




お弁当袋にランチョンマット、コップ袋……。これ、全部ママの手作りです。
「ミシンって面白そうだけど、機械は苦手だし、子どもがいる場所で使うのは難しいだろうな」と思っていた私。この春から子どもが幼稚園に入園する友人たちと頭を悩ませていたのが「入園グッズ」問題でした。幼稚園や保育園、小学校への入園入学にあたり、スモックやレッスンバッグ、上履き入れなどの必要なグッズをサイズ指定する園や学校が少なからずあるのです。

中区のある幼稚園の入園グッズレシピ。お弁当箱袋やランチマットなど全部で8種類ほどがサイズ指定され、作る手順も細かく記入されている。これでも「わかりやすい親切なプリント」の部類に入るのだそう
既製品で見つかればいいけれど、ぴったりサイズのものが都合よく売っているわけもなく、手作りするにはミシンが必要。「ミシンを持っていない」「学校卒業以来ミシンに触ったことがない」という困惑の声が、私の仲間からあがっていました。ネットや手芸店などにオーダーメイドを依頼するという手もあるけれど、せっかくの機会だから子どものための手作りにトライしたい。そこで、希望者を広く募集して「入園入学グッズを作るミシンワークショップ」を開催してみることにしました。

会場の一つ、麦田地域ケアプラザ(横浜市中区)。自主事業として子育てサロンなども開かれているため、おもちゃやマットを借りることができる。作業は順番に子どもを見守り合いながら
活動の主体は、横浜市中区の子育て中の母親を中心とした「まま力の会」です。私、船本が一人目を子育てしていた2013年の2月に、同じように0歳児を子育て中のママ10人で発足した当事者による子育て支援団体です。互いに困りごとなどを話し合い、そこで出た声をもとに、まち歩きや時短料理教室、防災ピクニックなどの一般向けのイベントを開催しています。メンバーの半数はワーキングマザー。ミシンの会は休日の需要も考えて、平日と休日に分けて全部で4回開催することにしました。

会のメンバーやアドバイザーが連絡を取り合い持ち寄ったミシン。この日はミシン4台とロックミシン2台。作るものによって白い糸、黒い糸、はたまたピンクがいいものなどがあり、糸の架け替えが必要になってくるので、できるだけその手間が省けるように配慮した
場所は、地域のケアプラザや活動に賛同してくれた施設など、全部で3会場です。会場の一角に持ち寄ったミシンを置き、アイロンエリアや布を大きく広げられる作業テーブル数台を設置、キッズスペースも作りました。1日の定員は会場の広さに応じて4組から6組です。イベント時間内の入退出を自由にしました。

入園ではないけれど、年中・年長と進級するにつれ、洗い替えのシーツやエプロンが必要になったという人も。シーツはファスナー付きにチャレンジ! 普段は何気なく使っているファスナー、こんなにつけるのが大変だとは……

アドバイザーをお願いした安食真さんは、フリーランスのデザイナー。舞台衣装の制作経験が豊富。ミシンの動作確認などもお手のもの
心強かったのは、指導者として参加してくれたデザイナーの安食真(あんじき・まこと)さんの存在です。幼稚園からのプリントは、「それぞれのお弁当箱のサイズにぴったりのものにしてください」「園内の収納場所に合わせたサイズで制作してください」などの指示や、完成図だけが描かれているものなど、既成の型紙で作ればよいものばかりではありません。どんな布を使いどんな形に裁断すればいいのか、初心者は戸惑ってしまいます。そんな中、安食さんはその場で参加者が持参した園のプリントを見て、買ってきた布をチェックし、ケースバイケースで作図してくれて、その姿はさすがプロ。的確な判断と説明に納得しながら作業が進みました。

「布の選び方がわからない」という声は多く、事前に申込者のみのFacebookグループで布や材料選びのコツなどの情報交換を行った。どんな布を買えばいいのか、裏地はどうするのか、子どもが扱いやすいグッズにするコツなどを安食さんや先輩ママからアドバイスを受けた
また、手助けをしてくれるミシン経験者の協力を事前に呼びかけたところ、先輩ママや洋裁経験者など、4人が日替わりで安食さんと一緒に参加者のサポートをしてくれました。

