それでは電気をめぐる時空の旅に出掛けましょう♪
(文と絵/梅原あき子)
電圧の単位ボルト(V)で知られる、物理学者ボルタさんは、1745年イタリアのコモで生まれました。もともと裕福で、大変信仰心の厚い家庭で育ったボルタさんは、最初文学やラテン語を学んでいましたが、やがて電気に興味を持つようになり、宗教的な生活からは離れていきます。
コモ王立学院(今でいう高校)の物理教師をしていた29歳の時に、「電気盆」を考案したことでヨーロッパに名を広め、1775年、コモ大学の物理学教授の職を得ました。「電気盆」は、手動で硫黄球を摩擦して静電気を得るゲーリッケさんの「起電器」よりも、効率よく電気をつくって運べる装置。ボルタさんは、実験装置づくりの名人みたいなところがあって、その後も静電気の量や性質を計る「検電器」や、静電気をためる「蓄電器」の原型をつくる、など画期的な発見をたくさんしています。中でも、最も評価されているものが1799年の「ボルタ電池」と、1800年の「ボルタ電堆(デンタイ)」の発明でした(これらは、まとめてボルタ電池と言われることも多いようです)。
ボルタさんにとって、良きライバルともいえるのがガルバーニさん。彼はイタリアのボローニャに住む医者で、解剖学者でもあり、鳥の耳の謎を探ったりしていましたが、晩年はカエルの解剖に没頭します。体内というのも未だに謎に満ちた空間ですが、ガルバーニさんは、カエルの脚の筋肉に金属を触れさせると静電気や雷に反応してぴくっと動くことから、筋肉の内に電気が「ある」のではないかと考え、「動物電気」という仮説をたて論文を発表しました。電気で筋肉が動くならば、筋肉で電気がつくれるのではないか? というこの説は、デンキウナギや、シビレエイなど実際に発電する動物の存在が知られていたこともあって、当時大変支持されて広まったんですね。
ボルタさんもその発見に大変感動して、ただちに自分の作った装置でも実験をはじめます。しかし実験を繰り返すうちに、どうやらカエルの脚には電気はないのではかと考えるようになりました。そこでヒントになったのが、銅と亜鉛で舌を挟むとぴりぴりと刺激がある、という別の科学レポートです。カエルの脚は検電器の働きをしているに過ぎず,実際には2種類の異なる性質の金属が電気を起こすのではないか? と閃いたボルタ教授は、結果的にガルバーニさんの動物電気説を否定する立場をとることになりました。そして、自分の実験をさらに進めて、亜鉛と銅、錫(すず)と銀の組み合わせが、電気を起こすのに最も効率が良いことを発見します。
亜鉛や銅は+に帯電しやすく、錫や銀はマイナスに帯電しやすいんですね。プラスマイナスの性質については当時よく分かっていませんでしたが、とにかく集まる電気の種類がちがうぞ、ということで、ボルタさんは、相反する性質を持つ金属同士を組み合わせると電気が流れやすいことを発見し、液体にも電気が発生することをつきとめて、世界で最初の電池をつくりました。
その電池をさらに改良したのがボルタ電堆です。海水(もしくは硫酸を薄めた希硫酸という液体)に浸した布か厚紙を、サンドイッチのように2種類の金属ではさみ、それを1セットとして、順に重ねていくと電気が発生することを実証してみせたんですね。
この、ボルタ電堆は世界で初の「動電気」の発生装置。それまでは、「静電気」を手作業でおこして研究するという、実験というより労働に近い状態だったので、電気を自動的に発生してくれる装置ができた! ということは、そりゃもう、ヨーロッパの科学者みんなが唸ってしまう大きな成果だったんです。つまり、これからは起こした電気の研究、電気そのものの研究が格段にしやすくなったわけで、1800年は、電気の研究における時代の転換点なのでした。
ボルタさんは、尊敬していたナポレオンの前でこの電池の実験を見せたり、今までの業績に対して、彼からメダルを貰ったりもしています。アンペールさんもそうでしたが、フランス革命の有名人と科学者って、無関係ではないのですね! この時代、優秀な科学者が殺されたりという悲劇もあったんですが、ボルタさんは戦乱に巻き込まれることもなく、妻と3人の子どもに恵まれ比較的穏やかな研究生活を続けたのだそうです。ワットさんと同じく長生きで82歳で亡くなりました。
21世紀は再び電池の時代だ、と言われたりします。実際バッテリーのない暮らしをしている方は皆無だろうし、小さな独立型ソーラーシステムを作るのにも重量感のあるバッテリーが必要です。でも、ボルタ電池がカエルの解剖から派生してきたように、何か突拍子もないアイディアから全く新しい概念が登場するかもしれず、琥珀の子との付き合い方もまだまだ変化していくのでしょうね。
さあ、これで電気の単位・W(ワット)、A(アンペア)、V(ボルト)の旅は終わりです。
ワットさん、アンペールさん、ボルタさんのおかげでイギリス、フランス、イタリアと豪華ヨーロッパ周遊が出来てしまいました。次回は、またひょいっと時空を超えて、そろそろ日本人にも登場してもらいたいところなのですが、どうなることやら。
それではまた来月!
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