
大人の社会見学ツアー、スタート!
しとしとと春の雨が降る中、私たちはJR川崎駅から市バスに乗り、湾岸の工業地帯へ。目指したのは、株式会社レゾナック川崎事業所(以下、レゾナック)。
実は、こちらが、私の住む横浜市の家庭から出る「プラごみ」の半分が最終的に辿り着く場所だそうです。(2026年3月時点)

レゾナックの事務所が入る建物の外観。広大な工場のほんの一部ですが、普段見慣れない風景に胸が高鳴ります
まずは会議室に通していただき、レゾナックの稲岡礼子さんと安部 勝好さんから、資料や動画とともに工場の概要やリサイクルの仕組みを伺いました。
プラスチックのリサイクル手法は、大きく分けて「マテリアルリサイクル」と「サーマルリサイクル」「ケミカルリサイクル」の3種類があります。レゾナックで取り組んでいるのは、3つ目の熱分解して化学原料に再生する「ケミカルリサイクル」です。

学生時代、化学が苦手だった私には、これらの化学の仕組みがまるで魔法のように感じました
「ケミカルリサイクル」とは、どのような仕組みなのでしょうか?
私たちが普段使っているプラスチックにはポリエチレンやポリプロピレンなどの種類がありますが、実はその正体は、いずれも主に「炭素(C)」と「水素(H)」が結びついたもの。レゾナックの工場では、このプラスチックに熱を加えて結合をほどき、元のバラバラなガス状態(CとH)に戻してしまうのだそうです。
この技術の素晴らしいところは、ポリエチレンやポリプロピレンなど種類の異なるプラスチックが混ざっていても、細かく分別する必要がないこと。そして、ごみとして「燃やして終わり」ではないという点です。
バラバラのガス状態になった炭素や水素は、二酸化炭素(炭酸ガス)やアンモニアとして全く新しい製品へと生まれ変わります。
たとえば、ここで作られたアンモニアは、おなじみの虫さされ薬「キンカン」の原料にもなっているのだとか!単なるごみだと思っていたものが、私たちの身近なものに生まれ変わっているなんて驚きですよね。

プラごみから生まれたアンモニアは、このような身近な製品にも活用されています
そして、小型バスに乗り込み、いよいよ見学へ出発!
車窓から見る巨大な施設やその配管は、雨に濡れていっそう重厚感を増し、まるでSF映画の世界に迷い込んだようです。

工場内は広いため、見学者は専用のバスで移動
まず向かったのは、プラごみを砕いて圧縮する施設。施設横のスペースには、中間処理施設から送られてきた「ベール(四角く圧縮されたプラごみの塊)」が大量に待機しています。
それを、破砕して異物を除去し、ギュッと固め「成形プラ」と呼ばれるものに加工します。プラスチック資源はふわふわと軽いため、それを均一に処理するためには、小さく粉砕し、圧縮して扱いやすい形にする必要があるからです。

