異国情緒を感じるモダンな扉を開けると、コンクリート打ちっぱなしの高い天井の店内には中国や韓国のアンティーク家具や雑貨が並び、壁には西アジアの絨毯が掛けられています。国は違ってもどのアイテムも調和してシックで洗練された空間をつくっていました。
「お客様には触れて座ってゆっくりと家具を味わってほしいから、積極的に声をかけていないんです」と、ethnicaオーナーの田原雅さんはお店に入って来たお客さんを静かに迎え入れてくれます。もちろんお客さんが希望したときには丁寧に説明をし、私がお話をうかがった時にもたっぷりとアジア家具の魅力を話してくれました。
「中国だとすっきりシンプルな明の時代の家具が好き。日本のわびさびとも相容れる韓国李朝の家具は人気で手に入りにくい」などなど、実は古い家具好きのワタクシ中島、田原さんのお話に惹き込まれてしまいました。
田原さんのお祖父様は昭和を代表する抒情画家・少女漫画家の松本かづち氏。幼いころの田原さんもよく訪れていた静岡県中伊豆のアトリエ「稚筍房(ちじゅんぼう)」には、お祖父様の趣味の家具や骨董などがたくさんあったそうです。
なるほど、それで家具の道へ! と思いきや、中学高校とバレーボールに熱中し大学でも運動生理学を学ぶほどバリバリの体育会系だった田原さん。社会人になってからはデザイン関係やオーガニックレストランの調理担当など様々な仕事を経験してきました。そして“家具通り”としても有名な東京・目黒通りのアジア家具店勤務を経て、2007年3月、青葉区桜台にethnicaをオープンさせました。
「幼いころから祖父の周りの良いものを見てきた影響はいま生きているでしょうね」と田原さん。本当に良いものは手直ししながら長い間使えるし、使うほどに味が出てくると言い、アンティークのアジア家具を買い取り、自身でメンテナンスをして販売もしています。アジアの家具を専門に買い取っている業者は日本で数少ないのだそうです。
家具以外で私が心を奪われてしまったのが、アジアからやってきた手仕事の民具の数々。刈り取った羊の毛の色そのままに紡がれたイランやアフガニスタンの遊牧民族による絨毯は、機械できっちりつくられたものでは出せない味わいがあります。手織りのキリムの芸術的な色使いやモチーフの美しさ。中国少数民族の女性たちが施した刺繍は細やかで驚かされます。
「日本には昔からものを大事にするという良い文化があります。手仕事もなくしたくないんです」と言う田原さんは、仕事仲間でアジア・アフリカの絨毯や布の専門店「tribe(トライブ)」と一緒に「tekara(テカラ=手から)」という活動を始め、古今東西の手仕事の良さを伝えています。
ethnicaでも今後ますます展示会や手仕事のワークショップも充実させたいそうで、4月には珍しいインド刺繍・ミラーワークを習う“刺繍寺子屋”も開催されるとか。
古い家具やアジアンテイスト、手仕事も大好きな私は、少年のように好奇心いっぱいで、やりたいことがたくさんあるという田原さんのお話にワクワクしてしまいました。
3月26日にはインドのシタールとアフリカ・マリのコラという楽器のセッションライブも催されます。ethnicaの雰囲気と珍しい楽器の音色がマッチしてアジアやアフリカにトリップできるかもしれません。春の宵に出かけてみてはいかがでしょうか。
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