カフェから街へあふれ出す温もりとつながり。コミュニティカフェ「You You Living」
「町田市の玉川学園前駅の近くに、子どもも、大人もお年寄りも、地域のみんなに寄り添ってくれるような『You You Living』というコミュニティカフェがあるよ!」こんな話を耳にして、居ても立ってもいられず、次の日にはオーナーの丹羽昭尋さんにご連絡をしていました。「『みんなの食堂@You You Living』を平日午後に開いています。よろしかったらその時間にぜひ!」とお返事をいただき、取材が叶いました。お店にいる間ずっと、地域の人たちとお店とがゆるやかにつながって醸し出す、楽しく優しい居心地を感じました。

「こんにちは!また来るねって言ったけど、本当にまた来ました〜!」元気な声とともに、お店に入って来たのは小さな男の子。店主の丹羽昭尋さんは、「よく来たね!いらっしゃい」とお店の入り口まで出迎えます。オープンキッチンで仕込みをしているスタッフの方々も手を止めて、笑顔で声をかけます。

「明日は父の日だね、お父さんにお手紙作れるから一緒にやってみる?」と声をかけられ、男の子はスタッフさんが開いているワークショップのテーブルへ、後からきたお兄ちゃんとちょこんと並びます。

一つのテーブルを囲む人たちを見ているだけでも、ほっこり癒やされながら、同時に、そのインクルーシブな状況に、You You Livingさんの凄みさえ感じました

「You You Living」は玉川学園の駅から歩いてすぐの場所にあるアウトドアリビングカフェです。また、こども食堂として「みんなの食堂@You You Living」を営業日の平日15時から17時まで、小学校が早帰りになる水曜日は14時から開いています。子どもは100円、大人は300円で利用でき、この時間はいつでも握りたての温かいおにぎりとスープが用意されています。

みんなの食堂の看板を見ながら、「本当はね、無料でもいいんです」と丹羽さん。「でも、無料だと逆に遠慮したり、入りづらいと思う方やお子さんもいるかなと。だから敢えて、100円としています。そうすることで、ここではみんな同じという感覚になれて、気兼ねがなくなると思うのです」。丹羽さんは誰もが利用しやすいよう、お店の敷居を下げる色々な工夫をしています

店主の丹羽昭尋さんが、この玉川学園という街で居場所づくりを目指してカフェを始めたのは、2023年はじめのことです。自身が経営している建築会社の「株式会社鳳山」が軌道に乗ってきたことで、ずっと胸の内に温めてきた「居場所づくり」を形にするべく、「You You Living」を開きました。オープンから1年半、と聞いて驚いてしまいました。丹羽さんの持つ地域の人たちとのつながり、お店に来ている人たちの馴染んだ様子、スタッフさんの息の合った姿……、まるで昔からここにあるよという自然な、肩の力の抜けた空気がお店を包んでいます。

入り口には地域の情報が手に取れるコーナーがあります。また、かわいらしい黒板には月替わりのオススメコーヒーとおやつのメニューが!今月のオススメは「ルワンダコーヒー」と「オレンジピール&ホワイトチョコのスコーン」。毎月の新メニューの開発は大変ですが、お客さんに新鮮な楽しみを届けたいと、スタッフみんなで試作を重ねて準備をしているそうです。日替わりのInstagramでみられるランチメニューもどれも体に優しそうで、おいしそうです!しかも、こんなに盛り沢山でこのお値段?とちょっと驚いてしまう価格です

しばらくして、今度は入り口のガラスのところに満面の笑みで立って手を振る子どもがいます。店長の丹羽さん「よく来たね!いらっしゃい」と、お店の入り口まで出迎え、名前を呼びかけながら扉を開けます。男の子は元気いっぱいな様子でお店に入って来ました。後から下の子のベビーカーを押して入って来たお母さんとも、にこやかに話が弾んでいます。お母さんにお話を伺うと、お店が昨年2月にオープンした頃、下のお子さんの「ベビーマッサージ」のワークショップに参加して以来、すっかり親子でその居心地の良さに癒やされ、常連になったそうです。この春からはお仕事に復帰もされて、生活は忙しさが増していますが、ここでのひと時が子どもたちにとっては楽しみ、お母さんにとってはほっとできる息抜きの貴重な時間になっているそうです。

