「田んぼ」と「庭」をつなぐ漆黒の粒。もみ殻くん炭を作る
自然界では無駄なものが一切なく、すべてのものが調和して、循環しています。その循環の輪の中に人が入って生きていくための入り口の一つに、稲作があり、そこから生まれたたくさんの「手仕事」があります。たわわに実った稲を刈り取り、干して脱穀すると稲わらと籾米(もみごめ)に、籾米を籾すりするともみ殻と玄米に、玄米を精米すると糠(ぬか)と白米になります。もみ殻を火で燻して作るのが「もみ殻くん炭」です。

もみ殻くん炭には、見えない小さな穴がたくさんあいていて水や空気を通すので、土に混ぜ込むと、水はけをよくしたり、微生物が住みやすい環境をつくってくれます。もみ殻そのままでも効果がありますが、炭にすることでアルカリの性質を持つため、酸性に傾いた土を中和したり、その燻された匂いにより防虫効果もあります。ホームセンターや園芸店で見かけるので、ご存知の方も多いと思います。

 

それを、自分たちの手で作ってみたい!作ろう!と集まった人たちで、実際に作ってみた様子をレポートします。

 

言い出しっぺは、たまプラーザにお住まいのガーデンデザイナー、安藤よしかさん。安藤さんは、できるだけ環境に合ったその地域本来の植生や、地域にある資源を生かして、庭をデザインしたいと考えている方です。オープンガーデンあおば2022にも参加してご自宅の庭を公開されていました。

 

安藤さんは、「小さな庭でも、循環の仕組みを取り入れることで、ローメンテナンスで、心地よい空間をつくることができます。そんな庭を少しずつ増やしていくことで、地域の環境や生態系を守ることにもつなげたいんです」と、夏頃から、フィールドワークとして寺家ふるさと村とその周辺によく通われています。

 

作り方の指導は、しめ縄作りでも活躍していた里のengawaのアレックスさん。もみ殻を提供してくれたのは、はやし農園の林英史さんです。

 

安藤さん、アレックスさん、林さんの3者が揃ったのは8月26日に行われたJIKEマルシェの出店者説明会の会場でした。そこでの立ち話から、トントンとことが進み、2022年10月31日に安藤さん主催でもみ殻くん炭づくりのワークショップが行われました。

当日は10時に集合。予定を確認した後に、里のengawa前の畑に移動していよいよ実践です。乾いた小枝や竹などを使って火を起こし、10時25分ごろ着火を確認。炎が安定したら手作りのくん炭機を設置していきます

 

煙突を囲んで、山をつくるように、もみ殻を積みあげていきます。今回は、お米2俵分のもみ殻をいただいたそうです。お米2俵は120Kg。籾米の約2〜3割がもみ殻なので、元の籾米は約170〜180Kg、もみ殻の重量は約30〜50Kgです

 

少し青みを帯びた煙が出てきたらOK。風が強いと火があがり、炭ではなく灰になってしまいます。周りに延焼しないよう、四方の空間をあけておくことも大事なポイントです

 

熱されて炭化したもみ殻が、所々現れたら、周りのもみ殻を手で寄せてかけて被せてあげます。火付けからここまでで約25分

 

さらに10分ほどたち午前11時。くん炭独特の匂いと、煙がもくもくと出てきたら、しばらくはただただ見守る時間です。ここから4〜5時間かけて、じっくりゆっくり燻します

この日は風もなく穏やかな日だったので、アレックスさんが火の様子を時折チェックする役となり、安藤さんら参加者さんたちは、秋の里山をお散歩したり、お弁当を食べて過ごしたそうです。私、梅原は、別用のため、鴨志田町の森ノオト事務所に向かい、出来上がる頃にまた戻ることに。

事務所に向かう道すがら、林さんの田んぼで、まだ脱穀前のはざ掛け中の稲穂の姿を見ることもできました!稲が天日干しされている風景も、寺家らしさを物語るものです。いよいよ新米の季節だなと感じさせてくれます

 

15時20分ごろに戻ると、すでに消化完了していました。籾殻を平らにして広げて煙突を外して、水をたっぷりかけて火を消します。15時ごろから消化作業を始めたそうで、触ってみると、まだほんのりあたたかかく、水気を帯びて、黒く艶めいていました

 

15時50分過ぎには冷めきったので袋詰めしていきます。湿り気は少し残っていてよいそうです

 

安藤さん(写真左端)の声がけで集まった参加者のみなさん。安藤さんは毎月ガーデニングトークを主催されていて、そこに集うご近所の方や、実際に庭づくりを依頼している方が集まりました。里山で一日過ごし、初めてのもみ殻くん炭作りも成功して充実の表情です

お米を育てる人、里山の風景や暮らしを守り伝えたい人、その地域にあるものを生かして庭をデザインする人。その3者が出会うことで実現した、もみ殻くん炭作りは、お天気にも恵まれて大成功。「今後も毎年続けていけたら」と安藤さんは瞳を輝かせていました。

 

寺家の「田んぼ」で育ち、人の手をかけてつくられたもみ殻くん炭。それを使うことで、まちなかの小さな庭やプランターの土の環境がよくなり、心地よい空間が生まれ、それがまた翻って、寺家の風景を守ることにつながる。そんな素敵な循環が、小さくともずっと続いていく未来は豊かだなと感じます。今回は、レポート役だったので作業ができませんでしたが、私自身も、できるだけ毎年この作業に関わって、その輪を広げていけたらと思いました。

Information

安藤さんが主催する「One_Seed」のブログでも、もみ殻くん炭づくりについて触れられています。

One_Seed

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この記事を書いた人
梅原昭子ライター
引き算の編集が好きです。できないこと、やりたくないことが多過ぎて消去法で生きています。徒歩半径2キロ圏内くらいでほぼ満ち足りる暮らしへの憧れと、地球上の面白い所どこでもぶらりと行ける軽さとに憧れます。人間よりも植物や動物など異種から好かれる方が格上と思っている節があります。
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