日本酒と音楽が人をつなぐ。藤が丘の日本酒バー「風凛歌」
東急田園都市線・藤が丘駅から国道246号線方面へ向かって5分ほど歩くと、和テイストの涼やかな看板が見えてきます。そのお店は、日本酒バー「風凛歌」さん。定番はもちろん、あまり見かけない酒造所の日本酒が並び、自分の好きなおつまみを持ち込み楽しめる“コミュニティ居酒屋”です。定期的に音楽イベントが開催され、お客さま同士がつながるきっかけにもなっています。

皆さん、お酒を飲むお店を選ぶ基準はなんですか?私は友人からのおすすめがあると行ってみたくなります。風凛歌さんは以前から「おいしい日本酒もたくさんあるし、知り合いも増える。好きになるよ!」と友人に誘われていたのに、なかなかタイミングが合わないお店でした。そんな時、日本酒大好きという友人が現れ、それなら私が誘っちゃえ!といざ出陣。

 

お店に入ると、カウンターに別の友人がいてびっくり!後からまた知り合いが来店して驚きました。世間ってこんなに狭いはずはない。どうしてこのお店に人が集まってくるのだろうと思いつつ、改めて店内を見回してみました。

森ノオトライターの葛西麻理ちゃんと一緒に行ってみました!

カウンターには一人でお酒を楽しむ方もいつつ、連れ立ってのお客さまの姿も見えます。飲み放題を選ぶお客さまは、冷蔵庫前を陣取ったり、と、それぞれの楽しみ方があるようです。

 

飲み放題を選ぶと、奥の冷蔵庫にある対象のお酒を自分のペースで飲み比べができます。お酒の種類で迷ったときや、同じ銘柄での風味の違いや特徴などは、店主の青山祐己さんがアドバイスをしてくれます。

 

日本酒は好きでも、銘柄がたくさんあるとどうしても迷ってしまいます。

そんな時、青山さんに日本酒のおすすめを聞くと、毎回的を得た好みのものを教えてくれるので、「どうしてそんなことができるの?」と聞いてみると、「なんでも良いと言っても、やはりお客さまの好みはあると思います」とのこと。「どちらかというと甘いのとスッキリとどちらが良いですか?」とか「出身地や行ってみたいところは?」などと、さりげなく好みを聞き出し、そして一度提供した日本酒の満足度を覚えてそのお客さまの好みを探っていくのだそう。一人ひとりの好みを覚えてられるってすごいなぁと感心してしまいます。

 

日本酒の品揃えも魅力的で、なぜかどんどん人が集まるちょっと不思議なバー。そんな風凛歌を開いた店主の青山祐己さんに、お話をうかがうことにしました。

風凛歌にはお客さまどうしの紹介で来る方も多いそう。音楽や短歌を通じていつの間にか顔見知りになってしまう環境がとても心地よいからなのだと感じました

青山さんと日本酒の出会いはアルバイトでした。音楽家を目指していた青山さんが20歳の時に始めたバイト先が、たまたま日本酒で有名だった居酒屋でした。センター北にあったそのお店で、最初に飲ませてもらった日本酒のおいしさに感動した青山さん、 “日本酒の勉強を頑張ってみよう”と決めたのだといいます。

 

店長から日本酒の本を3冊譲り受け、毎日試飲し、ノートに自分で飲んだ味わいや感想、銘柄、純米・純米吟醸など、お米がどれくらい磨かれているかを書き留めていきました。

 

そんなある日、お客さまから「青ちゃんのおすすめを」とのお願いがあったそう。悩みながらも、お客さまとの会話で、好みの方向性をさりげなく聞き出せ、自分の選んだ日本酒を初めて喜んで飲んでもらえたことで、日本酒というツールを通してコミュニケーションが成り立つ実感を得て、接客がどんどん楽しくなったと言います。

風凛歌の冷蔵庫。お酒の種類は豊富。仕入れはもちろんご自身です

また、あざみ野の居酒屋でのバイトでは、日本酒の知識の豊富さを買われ、お酒の仕入れを任されることになったそう。最初からうまくいったわけではなく、当初は凹むこともあったそうですが、名刺を作ってもらい、銘柄も含め仕入れ先まで自分で開拓を任されるようになり、それが自信になりました。時にはおいしい日本酒を求めて、溝の口や横浜、東京まで仕入れ先を開拓していきました。

 

数年が経ち、青山さんの中で、これをバイトで終わらせたくないという気持ちが芽生えてきたそうです。“ピアノを置いて音楽も楽しめるスペースを作って、日本酒も仕入れられるような店を作りたい“と強く思うようになりました。

