
私は最近、自分の子どもが中高生になり、少しずつ親の手から離れていくことがうれしい一方で、なんだか少し寂しいような何とも言えない複雑な気持ちを抱えるようになりました。
ここ数年、夫は単身赴任で離れて暮らし、順番に反抗期を迎えて親と激しくぶつかり合う男子たちを前に、私は子どもの育て方や向き合い方について思い悩む日々が続いて、子どもの自立を前に、今一度子どもを育てるということについて深く考えてみたいと思うようになりました。
私が小野さんと知り合ったのは、仕事のご縁でチラシをデザインしたことがきっかけでした。小野さんは、以前私が働いていた子育て支援センターや親子の居場所をよく利用されていることもあり、何気ない会話の中で「うちの子どもは特別養子縁組で迎えたんですよ」とさらりと教えてくれました。
最近は「里親」や「特別養子縁組」ということを以前よりも耳にする機会が増えたなぁと気になっていた私は、夫婦で子どもを迎えともに育てていこうと決断をしたという小野さんにその歩みについてのお話を聞かせてもらうことにしました。

あざみ野駅近くにあるアートフォーラムあざみ野で7月に小野良さんにインタビューをしました
30歳で養子という選択肢を考える
2019年、仕事の都合で横浜市都筑区に引越しをしてきた小野さんは、都筑区が子育てにやさしく、まち自体も魅力的だったことから、夫婦で「ここで子育てをしたいね」と話すようになりました。
子どもを授かるための治療を受ける中で、人工授精に進むかを夫婦で話した時、お互いの口から自然と「養子という選択肢もあるよね」という言葉がポロっと出たそうです。お二人は、治療を始めて1年ほどで養子という選択肢を考えました。
当時、小野さんは30歳、奥さんが35歳。30代で養子縁組を選ぶ人はかなり珍しく、周囲からは「そんなに早く諦めていいの?」と何度も聞かれたそうです。
それでも小野さんは「不妊治療は精神的にも消耗しますし、お金も体力もかかります。それならば、そのお金と体力を迎える子どものために使いたいと考えました。できれば若いうちに子育てを始めたいという気持ちもあって、その思いは夫婦で一致していたんです」と話してくれました。
その頃、ちょうど公益財団法人日本財団が制定した「養子の日」という記念日が近く、特別養子縁組についての啓発イベントへ夫婦で参加したそうです。
「養子の日」とは、4月4日の「よー(4)し(4)」の語呂に合わせて制定された「特別養子縁組制度」の普及や理解促進を目的とした記念日です。
ここで特別養子縁組について知っておくべきことを教えてもらい、全国の民間の斡旋(あっせん)団体も紹介してくれて、国内に意外とたくさんの斡旋団体があることを知ったそうです。このことがきっかけで、制度について詳しく調べ、夫婦で話し合いながら進めていきました。
最初は「里親」と「特別養子縁組」の両方の選択肢を考えていた小野さん夫妻は、まず児童相談所に相談します。どちらも制度の目的は「子どもが安心して家庭で育つための制度」ですが、大きな違いもあります。
「里親」は、さまざまな事情で実の親と暮らせない子どもを、一定期間家庭で育てる制度で、実の親(実親)が親権を持ち、里親と子どもは、法的な親子関係はありません。
一方、「特別養子縁組」は、実の親と法的な親子関係を解消し、育ての親(養親)と子どもが法的に親子関係を結ぶ制度で、養親が子どもの親権を持ちます。
「里親」は一時的な養育を行い、子どもが実親のもとに戻ることが期待されることが多いのですが、「養子縁組」は新しい家族関係を築くことを目的としています。
“民間”の斡旋団体「NPO法人Babyぽけっと」に特別養子縁組の斡旋をお願いする
まず特別養子縁組によって子どもを迎えたいと考えた時に、縁組を仲介してくれるのは、大きく分けて2通りです。“行政”である児童相談所と、“民間”の特別養子縁組斡旋団体があります。
“行政”を頼る場合は、児童相談所に相談をして、研修を受け「里親認定」を申請し、都道府県の児童福祉審議会の審査を経て「里親認定」を得ます。その後、お子さんとのマッチングが行われれば、児童相談所から委託される流れです。
