そんな変化を、私自身感じています。コロナによって社会のさまざまなことが変化して、今また戻ろうとしていること、このまま変化しつづけていくこと、と分かれ目に来ていると思います。
妊娠・出産・産後の変化について、コロナ前とコロナ中に出産した私の体験談と、地域に根付いて活動する助産師さんのお話をお伝えします。
コロナ禍での出産体験
私は2018年に長男、2020年に長女を出産しています。長女出産が2020年8月なので、コロナがいったいどういうものなのかわからず、世界中が不安に包まれていた時期に、妊娠最後の時期を過ごし、出産しました。
2020年4月、緊急事態宣言が発令され、2歳の長男と大きくなってきているお腹を抱えて、コロナへの不安を感じていたことをよく覚えています。このままテレビやネットの情報を吸収していると心がおかしくなると思い、情報収集する媒体を新聞だけにしました。そんな風に、自分の心と体を守ることが必要だったことを思い出します。電車に乗ったり、人がいそうなところへ行くのは怖くて避けていましたが、2歳児とずっと家にいることも辛かったので、海や山など人が少ないところには出かけていました。
今から考えれば、妊娠している期間は不安もあれば楽しさ、またこれ以上にはない幸福感を感じることができる時期ですが、それを感じることができないぐらい不安のほうが大きい妊娠体験だったな、と思います。
出産に関しては、私が産んだ病院では立ち合いはもちろん、付き添いも一切NGでした。もっとも不安だったのが、出産で入院する際、熱があったら受け入れ不可、提携している別の病院へ、ということでした。一人目もその病院で産み、慣れた先生や助産師さんのもとで産みたいと思っていたので、入院する際の検温はとてもドキドキしたことを今でも思い出します。
家族の立ち合いができない分、出産は助産師さんが手厚く関わってくれました。出産時は、私の携帯を夫とつないでオンラインで中継、写真や動画もたくさん撮ってくれました。
一つ心残りは、長男を立ち合いさせることができなかったこと。ほかではできない経験を彼ができなかったことは残念に思っています。
入院中は、コロナ前よりも、とっても快適だったと実は思っています。だれもお見舞いに来ることができないので、赤ちゃんと私のペースでゆったり過ごすことができました。一人目のときを思い返すと、多くの人が赤ちゃんを抱っこしに会いに来てくれるのはうれしいけれど、私自身はすごく疲れていたな……と。
退院後、実家も近いことがあり、両親へのリスクを鑑みながらも、実家で産後療養をしました。一方、同じ時期に出産をした友人で、実家が遠い方はそもそも里帰り出産をすることができず(※1)、自身が生活していたエリアで出産、出産後は自宅でパートナーと一緒に産後生活を営んだという方が結構多くいます。
※1.2020年4月公益社団法人日本産婦人科学会が里帰り出産を控えるようにと通達を出しています
妊婦の皆様へ~“里帰り(帰省)分娩”につきまして|公益社団法人 日本産科婦人科学会 (jsog.or.jp)
社会の変化と男性の育児参加
コロナを経て、里帰りしないことが、ポジティブな選択肢の一つになってきているように思います。
在宅ワークがコロナによって浸透し、また少しずつではありますが、男性の育休取得率が増えてきていることから、産後に夫のサポートを得られやすくなり里帰りしない出産の選択を可能にしていると思います。
このように新生児期を夫婦で過ごした男性がその後も育児に積極的に参加しているように感じています。時間のやりくりの仕方、仕事との付き合い方、子どもとの向き合い方、など新生児期という大変で、かつ子どもが二度とない愛くるしさをまとった時期を濃密に過ごすことで、男性の家族に向き合う意識が変化しているのかもしれません。
保育園の送り迎えでは、男性に会うことが増えました。
広がるさまざまなサポート
産前産後・出産は、初産婦ではわからないことだらけですし、経産婦であっても、上の子どもも含めてさまざまなことが起こるので、不安や悩みが尽きない時期だと思います。
これまでも、行政から派遣された助産師さんや保健師さんなど専門家のサポートはありましたが、最近では、地域に根付いて、一人ひとりに寄り添ってくれる助産師さんの情報をよく耳にするようになりました。私自身も、家から自転車で15分のところに、いつでも頼ることができる助産師さんがいます。
また、オンライン上での助産師さんのサポートなども出てきています。コロナを経験して、今、産前産後を支える助産師さんは、何を感じていらっしゃるのでしょうか。
今回、産前産後ケア専門フリーランス助産師として活動されている湘南つむぎ助産院の安藤千晶さんにお話を伺いました。
地域と人に寄り添った産前産後ケア専門助産師さん
湘南つむぎ助産院では、これから新しい命を迎えるご家族にむけて湘南エリアを中心に出張サービスを行っています。産前ケアとして、妊娠期からの保健指導、お産の練習など家族で一緒に楽しみながら行っています。また、産後ケアとして授乳相談や育児相談をしています。
安藤さんは、コロナにおける産前産後の変化をどんな風に感じていたのでしょうか?
