(text&photo:上原美和)
伊勢原市の地域の不動産屋さんが、シングルマザー向けのシェアハウスや障がい者グループホームを運営しているというお話を聞いた時に、不動産屋さんが?と衝撃を受けました。私自身がシングルマザーで、福祉の仕事に携わっており、めぐみ不動産の活動に興味を持ち、冬至近くのまぶしい太陽が輝く日、丹沢山系の麓のめぐみ不動産コンサルティングへ伺いました。
シングルマザーが安心して住める場所とは
シングルマザーやプレシングルマザー(離婚前のシングルマザー)には、「住む環境」の確保も難しく、お子さんが小さい場合は、「働く場所」「お子さんを預ける場所」など、生活が安定するまで多くのハードルがあります。子どもと一緒にようやく新しい生活がはじめられるという期待と同時に、一人で子育てをしなければならない、働かなければならないというプレッシャーを感じる方も多いのではないでしょうか。「一人で苦しまないでほしい」。恵子さんのこの思いからシングルマザーのシェアハウスができました。
シングルマザーやプレシングルマザーの方は、他県から来て、お金もなく、近くには友達もいないという方も。パートナーのDVから避難して来たりと緊急性の高い方もいらっしゃいます。
シェアハウスの入居時には面談があり、緊急連絡先は必要ですが保証人は不要。敷金、礼金はなし、デポジットあり。設備として、家具、家電ばかりでなく、調理器具、食器まで備え付けです。共有部分のティッシュ、トイレットペーパー、洗剤、ごみ袋等の日用品は管理側が共益費から購入するので、入居してすぐに生活がはじめられます。「緊急性のある方や初期費用を抑えたい方もすぐに入居ができます。自分がシングルマザーなので、こういうのがあったらいいなと思って、当事者目線で考えました」と恵子さん。体験入居も可能で、シングルマザーの方が安心して生活が始められるように、メンタルのサポートや行政手続きについても相談できます。
「以前、入居希望の方で、面談に子どもを連れていくと後でその子の父親におしゃべりしてしまうので行けないという事情の方がいて、私たちがその方のところに伺って面談したこともありました。今は、遠方の方はオンラインで面談したり、内見してもらったりも可能です。ビデオ通話でじっくり話を聞いて、その際にどういう話が返ってくるかが大事なんです。メンタルも兼ねた内見なので」と、穏やかに話す恵子さん。時間をかけて心のサポートをすることもあるそうで、ますます不動産屋さんらしくないですよね。
恵子さんは、2016年に独立開業するまで不動産会社の営業職として11年勤め、住宅や土地の売買に携わっていました。お二人のお子さんを育てながら、「今やっていることは何か違う」と不動産業の別のあり方を考えていたそうです。
「不動産屋としてできることは?」という模索
恵子さんご自身もシングルマザーとして子育てと仕事を両立する中で、ひとり親家庭の子どもの貧困にも心を痛めていたそうです。「最初は、子ども食堂をやりたかったんですけどなんのノウハウも経験もない。二人の子どもを育てながら、不動産業でやれることって何だろうと考えていました」福祉的な活動をしようという気持ちではなかったそうですが、不動産屋として、困った人に手を差し伸べたいという思いが事業の枠を超えていきます。
一方で、不動産業界は空き家という課題があります。空き家は、老朽化による倒壊や不法侵入による治安悪化等の問題があります。「そこで、シングルマザーたちが、空き家に一緒に住んで、お互いさまの関係で、みんなで助け合って住んでみてはどうだろう。ママたちが、時には一緒に食卓を囲み、子どもが眠った後は大人同士おしゃべりしたりできるじゃない。なんていいことを思いついたんだろうって思っていたんですよ」。調べたらすでに5件の事例があることを知り、すぐにどう運営しているかを聞きに行ったそうです。「でも、そんなにすぐにはできないなと思っていたんですよ。そうしたら空き家があるよって教えてくれた不動産屋さんがいて、じゃあオープンしちゃおうって。タイミングが良かった!」
そして、2016年10月に伊勢原市内にめぐみハウス第1号がオープンしました。「入居者さん同士、シングルマザーだと思えば仲良くなりやすいし、助け合えます。宅急便を代わりに受け取ったり、知らない人が来たよって連絡しあったり。買い物に行くから子どもをちょっと見てってことも。お互いさまの環境が自然にできあがってきました」。シェアハウスでは、楽しみも悩みも分かち合える新しい家族・仲間の輪ができています。「シェアハウスはステップアップハウスの役割もあります。ある一定の時期だけでいいから、気持ちも元気になって、生活も安定させる。そして、シェアハウスを卒業して、近くのアパートに独立した親子もいます」。今は、シェアハウスを卒業した方が市内のアパートに引っ越して生活をしているそうです。
