山川紋の暮らし訪問記 第2回 「賃貸でも自分らしい部屋づくりを」 デザイン:もぐら工務店
住まいが賃貸だと、住んでいて気に入らない箇所が出てきた時に、なかなか直しづらいもの。「賃貸だし……」と、自分らしい住まい方を諦めている方、いませんか? 今回は築20年の鉄骨アパートを、自分らしい住まいに変えてしまった家族の暮らしを訪問してきました。

今回訪れたのは、私、山川紋が建築を学んだ大学時代の友人・Nさんのお宅です。商業施設の販促広報のお仕事をしている私の友人と、住宅関係の会社に勤務している旦那様は、2年前にあざみ野に引っ越してきました。家族は夫妻と犬1匹とインコ2羽です。二人は普段、それぞれ別の会社に勤める会社員。空いた時間を使って二人の賃貸アパートでの部屋づくりを中心とした活動を「もぐら工務店」というユニット名でブログに記録しています(※実際の工務店ではないので、残念ながら依頼はできません)。

 

前からよく遊びに行っては暮らしの刺激をもらっていた、この「もぐら工務店夫妻」のお部屋をもっと知りたい! という思いで取材してきました。

 

おふたりが暮らしているのはあざみ野から徒歩10分ほどの住宅地にある築20年の鉄骨アパート。間取りは8畳のダイニングキッチン、6畳の洋室2部屋、6畳の和室が1部屋の3DK、ペットOKという物件。おふたりはこの、よくある賃貸アパートを原状復帰可能なDIYで魅力的な空間にしています。

 

いつもは夕食をいただきにお邪魔するので、昼に訪れるのは初めて。わくわくしながら玄関扉を開けると、迎えてくれたのは犬の“みよし”。そして、この緑あふれるリビングでした。

 

ここは、約8畳のリビング。この中に見えているほとんどのスペースに、お二人の手が加えられている。植物が載っている窓際の台の下はモルタルブロックを置いた即席土間。ここが、お二人の好きな場所だという

 

写真の床をご覧ください。元は賃貸や新築の分譲マンションなどで一般的な、樹脂ワックスがコーティングされた積層フローリング(薄い木材を重ねたフローリング)でした。艶のある表面のためメンテナンスがラクで、少々ひんやりする足ざわりが特徴です。

 

一般的に賃貸住宅では、多くの人が住むため、なるべく価格が低く、メンテナンスが容易な素材を使っています。そのため、先の樹脂ワックスの積層フローリングだけでなく、ビニール製のクッションフロアだったりすることが多いのです。床の色が気に入らなかったりすると、目に見える面積が広くインテリアにも一番影響を与えるだけに、不満に思うこともあるのではないでしょうか。

 

お二人はこの積層フローリングの上に一部滑り止めマットを置いてから無垢のパイン材のフローリング材を並べて敷いています(※注)。パイン材は針葉樹なので、柔らかい足ざわりで犬のやわらかい足にも優しい素材。断熱効果もあり、真冬でも冷やっとしません。その上、無垢材の中では比較的安く手に入ります。二人の部屋づくりモットーは「お金をかけずに楽しむこと」ですから、パイン材はぴったりな材料だったのです。

 

※注: 1階にお住まいの方がこの方法でフローリングを敷く際は湿気に注意しましょう(もぐら工務店夫妻の家は2階)。実は我が家も賃貸暮らしだった時、同じように床に無垢のパイン材を敷いていましたが、1階だったためカビやすい状態でした。その場合は、下に新聞紙を敷くと多少湿気を吸い取ってくれるかと思います

 

それに、通常のフローリング張りと違い、釘を打ったりしないので、いざ退去という時には剥がしてしまえばよいだけ。修復の手間は不要です。剥がしたフローリング材は、別の場所に転居する時もそのまま使えます。

 

実際にお二人は2年前まで鷺沼の賃貸アパートに住んでいましたが、その時に使っていた床材を持ってきて、今のリビングに使っています。樹脂ワックスのコーティングがされていないフローリングならではの使い込まれた味が出始めています。

 

二人の目線はいつも犬の“みよし”へ。日中は二人が作った部屋を思う存分駆け回っている。休日はドッグカフェへ行くことが多い。センター北にあるベッカライ徳太朗がお気に入りのドッグカフェだ

上の写真のリビングテーブル、どのように作ったと思いますか? こんな細工のある脚はさすがに作れないですよね。

 

これ、実は古道具屋で購入した少し時代遅れな机(なんと3,000円!)から、魅力的な脚だけを外しているのです。その後、ホームセンターで購入した104cm幅のホワイトウッド5枚を脚に合わせて塗装して、取り付けています。取り付ける、と言ってもそんなに難しいことはしていません。下の写真のように脚のフレームから天板に向かって斜めにビス止めしたり、元々空いていた穴を利用したり。

