(前編の記事はこちら)
皆さん、この部屋、何をするところだか分かりますか?
ここは、助産院「バースあおば」の分娩室で、『うぶごえ』と呼ばれています。
バースあおばでは、妊婦さんは陣痛が押し寄せている間、ひとりひとり自分の思うままに動くことができます。歩き回ったり、座ったり、トイレに行ったりと自由です。今にも出産しそうな妊婦さんたちは、『うぶごえ』へ移り、自分にとって「いきみ」やすい体勢で赤ちゃんを産むことができます。フリースタイル分娩です。ここへは、夫だけでなく兄妹や家族など自由に立ち会うことができるので、まるで家にいるようなアットホームな空間になります。
助産院は助産師さんがお産をサポートしてくれる場所です。逆に言うと、お医者さんがいないので、陣痛促進剤などの薬を注射したり、会陰切開(えいんせっかい)といって赤ちゃんが出てくるところを切って広げたり……といった医療行為のできない場所とも言えます。妊婦さんたちは、動物と同じように、自分の力で出産することになります。
少し話が横道に入りますが、会陰切開といえば……。3年前、私が妊娠中に、知り合いの50代の女性から「産む時にまたを切るのが痛いのよ」と言われ、とんでもない! と思ったのでした。出産が痛いものだというのは小学生の頃から知っていましたが、まさか赤ちゃんを産むために、お医者さんがハサミでおまたの部分(会陰)をチョキンと切るなんて、想像したこともなかったからです。帰ってすぐにいろいろと調べました。一昔前は、出産時に会陰切開をするのが当たり前だったようですが、今では切らない病院も徐々に増えているとのこと。会陰切開は医療行為にあたるので、助産院では行なわれないことなどを知りました。
助産院でお産する。それは自分と赤ちゃんの力だけが頼りということ。つまり、妊婦さんには体力や筋力が必要になってきます。昔は、野良仕事の合間に赤ちゃんを産んでいたとも言われているそうです。出産が日常の中に息づき、生理的な営みの一つとしてあったのでしょう。それが現在では、便利な世の中になった分、女性が体を使わなくなって、自力で産む力が衰えてきたとも言われています。
そこで、バースあおばでは、妊婦さんが安定期に入ると積極的に体を動かすことをすすめています。「妊娠中から出産に向けて準備をするのはとても大事です。体を鍛えて、意識を高めて、産みやすい力をつけていって!」と話すのは、助産師の柳沢初美さん。
3年前の夏、私が初めてバースあおばに健診に訪れた時のこと、柳沢さんから「ウォーキングに行ってどんどん歩いてね! マタニティヨガとマタニティビクス(エアロビクス)にも参加してね。それから、両親学級にお灸教室! やることはたくさんあるわよ♪ あ、あなた、ウォーキングのリーダーやらない?」と言われたのを、今でもよーく覚えています。
バースあおばに通う妊婦さんたちは、毎週月曜日にウォーキングをおこなっています。助産院を出発し、途中で休憩したり、お弁当を食べたりしながら、寺家のふるさと村の周辺を3時間くらいかけて歩きます。自主的なグループですが、連絡係やコースの案内人としてリーダーさんがいます。柳沢さんから初日にスカウト(?)された私も、2011年8月から2012年1月までの半年間、リーダーとして毎週「バースあおば」に通って歩きました。1人きりではなかなか3時間も歩くことは難しいですが、妊婦さん同士で話をしながら歩くのはとても楽しいものでした。妊娠中の悩みや出産の準備など相談することもできます。すでに出産した人からアドバイスをもらい、赤ちゃんを抱っこさせてもらえるのも貴重な経験になります。
また個人的な話になりますが、そもそも、私は、広島へ里帰りして実家の近くにあるクリニックで出産する予定でした。妊娠5ヵ月の時に鷺沼へ引っ越してきたものの、出産予定日はお正月になりそうだったのもあって、新しい土地での出産に不安があったのです。健診だけでも……と思ってバースあおばに通い始めたところ、引っ越してきたばかりというのに、どんどんとお友だちができるではないですか! ウォーキングなどを通じて仲良くなった妊婦さん仲間が次々と出産し、そのお話などを聞くにつれ、「私もここで産みたい!」 という気持ちが次第に強くなりました。そして、分娩予定だったクリニックをキャンセルして、バースあおばで出産することに決めたのです。
