ここにある「くらし」からデザインする未来|ACYフォーラムレポート
2025年12月、横浜市都筑区にあるボッシュホール(都筑区民文化センター)でACYフォーラムvol.6「くらしと環境をつなぐ、デザインやアートの力」が開催されました。50年後の未来はどうあったらいいだろう?廃棄物を価値あるものにする「アップサイクル」って何?さまざまな事例を元に、アートやデザインで、日々の暮らしをどう未来へつなげていくのかを考えました。

ACYフォーラムvol.6「くらしと環境をつなぐ、デザインやアートの力−GREEN EXPO 2027に向けて」開催レポート

「アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)」は、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団が運営している芸術文化と社会を横断的につないでいくための中間支援プログラムです。そのACYが主催する「ACY フォーラム」は、横浜市内外で活躍する人や活動などを紹介し、創造性という切り口から横浜の未来を語り合うイベントです。2025年12月7日に開催された第6回は、有限会社スタジオニブロール、武松商事株式会社に所属するデザイナーが登壇し、認定NPO法人森ノオト理事長・北原まどかがモデレーターを務めました。「GREEN×EXPO 2027」に向けた本フォーラムは、「くらし」と「環境」がテーマ。会場には、登壇者のワークショップに関するパネルや、アップサイクル作品の実例が展示されました。

 

環境問題は、もはや誰にとっても他人事ではありません。例えば、近年相次ぐ夏の酷暑。今年の夏も、子どもたちは日中外で虫取り網を振り回すこともできず、日没後でないと飼い犬の散歩にも行けないほど厳しいものでした。このように、一人ひとりの暮らしのあり方が変わりつつある状況で、デザインはどんな力を発揮するのでしょうか。

 

 

「身のまわりの課題」を出発点にする/スタジオニブロールのデザインプロジェクト

プロダクトデザイン、映像やサイトの制作、空間のアートディレクション、ワークショップの開催など、スタジオニブロールが手がけた多岐にわたるプロジェクト事例を紹介した安食真さん

横浜の企画デザイン会社、有限会社スタジオニブロールのディレクター・デザイナーの安食真さんが、会社として取り組むさまざまなデザインプロジェクトの事例を紹介しました。スタジオニブロールでは、未来思考でものごとをとらえる際に、時間やフェーズで近未来のことを「デザイン思考」、中未来のことを「アート思考」、遠未来のことを「SF思考」ととらえ、クライアントの会社や団体が抱えるさまざまな課題によって考え方を使い分けています。「デザインとは解決へと向かうこと」と安食さん。クライアントそれぞれのあるべき未来に向かった多様なデザインが並びました。

 

印象的だったのは、北海道旭川市の酒蔵におけるプロジェクト「OTOKOYAMA SAKE PARK」。日本酒メーカーが、日本酒づくりだけでは商売が厳しくなってきたという状況で、地域の総合飲料メーカーになるべく、これまでのターゲット層以外の人たちにもアプローチできるよう、一升瓶の形のすべり台やお猪口のような円を描いた広場など、ユニークなデザインを施した公園を作り上げたというものでした。他にも、地球環境に配慮しつつ「元町ショッピングストリート」をPRするための間伐材を用いた体験型オブジェ「元町クリスマスプロモーション」や、地域活動への参加を促すため、さまざまな活動団体を取材し、具体的な地域活動を紹介した横浜市健康福祉局による高齢期に向けたWEBサイト「ふくしらべ」などが紹介されました。

 

最後に、横浜市の中学生が挑戦したワークショップ「50年後、自分たちのまちに『あったらいいもの』」が紹介されました。横浜市旭区こども未来発見事業として、「GREEN×EXPO 2027」の開催意義である「自然と共生した持続可能で幸福感が深まる社会の創造を提案」をテーマに、グループワークで身近な課題からアイデアを出し、参加者それぞれが絵画を描くというプロジェクトです。ACYが旭区の担当者より相談を受け、スタジオニブロールへつないだことから実現。「50年後」という時間設定は、スタジオニブロールが、子どもたちとこの難しいテーマに挑戦するために設定した時間軸で、「SF思考」を用いたプロジェクトとなりました。

 

この挑戦は、中学生たちが、市役所の方から「GREEN×EXPO 2027」について、スタジオニブロールからはデザインについての説明を受け、「知る」というワークからはじまりました。次に、旭区や身の回りの課題、自然の特性などをグループワークで「考え」、50年後の自然との共生について想像力をはたらかせます。そうしたプロセスを経て、「描く」という地点へたどり着きました。豊かなアイデアやイメージが詰まった中学生の作品から、「自然エネルギーの力で動くロボットが、自動的に枯葉や枝を拾い、環境を整備する」といった絵や、「空中にある自然豊かな遊べる場」が描かれた作品などが紹介されました。これらは、横浜市役所、二俣川駅で展示されたそうです。

 