一方、“民間”の団体を頼る場合は、団体によってさまざまな違いがあるので、団体について調べるところからはじめます。斡旋してもらいたい団体が決まれば、面接や審査を受け、里親と同じように研修も受けます。
団体の審査が通れば、育て親の候補として登録され、斡旋できるお子さんがいれば団体から委託される流れです。
最終的には、どちらも家庭裁判所に特別養子縁組を申し入れ、調査や家庭訪問などを経て、実の親の同意を得て親権が移り、家庭へ子どもを迎え入れることができます。
小野さんは最初に児童相談所に相談しましたが、当時はコロナ禍の真っ只中でした。
児童相談所が動きづらい状況で、先が見えないために里親研修の再開も目処が立たず、職員の方が「今のタイミングでお子さんを迎えたいのならば、民間の斡旋団体の方がスピーディですよ」と教えてくれたことから、民間の斡旋団体を調べ始めました。
そこで出会ったのが、「NPO法人Baby ぽけっと」という団体です。Baby ぽけっとは、縁組家族同士の交流を大切にしている団体で、今後子育てをしていく中でコミュニティがあるのは頼りになると感じてお願いしたいと考えました。
「養子縁組ならではの不安や悩み、裁判を迎えるまでの心配事などを先輩家族に相談でき、それが本当に心強く助けになった」と話してくれました。

小野さんが持ってきてくれた特別養子縁組に関する書籍。制度について理解しやすいように、本に載っている図を見せながら説明してくれました
子どもとの出会いを待つ“待機登録”に至るまで
――養子縁組ならではの不安や悩みって具体的にはどんなことですか?
小野さん:待機登録*後は「いつ頃子どもが来るんだろう」という不安が多いですね。該当するお子さんがいなければ1年近く待つこともありますし、逆に受け入れ態勢が整い待機登録になった翌日に来ることもあります。
連絡が来ないと不安になるご家庭も多くて、私たちも先輩家族から「待っていれば必ず来るから。実際に子どもを授かった時と同じような気持ちで、その時間も楽しみながら待つといいよ」と声をかけてもらえました。
Baby ぽけっとでは、説明会や面接の後に育児研修を受けて、縁組家族同士の交流会にも参加することになっています。交流会では、実際の親子の様子を見たり、先輩の親御さんと話ができたり、子どもとふれあえる機会になっています。
(*待機登録とは、特別養子縁組を希望する家庭が、子どもを迎える準備を整えて、子どもとの出会いを待つための登録)
――交流会ではご夫婦の様子も見られるんですか?
小野さん:そうですね。子どもたちへの接し方なども見ながら「この夫婦に子どもの命を託して大丈夫か」ということを団体が見る機会にもなっていて、そういう意味でも交流会はとても大切です。
実際、養子を迎えようとした時に、夫婦で気持ちに温度差があるケースも結構あるそうなんです。夫婦のどちらか一方が子どもを望む気持ちが強く、パートナーはそこまで気持ちが追い付いていないなど、実は夫婦で熱意が違っていることも多いようです。
――なるほど。子どもを託すって重大なことですもんね。待機登録に至るまでには、さまざまな段階を踏む必要があるんですね。
小野さん:そうですね。やるべきことが結構たくさんあります。書類審査や、育児研修や講座などを受けて、家庭訪問や交流会への参加などを経て、団体の審査を通過すれば最終的に待機登録となります。
簡単に登録できるというようなことではないですね。もちろん、このプロセスは、Baby ぽけっとの場合で、団体によって多少の違いはあると思います。
――研修ではどんなことをやるんですか?
小野さん:育児や子どもの発達、愛着形成、思春期のこと、発達障害のこと等についての講義や、団体の考え方や特別養子縁組の制度そのものについて学びました。ほぼ丸1日の研修が2日間あり、その後に面談もしました。
――その期間、ご夫婦でたくさん話し合われたんですか?
小野さん:はい。夫婦で「なぜ子どもを迎えたいのか」について、何度も話し合いました。この話し合う時間もとても大事だったと思います。
――どんな話し合いをされたんですか?
