<ポートランドまち歩き 移動編>
子連れ海外旅行では、現地での移動がスムーズに行くかどうかという点は最も気になるところです。ポートランドはアメリカが自動車社会に発展するまっただ中だった1970年代に「高速道路を撤廃し公園に」という運動がおこり、既存の高速道路を撤廃して公園にし、市街地の公共交通機関を充実させることに力を入れました。そんな歴史を持つまちだけあって、公共交通機関がとても使いやすくなっています。
街の中心を南北に流れるウィラメット川にかかる12本目の橋として去年9月にできたばかりのティリッカムコロッシングブリッジ。公共交通と徒歩と自転車のみが通行できる橋です。自家用車が橋をわたらないことで、街に排気ガスを持ち込まずCO2削減に一役買っています。車ユーザーは川の手前で駐車し、公共交通か自転車で街に入ることになります。ハードや仕組みを整備することで人の生活スタイルが変化するポートランド流まちづくりの一例です。
橋にはLED電飾がついており、色の変化でその日の川の温度・速度・深さなどを表します。「川の変化はいまの日常生活に必要なものではないかもしれないけれど、この電飾をみることで、私たちの生活が自然とともにあるということをいつも感じることができる」と、今回の旅のプログラムを一手に担い、住民目線でまち歩きのガイドをしてくれたユリ・バクスターニールさん。橋が、川(自然)の様子・変化を市民が目にするきっかけになっています。
ポートランドは、歩きやすい街としてデザインされているのも子連れにはありがたいところです。一区画が正方形で一辺の長さが約61メートルととても短く、大人の足では徒歩1分で次の区画に到着します。そんな中にあってストリートカー(路面電車)は南北に瞬間移動できるみたいに便利。チケットは一枚買うと2時間半有効で何度乗り降りしてもよく、ストリートカー、ライトレール、バス共通。各拠点では乗り換えしやすいようにターミナルが設置されています。低床で座席の少ない広々タイプの車両が多くて、ベビーカーを持ち上げずに乗り込めるのでありがたい環境でした。
宿が住宅街だったので、どこへ行くにもバスに乗りました。バスもストリートカーと同じく、乗り込み口に近い場所に十分に広いスペースがあり、ベビーカーでも乗れます。ただ、乗り込んだあとは安全のために子どもをベビーカーから座席に移動させるよう言われることもありましたが、ベビーカーをたたむようには言われませんでした。車いすユーザーも多く、乗り降りの際は自動で出てくるフラップ板を歩道に渡してくれるので、ベビーカーや車いすを持ち上げることなくそのまま乗り降りが可能です。
ポートランドは自転車の町でもあります。ダウンタウンのあちこちに無料で駐輪できるバーが設けられていました。ある場所ではなんとベビーカーがつないでありました。私は、日本で日頃利用する保育園でベビーカーを預かってもらえないため、よく仕事中に空のベビーカーを持ち歩いています。日本でもこうした公共ベビーカー置き場があればいいのにと思いました。
<ポートランドまち歩き 子連れの定番 公園編>
子どもがいると公園は日常的に利用する場所ですよね。私は、ポートランド滞在中に8カ所の公園に行きました。ユリさん曰く、誰にでも住みやすい街を作るという方針のポートランドの市街地計画では、公園にも多くの選択肢を用意しているのだそう。まち歩きで教えていただいた近接する三つの公園は計画的に作られていました。場所は、レンガ造の倉庫街をリノベーションしている再開発地区として世界的な注目を集める「パール・ディストリクト」。子どもが水遊びを楽しめ、親を含む来訪者が自然と子どもを見守りながら居られる「ジャミソンスクエア」、植物も動物も住民だという考え方から生態系の保護と修復を目的とした水辺と湿地の公園「ターナースプリングパーク」、遊具やドッグランがあり、多目的に利用できる日本でもよく見るような一般的な公園「フィールドオブネイバーフッド」と、来訪者が自分好みの公園を選択でき、また、公園から公園へと歩くことを楽しめるようになっています。
ユリさん曰く、公園だけでなく、まちのいたるところに「交流を生み出す仕組み」を潜ませているのがポートランドまちづくりのポイントなのだそうです。
またポートランドのあちらこちらで見かけるフードカートも子連れのまち歩きには心強い味方。車を改造したキッチンカーでテイクアウト料理を提供してくれるフードカートはまとまってポッドと呼ばれる屋台村を構成していて、様々なジャンル・国の料理のフードを楽しむことができます。ポートランドでは、フードカートがあることが街に人を呼び街の価値を上げると認識されているのだそうです。フードカートから町への出店へとステップアップする事例もあることから、フードカート利用が起業家支援につながるという考え方もあるとか。レストランの利用を躊躇する子連れにとって、手軽においしいものがテイクアウトできるのはありがたいこと。しかも公園を始め、まちにはベンチや小さな緑地など、「街に居ること」を楽しむことのできる空間がいっぱいあり、テイクアウトフードを食べる場所に困ることはありません。
また、市街中心部には「パイオニア・コートハウス・スクエア」という広場があります。
駐車場だった場所を皆が集うことのできる広場にしたいと、市民が5万枚のレンガ一枚一枚を寄付していったという、ポートランドのまちづくりを語る上ではずせない場所です。
<多様性を受け止め、歴史を刻むポートランド>
まち歩きをしていていろんなところでみかけるこの水飲み場。いつでもだれでも水が飲めるそうです。Benson Bubblersといって、1912年に地元実業家のサイモンベンソンが寄付をして作られたのがはじまりです。
木材を切り出す労働者の街だったポートランドで、労働者が安全な飲み水を得られるように、そして、水を買えないと泣いていた女の子のために作られたそうです。
ポートランドは公共交通の便の良さや雨風がしのげる場所が多いということもあって、近年ホームレスの人口が増えているそうです。水は生活するにあたり最低限必要なもの。誰もが飲める水飲み場が町にあるということがホームレスの人の生活を下支えしている面もあるようです。
ユリさん曰く「全米で最も住みたい都市に選ばれるポートランドですが、いまもホームレスの人口が多かったり、黒人が少数派だったりと、万人にとっての夢の国というわけではありません。ホームレスの問題も早急に解決しなければならないことだと思います。でも、ホームレスにいなくなってほしいからといって、ただ柵を作って出て行ってもらうというのは根本的な解決方法ではないでしょう。誰もが住みやすい町とはどんな町なのか、社会課題に対して目を背けず、その解決に向けて、日々活動が行われています」
排除することでは何もうまれない。広い視野と他者を理解しようとする心、多世代、多文化、多様性を受け止めることで街が育っているのだということをこの水飲み場がまちのあちこちで語ってくれているようです。
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