施設内が見えるガラス窓越しに説明を受けました。複数のモニターに処理の様子が映し出されます

多くの刃が付いた機械に入れてプラスチックを小さく破砕します

機械の丸い穴から、ところてんのように圧縮され押し出されます

この灰色の塊が「成形プラ」。固く、容器を振るとカラカラと音がします
プラ分別の細かなルールには、きちんと意味があった
ここ数年で、いわゆる「プラ新法」(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)をきっかけに、横浜市を含め多くの自治体で、従来の容器包装プラスチックに加え、クリアファイルやプラスチックバケツなどの「製品プラスチック」も回収されるようになりました。
「量が増えたり、色々なものが混ざって、大変ではないですか?」と伺うと、「実はそこはあまり大きな影響はないんです」と頼もしいお答えが。
一方、工場の方を長年悩ませているのが「異物混入」です。
固い金属はもちろん、厚みがあって硬いプラスチックが混ざっていると、機械がエラーで止まったり、故障したりする原因になってしまうそうです。
そのため、横浜市では、機械へのダメージを防ぐために「厚みのあるもの」や、「一番長い辺が50センチ以上のもの(広げると50センチ以上になるもの)」は、プラスチック資源として出せないルールになっています(分別のルールはお住まいの地域によって異なります)。
なんと、過去には「ボウリングの玉」が入っていたこともあるというお話に、一同びっくり!取材メンバーの一人も「私もまだまだ完璧な分別ではありませんが、そんな捨て方をする方がいるのかと驚きました」と衝撃を受けていました。
さらに厄介なのは、リチウムイオン電池の混入です。 万が一機械に混入しても発火しないように水蒸気を注入して対策をしていますが、熱で異常を検知することはよくあるそうです。
その度に機械を止め、人が中に入って手作業で取り除くのだとか。効率的に処理できなければ、リサイクルできる量も減ってしまいます。
「非常に困っているので、ぜひ注意してほしい」と力を込めて話される姿が印象的でした。

電子タバコ、スマートフォン、電動歯ブラシ、ハンディクリーナー、電動シェーバーなどの家電製品にもリチウムイオン電池が入っています
話をしている間にも、フォークリフトでベールが次々と運びこまれていきます。
私たちが、毎週集積所に出している「プラごみ」は、中間処理施設を経て、人々の手と精密な機械によって安全に確実に処理されているのだと、改めて感謝の念が湧いてきました。

大量のプラごみが粛々と処理されていきます
20年間動き続ける「ガス化炉」と化学の力
次は、いよいよ工場の心臓部であるガス化炉へ。高さはなんと20階建てのビルに相当する約60メートル!
雨の中、堂々とそびえ立つ姿に圧倒されます。取材陣は全員ヘルメットを被り、バスから降り、恐る恐る近づいてみます。蒸気がもくもく上がっているものの、大きな音や化学的な臭いは全く感じません。
これが、プラスチックを低温ガス化炉(低温といっても600度)と高温ガス化炉(1400度)の2段階の超高温で蒸し焼きにし、分子レベルにまでバラバラにしてしまう「ガス化炉」なのです。実は、これは世界的にも珍しい技術を持った施設なんだとか!
さらに驚いたのは、稼働しているメインの設備が「20年以上も前に作られたもの」だということ。20年前からこの技術を実用化し、今も安定稼働させているという事実に感嘆しました。

この荘厳な施設は「ホワイトキャッスル」と呼ばれ、川崎の工場夜景の名所にもなっています。光り輝く白い光は、夜も眠ることなくプラごみを資源へと再生し続けてくれている証なのです
このように、分子レベルまで熱分解し、ガス化できるおかげで、さまざまな種類のプラスチックが混ざっていたり、多少の汚れや紙のシールなどがついていたりしても対応できるそうです。
日頃「少し汚れているから燃やすごみかな」と諦めていたものも、この話を聞いてからは自信を持ってプラごみに分別できるようになりました。
そして、ガス化された「炭素(C)」と「水素(H)」は、一体どうなるのでしょうか?
答えは、このバラバラになった成分を別の形に組み合わせることで、「二酸化炭素(CO2)」と「水素(H2)」、そして「アンモニア(NH3)」へと生まれ変わるのです。
二酸化炭素は炭酸飲料やドライアイスに、水素は近隣ホテルでの利用や燃料電池車などに、さらにアンモニアはアクリル繊維やナイロン繊維などの原料、肥料などさまざまな用途で使われるのだとか。
取材メンバー全員が「プラごみが、あの炭酸飲料に入っているシュワシュワに生まれ変わっているなんて!」と、その変貌ぶりに目を丸くしていました。
リサイクルの「費用対効果」のリアル
工場見学の後に、質疑応答の時間をいただいたので気になっていた「リサイクルにかかるお金事情」についても切り込んでみました。
今回の見学も敷地内をバスで巡りましたが、パンフレットを見ると、破砕成形設備とガス化設備を合わせた面積は13,990㎡とのこと。
小学校のグラウンド約2〜3個分に相当する広さです。これほど広大な工場を、24時間体制で安全に稼働させるには、莫大な設備費や人件費がかかっているはずです。
「事業として採算が合っているのだろうか?」そんな率直な疑問を、リサイクル推進室長の伊東浩史さんへ投げかけてみました。