小野さん:二人とも親から愛情をもらって育ってきたという実感があって、感謝もしているし、今度はその愛情を自分たちの子どもに伝えていきたいね、と話をしたのを覚えています。このまま夫婦二人で暮らしていくという選択肢もありましたが、自分たちが今後生きていく上で「子育てをしたい。親になりたい」という思いが二人とも共通していることがわかりました。
幸いなことに子どもを迎えることに、両方の親の反対もなかったのでそれも恵まれていたと思います。
――ご家族から反対されることも結構あるんですか?
小野さん:あるようですね。まだまだ養子全体に対する偏見や、抵抗というものが世間的にはあると思います。
――養子縁組に対する偏見とか抵抗感っていうのは、どういったものでしょうか?
小野さん:血縁のない他人の子を迎え入れてまで家族になるという感覚がわからないのかもしれないですね。
――なるほど…。そう言われてみると「家族や親子は血のつながりがあるもの」という感覚や価値観を、私たちは気づかないうちに持っていて、そういう感覚や価値観が、抵抗感だったり不安感につながることもあるのかもしれませんね。
そもそも「家族」とか「親子」にとって、大切なことって何でしょうね…。

小野さん夫妻が出会った茨城県にある国内優先型の特別養子縁組団体「NPO法人Baby ぽけっと」のHP
生後2カ月の男の子が小野家にやってきた日のこと
――待機登録になってから、どのくらいでお子さんとのご縁が決まったんですか?
小野さん:うちは4カ月くらいで連絡をいただきました。
その日、私は友達と飲みに行っていたんです。妻から「団体から連絡が来た」と電話があって、友だちに「ごめん!帰らなきゃ」と言って、すぐ帰宅しました。
団体からは「生後2カ月のダウン症の男の子を任せたい」と伝えられました。うちの団体では斡旋する子どもの性別も障害の有無も選べないという方針なので、そこから夫婦で二日間、寝ずに会議をしましたね。
――そうなんですね。奥さんとはどんなふうに話をされたんですか?
小野さん:妻は最初「障害のある子の母になる」ということに不安と重い責任を感じていて、すぐには決断できなかったんです。
私は「自然に妊娠できてもダウン症の子どもが生まれる可能性はあるし、縁がある子がいるなら迎え入れたい」というような話をしましたが、その日のうちに結論は出ませんでした。
しかし、団体にお願いして赤ちゃんの写真を送ってもらって、それを見て妻が泣きながら「かわいいね」と言って「こんなにかわいい子が家族を求めているなら、私たちが親になろう」と言ってくれて、「うちでこの子を迎えます」と団体へ伝えました。
――実際のお子さんの写真を見たことで、揺れ動いていた心が決まったんですね。
お子さんが実際にお家に来たのは、連絡があってからどれくらいでしたか?
小野さん:団体から連絡があった20日後でした。うちは稀なケースで、実親さんとお会いする機会をいただき、「お気持ちを受け止めて、うちで育てますよ」とお伝えしました。そうして、6月の曇り空の日に子どもを迎え入れました。
これはBabyぽけっと特有の文化なんですが、団体の代表が自ら養親の家まで赤ちゃんを連れてきてくれるんです。その日は、同じ神奈川に住む先輩ご家族や、これからお子さんを迎えたいご夫婦が最寄り駅に集まって、一緒に子どもの到着を待ってくれました。そして「おめでとう!よかったね」と祝ってくれたんですよ。
――それはなんだかとっても温かくて良い文化ですね。赤ちゃんが来てくれたことをみんなが祝ってくれるのは、子どもにとっても親にとってもうれしいことですよね。
お子さんに初めて会った時のお気持ちはどうでしたか?