シングルマザーのシェアハウスは公的な補助もなく、お金を持っていない方に貸すので、今は赤字事業だそうです。「やはり、賃貸、売買をやらないと会社としては成り立たない。でも社会貢献としての意義があり、会社の柱であると思っています。みんな安心して住める場所を継続して提供するために黒字化する。それが課題です」。シェアハウスには、安心して人とつながれるコミュニティの役割もあります。シングルマザーだけではなく、初期投資を抑えて気軽に転居したい、災害や事件の心配がある時代に一人暮らしでなくコミュニティで暮らしたいというニーズにもマッチします。
ハコ(建物)だけにはとどまらない恵子さんの次の一手
シェアハウスオープン後、初めての入居者さんが3歳の子どもを連れた妊婦さんだったそうです。「たくさんの荷物を持って、他県から子ども連れで面談に来た妊娠6カ月の妊婦さん。これはもう住む気で来たんだなと強い意志を感じました」。その方の話を聞くと、働く意欲もあって、生活を安定させたいという気持ちがひしひしと伝わってきたそうです。でも妊婦で子連れなので、新しい土地で就職口も見つからず、本人の意に反して生活保護を受けることに。「その姿を見ていてやるせなくなりました。前に進みたいという人が来てくれて、それを応援するためにシェアハウスを立ち上げたのに。働きたいという気持ちがあった彼女を目の当たりにして何もできなかった自分がつらかった」。そこでシングルマザーが働ける場所をつくろうという構想が生まれます。これが2019年に障がい者グループホーム事業をはじめるきっかけになったそうです。
シングルマザーが、同じように共同生活をしている障がい者の支えになる、つまり障がい福祉サービスの仕事をしてお給料を得ることで生活の基盤をつくっていく。今もシェアハウスに住む二人がグループホームで働いています。
障がい者グループホームも戸建てをシェアする空き家活用で7棟34部屋あります。8棟目がもうすぐオープンします。
そして、今年中に飲食店「めぐみキッチン」を伊勢原市内にオープンし、その中に恵子さん念願の子ども食堂を開店するそうです。そこでもシェアハウスの入居者が働くことができ、農園で作った野菜を提供します。「住む」と「働く」と「食べる」の輪が形づくられていきます。
今年2月には、横浜市中区にシングルマザーのための賃貸アパートをオープン予定だそうです。「家を借りる際にはシングルマザーというだけで断られてしまうケースもまだ多々あります。こちらは細やかなサポートがある施設型ではなく、より自由度が高いアパート形式です」。同じアパートに住む人はみんな同じ経験を持つ者というだけでも心強く、安心して生活ができるのではないでしょうか。
居場所づくりの原点
不動産業者として空き家を活かしたい、そしてみんな笑って暮らせるような居場所をつくりたい。恵子さんのこの思いはどこから来たのでしょうか?
「物心ついた時から母は透析が必要で、病院に行っていて家にいないことも多かったんです。父も仕事があったので、そんな時は近所の方に世話をしてもらっていました。土曜日に両親がいなかったら、近所のお宅に行ってご飯を食べさせてもらったり。自分たちがそうやって育てられてきたというのも、今の発想の一つだと思います」。子育てって一人でやらなくてもいいんじゃない?ご近所とかお互いさまがもっと当たり前にあったらいいのに、といつも感じているそうです。
周りに支えてくれる方がたくさんいたので、家に両親がいないことが多かったり、兄弟の中で一人女性である恵子さんが食事を作っていたということも悲観的に思うことはなかったそうです。「その時の近所のおばちゃん、おじちゃんともずっと仲が良くて、年齢が近い子どもたちみんな兄弟みたいに育ってきました。みんなでわいわいと食べられる子ども食堂が私の原体験からの理想なんです」。
社会的な課題になっていた空き家が、今はシェアハウスとして利用され子どもの声が聞こえる。グループホームになり、障がい者が自立をめざして生活をし、スタッフが支援する。食堂では、めぐみ農園で育てた野菜を使ったおいしい料理をみんな笑顔で囲んでおしゃべりをする。恵子さんの理想がどんどん形になっています。「これが不動産屋さんとして私がしたいこと。こども食堂やカフェもそういうのがある街って住みたいと思いますよね。土地に感謝して、安心して住める街をつくりたいんです」。恵子さんの構想はまだまだ続きます。
恵子さんは、企画・開発をしてその土地の価値を高める不動産屋さん、優しいディベロッパーなのだと感じました。ホームページには、「100円からお付き合いできる不動産屋さんです」と自己PRがあります。店舗のドアをたたくと、優しい太陽のような笑顔の恵子さんとスタッフの齋藤さんが迎えてくださいますよ。
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