文部科学省の2022年度の調査によると日本の不登校の小中学生は過去最多の約30万人、10年連続で増加しています。
マレーシアやアメリカなど海外各国では「ホームスクーリング」という、自宅や、学校以外の場所で学びを進める居場所の選択肢があります。
近年、日本でもフリースクールの存在を耳にするようになりました。しかし全ての子が公教育以外の学びに容易にアクセスできるわけではありません。
私の子どもは3年ほど前から不登校ですが、今は自分のペースで学校に通い、先生とスクールカウンセラーと連携しながら、学習を進めています。安定したリズムができるまで、親の私はいろいろ悩みました。「不登校の子の親」になってみると、地域の他の親はどうしているの?と疑問にぶつかります。そんな中、藤沢市でホームスクーリングという学び方を広げ、地域で子どもを支える街づくりをするNPO法人優タウンの小沼陽子さんにお話を伺ってきました。
不登校の親子が仲間や地域とつながる場
優タウンの定期的な活動は、毎月第4木曜日10:00~12:00に藤沢市役所分庁舎の社会福祉協議会の2Fの活動室で開く「朝Cafe」です。この会は、不登校の親子が気軽に悩みを相談したり情報交換をする場として毎月開催されています。
明るく広々とした部屋を真ん中で緩やかに区切り、親同士順番に話し、子どもは奥でボランティアスタッフと一緒に工作などを楽しみます。
午後は親と子どもたちで工作や劇などを企画して遊びます。
午前中の朝Cafeに親だけで参加する人、お昼をもってきて1日過ごす親子、途中参加や途中退出もできます。
藤沢在住の方が中心ですが、湘南エリア全般から参加でき、参加する子どもたちも小学生~大学生まで幅広く、さまざまです。毎回7~8人の親子が参加しています。
朝Cafe参加者のLINEグループの登録者は現在117名。悩みや情報共有に使われているそうです。
朝Cafeでは代表の小沼さんが自己紹介をして、そのあと一人ひとりがきちんと話せるように順番に自己紹介をして話を回していくスタイルをとっています。
「最初は団体の運営を一緒に考えてくれるプロジェクトメンバーを探すため、私が最初にプレゼンをして順に自己紹介をするスタイルをとっていましたが、皆がバリバリやりたいわけではないと気づき、今はただおしゃべりして聞くのを大事にしています」と小沼さんは話します。
私も初めて参加した時は、保護者として誰にも話せなかったモヤモヤを口に出せたことでとてもホッとしました。また誰かの体験を聞く中で自分を客観的に捉えられる一面もあります。不登校の親という共通点があり緩やかなつながりを感じる時間でした。
取材では、3月7日に藤沢駅北口のサンパール広場で行われた「朝Cafeこどもアート」にも参加しました。毎月1回の朝Cafeとは別に開かれる年1回のイベントです。
優タウンの子どもたちが作った絵や工作の展示、ワークショップなどを行うイベントで、子どもたちの「好き」があふれる作品が並んでいます。
優タウンの活動では、子どもがやりたいことを聞いて形にしているそうです。
「このイベントも、最初は展示だけでした。子どもたちがワークショップでお客さんに教えてみたいと言うのでやってみたら、だんだんワークショップがメインに変化していきました」と小沼さんは話します。
イベントに立ち寄った地域の人と話すと「不登校の子ってしっかりしているのね」と言われるそうです。不登校と聞くとイメージで何もできないと思われてしまうそうですが「実際に子どもたちと関わってもらうと、それが誤解であることもわかるので、地域の方と接する機会があるといいですよね」と小沼さんは言います。
活動のきっかけとNPO法人優タウン設立(法人化)への思い
元々小沼さんはフルタイムの会社勤めをしていました。ワーキングマザーとして働く中で、お子さんが保育園に行きたがらず、泣き叫ぶ子を無理やり預ける日々に悩んでいました。小学校に入学後も状況は変わらず、両親に協力を仰ぐため、都内から神奈川県にある実家の近くに、家族で引っ越しをしました。
引っ越し後は家族の助けを借り、学校への送迎や見守りを分担しながら、小沼さんは仕事を続けます。
そんなある日、登校を嫌がり逃げていた子どもが、住んでいたマンションの13階の非常階段から落ちそうになる出来事がありました。
学校って何だろう?無理やり通わせることが教育なの?と考えの変化が起こったと小沼さんは話してくれました。
そこから子どもの希望通り、家で好きなように過ごすと、子どもはだんだん元気を取り戻します。
同時に小沼さんにも変化がありました。仕事を優先して子どもにしわ寄せがいってしまったと自分を責めていたのですが、「子どもが自分の意思で学校に行かない生き方を示している姿を見て、私も自分の人生を生きたい」と徐々に価値観が変化していったそうです。
ただ、親子が「学校に行かない」選択をしても、10年程前はまだ不登校は一般的ではなく、昼間に出歩くのは周りの目が気になります。人の中心でわいわいするのが好きだった小沼さんが、周囲に理解されない孤独感を初めて感じたと言います。
私に何かできることは?と仕事を退職し、「一新塾」という社会起業・政策学校に参加しました。
そこでのプロジェクトメンバーとの出会いから、2017年、前身の「ホームスクーリングで輝くみらいタウンプロジェクト」を立ち上げます。セミナー開催、不登校親子のつながりの場「朝Cafe」、企業とのコラボイベントなどさまざまな活動を続け、2023年6月には団体を正式にNPO法人優タウンとして法人化しました。
「法人化をしても軸は変わっていません。地域の公共施設、地域の大人たち、公立学校、フリースクール、塾など、市全体がホームスクーリングという学び方を認識し、日中昼間に外に子どもがいても偏見なく子どもを受け入れられる体制を整え、つながりのある街にすること。一段ステージを上げて、行政とも協働し、より公益的に、企業や地域と関わり、世の中に役立つことをしたいので法人格を取得しました」と話していました。
活動を通して感じた親と子の変化
2017年に「教育機会確保法」が施行されてから、社会や学校の空気が「学校に行かなくてもいいと言うことが正解」のように変化してきたと小沼さんは言います。親も子どもに「行かなくていいよ」と言うけれど心の中では親が不登校を受け入れられず、苦しんでいる姿も小沼さんは見ているそうです。親が不登校を受け入れられないとそれが子どもに伝わって、親子で長く悩む状態が続いてしまうと言います。
「私もそうだったように、親が自分の人生を楽しむと決めて変わると、子どももすごく変わります。子どもも新たな道でどんどん活躍しているのも優タウンの活動で見てきました。今、日本の教育は過渡期であり、親同士支え合うつながりが必要です。だから朝Cafeの活動をメインにして子どもたちのやりたいことを手伝う、そんなふうに活動を続けていきたいですね」
取材を通して話をした子たちは、好きなことを話してくれる、年相応の子どもたちでした。子どもたちからワークショップの説明を聞きながら、相手の理解度に合わせてコミュニケーションをとる姿勢を、逆に学ばせてもらった気がしました。親が学校に通わない選択を受け入れることで、子どもが家にいても大丈夫という安心感が持て、さらに地域の理解が進むことで、この街や社会にいてもよいと、もう一つ上の安心感にもつながります。それは多くの人にとっても住みやすい街ではないでしょうか。優タウンの取り組みから、多様な人が住みやすい社会が広がっていくような気がします。
NPO法人優タウン
HP:https://homeschooling-town.com/
メールアドレス:office@yu-town.org
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