小野さん:そうですね、この子がうちに来るのかぁーとなんか感慨深い気持ちでした。写真では見ていたけど、想像以上に小さいんだなぁって感じました。
家について初めてのおむつ替えをしようとした途端、おしっこをピューっとされて…(笑)。おうちに来て安心してくれたんだね~って皆で笑いました。

小野家に赤ちゃんがきました
山のようにある手続きと関係機関の訪問。正式に「親子」になるまでのプロセス
子どもとの暮らしが始まると、同時にさまざまな行政手続きも開始します。まず、小野さんは
①区役所に行って、子どもを「同居人」として住民票を“転籍”させる手続きをしました。
②次は、児童相談所に行き、特別養子縁組を目的に子どもを受け入れていますという旨を情報共有します(“同居届”を提出)。
③次は、家庭裁判所に“特別養子縁組を申立てる”書類を作成して送りました。
④区の保健所、児童相談所、家庭裁判所、それぞれによる家庭訪問を受けました。家庭裁判所に関しては2回の訪問を受けました。
⑤この期間は、子どもの健康保険についての手続きも発生します。法的に家族として入籍できていないと会社の社会保険の対象とはならない為、審判が確定するまでの期間は、お子さんは一旦国民健康保険へ加入しました。審判確定後は、会社の社会保険に子どもも加入できました。
こうやって書いて並べただけでも、手続きや関係機関の訪問の多さに驚きますが、小野さんは「特別養子縁組」という選択をした以上、こういった手続きを責任持って一つひとつ進められる人が養子という選択肢を取れるんだろうなと感じたと話します。
「養育期間」の緊張感と不安感
家庭裁判所へは子どもも一緒に連れて行かなければならないそうです。初めての長距離の外出で、子どもがまだ小さかったため「絶対に体調を崩させちゃいけない」と、本当に緊張したと話します。
というのも、この家庭裁判所の審判が確定するまでは「養育期間」といって、子どもと一緒に暮らしてはいますが、まだ法的には親子関係はなく、親権は実親にあります。
裁判所の審判を得て、2週間以内に実親からの即時抗告がなければ、縁組が成立し親権が養親へ移り、正式に親子になれるのです。
「審判が確定するまでに、子どもに何かあると家庭に問題があると思われるのではないかと思って、本当に緊張していた」と話してくれました。
またこのタイミングに、実親がやっぱり子どもを返してほしい、自分で育てたいという気持ちになったら、親権は実親にあるので、養親は子どもを返さなくてはなりません。それを“翻意”といいます。
小野さんは「実親さんも事情があって子どもを託す選択をするのだけれども、手放したくないという気持ちは必ずあると思う」と話し、「でも、生後間もない子どもに愛情を注いで懸命に子育てしている中で、翻意されたらこの子を返さなくちゃいけない…と大きな不安がふとした時に襲ってくるんです」と養育期間中の養親の気持ちも話してくれました。
小野家は2022年6月にお子さんを家庭に迎え入れ、7月に家庭裁判所に特別養子縁組の申立てをしました。
そして9カ月後の2023年4月に審判が確定し、法的にも正式に親子になったそうです。

子育てがスタートした小野家の父と子のミルクタイム。子育て、家事、仕事、休息と、奥さんとシフトを組むように交代しながらなんとか家庭をまわしていったそうです
毎年ミートソースペンネを家族で食べてお祝いをする
――お子さんとの暮らしの中で大切にしていることって何かありますか?
小野さん:そうですね。縁組家族には “真実告知”ということがあるんです。子どもに早い段階から生まれた時のこと、家庭に来た時のことを伝えていくんです。
親が長い間事実を隠すことは、思春期のアイデンティティの形成に大きなダメージを与えてしまうことが多いので、現代では早い時期から伝えていくことが主流になっています。
わが家でも、夜寝る前に「君がお家に来た時はね…」と、新幹線で代表が連れてきてくれたことやみんながお祝いしてくれたことを話しています。
また、子どもを迎えた日に食べたのがミートソースのペンネだったので、「君がおうちに来た日は、みんなでミートソースペンネを一緒に食べてお祝いしたんだよ」と話しながら、一緒にペンネを食べる日にしています。
――誕生日とは別に、おめでとうって祝う日があるのはいいですね。なんだか小野家の温かさを感じます。

お子さんが大好きというカーズのマックイーン。奥さんが段ボールで手づくりしました。丁寧につくられているこのマックイーンは、彼女の手先の器用さも感じますが、子どもが喜ぶだろうとつくった愛情も伝わってきます
子育て支援センターでひらく「特別養子縁組家族によるおしゃべり会」
―――小野さんは、都筑区子育て支援センターPopola(ポポラ)で「特別養子縁組家族によるおしゃべり会」をひらいていますが、それはどういった思いではじめたんですか?
