
6月中旬、雨の晴れ間で夏の日差しを電車の窓越しに感じながら、東京都世田谷区まで足を伸ばし、東急田園都市線の用賀駅で降りました。
用賀駅は1日約65,000人の利用者があり、東急田園都市線の急行が止まる二子玉川駅と三軒茶屋駅の間に位置します。
今回は「変化のある街の中で変わらないもの」をテーマに街歩きをしてみたいと思います。

用賀駅北口、扇状に大きく広がる階段は直径40メートル。ローマ時代のスペイン階段をイメージして作られたそうです
地下にある用賀駅北口を出て、存在感のある階段を上ると地上に出てきました。
地下にあるカフェに面して作られた滝の水が落ちる音が涼しげに聞こえてきます。ベンチがいたるところにあり、休憩中の方や、待ち合わせをしている地域ツアー団体の方などが座っています。
変わらない風景「いらか道から世田谷美術館へ」
「いらか道」と呼ばれる「用賀プロムナード」は、用賀駅から砧公園を結ぶ約1キロメートルの遊歩道です。砧公園内にある世田谷美術館の開館に合わせて、1986年に作られました。
“駅から美術館へ向かう道中も、美術鑑賞への気持ちを盛り上げられるように”というコンセプトが魅力的です。

用賀駅の副名称で、改札の駅名標にも記されている「GMOインターネットTOWER」こと、世田谷ビジネススクエア(左)と「いらか道」の案内板(右)
午前10:30、「いらか道」のスタート地点を見つけ、用賀駅のシンボルである世田谷ビジネススクエアを横目に百人一首の散歩道に足を踏み入れます。
1〜100番までの和歌が彫られた瓦(かわら)が数メートルおきに現れ、飛鳥時代〜鎌倉時代までの歌が時代に沿って並んでいます。

地面の瓦(かわら)に彫られた句は、意識していないと気づかず通り過ぎてしまうほど道の中に馴染んでいました。1番初めは天智天皇の句で、句の最後の数字が何番目かを表します
取材中、同行したライターさんと話に出た「国語便覧」を、後日ちょうど本屋さんで見つけたので、思わず買ってしまいました。
本に載っている百人一首の知識を頭に入れて、 “推しの一句さがし”に再来しようと密かに計画を立てています。

途中にあった水路にはまだ水は張っていなかったのですが、夏には子どもたちがこの場所で水遊びしているのでしょうか
水路の他にも、道の両端には桜や紅葉の木が植えられており、百人一首に詠まれている日本の四季をイメージさせてくれます。その景観になじむよう、さりげなくベンチが設置されていて、駅前と同じく、休憩しやすいように配慮された設計になっています。
いらか道の終点砧公園までは15分で到着です。私たちはのんびりと堪能したので、30分もかかりましたが……。
午前11:00、いらか道のゴールである砧公園に到着しました。
広々とした道の街路樹の葉が風にそよぎ、木陰が揺れています。その涼しさに思わず帽子を脱いで風を感じました。平日なので人も少なく、地域のボランティアの方々が草木の手入れをされていました。

宿根草を中心として彩られた花壇。パンジーなどの一年草のように1年ごとに植え替える必要がなく、自然の風景のようなたくましさと美しさを感じます
花壇やインクルーシブ遊具広場を抜けると、世田谷美術館に到着しました。

1986年に開館の世田谷美術館は、建築家の内井昭蔵のコンセプト通り、公園の中で特別な存在感を放つこともなく、見事に溶け込んでいます
見た目に築年数を感じる建物だったので調べてみると、2027年4月から2年10カ月を予定した大規模な改修工事が行われるようです。
外観デザインはそのまま引き継ぐようで、価値あるデザインを残し、裏側だけを修理するという工事内容でした。この街が大切にしている「変わらない風景」、というものを教えてもらえた気がしました。
駅方面へと戻るべく、来た道を引き返します。
用賀は、1927年から始まった区画整理により、現在の碁盤の目のような街並みができました。せっかくなので行きとは違うマス目の道で戻ることにします。伊藤博文が名付け親の「京西小学校」の横を通り、向かうは真福寺。
変わらない地域とのつながり「真福寺」
砧公園から徒歩6分、用賀駅北口からも6分ほどに「真福寺」は位置しています。
住宅や商店の建物に囲まれているので、正面に回るまでは一体どこに950坪の立派なお寺が隠れているのだろうかと、キョロキョロと辺りを見回していました。

