遠足に参加したのは、「たまれ」に関心を寄せている立教大学大学院社会デザイン研究科の仲間、ともに地域活動をしているトトリネコのメンバー、「毎日がロケハン♪」チームのメンバー有志です。
前列左から、鈴木望さん(社会デザイン研究科)、米須ゆうこさん(トトリネコ)、山田留美子さん(森ノオト)、葛西麻理さん(森ノオト)
後方左から、松井ともこ、君島あやのさん(トトリネコ)、伊藤淳子さん(社会デザイン研究科)、糟谷明範さん(かすやあきのりさん・たまれ)、梅原昭子さん(森ノオト)
7月某日、小田急線新百合ヶ丘駅改札に集合し、いざ、遠足がスタート!多摩線に乗り2回の乗り換えを経た50分ほどの電車旅も、おしゃべりをしているとあっという間に京王線多磨霊園駅に到着しました。
「たまれ」は、「多磨霊園」と人が「溜まる」をかけて作られた言葉です。訪問看護ステーション・居宅介護支援事業所、コミュニティカフェ、そして工房やアーティストが活動の場として利用している二つのアパートからなる場を言い、その場で生まれる活動のことも指しています。「たまれ」に集う人たちが、なんとなくいい感じにつながって、さまざまな人が集うイベントなども開催されています。
駅の南口を出て、タマロード商店街を歩くとすぐにコミュニティカフェ「the town stand FLAT」(以下、フラットスタンド)が見えてきました。人のぬくもりが感じられる建物の1階にはお菓子やかわいい雑貨が並んでいて、2階には明るい解放感あふれた空間が広がります。フラットスタンドは、ただカフェとして利用するだけでも良し、ワークショップや展示会などのイベントを開催しても良い、まちの「セカンドリビング」です。
糟谷さんは、株式会社シンクハピネス代表でフラットスタンドをはじめとするコミュニティ事業、訪問看護ステーション・居宅介護支援事業所を運営しています。ご自身の腰の手術がきっかけで理学療法士になり、総合病院、訪問看護ステーションでの勤務を経て起業に至りました。起業のきっかけは「私たち患者もあなたたちに気を使ってリハビリを受けているのよ」という患者さんからの言葉。ケアを受ける側が、医療者に自分の意見を言えないことに違和感があったそうです。そこで、医療福祉の専門家と地域の人たちがフラットにつながるために、ご自身も「たまれ」の入り口であるフラットスタンドで、週に1日コーヒーを出しながら「たまれ」という“生態系”をつくり続けています。
医療と暮らしの間
糟谷さんのお話を聞いた後は、質問や感想が活発に飛び交いました。
ソーシャルワーカーとして働いてきた経験を思い返し山田さんは、絶対的な縦割りの仕組みがある医療機関で働くことに慣れている看護師さんたちに、暮らしの視点を促す「たまれ」の「しかけ」に共感を持ちつつ、そうした視点を「看護師さんたちとどのように共有しているのですか?」と質問。訪問看護ステーション・居宅介護支援事業所がフラットスタンドの近くに移転し、看護師さんがカフェで地域の方と接する機会が増えたこと、また、ケアマネージャーさんとの勉強会を通して看護師さんが医療と暮らし両方の視点が持てるようになったのだそうです。
糟谷さんご自身も複数の事業を展開し、講演や講師活動など幅広く活躍されていることを踏まえて「色々なことをやれたらいいなと思う反面、難しいこともあるのでは?」と言う質問も。「手は動かすけれど、すぐに誰かに渡しちゃう」と糟谷さん。続けて「組織にすると誰かがやるだろうという意識が生まれたり、組織という枠組みに入れない人が出てきちゃう。『たまれ』に集う人たちが好きなことができないのは嫌だなと思って組織化しないんです」と話します。
「多様な人が関わることは大事、組織にしてしまうとどうしても成果を求めてしまう」と地域活動に長く携わってきた梅原さん。「そのバランスが糟谷さんは上手だな~と思う。あえて抽象的な言葉を使うネーミングセンスもいいですよね」と、編集者としての経験を踏まえた鈴木さんの話に、皆さん大きくうなずいていました。
社会人看護学生を経て免許を取得した君島さんが「看護師などのスタッフも交代で入り、さりげなく、来る人を見守っているフラットスタンドのようなコミュニティカフェで働いてみたいと潜在的に思っている看護師さんも多いのでは」と話すと糟谷さんは「うちの看護師は、結構多様な働き方をしていて。『たまれ』のアパートをアトリエとして利用しているアーティストも、元々うちの看護師だったり。医療と暮らし両方の視点を持てるという意味で、色々な働き方があるのは良いかと思う」と言います。
制度のはざまの人たちと母親支援