 

短手方向は両端と中央をビス止め、長手方向は両端と中央3カ所でビス止め

 

もぐら工務店夫妻はこのテーブルのように、一見「誰が使うの!?」と思うような古い家具をリメイクするのがとっても得意。

 

「サイズや素材で理想にぴったりなものを安価に手に入れるのはこの上なく難しい。だから、自分たちで作ったり、手を入れて、理想のものをつくっていきます」とお二人。

 

「それに、その方が楽しいし!」とのこと。

 

古い家具だけでなく、あのIKEAの家具だって少し工夫するだけで、印象ががらっと変わります。

 

なぜか撮影する場所に、とことことやってくる“みよし”についつい目がいきますが、この写真には、他にも見どころがいっぱい

 

写真の左の棚はIKEAのフレームとホームセンターで購入した棚板を塗装して作ったもの。フレームは両端についているので、幅を自由に変えられて、部屋に合わせたサイズにすることができました。

 

中央は、あまりにもおんぼろだったため激安で購入したカリモクのチェア。中材のウレタンもぼろぼろだったので、新しく詰め替え、張り地も変えてリメイク。後ろのクッションはお母様の製作なのだそう。ものづくりが好きなのは遺伝でしょうか。

 

右のテレビ台も、古い衣装箪笥の下部分をカットして、古材の天板を貼る、というリメイクをしています。

 

続いて、こちらの明るい寝室。

寝室の床もカバザクラの無垢フローリングが上から敷かれている。明るいパイン材と異なり、少し落ち着いた印象。この寝室には他にも秘密が……

 

このベッドマットレスの下にご注目ください。木製のフレームが見えます。実はこの中に入っているのは、隣の部屋の畳なのです。

 

元々6畳の和室だった部屋をフローリングにした際に剥がした6枚の畳が、このベッドの枠の中に3枚2セットで収納されています。つまり、このベッドフレームはDIY。ベッドを作る時に一番大変な体を支える面が、頑丈な畳でできているので安心です。ヘッドボードや両脇のサイドテーブルももちろんお手製です。

 

寝室の隣の和室だった部屋。パソコンデスクの奥にはウォークインクローゼット。これらも全部手づくり

 

上の写真で奥にちらりと見えるテーブルはダイニングスペースです。

 

ダイニングチェアだけは、購入している。左はイルマリ・タピオヴァラ、右はアルヴァ・アアルト、どちらもフィンランドの家具デザイナーのもの

 

キッチンとダイニングを仕切っている収納はスチール製のL型アングルとベニヤ合板。どちらも、「もぐら工務店御用達のホームセンター=長津田の“スーパービバホーム”」で簡単に手に入ります。

 

電動ドリルの先をキリに変えて穴を空けたあと、ビス止めをしている。穴が開いているのは住む場所に合わせて何度か棚板の配置を変えているため

 

食器は旦那さんの生まれ故郷、益子のものが多いそう。たまプラーザのCLASKA Gallery & Shop “DO”にもよく足を運ぶ

 

最後に、もぐら工務店夫妻の家の全貌はこちらです。

 

入居前に二人で考えたこの家の改造プラン

 

この部屋にある家具は、引っ越してから全てを作ったのではなく、今までの賃貸暮らしで同じように作った家具に、古い家具や身近な材料を継ぎ足したり、修正しながら今の形になっています。大きな家具は引っ越しの時は分解できるようになっているそうです。こうした、賃貸だからこその工夫も感じます。

 

どこにでもある、普通の賃貸アパートが、工夫次第で自分テイストあふれる空間に生まれ変わったのです。

 

もちろん、二人とも建築関係の仕事をしていたことも、この空間を作る上で欠かせない要素でしょう。デザインに妥協していない様子も見てとれます。

 

それでも、この家にあるものは、作り方を公開しているブログを見ながら、その気になれば誰でも作れるものが多いのです。「これはどうやって?」と聞くと、難しいことのないシンプルな作りを披露してくれます。

 

どこにも気取った風がなく、自分たちの感情に素直に作った、欲張らない部屋づくりだと感じました。

 

それぞれの家具や空間の詳しい作り方は、ブログをぜひご覧ください。

 

「もぐら工務店 イエと家具とごはんのまいにち」

http://mogura-co.cocolog-nifty.com/

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この記事を書いた人
山川紋ライター卒業生
教育やWEB関連の仕事を経て、現在は夫と住宅の設計やリノベーションを手がける「ショセット建築設計室」を主宰。横浜市青葉区のビンテージマンション「桜台ビレジ」に住まい、事務所を構える。森ノオトでは教育と建築の専門家として、子ども向けの建築ワークショップなどを展開。愛猫4匹が看板。
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