真福寺は今から約400年以上も前に、この辺りを開拓した飯田図書(いいだずしょ)により、創建されました
正面にまわると、待ち構えていた鮮やかな朱色の山門。「赤門寺」とも呼ばれる由来となったこの山門には、ヨガ教室のチラシが張ってあります。
「毎月第1・3土曜日15:00〜16:00、1回500円 事前予約制」
ワンコインで参加できるヨガ教室、羨ましい!
もともと真福寺のあった場所には、鎌倉時代にヨガの道場があったそうです。「ヨガ教室」として歴史を引き継ぎ、現在も地域の方にお寺を開放していることに親しみを感じました。
さらに調べてみると、砧公園からの帰り道に通った、伊藤博文が名付け親の「京西小学校」ともつながりがありました。明治時代に暴風雨のため京西小の校舎が壊れてしまった時、仮校舎として真福寺が使われたそうです。
昔から地域に開かれたお寺として、この土地の変遷を見守ってきたのですね。

本堂の脇の掲示板に掲げられた「出会いが道を拓く」、の言葉が目につき、自分の人生をチラッと振り返ったりしながら、次の目的地に向かいます
変わらない味「フローラ」
お昼時の12:30、駅前の用賀商店街に戻ってくると朝よりも人が増えている印象でした。「フローラ」という洋菓子店まで真福寺から3分ほどで着きました。用賀駅北口からも同距離です。

「フローラ」は1982年創業で、まだ「いらか道」も駅前の「ビジネススクエア」もない40年以上も前から、洋菓子店として地域の方に愛されてきました
外から見たそのたたずまいに懐かしさと親近感を感じつつ、お店の中に入ります。
ご夫婦お二人で営む「フローラ」は、現在二代目だそうです。
「いらっしゃいませ」と穏やかで柔らかな物腰の妻の上條法子さんがレジ前に立ち、レジ後ろのガラス越しの調理室では夫の上條晴久さんがスイーツ作りに専念されていました。

以前テレビで放送され大人気の「ベルホンタン」は休日のみ、夏場提供なしの販売。「サバラン」や「ショコラトルテ」など、他ではあまり置いていない昔ながらの商品を求めて来る方も多いそうです
おすすめ商品をお聞きしている間にも、ひっきりなしに常連さんが入店します。デコレーションケーキの注文を受けている場面で、「ラム酒多め。甘さ控えめ」とのオーダーがあり、できるだけお客さんの要望に応えている姿がありました。
フローラのホームページを見てみると、こんな言葉が記されています。
「お客様にはできるだけ多くのご要望をいただきたいと思っています。もちろんできないことはできません。でもご要望をいただけるだけ、それだけお客様にお届けするものが増えるような気持ちになるのです。」
相手の顔を思い浮かべて一品一品丁寧に向き合うという晴久さんの理念を、法子さんが体現している場を目の前で見ることができました。
おしゃれなスイーツ店が次々にできても、フローラが地域の方に愛され続けている理由にふれたような気がしました。

用賀商店街の公式キャラクター「よっきー」をモチーフにした、ほどよい硬さのある「よっきーサブレ」。フローラ限定で販売されており、ご当地土産としても好評!
「フローラ」のケーキは、40年ほど昔の誰かの特別なお土産であり、親世代の子どもの頃の味であり、未来の常連客の初めてのケーキでもあるのだろうなと、その“変わらない味”に想像を膨らませました。

私がお土産に買った1辺4センチほどの「プチガトウ」(左)は見た目のかわいさだけでなく、どの種類もほどよい甘さで親子ともに絶賛。一緒に取材した佐藤沙織さんが買った「丸ごとりんごパイ」(右)は、りんごの優しい甘さに真ん中のラムレーズンの甘酸っぱさがアクセントになりあっという間に食べてしまったそうです
今回の用賀の街歩きでは、用賀に長くお住まいの私の友人のご家族からいただいた情報をもとに取材先を決め、「風景」「地域とのつながり」「味」という3つの「変わらないもの」に注目してみました。
変わらず残り続けるものの共通点は、地域の人々に寄り添う強い思いがある、ということなのかなと感じました。
みなさんも、自分のテーマをもって、ふらりと下車した駅で街歩きをする贅沢な時間をつくってみてはいかがでしょうか。
自分の中の視点が、また一つ増えるかもしれません。
砧公園
世田谷区砧公園・大蔵一丁目・岡本一丁目
開園日:常時開園
入場料:無料(一部有料施設あり)
https://www.tokyo-park.or.jp/park/kinuta/index.html
真福寺
東京都世田谷区用賀4-14-4
http://yoga-shinpukuji.jp/about/
フローラ洋菓子店
東京都世田谷区用賀4-17-4
03-3709-7012
営業時間:月・火・金・土 10:00〜19:30
日 10:00〜19:00
定休日:毎週水・木(祝日の時は営業)
生活マガジン
「森ノオト」
月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる
森のなかま募集中!