最近は年齢の問題などがあって、本当に必要なのに介護保険等のサービスが退院してすぐ受けられない制度の狭間の人たちが多い印象があると話す糟谷さん。ダウン症の娘さんを育てる米須さんは「医療側が診断名などラベリングしてくれないと、支援からあぶれていく印象があって、そうなると親がどんどん不安になっていく」ように感じると話します。
心のケアが必要な人やその家族に日常生活のサポートを行う精神科訪問看護を行っている糟谷さんの事業所では、子どものケアを必要とする家族のために保育園にチラシを貼っていて、お問い合わせも多いそうです。ところが、ここ1年くらいお母さん自身の相談ごとも多く「お母さん自身に訪問看護が入るっていうことが出てきた」そう。青葉区にも孤立したり、相談事を言い出せない母親が多いと言う共感の声が聞こえました。
さらなる「たまれ」の“生態系”に進む
「たまれ」の入り口となるフラットスタンドを出て、「たまれ」の“生態系”をつくる3カ所の活動拠点にも足を運びました。
まず、訪れたのが商店街寄りにあるアパートの2階「あそびのアトリエズッコロッカ」。子どもたちの「何かつくりたい!」という声からうまれた、大人も子どもも遊べてたのしめるアトリエです。月ごとの定期券を購入するか、週に1回のOPEN DAYで1回券を購入すれば、あかちゃんから大人まで誰でも自由に遊ぶことができます。
見学を終えた後は、感想をシェアして「たまれ」での時間は終了となりました。
私の医療と暮らしの間を振り返った、遠足の後
遠足が終わった後も、皆さんの心にはじんわりと余韻が残ったようでした。
それぞれにご自身の経験に照らし合わせた感想が寄せられて、
「次は『たまれ』のイベントに参加してみたい」
「『いい感じ』を求めて諦めないでいたら、5年後、10年後、関わる人々の健康度、幸せ度、また医療現場そのものも変わっていくのか興味がつきない」
と言った感想や、
「こんな取り組みをしている場所があると知るだけでも安心できる人がいるのでは」
「『弱くつながる』ことで苦しみを薄めると、家族や夫婦の苦しくなってしまったつながりが、少し『いい感じ』に解けるのかもしれない」
などと思いを巡らせているようでした。
手を振る寂しさと、心に広がるあたたかさ
私は30代で母の病気と介護、看取りを体験し、医療や福祉が一気に身近になりました。さまざまな人の手を借りた中で最も印象に残ったのが、患者と家族を支援するNPOの方です。電話でお話をしただけでお顔も知らないのですが、沈みかけていた私の心に、あたたかい気持ちが広がったことを覚えています。お話したことで、母の病気が改善された訳ではありませんが、あの時感じたあたたかい気持ちが私の支えになりました。その体験から、社会への見方が大きく変わり、自分から社会に関わって生きていきたいと考えるようになりました。
そこで出会ったのが「暮らしの足元から地域を編集し、一歩を踏み出すきっかけをつくる」森ノオト。そして「大人も子どもも、一人ひとりが気持ちよく活き活きと暮らせる社会をつくりたい」とトトリネコのメンバーとして地域活動をはじめました。さらに、地域活動をきっかけに、より専門性を身に付けたいと立教大学大学院社会デザイン研究科に入学し「多様性に富んだ、持続可能な共生社会を創成するために必要な思考と実践に関する学」を学びました。振り返ってみると、私は家族でもない、利害関係もない人との出会いをきっかけに、地域活動をはじめて、大学院での研究にも没頭したのです。
初対面の人も含めた遠足でしたが、皆さん何か共通するものがあり、一緒に行ったことで気づきも増えて、エイっと企画して良かったな~と感じました。
遠足が終わる時、別れの寂しさにキューンとして手を振りながらも、心の中にはジンワリとあたたかさが広がりました。
糟谷さん、それからおいしいコーヒーや赤紫蘇ソーダを用意してくださったしげをさん、ご協力いただいた「たまれ」の皆さま、ありがとうございました!
the town stand FLAT(フラットスタンド)
住所:東京都府中市清水が丘3-29-3
電話:042-201-1238
営業時間:火曜日~土曜日 12:30~17:30
金曜日のみBAR営業 19:00~22:30
定休日:日曜日・月曜日
メニュー:ブレンドコーヒー(HOT,ICE)400円~
自家製シロッブドリンク 580円~
その他、BAKED GOODSやTOASTなど
*たまれ*
Instagram:https://www.instagram.com/life.design.village_flat/
株式会社シンクハピネス:https://sync-happiness.com/
*遠足参加メンバー*
立教大学大学院社会デザイン研究科 https://sds.rikkyo.ac.jp/index.html
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