オープンキッチンでは、これから「みんなの食堂」に来る子どもたちのために、仕込み中でした。今日のおにぎりは炒り卵入りです。スープのいい匂いがキッチンからお店にゆったりと広がります

続いて入って来たのは若者でした。「こんにちは。はじめまして!こちらのお店のことを教授に教えていただいて来ました。玉川大学1年生の岩城と申します」。「いらっしゃい!ぜひ、一緒に子どもたちと工作してください」と丹羽さんは、少し緊張気味で入って来た彼を温かくお店の奥へと迎えます。丹羽さんがリベラルアーツ部で臨時講師もしている、お店のすぐそばにある大学の学生です。その縁で、学生たちがこうしてみんなの食堂のボランティアとして飛び込みでやって来ることは、よくあることだそうです。子どもにとっては、普段なかなか機会のない年齢のお兄さんお姉さんとの触れ合い、そして学生にとっては地域やさまざまな人との関わりの中で得られる実体験としての大きな学びがあることでしょう。

 

 

眺めているだけで、ワクワクしてくるアウトドアグッズの数々は、丹羽さんが「個人でも家族でも衣食住をさらに楽しむため」のツールとしてセレクトしています。また、災害時の自主防災にも、こういったツールを楽しく役立ててほしいという思いがあります。被災地で継続的にボランティア活動をしている丹羽さん、お店には定員である約20名3日分の備蓄をしています

午後4時半、気が付けばお店は人でいっぱいです。畳のスペースには先ほど手をつないで入って来た小学生の女の子たち、そのお母さんたち、兄弟とお母さん。窓際のテーブル席にはワンちゃん連れの散歩の途中で来られたご夫婦、ワンちゃんは工作をしている子どもたちのテーブルに顔を寄せて興味津々です。アイスコーヒーをゆっくりと飲みながらリラックスしている学生さん、仕事の打ち合わせに集う地域の方々。ガラス張りの店内は外からの光が柔らかく差し込み、カウンター越しの厨房からはおいしい香り、皆がおもいおもいにくつろぎながら、好きなように時を過ごしている、この緩やかで温かな雰囲気。このお店にいると、人と人の垣根がぐっと低くなるような感覚になってきます。なんでしょう、なんだかとても懐かしい、「縁」の形を見ているような不思議な心地です。

丹羽さんイチオシのコーヒーゼリー!見た目の涼やかなかわいさと、コーヒーの味わい深さ、ぷるんとした食感、そしてアイスにふりかかるシナモンのふわっとした香りが絶妙でした。「また、あれ食べたい……」と思ってしまうこと間違いなし!

「ここでは、誰もが無理をしない、ということを大事にしています。お客さまはもちろん、そしてスタッフにも、無理はしないで欲しいと思っています」と、お店にいる人誰にも、垣根なく気を配っている丹羽さん。人はそれぞれの生活の中で、それぞれの思いを抱え、乗り越えていかなければならない事情も時にはあると思います。家とはまた別に、「無理をしない」でいられる場所があるということに、ほっと息がつけたり、支えられたりする人がきっとたくさんいることでしょう。

 

そんな丹羽さんの思いは、お店にとどまらず、地域に広がります。

「地域での人と人とのつながりを大切にしています。人と人をつなぐこと、私にできることがあれば力を貸したいし、支援をします。また、そういったつながりや出会いに私自身が力をもらっています。この循環がないと自分ではなくなると思っています」と丹羽さんは言います。

 