安食さんは、「持続可能な環境」という果てしない問題と、50年という遠い未来を考えるワークを進める上で、常に時間軸で区切りながら「何を目的に考えているのか」を共有し、「遊べる場所が少ない」というような、「身のまわりの課題」を出発点にすることが重要であると語りました。

 

 

廃棄物を素材に新たな価値を生む/武松商事「くるり工房」のアップサイクル事業

武松商事「くるり工房」のデザイナー・もりさんは「アップサイクルを広めることで、社会が目指すサステナブルな未来に近づいていく」と、活動を紹介しました

続いて、横浜を中心に産業廃棄物の収集や処分などを行う武松商事株式会社のデザイナー・もりさん、いとうさんが、不要になった素材にデザイン性や機能性を加えて価値を高める「アップサイクル」について、同社が運営する「くるり工房」の活動内容とともに紹介しました。

 

ごみの処理をメイン事業とする武松商事は、ごみの収集・運搬だけではなく、リサイクル資源を選別する中間処理工場やリユース品を市場に還元するリユース事業拠点を持ち、資源循環を担う事業活動に力を入れています。その一環として、2019年に金沢区にリユース拠点エコクルファクトリーを構えるとともに、アップサイクルを専門に行う「くるり工房」を誕生させました。

 

くるり工房の活動の柱は「制作」「販売」「ワークショップ」の3つ。不要になったビニール傘やプラスチックカードなどの身近にある素材を使ったアップサイクル品は、ものの寿命を延ばすよう開発されています。横浜FCの使用済み横断幕から作ったトートバックをはじめ、環境活動に取り組む企業などから依頼を受けた素材活用もしています。まだ使用できるボタンや毛糸などの手芸用品から、ネクタイや流木まで、さまざまなリユース素材を販売することで、持続可能な循環を作る場の提供にも寄与しているそう。もりさんは、地域の方のみならず、遠方からのお客様が増えたことから、「環境に配慮したものづくりへの関心やアップサイクル、リユースのニーズの高まりを感じる」と話しました。

 

身近な不用品を素材にすることで新しい視点を得たり、ものを大切にする心を育てようと展開しているのが、ワークショップです。くるり工房ではイベントの出展や教育現場への出張授業に加え、企業向けにも開催しています。大きな機械を使った難しい加工などは行わず、「自宅でも再現できること」や「日常で使えるものを作ってもらうこと」を大事にしているそう。

 

アップサイクルに取り組む中で「これってただのリメイクになっていないかな?」「モノの価値を上げられたかな?」と悩みは尽きないそうです。それでもデザイナーのいとうさんは「自分の中にある価値にフォーカスしたものづくりをする」ことが大事だと話します。日々の暮らしの中で使っているものは、いつしか壊れ、捨てるという選択をする日がやってきます。その時に「何かで代用できないかな」「何かに使えないかな」と考えることに、「アップサイクルの可能性があるのではないか」と語ります。「捨てることまでデザインできるような工房にできたらと日々素材と向き合って活動を続けている」と、いとうさんは話します。見方を「くるり」と変えることで、モノは生まれ変わるかもしれない。持続可能な未来を見据えた活動が、くるり工房では日々展開されているようです。

環境問題に対する強い危機意識をきっかけに、暮らしの足元から何とかしたいと「森ノオト」を立ち上げたと語る北原まどか

モデレーターの森ノオト理事長・北原まどかは、ローカルウェブメディアである「森ノオト」が地域の豊かさのつながりを広げ、「よりよい未来への贈り物」となるよう日々情報を発信していることを紹介しました。こうした思いは、50年先を未来世代とともに考えるスタジオニブロールのワークショップにも通じる部分があり、森ノオトが開催している、使わなくなった生地や手芸資材を寄付で集めて、次の使い手に格安で販売するリユース手芸店「めぐる布市」の活動は、日々、廃棄物を日常へと送り出すくるり工房の活動にも重なります。持続可能な環境をつくるということは、未来をつくること。次のディスカッションパートでは、アートやデザインという立場から、活動にかけるさまざまな思いが語られました。

 

 

SF思考」を用いた遠い未来と、明日の選択肢という近い未来

スタジオニブロールは、その時々のプロジェクトが向かう未来の地点によって、目的や考え方を使い分けていることを紹介しました

くらしと環境をつなぐデザインの仕事をめぐり、キーワードになったのは「時間軸」と「エリア」。まず、安食さんが紹介した中学生とのワークショップ「50年後、自分たちのまちに『あったらいいもの』」から、「50年先」という時間軸のことに話が及びました。安食さんは、子どもたちに「まず50年前のことを伝え、今とは全然違う横浜の環境やくらしの様子を見てもらった」そうです。これまでの50年の変化は、黒電話がスマートフォンになるほどダイナミック。50年先も、今とはまるで違う世界になっていることへのイメージをつなげていったそうです。そうした未来の考え方こそが「SF思考」というもの。「SF思考」を使った中学生が、くらしと環境、そして50年後という長い未来を「自分ごと」として接続していくという具体的なプロセスを語ってくれました。くるり工房は、「日常の中に、捨てるのではなく、アップサイクルという選択肢を増やす」という、もう少し「近い未来」を見据えた活動をしていると話します。その日々の生活の中での「選択」の積み重ねは、遠い未来につながっていることを伝えてくれました。