「そのころ、私自身は仕事を離れていました。(湘南つむぎ助産院としての活動は2020年10月から)とはいえ、そのときも、産前産後、とくに産前クラスの大切さを思ってはいました。あらゆる行政のサポートが休みになっている状況をみて、助産師として地域や女性のために役に立てるのでは、何かできれば、と思っていました」(安藤さん)
確かに、第二子のとき、私が暮らす逗子市では、行政が行うパパママ教室は中止、病院が行っていたものもオンラインになるなどしていました。私は、経産婦だったのでそこまで問題に思いませんでしたが、初めての出産だったら、とても不安だっただろうと思います。
安藤さんは、産前と産後どちらのケアにも取り組んでいますが、なかでも産前ケアを大切にしています。産前ケアの一つであるマタニティクラスでは、妊娠中の過ごし方や、出産の流れやシュミレーション、産後のからだの過ごし方などを、女性だけではなく男性も含めて家族みんなで一緒に理解を深めていくことができます。
「私は、一人目の出産のとき、自分自身が向き合っていなくて、思い描いていたお産をすることができませんでした。その後、助産院で働くようになって、一人ひとり寄り添って産前ケアすることで、出産・産後への不安を聞くことができる、と気づきました。両親学級なし、立ち会いもなし、誰も教えてくれない、陣痛のその先で自分に何が起こるのかわからない……。コロナでますます不安が増える状況の中、産前ケアを受けて、事前に知っておく、理解を深めておくことが大切です」。
また、安藤さんの産前ケアを受ける方々の思いはさまざまです。
「今、私の産前ケアを受ける方たちで、初産婦であれば、そもそも何を準備したらいいのか、お産そのものへの不安などを話してくれます。経産婦の方も多く、自分の思うお産がしたい、産後に向けた準備がしたいとケアを受けてくれています。産前ケアは、ご自宅で行うので妊婦さんだけではなく、ご家族で参加できます。パートナーも一緒に聞くことで、女性の体の変化について理解が深まります」(安藤さん)
私自身、初産婦のときはとにかく無事に産むことに必死で、産後のことなど全然考えることができていませんでした。知らずに迎えた産後の生活は、体力的にも精神的にも結構辛かった、と思い出します。
「産前産後の体づくりが大切、と知っておくこと。出産はゴール、そして育児のスタートです。産前に知っておくことで、安心してスタートをきることができます。ネットなどさまざまな情報がありますが、自分自身に合っていないかもしれません。助産師さんとつながることで、自分に合ったものを見つけやすくなると思います」(安藤さん)
「今、子育てや家族が変わっていくとき。子育てって色々なやり方があっていい。うまくサービスとつながって、たくさん試行錯誤して、安心した環境のなかで過ごしながら、自分たちの形をつくっていけたらいいと思います」と安藤さん。
家族のあり方は自分たちで決めていく
コロナによる社会の変化が、出産や産後の在り方、その先の育児にも変化をもたらしました。混乱の最中では、選択肢が奪われて窮屈にしか思えなかったことも、コロナの状況が落ち着いてきた今、コロナ以前にはなかった選択肢として、私たちの社会に残っていて、それは私たちに選ぶ自由をもたらしています。
私のまわりでは、積極的に子育てを楽しんでいる男性が増えてきたし、それを公言しやすくなってきたと感じています。
家族だけではなく、地域のサポートを上手に活用しながら、育児をしている人たちがたくさんいます。
育児含め、生活のなかで起こるさまざまなことは、閉鎖的になりがちで、それは男でも女でも、一人でも二人でも大変なことは大変です。家族のなかでは解決できないことはたくさんあると思います。そんなときのために、気軽に相談できる助産師さん、利用できる地域のサービスなどに頼っていくことが大事だな、と思います。
自分と家族に合った形を選んで、産前産後の時間を過ごしていくことは、その先の家族のあり方をつくっていってくれると思っています。
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