初めて、支援という形で丹羽さんが大きく動いたのは高校3年生の冬でした。受験生で、センター入試を目前としていた時、阪神・淡路大震災が起きました。丹羽さんは、ニュースで現地の様子を見て、何か自分もしなければと、突き動かされるように社会福祉協議会のボランティアの一員として東京から現地へ出発しました。そこから気が付けば4年間、途中からは現地で仕事に就き、復興支援活動を続けました。

丹羽さんは、現在、能登半島地震の支援活動をしています。活動について丹羽さんは「私は『義援』ではなく『支援』にこだわっています。その支援は継続性が大切で、一人ひとりに支援物資や炊き出しを届けて、食を介して一人ひとりの悩みや思いをくみ取って、行政や支援機関につないでいくことが、支援の礎と思います。現在の目標は、仮設住宅で奪われた子どもたちの遊び場を提供し、子ども食堂を継続的に開催することです」と話してくれました

「親には、それまで塾にも行かせてもらっていて、当然のように大学へ行くだろうと思って育ててもらっていたので、悪いことしたなと思います。受験生だった当時、医療系の大学へ進み、ゆくゆくは人の為にはなりたいという思いはありました。ですが、あの震災を画面越しに目の当たりにした時、人の為に何かする必要があるのは『今』だと、現地へ行かないという選択肢があの時、逆に思いつかなかったのです」

 

丹羽さんがそのように「困っている人のために、何か自分にできることがあるならば、やらないわけにはいかない」と思う原点は「この頃にもあるのでしょう」と、次のように話してくれました。

近所の友達同士でお母さんと来ていたかわいらしい二人組。「えっと、これが25円で、こっちが30円だから、ねえ、お母さん55円であってる?」。お店にはちょうど子どもの丈に合わせて、駄菓子コーナーが設置されています。自分で選ぶワクワク、計算をするドキドキ、駄菓子を買う時の子どもたちの笑顔を見ているのはなんて心が温まるのでしょう

「中学生の頃、悩みもあり、不登校になった時期があります。その時、近所にあったお寺の座禅会に参加してみたのです。そこは、お寺に出入りしているさまざまな年齢の方々が遊んでくれたり、話を聞いてくれたり、さり気なくいろいろなことを教えてくれたり、伸び伸びと自分らしくいれる場所でした。多世代の人と関わりあえる中で、仲間とは年齢は関係ないのだと実感しながら、支えられていたし、居場所を作ってもらっていたと思います。また、もっと遡ると、小学校の頃から社会福祉協議会に入っていたので、地域のお年寄りと一緒にゲートボールをしたり、ボランティア活動もしていていました。その頃から地域との関わりというのは自分にとってごく自然で、不可欠なものだったのでしょうね。今は私が地域で受けた恩を返す時期だという思いがあります」

 

そして、阪神・淡路大震災の被災地での活動中、丹羽さんは倒壊した建物が多くひろがる街の中で、築年数の長い伝統構法の建物が全壊していない様子に心を打たれます。その後、宮大工の技法を継承する建築会社に就職し、伝統構法を学んだそうです。

青年期に見た被災地の街の風景、そしてその災害の恐ろしさや悲しみの中で出会った人たちと絆、丹羽さんが今実現させている、地域を大切に思う、人と人をつなぐというこの形には、圧倒的な原体験があるのだとお話を聞いて思いました。

お店の前には鮮やかなブルーの本棚が設置されていました。町田市の取り組みである「きんじょの本棚」の190番目の本棚です。常連のお客様手作りの看板には本棚の使い方と「店主が違えば本棚に並ぶ本も多種多様。本と一緒に個性豊かなお店や関わる人たちをお楽しみください」と言葉が添えられていました

工作を終えておにぎりを頬張っていた子どもが丹羽さんに話しかけました。

「ねえ、なんでお魚があるの?」お店のディスプレイとして飾られている大きなサーモンのオブジェを指差します。「ねえ、なんでギターがあるの?」今度はその下に置いてあるギターを指差します。言われてみれば、店内にはセンス良くディスプレイされた植物やアウドドア用品と共に、誰でも手に取れる本や、赤ちゃんのおもちゃ、パネルの写真など色々なものがさり気なく置かれています。