小野さん:はじめたきっかけは、ポポラの施設長である武智さんに、「養子縁組親子のコミュニティってありますか?」と尋ねたところ「そういうコミュニティは今近くにはないから、ポポラの場所を使って始めてみませんか?」と言われたことでした。
養子縁組の家庭が、ポポラのような地域に開かれた場所に当たり前のように集まって、そこにコミュニティの場があれば、子どもが育った時にうちの家庭環境ってすごく特殊なわけではなくて、意外と同じような家族がこんなにいるんだなっていうことが感覚的に伝わればいいなと思っているんです。
特別なことではなく当たり前のことになってほしい。そんな思いで、このおしゃべり会を続けています。

都筑区子育て支援センターPopolaの施設長 武智絢乃 さん(左側)は「ポポラのひろばには、「実はうちは養子縁組で子どもを迎えたんです」と話してくださる親御さんも時々いて、養子でお子さんを迎えたというご家族は、実は意外といらっしゃるんですよ」と教えてくれました

温かな雰囲気が伝わってくるおしゃべり会のチラシは、小野さんの奥さんがイラストを描いているそうです。2022年12月からスタートしたおしゃべり会は、2026年8月で16回目となり、今まで30組ほどの親子が参加してくれたそうです
―――このおしゃべり会をひらいてみてどうですか?
小野さん:いろんなカタチの家族がいるので、互いの違いについて教え合ったり、そういう話をできる場があるってことがすごくいいなと感じています。
こういうコミュニティがあると、縁組した家族だけでなく、養子縁組に関心がある人たちも話を聞きに来てくれるので、制度についてや、いろんな選択肢を決める上でのそれぞれのメリットなどを当事者として説明ができるんです。
養子を迎えるという選択肢をネットの情報だけで調べていると正直不安になることも多いですけど、当事者から話を聞いて、実際に目の前で育ってきた子どもたちの姿を見れば、結構安心して、「そういう選択肢を取ってみようかな」と思うきっかけになると思うんです。
たくさんの人が出入りするポポラで場をひらくことで、養子縁組の普及はもちろんですが、家族のあり方も、いろんな選択肢があるんだっていうことを知ってもらいたいなと思っています。

この日の参加は、5組の親子、里親支援の相談員さん、子育て支援をしている方でした。親御さんからは「仲間や、子どもを見守ってくれる人が増えたことがうれしい」「公ではなんとなく話しにくいことも、個人的に聞いたり話せるのがとても良いです」といった声を聞かせてくれました
「知る」ことから、道がひらいていくことがある。顔を見て「知る」ことが持つ力
小野さんは、特別養子縁組はあくまでも「子どものための制度」であることを大前提としながらも、その背景には、さまざまな事情から子どもを育てられない実親や、養育環境を必要としている子どもたちがいること、そして不妊治療で苦しい経験をしている人にも、「養子という選択肢があり、親になって子育てができる」ことを知ってほしいと話しました。
おしゃべり会では、「実親さんがこの制度につながってくれて、子どもを託してくれたことに感謝している。必要としている人が制度にたどりつけるためにも、制度自体が世の中に広く認知されることが大切」と話してくれた親御さんがいました。
どんなことも「知る」ことからはじまり、そこから道がひらいていくことがありますが、知らなければ選択することもできないのです。まずは、制度の存在を広く知ってもらうこと、広げていくことが大切なのだと思いました。
おしゃべり会では、実際に縁組をした家族に会って話を聞いたことで、不安が解消されたというご夫婦もいたそうです。
小野さんの奥さんも、「養子を考えているときに、団体の交流会で実際の先輩養親家族に会って話ができたことは、とても大きなことでした」と教えてくれました。
実際の家族に会って話を聞くことは、ネットで情報を集めるだけでは得られないご家族の経験や思いを具体的に聞けたり、また経験者に自分の相談をすることもできます。
直接コミュニケーションを取ることで、遠くに感じていたことが自分のこととして考えられるきっかけになったり、一人で抱えていた不安をほどいていくきっかけになるのかもしれません。
コミュニケーションしながら顔を見て「知る」ということが、時には一歩を踏み出すきっかけや、何かを変えていく力にもなるのだと感じました。
子どもが安心して暮らしていくために大切なこと
――子どもが安心して暮らしていける環境って、小野さんはどういうものだと思いますか?