取材メンバーからの一つひとつの質問に丁寧に答えてくださいました
伊東さんは、「このリサイクル事業は大きく二つの柱で成り立っているんです」と教えてくれました。
一つは、「ごみの処理」を請け負う際に受け取る委託費用です。この費用は、地方自治体とプラスチックを製造・販売した企業の負担金です。
そのため、なるべく安く処理することが求められます。しかし、プラスチックは重量のわりにかさばるため、トラック1台で運べる量が限られ、遠方から運ぶと輸送費だけで赤字になってしまいます。
その点、レゾナックは東京や横浜といった大都市(=プラごみが大量に発生する場所)に隣接する「川崎市」に拠点があります。
輸送コストを抑えつつ、大量の素材を安定して受け入れられる地の利が最大限に活かされているのです。そしてもう一つの柱が、ケミカルリサイクルによって生み出した二酸化炭素や水素、アンモニアなどの販売です。
プラスチックの利便性を享受する市民や企業は、負担金を通じてその責任の一翼を担い、リサイクルを請け負う企業は技術力で生み出した製品を販売して利益を得る。
この「環境と経済」が両立する緻密なビジネスモデルがあったからこそ、この取り組みは20年間も続いてきたのだと深く納得しました。
最後に、特に印象的だったこととして、リサイクル推進室長の伊東さんや、見学に同行して説明してくださった稲岡さん、安部さんのお話の中に「分ければ資源」という言葉がありました。
単にごみとして燃やしてしまえばそれまでですが、きちんと分別してこの工場に届けば、新たな価値を持つ製品に生まれ変わる。
「分ければ資源」というのは、よく聞くワードではありますが、ここでは、まさにその言葉通りの仕組みが機能しているのだと感じました。

(左から)稲岡さん、安部さん、伊東さん
おわりに
実は、私がこちらの工場を見学したのは2026年3月のことです。その後、慌ただしい日常に戻っていた私ですが、数カ月が経った今、「分ければ資源」の言葉がさらに腑に落ちています。
というのも、この記事をどう執筆しようかと考えあぐねている間、世間では「ナフサ不足」によるごみ袋の品薄が大きなニュースになりました。
私たちの当たり前の暮らしが、いかに限られた資源の上に成り立っているかを、考えさせられる出来事だったからです。
ただ燃やして大量の二酸化炭素を出すのではなく、私たちが分別の手間や、費用を負担してでも「次世代のクリーンエネルギーや化学原料」に生まれ変わらせる。
それは、プラスチックの便利さにたくさん助けられてきた私たちが、限りある資源を循環させるためにできる大切な役割なのだと、時間を置いてよりはっきりと分かりました。
そんなふうに考えると、毎日のごみ出しも少し見え方が変わってきます。
取材メンバーからも次のような感想をもらいました。
「改めて市の分別表を読み直して、思い込みがないか確認したいです」
「自分の普段の生活を見直して、ごみとしっかり向き合おうと感じました」
私を含め、取材メンバーみんなの、日々のプラごみとの向き合い方が少しずつ変わってきた気がします。この記事を読んで少しでも気になった方は、ぜひ実際の工場見学にも足を運んでみてくださいね。
完璧じゃなくても大丈夫。
私たちのできる範囲で、まずは手にしたプラごみの分別から、少しだけ気にかけてみませんか?
施設見学のご案内
株式会社レゾナック 川崎事業所(KPR)
https://www.resonac.com/jp/kpr/tour.html
※現在、公式ホームページ上には「新型コロナウイルス感染拡大防止の為、見学中止」との記載がありますが、状況に応じて受け入れを行っているそうです。見学をご希望の方は、まずは最新の状況をお問い合わせ窓口(またはフォーム)よりご相談ください。
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