参加者同士やスタッフママが子どもの相手をし、赤ちゃんをだっこして協力し合った。「赤ちゃんに癒される」という声も。先輩ママから幼稚園での経験談なども聞くことができた

ずっと親子一緒だったけれど、入園するとそうはいかない。離れている間の子どものお守り代わりになればいい。そんな思いを通園バッグにこめるママも
はじめは「洋裁の知識が全くないんです」「家にミシンがなくて、きょう全部作ってしまいたい」と不安な顔だった参加者も、グッズが出来上がってくると充実感あふれた表情に。いつのまにか会場全体に連帯感が生まれ、サポートをしている私たちも嬉しい気持ちになりました。

2歳の子どもを連れてお弁当袋を制作した。お気に入りの柄の布を組み合わせ、作ることができた瞬間の笑顔

青葉区から西区の会場まで来て、1歳の赤ちゃんをだっこしながらもお兄ちゃんのお気に入りの布でグッズを作りたいとがんばった。戸塚区や緑区、世田谷区など遠方からの参加者も多かった
「家で孤独に作っていたら、こんな気持ちにはなれなかった」「もっと作ってみたいという欲が出た」という声も。

さっそくママ手作りのスモックに袖を通す男の子。「下の子が生まれ、家で落ち着いて作業することができない。子どもをみてくれているこの環境があったから作ることができた」とママ。直線縫いでできる袋物と違い、スモックは特に技術と時間がかかるグッズの一つだった12 写真キャプション(ずらりせいぞろい)
会を開催してみて、企画時には想像もしなかったよいことが二つありました。

全日程参加して粘り強く12種類のグッズを制作した人も。とにかく黙々と布を切り、制作していく様子には母の愛を感じずにいられない。最後は時間切れ間近にスタッフ総出でサポートして、完成!
ひとつは、参加希望のメールをくれた方の中に「周りにも困っている人が多く、私たちの地域でも開催したいから、一緒にやってくれないか」というママさんがいたことです。まさか参加希望にとどまらず、開催希望の連絡が来るとは!
その方は、場所の予約やミシンを借りる手配まで動いてくださいました。自分のことで手一杯になりがちな子育て期に、そうやって行動に移すその方の存在と熱意に感動し、急きょ、追加開催を決定しました。そして、それだけイベントが待望されていることに自信を得られることもできました。

布おむつを作成したいと、5カ月の赤ちゃん連れで参加してくれたママはこの日53枚の布おむつを縫い上げた。会場でスタッフをしていた大学生も手伝ってくれて一緒に布を裁断
もうひとつは、私たちのこの活動を見ていて、会場の一つだったさくらWORKS<関内>というシェアオフィスから、「各家庭や倉庫に眠っているミシンの提供を呼びかけ、うちの施設で活用するプロジェクトをしてみてはどうか」と持ちかけられたことです。ミシンを持っていないけれども手作りに興味があるという人たちに、地域で使われずに眠っているミシンをつなぐ取り組みです。
大量生産された衣服を買う選択肢から、手作りで生み出す選択肢を増やすこと。地域の資源をうまくまわし、家庭の衣服をリメイクしアップサイクルにつなげることができたら、循環型社会への小さな一歩につながります。ミシンの価値を見直し、創造する楽しさを広め、思いをつないでいくことができるかもしれません。

畳を敷いてキッズスペースを作ることができたさくらWORKS<関内>。子どもとともにミシンを踏む。休眠ミシン活用のプロジェクトがすすめば、この光景が定期的に見られることになるかもしれない
そんな夢の広がりと新しいつながりを持たせてくれたイベントでもありました。
「入園グッズを作る会」、場所とミシンを確保し、洋裁経験者が身近にいれば、読者の皆さんのお近くでも仲間とともに開催することが可能だと思います。なにより、みんなで集ってモノを作るのはとても楽しいですよ! 興味のある方は、ぜひ開催してみてください。モノづくりを楽しむという新しい世界が開けるかもしれません。

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