小野さん: そうですねえ、なかなか深い質問ですけど…
まずは自分の一番身近な他者である親を信頼できるということが、安心して暮らせるということにつながっていくんじゃないでしょうかね。
子どもたちは家庭の中で、両親が夕方になったら夕食をつくったり、洗濯や掃除をしたり、そういった家庭にある何気ない日常の暮らしを一緒に過ごす中で、生活することや人との関わり方を少しずつ学んでいるのかもしれないと思います。
家庭には、誰かと暮らしを重ねながら、社会の中で生きていくための土台を育む役割があるのではないかと…。
だから、親やそばにいる大人が、ただ一緒に暮らし、前を向いて人生を生きていく姿を見せてあげることだけでも子どもにとっては大きなことで、日常をともに積み重ねていくことが、子どもの安心や幸せにつながっていくのではないでしょうかね。
――そうですねぇ…。信頼できる大人がそばにいて、一緒に時間を過ごして暮らせるって、安心につながることですよね。そういうことは、当たり前のことではないのに、日常の中ではそういう幸せに気づきにくいものですね。
小野さん: そうですよね。この先も、子どもに信頼してもらえる存在として、自分たちも育っていかなくてはいけないだろうし、子どもを迎えたことで、一緒に家庭をつくっていけている気がしています。
彼がいるからこそしっかり生きようとか覚悟のような、背筋が伸びるような思いがありますね。

小野さんと森ノオト理事長の北原まどかさん。インタビューのおわりにお互いの子育てについてもおしゃべりました
おわりに
私は親になる前に、なぜ親になりたいのか、なぜ子どもがほしいのかについて、そんなに向き合って考えたことはありませんでした。
小野さん夫婦は、特別養子縁組で子どもを迎えることを決断するまでに、自分たちがどう生きたいのか、なぜ子どもを迎えたいのか、家族のこれからを見つめ、その上で、子どもとの暮らしを望み家庭に迎えると決めて、たくさんの段階を一つずつ踏みながら、お子さんを迎えました。
子育ては、未知なる世界を子どもと一緒に冒険する旅のようで、自分とは違う人生をそばで見せてもらうようなものだと思うのです。
数々のはじめてのことや、頭を悩ませることに出会いながら、一緒にごはんを食べ、笑ったり、喜んだり、怒って泣いたり、正解のないことに悩んだりしながら暮らしています。そんな日常を積み重ねていくことで、親子の絆や家族の愛情が少しずつ育っていくのかもしれません。
それは、血のつながりのある親子でも、縁組による親子でも同じで、大切なのは、子どもがどんな背景を持って生まれてきたとしても、自分の存在を受け入れてもらえていると感じ、安心して暮らせる環境の中で育っていくこと。
その暮らしの中で生まれる安心感や信頼感。そういうものは目には見えませんが、子どもが育っていく上で家族にとっても大切なものなのだと思います。
小野家のあゆみを聞かせてもらい、子どもの幸せを考えることは、同時に地続きで親の幸せや人生の豊かさについて考えることにもつながっているのだと感じました。
小野さんが最後に「ただ単に一緒に生活をするだけでも子どもにとってはそれが幸せなことなんだと思うんです」と話し、それはきっと親にとっても同じで、子どもとの暮らしや家族のことで立ち止まったときに、思い出したい言葉として深く心に残りました。
- 「特別養子縁組家族のおしゃべり会」
・日にち:2026年11月7日(土)
・じかん:14:00~15:30
・定員:7組
・場所:都筑区子育て支援センターPopola(ポポラ)コミュニティルーム
(横浜市営地下鉄線ブルーライン・グリーンライン「センター北」駅直通 ショッピングタウンあいたい5F)
・対象:特別養子縁組のご家族/特別養子縁組に興味のある方
・申込み/問合せ:ポポラに電話またはお申込フォームから
都筑区子育て支援センターポポラ
TEL:045-912-5135
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