さて、今回は電気を語るのに欠かせない「単位」にまつわるおはなし第2弾ということで、前回のワット(W)に続き、アンペア(A)こと、アンペールさんの人と仕事にふわっとふれてみたいと思います。それでは電気をめぐる時空の旅に出掛けましょう♪
今日の舞台はフランス。
1775年、リヨンの絹商人の家に生まれたアンペールさんは、幼い頃から天才肌でした。学問の基礎的なことは父親から教わったようですが、百科全書を読破するなど読書欲・知識欲が旺盛で、特に数学的才能は抜きん出ており、図書館に通って独学で難解なラテン語の数学書を借りては読みこなす少年に、周りの大人達は驚愕したとか。
19歳で高校の数学教師の職を得て、30歳の時には、エコールポリテクニクという世界初の高等科学技術者を養成する機関(今で言う理工科大学のこと)の教師に。その後教授職へと学問畑をひたすら歩き、1836年、61歳で亡くなりました。
数学の天才だったアンペール氏ですが、1820年9月、45歳の時に、とある研究報告を知って、にわかに電磁気に興味を持ちます。それでもう夢中で飛んで帰って、二つの並行する電線の間に方位磁針を置いて実験を開始すると、わずか1、2週間で確証を得たというから、まさに電光石火! 電流がつくる磁界の様子を数学的に説明するという論文を発表して、世界の研究者を驚かせました。
なかでも有名なのが「アンペールの右ねじの法則」。ネジって、ふつう右まわりに締めていくんですが、この右回りに発生するのが磁界の向きで、ネジがすすむ方向が電気の流れる方向である、ということを証明したのです。
と言われても、はあ、それで? と思ってしまいますが、当時は、電気が流れている方向が一定かどうかもはっきりとは分かっていなかったし、電流の向きや強さを計る機械ももちろんなかったわけですから、電気と磁界との関係を数式で「見える化」したことは、大いなる一歩なんですね。そのため、彼の名にちなんで電流の流れの強さを計る単位を、アンペア(A)と呼ぶようになりました。
ガリレオさんから始まって、ニュートンさんが完成させた数学という手法をしっかり受け継いで、自然界の物理現象を解明したアンペールさん。彼はニュートンさんの力学を尊重していて、電気力学という言葉をつくったので、その分野のパイオニアともいえます。また電磁気学の発展にも多大な影響を与えました。晩年には、その後の量子論を先取りするような見解を示しては理解を得られなかったり……と、天才ぶりは最後まで衰えなかったようです。
ちょっと余談になりますが、さきほど申し上げた、とある研究報告、というのは、デンマークの物理学者エルステッドさんによるもので、電気と磁気には相関関係があり、電気を流すと磁場ができることを実験で示したのでした。このことが科学界の話題になったんですね。
著名な識者の集まる「科学アカデミー」という場で、アラゴさんという幾何学の教授でもあり、天文学の専門家でもありのちには政治家にもなった方がその話を紹介したら、数学者のアンペールさんがビビッと感電しちゃったというわけなんです。それで、エルステッドさんには出来なかった、これってどういうこと? の説明が完成したんですねー。
まったく「琥珀の子」ってやつは世界中の人を翻弄する風来坊というのか。国境や分野をまたぐリレーのような出来事を引き起こすので面白いなと思います。
さて話は戻り、本日の主役アンペールさん、実生活はかなり波乱に満ちていました。なにせ、青春時代に“フランス革命”が起こったわけで、14歳の時に父親が断頭台にかけられた……と聞いただけでもぞっとしてしまいますが、それだけではないのです。結婚して息子ができて……という幸せも束の間、奥さんを病気で亡くし、再婚して娘が誕生するも離婚、子ども達はだらしなく勝手気まま……と家族関係、経済苦など悩みは尽きなかったようなのです。
天才だけに、ご自身も生活に関する事に関しては、ぼんやり気味! で、人にだまされてしまったりと、なんだか愛しくなってしまう人なのですよ。散歩に行くのに、自分でドアに留守中の札をかけておいて、帰ってきたら、「おや留守中か……」と、また散歩にいってしまったという逸話もあるのだとか。
近頃話題の「アンペアダウン」って聞くと、何か、この不幸な天才を皮肉ったようで、何かそこはかとないおかしみを感じずにはいられません。
アンペアダウンにはあまり意味がないと言う方もいらっしゃいますが、最近では10Aとか5Aの生活、さらには電力会社と契約を切るとか、果敢に挑戦して楽しく暮らしている人も一部では増えてきているようですし、アンペールさん! アンペア数を減らしても快適に暮らせるよ! と伝えてあげたいものですね。
では今回はここまで。
次回は、3つ目の記号「ボルト」の由来となったボルタさんの研究所を訪ねます。
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