「里のengawa」を私が取材したのは、まだマスクをせずに自由におしゃべりができた頃でした。
人と人、自然と人がつながる縁側へようこそ。 寺家ふるさと村「里のengawa」を訪ねました。 | 森ノオト (morinooto.jp)
あれから2年半。里のengawaの店主のAlexandre Gerard(通称:アレックス)はコツコツと働き続け、ピザがおいしかったあのカフェを切り盛りしていたステファンは海外に戻り、里のengawaはシェアオフィス・シェアキッチンなど場所をシェアすることや「Made in 寺家」といった新しい活動を始めていました。
【シェアオフィス】
寺家ふるさと村の豊かな自然は、里のengawaの大きな魅力の一つです。息抜きに外に出れば竹林や畑が広がり、鳥の鳴き声が耳を癒やし、夕暮れには陽がゆっくりかげっていくのを感じる、そんな豊かな時間が流れています。
リモートワークが日常的になってきた今、シェアオフィスはあちらこちらで見かけるようになりましたが、里のengawaがシェアするオフィスは、ただ場所をシェアするのでなく人とつながることで新しいアイデアや企画が生まれる、そんな仕事や地域のコミュニティとしての場所であろうとする、里のengawaらしさがあります。
広々とした1階のスペースでは、自分の好きな場所でパソコンを開き黙々と仕事に励む人がいたり、その隣では立ち寄る人がアレックスとおしゃべりをしたり、訪れる人がキッチンでお弁当を買っていたりしています。働く人たちはそんな声を聞きながら、仕事の合間には縁側でコーヒーを飲み、この場所を共有する人たちと新しく知り合うこともあるそうです。自由でのんびりとした空気感に里のengawaらしさを感じ、孤独や窮屈さといったリモートワークの弊害を和らげるのかもしれないと、思いました。
のんびりとしたよさだけでなく、2階に上がると会議をする場所や一人で静かに集中して仕事ができるスペースもあり、利用する人の気持ちに合わせて選択肢があるのもいいです。
【シェアスペース】
シェアスペースとしては、2021年9月から始まった移動販売型マルシェ「萬駄屋(よろずだや)」やおしゃれな花屋さんがやってくる「花のマルシェ!!」などのマルシェイベントや、おうちパンでつながるコミュニティ「おうちパン倶楽部」、里のengawaの豊かな自然を活かしたプロフィール写真撮影会などなど、多彩なイベントが盛りだくさんで毎月開催されています。
里のengawaのシェアキッチンで作るお弁当の販売や1DAYカフェなど、おいしい里のengawa も健在です。
おうちパン倶楽部を主宰しているいのうえゆきこさんは「パンを作ることだけでなく、その後かなさんのおいしいお弁当を一緒に食べる時間や里のengawaの空間にいること自体がみんなの楽しみの一つとなっています」と話してくれました。里のengawaはいつも開いているカフェとは違うので、月に一度の講座がこの場所に訪れることができる貴重な機会だそうです。
シェアキッチンを使っているobentokanaさんといのうえゆきこさんが、片づけしながらお互いにおすそわけをしているのがとても仲よさげでほほえましかったです。
atlier delphi(アトリエデルフィ)の里井美由紀さんが出店する「花のマルシェ!!」に並ぶお花は、あまり見かけない色味や種類が多く、どれを組み合わせても素敵になる、まさにお花のセレクトショップ。おしゃれなだけでなく、花持ちがよく、どんどんと咲き続け長く楽しむことができます。寄せ植えの組み合わせやそれぞれの育て方などを詳しく教えてくれるのもうれしいです。
里のengawaでいろんな方が、自分のやりたいことをたくさんの方とシェアしています。
「里のengawaを通して、なにかをやりたい人たちを応援したい。楽しいことをしたいし、みんなが楽しそうなのもいい、自分も楽しいよ」とアレックスは、にこっと笑って話してくれました。
畑をシェアして無肥料無農薬のお米や野菜作りなど年間を通して野良仕事を楽しむ、これまた里のengawaらしい「野良の暮らし」という活動もあります。種から育てた大豆を使ったお味噌作りは、糀も収穫したお米から作るとういう、愛情と手間と時間をたっぷりかけたものです。
農業に興味はあっても知識も時間もいるし、なかなか始められないものですが、こうして仲間と一緒にやってみるのはいいな、と思いました。アレックスが場所などを提供して、米川真代さんと井熊理恵さんが中心となり、今は20家族が「野良の暮らし」を楽しんでいます。、お一人でも、小さなお子さまと一緒でも楽しめるし、好きな曜日や時間にいつでも来ていいそうで、そんな風に温かくゆるやかにつながる場所がいろんな人の大切な居場所になっているのだな、と思いました。
【Made in 寺家】
場所のシェアという活動の他にもう一つ、アレックスは地産地消の瓶詰め加工工房も新たに始めていました。
寺家で育った農産物を使い、昔ながらの作り方で無添加にこだわって加工し、寺家から届ける「Made in 寺家」という地産地消のプロジェクトです。2015年に初めて送り出したチリソースから始まり、梅雨の季節の梅酢や梅ジャムに紫蘇ジュースから浜なしを使った浜なしコンポートや浜なしの肉だれ、秋は柚子胡椒、穂紫蘇の梅酢漬け、冬は柚子マーマレードなどがでるそうです。ピクルスやたくあんなど、季節に応じて種類を増やしていきたいと、アレックスは話してくれました。
「これまで寺家の地元の方々にいろんなことを教わって、里のengawaに来てくれた人に手伝ってもらったりしてきたけれど、いろんな活動を継続しようと思ったら、頼っているだけではいけない」とアレックスは考えたそうです。
「自分が何をしていくべきか、自分の中に答えができた。前は文句も多かったし、先のことについて考えが足りなかったと思う。これからは自分の周りの人に返せるものを作っていきたい」と「Made in 寺家」への思いを話してくれました。
シェアオフィスもマルシェも野良の暮らしも、里のengawaの活動は誰かのために場所をつくること。それがアレックスのやりたいことだそうです。
「ばかでかい絵画を作りたいわけじゃない、小さいことを積み重ねているだけ」とアレックス。小さいことの積み重ねで納屋ができ、瓶詰め加工の場所ができ、お味噌も豆から糀から、全部種から作る、そんな小さすぎる積み重ねにどれだけの時間と労力がかかっているのだろう、と私は思いました。
縁側は、家の中にいるような安心感や居心地のよさとともに、外の開放感や心地よさもあり、ゆるやかに訪れる人を受け入れてくれる場所です。
里のengawaにいると、近くの人と話したりひなたぼっこをしたり、おすそわけをしあう声や、誰かの独り言が聞こえてきたり。ひょいと腰掛けてくつろいでいるうちに、あっという間に日が暮れていきます。ただそれだけの豊かな時間。
自然とのつながり、そしてここで出会う人とのつながりが里のengawaの魅力です。種をまく人がいて、育てる人がいて、その中で笑顔の花がひらき、実れば分けあって、また種をまく。
そんな人間らしい営みが、里のengawaにはありました。
里のengawa(さとのえんがわ)
住所:〒227-0031 横浜市青葉区寺家町522
電話: 090-6498-0613
メール:satonoengawa@gmail.com
営業時間: 9:00~18:00
定休日:土曜日/日曜日/祝祭日/お盆/年末年始
Instagram: https://www.instagram.com/satonoengawa/
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