruyo.jimdofree.com/
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