 

丹羽さんはにこやかに「色々あったら面白いでしょ?色んな人が来る場所だから、それぞれの人がこの中でどれかに興味がもてるかもしれないからね。そのギター触ってみてもいいよ」と答えます。

このような「誰かに」、「誰でも」に届ける配慮が、このお店を築いているのだなあと思いました。

取材に訪れた日、私にとって偶然の再会がありました。以前、子どもたちと工作のワークショプでお世話になった町田市成瀬台で「まわる工作城」を開いている高木チカコさん(現在は「寺子屋ごはん」と「寺子屋がくしゅうしつ」も運営)(写真右から2番目)と、町田市三輪町で柳沢琢美さんが主催していた「里山オープンデイ」で以前出会った、カメラマンであり、「町田市100人カイギ」「投票所はあっちプロジェクトinまちだ」の運営に関わりながら、それらの団体を広くつなげている北村友宏さん(写真左から2番目)でした。「これから地域のことを一緒に考えてけたらと、ぜひお会いしたいと思っていました」と丹羽さん

この日もお店では午前中は、お母さんと赤ちゃんのためのベビーマッサージのワークショップがあったそうです。他にもキットを使ってあずま袋を製作する「ちくちくワークショップ」、現代版の金継ぎで当日に完成できる「金継ぎワークショップ」、毎月実施され、今月はブルーカラーのアレンジがテーマの「フラワーワークショップ」、そしてコンポストやハーブの苗、フラワーコサージュの製作などができる「フラワー&ガーデンマルシェ」がこの月は開催されていました。

これらのワークショップは、お店に訪れたお客さんたちの「得意!」という声を聞いた丹羽さんが「ではぜひ講師をお願いします!」という声がけから始まっているものだそうです。

 

丹羽さんのこの、そばにいる人のさりげない「一言を聞き逃さない」気配りのアンテナ、そしてそれを形にしてつないでしまう行動力と情熱……。

 

訪れた誰もが主役になれる場所として「You You Living」という名前の通り、街のお茶の間のようなカフェです。垣根なく、緩やかに、無理なく、悠々とここからつながりが生まれ広がっていく。地域の人たちに寄り添い、また一緒に地域を盛り上げて行く、この場所で出会いの化学反応が起こり、エネルギーが街へとあふれ出すような「You You  Living」でした。

お店からの帰り道、なんだか街の景色が先ほどより柔らかく、親しみを持って見えたのでした。

Information

[You You Living]
住所:町田市玉川学園5丁目2−2
TEL:042-860-2550

営業時間:平日10:00〜17:00、土曜日10:00〜16:00
定休日:日曜日、祝日※不定休あり(8月夏休みあり)

 

[みんなの食堂@You You Living]

開いている日:火・水・木・金 時間 14:00~17:00 (8月夏休みあり)

大人 300円・子ども 100円

駐車場:3台   駐輪スペース:あり

Instagram:https://www.instagram.com/youyou_living/..

HP: https://hozan.design/

 

●You You Living 8月のイベント

8月16日 ベビーマッサージ

8月22日 ひよこ麻雀の会

8月23日 親子金継ぎワークショップ

8月24日 You You マルシェ 建築模型作り

8月30日 フラワーワークショップ

 

※イベントの開催時間等、詳細、営業日(不定休あり)については

You You LivingのInstagram、HP等にてご確認ください。

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この記事を書いた人
南部聡子ライター
富士山麓、朝霧高原で生まれ、横浜市青葉区で育つ。劇場と古典文学に憧れ、役者と高校教師の二足の草鞋を経て、高校生の感性に痺れ教師に。地域に根ざして暮らす楽しさ、四季折々の寺家のふるさと村の風景を子どもと歩く時間に魅了されている。森ノオト屈指の書き手で、精力的に取材を展開。
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