私にとっては、これは正解でした。年末年始も仕事で忙しかった夫が出産に立ち会えたのはラッキーでしたが、おなかが大きくなっていく時間、赤ちゃんが産まれてから一日ずつ表情を変えていく様子を夫と共に共有できたのはこちらで出産したおかげです。そして、同じ小さい子どもを持つお母さん同士のネットワークはなによりも育児の助けになります。
助産師の柳沢さんも「私たちは地元を大事にするの。お母さん同士のつながりを作るという点でもね」と言います(この「地元」というのはお母さんの出身地という意味ではなく、今ある生活の拠点という意味での地元なのだと思います)。
この場所に来て4月で9年目を迎えるバースあおばでは、これまで産まれた赤ちゃんの数が1250人を越えたそうです。もともと横浜に住んでいる人、実家が横浜にあって地方から里帰りしてくる人、逆に地方に里帰り出産の予定で健診だけ通う人など、いろんな形の利用の仕方があります。バースあおばで出産する予定だったものの、異常が見つかり病院で出産することになるケースももちろんあります。病院でのお産の後、産後のケアはバースで受けたい! と転院してくるという人も少なくありません。母乳育児につまずいておっぱいのケアで受診する人なども。
「バースで出産した方で、次のお子さんを妊娠したらまたここで、と言ってくださるリピーターさんは多いですね」と助産師の仲かよさん。それもこれも、バースあおばでのお産の充実度が高いからという理由もあるでしょう。
妊娠・出産・産後を通じて、何か困ったことがあればすぐに相談にのってくれるのが助産師さんです。ウォーキングなども、バースあおばで出産しない妊婦さんでも参加することができるので、もっと気軽に助産院を利用してみてはいかがでしょうか? きっとお友だちができ、産後も心強い支えになりますよ♪
【miwa’s point】
バースあおばには「カンガルーの会」との強い関係があります。「カンガルーの会」は赤ちゃんとお母さんが一緒に幸せにいられるように、よりよい妊娠、出産、育児をサポートする会です。
かつて、神奈川県には「神奈川県立母子保健センター」という自然分娩をおこなう医療施設がありました。この施設が廃止されることが決まったときに、自然なお産がしたいというお母さんたちが「カンガルーの会」をたちあげ、廃止反対の署名活動などを行なったそうです。神奈川県立母子保健センターはなくなりましたが、そこで働いていた助産師と「カンガルーの会」とが協力し、自然なお産ができる場所として1996年に開設したのが、「バースあおば」の前身・山川助産院でした。そして、山川助産院が移転することになり、2006年に今の場所(鴨志田町中谷都)で新しく「バースあおば」として生まれ変わったという経緯があります。
「カンガルーの会」では、妊娠中も産後赤ちゃん連れでも参加可能なヨガ教室やバースあおばの調理師さんが講師となる料理講習会、両親学級等の様々な講座を開催しています。また、同じ出産月の赤ちゃんとお母さんが集まる「ミニカンガルーの会(通称:ミニカン)」というものがあり、産後に月一回集まる場所を提供してくれます(2月に反響のあった「グラポワ」のコンサートイベントもミニカンがあってこそ♪)。
助産院で出産したお母さんたちは興味関心が共通することが多く、子どもが同じ月齢なので似たような悩みを持っていたりします。産後に月に一回でも集まっておしゃべりすることで、不安が解消し、産後のうつうつとなりがちな気分も吹っ飛んでいくように思います。お母さんたちのネットワークづくり、これも産後のケアのひとつではないでしょうか。
助産院にはお医者さんがいません。助産師さんによって出産(分娩の介助)や産後のケアなどがおこなわれる場所です。「助産師」というのは、妊娠・出産・産後の産褥期のケアや新生児のケアなどを行うことのできる国家資格で、よく知られている医療系の資格に「看護師」がありますが、助産師はみんな看護師の資格も持っています。
医師がいない助産院ですが、病院と提携することが法律で定められており、何かトラブルがあったときにはすぐに搬送できるようになっています。助産院で出産予定の妊婦さんも健診の何回かに一回は提携している病院で内診や血液検査を受けたりします。
助産院 バースあおば
住所:横浜市青葉区鴨志田町509-1 中谷都第3ビル1F
電話:045-962-7967
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