会場には、ワークショップ「50年後、自分たちまちに『あったらいいもの』」のパネルが展示され、中学生のさまざまな作品を見ることができました

自分とつながる場所、くらしとつながるアクション

配線コードを利用した水引のアクセサリーや、ペットボトルのふたを加工したキーホルダーなど、あっと驚くようなアップサイクル作品が並べられました

次の話題は「空間軸」。環境問題といえば、北極のシロクマのすみかや、沈みゆく南太平洋の島々などをイメージしますが、世界中をエリアとする「環境」と、ここにある「くらし」を、デザインはどうつなげることができるのでしょうか。

 

スタジオニブロールの唯一のルールは、「家族のいる場所でしか仕事をしない」ことだそうです。それぞれの居住及び出身である横浜市、今治市、旭川市が活動エリア。人口、成り立ち、産業の違う3つの都市を比較しながら、そのまちの人たちと、その場所の固有性や普遍性などを共に考え、課題解決へと向かう仕事をされているそうです。

 

くるり工房は、横浜の企業でありながら、アップサイクルを伝えるため、依頼をもとに近県を飛びまわります。どのエリアに行っても変わらないのは、そこにいる人たちにとって「身近なものづくり」であること。いとうさんは、「身近な不用品という素材が、くらしと環境の橋渡しとなります。小さな日々の積み重ねこそが大きな環境問題につながっていくのでは」と語ります。

 

スタジオニブロール、くるり工房ともに「自分ごと」であるエリアが出発点となっています。「くらし」の中の問題や素材と向き合い、創り続けることで、世界規模の環境問題と日々の暮らしが自ずとつながっていくー。会場では、そんなイメージが共有されたように感じられました。

 

 

社会課題とアート・デザインの力

会場からは、子どもとのデザインワークショップにかかわる具体的な質問などが寄せられ、ディスカッションは広がりを見せました

環境問題をはじめとする社会課題への取り組みには、さまざまなアプローチがあります。くるり工房の母体である武松商事はごみを集め、処理する会社で、そこでアップサイクルの作品を作ることは、会社や社会にとっていい影響をもたらしているという実感があると語ります。不要になった物すべてがごみではなく、「不用素材から何かを作る」という制約のもとでのものづくりの面白さや意外性は、一人ひとりのものの見方を変えたり、行動変容へつなげたりといったインパクトをもたらす力があるというメッセージに、アップサイクルの可能性の広がりを感じさせました。

 

安食さんは、ご自身のお子さんが成長した時、「ちょっとでも良い社会になったら」というのが仕事のモチベーションになっていると話します。また、「GREEN×EXPO 2027」を控えた横浜で、いろんな人と一緒に未来に向けて、こんなまちになったらいいよねと、たくさん話をして、ワークショップを通じて「いろんな人が描く未来をどんどん集めたい」と語り、「環境」に対してポジティブに取り組みたいという思いをのぞかせました。

 

 

私たちの日常が社会を変える、豊かなまちづくりへとつながる

ボッシュホールの岩室晶子さんは、登壇者に「GREEN×EXPO 2027」に向けてどんな取り組みをしたいかを改めて問い、会場中の思いが一気に2027へと向かいました

会場のボッシュホールは、2025年3月、横浜市都筑区に開館した新たな文化の拠点です。ボッシュホール事業統括プロデューサーの岩室晶子さんは、「横浜は海側ばかりが注目されがちですが、自然の多い北部の丘側でも、たくさんの文化芸術活動が一緒になって、いろんなことをやっていきたい」という思いを語ってくれました。また、「『GREEN×EXPO 2027』に向けて、横浜の北部エリアで、たくさんのみなさんと一緒にプロジェクトを進めたい」と、来場者のみなさんに参加を呼びかけました。

 

今回のフォーラムは、「アップサイクル」や「SF思考」といったキーワードから、一人ひとりの考えの転換やアクションを通じて、暮らしが変わる、そして、世界が変わるという可能性が感じられました。アートやデザインには、社会のあらゆる課題解決のヒントがたくさん詰まっているようです。

 

「GREEN×EXPO 2027」の開催を控えたここ、横浜。さまざまな領域から、いろんなアイデアや発想がたくさん集まって、豊かなまちづくりにつながっていく予感がしました。

 

Information

アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)

https://acy.yafjp.org/

 

有限会社スタジオニブロール

https://www.nibroll.jp/

 

武松商事株式会社「くるり工房」

https://kururiworks.com/

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この記事を書いた人
竹田香苗ライター
生まれも育ちも北海道。元出版社勤務。大人の自由研究のテーマは民藝運動周辺。夫の転勤にくっついて全国をあそび歩く。里山の風景に心奪われ、人と自然の営みの中で生活をあそびたい!と、森ノオト界隈にやってきました。子育てを通して第二の青春謳歌中。
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