店主の母方の祖母から店主へ引き継がれているピアノが店内に。正確にはわかりませんがもう60年くらいは使われているそう。先日オーバーホール(音程を合わせたり、修理をすること)も終え、まだまだ元気です。風凛歌の音楽イベントは生演奏が主、ピアノやギター、歌もあり、ほとんどが投げ銭ライブです

バイトを続けていたある時、ライブハウスの店長に抜擢されるという転期が訪れます。いよいよ思い描いていた“音楽をしながらお酒も出せる店”ができると勇んでスタートさせましたが、人間関係で鬱病を発症してしまいます。

 

その時通っていた心療内科の先生に「治療には何か楽しいこと、やりたいことをしたらよいよ」と言われ、その言葉で自分が店を持ちたいという夢があったことを思い出し、物件探しを始めました。

 

店を探すという目標を持ったことが、体調の回復につながりました。いくつかの物件を探すうちに、今のお店と出会い、内見して即決したそうです。

入り口から見た風凛歌内部。内覧をした際に、ここにピアノを置こう、冷蔵庫はあそこで、とすぐにお店のイメージが浮かんできたそうです

青山さんには自分のお店のコンセプトが明確にありました。

 

第一には、お客さま同士がお互いにコミュニケーションを取って会話が広がるようにしたいということ。二つ目は、自分で料理を作ることができないこともあり、おつまみの持ち込みをOKにすること。「好きな音楽を聞けておいしい日本酒が飲めるなら自分の好きな物を食べたらいいじゃないか?」と、このことはライブハウス店長の時に思っていたことだそう。「電子レンジもトースターも自由に使って」とお店の奥に置いてあります。

 

日本酒用のグラスも大中小の3種類を用意しました。青山さんいわく、いろんな種類を飲んでみたい人が、おいしく飲めるようにとのこと。

 

バイト時代から日本酒の仕入れや接客を学び、自分の足でたくさんのお店に足を運んだ青山さんだからこそ描いた、理想のお店の姿でした。

日本酒と私たちが持参したおつまみ

 

日本酒を注ぐ青山さん

もう一つ、目に留まったのはメニューと一緒に並ぶ、短歌の穴埋め問題です。これは青山さんが作った短歌で、空欄に入る言葉を「一発で当てると100円引き」なのです。

短歌メニュー。青山さんは短歌の会で何度も入選経験のある歌人なのです

日本酒をちびちび飲みながら、お隣さんと、「答えわかりました?」などと短歌の穴埋め問題に悩む妙な親近感に、短歌もコミュニケーションツールの一つになっていると感じました。日本酒と日本の文化である短歌が妙にマッチしています。

私もつい、真剣に考えます。短歌に答えはなく、いろんな発想があってたくさんの答えが出てくるって楽しいなぁと思います。

 

藤が丘でお店を構えるにあたり、藤が丘商店会会長の外山高嗣さんが「そんな営業スタイルで本当に大丈夫なの?」と本気で心配されたというお店も、今年で7年目を迎えるといいます。お店の今後を聞かせてもらいました。

 

7年前にやりたかったことと今が“変わっていない”という青山さんですが、日替わりでのおすすめのお酒を置くようにしたり、クイズ形式の短歌を導入したのも1年くらい前からだそう。目立っての大きな変化はないかもしれませんが、「お客さまに楽しんでもらえるような工夫を少しずつしていきたい」とのことでした。

お母さまの短歌が掲載されている歌集。実は短歌は青山さんのお母さまの影響。こちらはお店に置かれたお母さまの短歌が掲載されている歌集。「30歳までに自分の生き方を決めてほしい」青山さんはご両親にそう言われていたそうです。そんなご両親も今はお客さま。カウンターに座って他のお客さまと楽しく一緒に会話をしているそう

 

2025年の開店7周年パーティの様子(写真提供:青山さん)

“人好きの人見知り”これは青山さんがご自身を語った言葉です。

 

他の人の気持ちに寄り添って好みに合った日本酒を提供する。自分の好みのおつまみを持参して、好きなお酒を呑める場所、音楽や短歌を取り入れたことで、よりお客さま同士が自然に、コミュニケーションが取れる。風凛歌は、店主の青山さんそのもののような優しい場所です。

 

藤が丘の新しい形のコミュニケーションスポット、音楽目当てでも、短歌目当てでも、もちろんおいしい日本酒目当てでも!一度訪れてみてはいかがですか?

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この記事を書いた人
塚原敬子ライター
2000年に青葉区に引っ越してから早20年、長男は藤が丘で産まれました。 その頃、これからは介護だ!と介護福祉士やアロマ、ヨガの資格を取りました。「健康は自分で作るもの」がモットー。月や星、石や植物が大好きで山や海での拾い物多し。
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